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中央銀行の市場介入を「支持する日本、嫌う米国」それぞれの事情
https://diamond.jp/articles/-/171053
2018.5.31 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン
4月に再任が決まり、安倍晋三首相(右)と握手を交わす日本銀行の黒田東彦総裁。安倍政権は日銀の金融緩和策を支持するが、米国では状況が異なる Photo:REUTERS/アフロ
日本銀行の株価指数連動型上場投資信託(ETF)保有額は、5月20日現在で19.7兆円に達した。黒田東彦総裁就任前は1.5兆円だったので、13倍に膨張している。現在、金融緩和策の一環として、株価操作を意図してETFか株式を市場から購入し続けている中央銀行は、世界を見渡しても他にない。
極めて異様な政策にもかかわらず、日銀はやめるにやめられない状況に陥っている。日銀は、インフレ目標(年率2%)達成を目指してETFを買い続けるスタンスを示している。だが、4月のインフレ率(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数前年同月比)は0.4%に低下した。2%は全く見えてこない。
日銀がETFを買うと物価が上昇するという因果関係は、かなり希薄だ。日銀はインフレ目標とETF購入の関係を切り離し、テーパリング(購入減額)を決断すべきである。それを発表すれば、日経平均株価は一度急落するだろう。しかし、世界経済が上向きであれば、そのショックは吸収される。
逆にテーパリングの是非を逡巡しているうちに世界経済の失速が始まれば、日銀は次の景気拡大局面まで年6兆円ペースのETF購入を継続せざるを得なくなる。既に海外の長期投資家は、「日本の株価は日銀によってゆがめられている」として、購入を嫌がっている。購入ペースがこの先何年も続けば、日銀が大株主となる企業が続出し、株価形成や企業のガバナンスはますますゆがんでしまう。
黒田総裁率いる日銀の政策委員会はこのETF購入策に限らず、市場の価格形成へ強烈に介入する政策を好んでいる。10年金利をゼロ%近辺に誘導するイールドカーブ・コントロール政策もそうだ。どこまで自覚しているのかは不明だが、非常に社会主義的な政策が選択されている。それを安倍政権も与党も強く支持している。
それと対照的なのが米連邦議会での議論だ。例えば、2月27日の下院金融サービス委員会で、ジェブ・ヘンサーリング委員長(共和党)は、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長に次のようにくぎを刺した。
「FRBの過去10年の急進的な非伝統的政策と人工的な低金利によって、そのバランスシートは歴史的に平衡を失した状態にある」
「われわれは、金利が再び市場で決定され、信用が(市場機能を通じて)効率的に割り当てられる道のりを期待している」
「信用を割り当てる政策はFRBの仕事ではない。FRBは道を外さないことが重要だ」
アンディ・バー下院議員(共和党)も同様の発言を行っている。
「(FRBによる)未曽有の経済への介入に、メリットがあると信じようが信じまいが、それは住宅、株、債券、国債などの資産価格にゆがみをもたらしている」
「FRBの務めは、資産購入策(QE)を巻き戻し、市場に過剰な混乱を招くことなく、経済に及ぼした金融上のゆがみを徐々に取り除いていくことにある」
このように米国の保守派は、中央銀行が経済に介入することを激しく嫌う。リーマンショック後は仕方がなかったとはいえ、大規模な介入の継続は経済の活力を殺ぐという意識が、彼らには強い。
それはイデオロギーに近い強烈さであり、(現実にはありそうにないが)もしFRBがETFを購入すると発表したら、共和党議員は猛烈な攻撃を加えるだろう。中央銀行を取り巻く政治環境は米国と日本で随分と異なっている。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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