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米中の覇権争いは激化の一途、狭間で日本が生き残る道は?
https://diamond.jp/articles/-/171104
2018.5.29 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
激化する米中の覇権争い
日本がとるべき道とは
5月17〜18日、米国・ワシントンにて、世界のスーパーパワーである米・中両国が貿易に関する協議を行った。共同声明では、米国の対中貿易赤字の削減に関する中国の“歩み寄り”が示された。加えて、ムニューシン米財務長官は、当面、貿易戦争を保留するとの見解も示した。それを受け、一部では米国の対中強硬姿勢が、軟化したとの見方が出ている。
しかし、それによって米・中2国間の問題が解決したと考えるのは早計だ。元々、米・中間の摩擦は、貿易に限らず、安全保障や国際社会でのリーダーシップなど多くの分野に及ぶ。両者の争いは根の深いものであり、現在の覇権国と、将来の覇権国との大規模なフリクション=摩擦の一部と考えるべきだ。その争いは簡単に収束するものではない。
足元の世界情勢を見ると、現役の覇権国としての米国の地位は徐々に低下している。一方、IT先端分野、安全保障などを中心に、中国は世界の覇権国への道を着実に歩んでいる。今後、米中の覇権争いは激しさを増すことが予想される。
米国が中国の台頭を抑え、世界の基軸国家としての役割を果たすには、企業独自の取り組みに加え政治面からも、新しいテクノロジーの創出を目指さなければならない。トランプ大統領は、それを理解できているようには見えない。将来のある時点で歴史を振り返った時、「トランプ大統領の誕生が、米国の地位低下を加速させる転換点だった」と言われることになりかねない。
わが国は、世界のスーパーパワーである米・中両国の覇権国争いが激化する中で、今後自力で生き残りの道を模索しなければならない。選択肢はあまり多くはないだろう。
覇権を争う世界のスーパーパワー
米国と中国
今年3月、トランプ大統領は、知的財産権の侵害などを理由に中国への制裁関税の賦課を指示する大統領令に署名した。それは、米中が貿易戦争に突入するとの懸念を高める要因だった。
1930年代以降、世界の覇権は英国から米国に移った(パクス・ブリタニカから、パクス・アメリカーナへ)。特に、第2次世界大戦以降は、米国を中心に日独(旧西独)の経済復興が支えられた。
また、米国は自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を各国と締結してグローバル化を進めた。それが、新興国の需要に先進国がアクセスすることを支えた。それと同時に、新興国は先進国企業の海外直接投資を呼び込み、少しずつ資本や技術力を蓄積し経済力を高めた。
その間、1980年代にわが国が世界の工場の地位を確保し、米国との貿易摩擦に悩まされることになった。そして、90年代に入ると、中国が着実に経済力を高め、やがてわが国を凌駕して世界の工場の地位を引き継いだ。それが、1990年代以降の中国の2ケタ成長を支えた。
米国の地位が揺らぎ始めた時期に関してはさまざまな見解があるものの、2008年のリーマンショック(米大手投資銀行リーマンブラザーズの経営破綻)のインパクトは大きかった。米国が金融危機の発生を未然に防ぐことができず、世界経済を危機に陥れたとの批判につながった。特に、資金流出圧力に見舞われた新興国からの非難は強かった。2008年から開催されているG20(20ヵ国・地域首脳会合)はその象徴といえる。
リーマンショック後、世界経済の中で重要な役割を担ったのが中国だ。中国政府が発動した4兆元(邦貨換算額で60兆円程度)の経済対策は、世界経済の持ち直し期待を高めた。2010年、中国のGDP規模はわが国を抜き、米国に次ぐ世界第2位になった。
加えて中国は、アジア新興国などのインフラ需要の取り込みを目指して、一帯一路(21世紀のシルクロード経済圏構想)を提唱し、対外進出を強化している。
それに伴い、米国への一極集中ともいわれた世界の政治・経済・安全保障のパワーバランスが変化している。米中の覇権争いという世界規模で進む変化の一端が、貿易面での米中の摩擦に表れている。
今後、経済戦争の主戦場となる
IT先端分野
特に、1990年代以降の米国経済を支えてきたITの先端テクノロジー分野では、中国の追い上げが顕著だ。2017年の国際特許出願件数を企業レベルで見ると、中国の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)が1位と2位にランクインした。国レベルでも、中国はわが国を抜いて世界2位の知的財産権を手中に収めている。事実上、テクノロジーの開発競争は米中の2強がしのぎを削っている。
