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米国長期金利「3%超え」がやはり重大な理由
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180514-00220277-shikiho-bus_all
会社四季報オンライン 5/14(月) 13:01配信
この連載では、以前から米国株価水準の評価において、米国長期金利が3%を超えるかどうかが重要なポイントになると指摘してきた(2017年7月13日配信「米国の低い長期金利が『割高な株価』を許してきた」等)。
今年初めの株価の急落は、その長期金利が3%に近づいた時に起きたものである。そして今、米国長期金利はほぼ3%レベルにまで達している(5月9日時点で3.005%)。
ここで改めて、長期金利3%超えが株価にとってどんな意味を持つのかを考えてみたい。
■ 長期金利は株価にどのような影響を与えるか
まずは、教科書的なおさらいから始めよう。長期金利の上昇は、単純な理屈の上では株価の下落要因となる。ここでいう単純な理屈とは、企業の利益成長率などの見通しが不変ならば、というような意味合いだ。なぜ長期金利の上昇が株価の下落要因になるかというと、企業が生み出すであろう将来の利益の割引現在価値が下がるからだ。もっと分かりやすい表現をすれば、金利が高くなるので、株式の相対的魅力が低下するということである。
具体的な数字でそのインパクトを見てみよう。過去5年の米国長期金利の平均は2.25%ほどである。現在の水準はそれよりも0.75%高い。理論的な株価の予測モデルには様々なものがあるが、最も単純なモデルを使っていろいろと試算してみると、そのくらいの金利上昇で適正なPERは15〜20%程度低下すると考えられる。すなわち、利益見通しなどが変わらなければ、株価もそのくらい下がってもおかしくはないということである。
もっとも、金利の上昇が一時的なものにとどまれば、株価への影響も限定的なものになると考えられる。つまり、長期金利の上昇トレンドの継続が見込まれなければ株価への影響は限定的であり、今年前半の株価の調整で、長期金利上昇の影響はすでに織り込まれたと考えることも可能であろう。
以上を踏まえて、改めて3%という数字に着目してみよう。
■ 「3%」には様々な意味がある
まず、そもそもこの3%という数字自体は、単に切りが良いので一応の目安にされているだけのものといえる。理屈の上では、2.9%と3%で大した違いはない。ただし、この3%前後の水準というのは、ここを突破してくると数十年にわたって続いてきた米国長期金利の長期的な低下トレンドが転換したと考えられる重要なチャート上の節目でもあるのだ(グラフ(1))。
実際には、チャート上のポイントが破られてもその後すぐに戻ってしまうこと(いわゆる“騙し”)もあるので、単純な3%超えだけをもって「米国長期金利はついに長期上昇トレンドに突入した」と言い切ることはできないが、少なくとも十分な警戒が必要になるレベルに来たといえる。
次に、単なる目安とはいえ、ここ数年間、1%台や2%台の金利しか目にしていなかったことからすれば、3%という数字には、やはり人々に心理的なインパクトをもたらす可能性がある。金利が2%台と3%台とでは、現実を見る目が変わってくるということだ。ここで特に問題となるのは、以前に取り上げた「米国株は割高か否か」という点である。
米国S&P500のPER(株価収益率)は実績ベースで約24.5倍、予想ベースで約18倍である。やや割高だが、予想通りの利益成長が実現するなら危険視するほどの高さではない。ただし、現在の企業利益の伸びはGDP成長率や過去の趨勢と比べてかなり高水準なものとなっており、いつまでもそれが続くとは考えにくい。
そうした観点から、より長期的観点から過去10年間の平均利益水準と比較したシラーPERという指標を見てみると、こちらは32倍程度と歴史的に極めて高い水準となっている(グラフ(2))。
筆者は従来、1.5〜2.5%程度を中心レンジとする歴史的超低金利環境の継続を前提にすれば、これは必ずしも割高とはいえないという立場をとってきた。だが、3%超えの長期金利が新しい“常態”になるならば、その前提は大きく崩れることになる。
結局のところ長期金利が多少の幅で上昇すること自体には、それほど大きなインパクトはない。だが、今はまだ過去に例を見ないほどの超低金利環境のなかにいるのか、それとも全く別な新しい金利環境のなかに入ったのか、そのような局面の捉え方によって株価のバリュエーション評価は大きく変わってくるのである。それが、筆者が“3%”に注目してきた最も大きな理由である。
■ 米国株の“割高さ”が長期的な懸念材料となりつつある
こうした観点から、重要な点は3%にタッチしたかどうかではなく、金利のレンジが切り上がるかどうか、単純化して言えば3%台の金利環境が定着するかどうかである。そして、もしそうなれば、「米国株は長期的観点からみて明らかに割高である」と言わざるを得なくなる。今はまさにその正念場だ。
もっとも、シラーPERのような長期的観点による指標が割高になったからといっても、直ちに株が売られるわけではない。少なくとも現在の株式市場では、今年に入って調整局面を迎えたとはいうものの、投資家の株式相場へのコンフィデンスは大きく崩れていないようにも見える。ただし、説明のつかない株価の割高さは、いずれ大幅な価格調整を招くというのが歴史の教えるところでもある。
そのように考えていくと、米国長期金利にとって“3%”という水準は、やはり重く受け止めるべきものと言えるだろう。
田渕 直也(たぶち・なおや)/1985年、一橋大学経済学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)で主にデリバティブのトレーディング、ポートフォリオマネジメントに従事。UFJパートナーズ投信(現三菱UFJ投信)債券運用部チーフファンドマネージャーとして、社債やストラクチャード・プロダクトへの投資運用体制を構築。『ファイナンス理論全史』、『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』など著書多数。現在、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
田渕 直也
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