トランプ政権のZTEへの制裁に見られる通り、米国政府は力づくでIT先端分野での中国の台頭を抑えたい。2025年に中国はITテクノロジーを駆使して、精度の高い製品を輸入に頼るのではなく、国産化することを目指している(製造強国の追求)。それは、民間の経済活動だけでなく、治安維持、環境保全、軍事など、勢力拡大に欠かせない。中国のICT(情報通信テクノロジー)面での競争力が高まるにつれ、中国企業の提供するデバイスやサービスのシェアが高まることも考えられる。
ITテクノロジーが重視されているのは、地球上に限定されない。宇宙開発も含まれる。中国は2022年ごろに宇宙ステーションを完成させ、2030年には“宇宙強国”になることを目指している。それが実現すれば、中国の覇権はさらに強まるだろう。
中国の覇権拡大を食い止めるために、米国は様々な対策を講じてきた。オバマ政権の末期、米国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結を急いだのは、その一例だ。それは、米国を中心に各国の投資・競争・知的財産保護に関するルールを統一することだった。言い換えれば、政治協力を基礎に、米国を中心とした多国間での対中包囲網を形成することが目指された。
オバマ政権は、各企業のイノベーションを引き出すことも目指した。宇宙開発、ロボティクスなどに留まらず、環境保護などの面でもITテクノロジーの活用が重視されたのはそのためだ。言い換えれば、当時の米国は、新しい発想の実現によって需要を生み出し、米国の求心力を高めることで中国に対抗しようとした。
そうした取り組みの重要性を、トランプ大統領はあまり理解できていないように見える。同氏が対中強硬策を重視したのは知的財産権の保護だけでなく、特定の支持層からのサポートを増やすことが最大の目的だろう。その発想で、覇権強化を目指す中国の取り組みに対抗することは難しい。
スーパーパワーに挟まれた
わが国の生き残る道
世界の覇権国の寿命は100年程度といわれる。20世紀前半、英国から米国に、覇権はシフトした。現在、中国が米国を追い上げている。2030年ごろには米国よりも中国の覇権が強まることも考えられる。トランプ大統領の言動次第では、想定以上に米国の地位が凋落する展開もあるだろう。
米国が中国の覇権強化に対抗するには、競争力の引き上げが欠かせない。具体的には、米国企業が、スマートフォン等に次ぐ革新的なプロダクトを世界の消費者に提供できるか否かが重要だ。IT先端分野への資源の再配分を強化する政策の推進は、待ったなしだ。
同じことがわが国にも言える。足元、日本経済は中国向けマザーマシン(工作機械)の輸出などに支えられ、緩やかな景気回復を続けている。当面は、中国の需要などがわが国の経済を支える展開が見込まれる。
ただ、この状況に浮かれてはいられない。中国は、国家総動員でITテクノロジーを中心に先端分野での競争力を高め、精度の高い部品などの国産化を進めている。わが国が素材や部品の供給国として競争力を維持できるかは不透明だ。
わが国が生き残るには、最終的には、わが国企業の独自の完成品型ヒット商品を生み出すことが重要だ。言い換えれば、これまでにはない、新しいプロダクトやサービスを開発して、需要を生み出すのである。かつてのソニーのウォークマンのように、人々が「欲しい」と思わずにはいられないものを生み出すことができれば、需要は生まれる。それが重要だ。
需要創出のためには、政府が構造改革を進め、需要が見込まれる分野にヒト・モノ・カネが再配分されやすい社会の仕組みを整備しなければならない。それが、成長や利益を追い求める“アニマル・スピリッツ”を高めることにつながる。
足元、多くの国内企業は生き残りをかけてコストカットを重視している。ただ、それだけでは、成長を実現することはできない。新しい発想を取り入れ、モノや組織などの革新を通してさらなる付加価値の獲得=成長にこだわる個人、組織を増やさなければならない。
中国は改革を重視している。その手本となっているのが、バブル崩壊後のわが国だ。わが国が改革を進め、企業の成長志向が高まれば、よりダイナミックな社会が実現するだろう。それが、世界の中でわが国が存在感を示す(生き残る)ことにつながる。そのための取り組みが進むことを期待したい。
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