http://www.asyura2.com/18/hasan127/msg/192.html
Tweet |
「国の赤字が巨額」と言われながら経常収支が黒字の理由
http://diamond.jp/articles/-/169632
2018.5.11 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
2017年度の国際収支統計が発表され、経常収支は21兆7362億円の黒字だった。日頃「国の赤字は巨額」と言われているにもかかわらず、「巨額の黒字?」と不思議に思ってしまうが、そこは混同せずにしっかり区別して考えよう。
「国の赤字」というのは、日本国の赤字のことではなく、「地方公共団体と対比した場合の中央政府の赤字」という意味であるのに対し、経常収支の黒字は文字通り「日本国」の外国に対する黒字なのだ。
中央政府が赤字なのに日本国が黒字なのは、日本国の中の中央政府“以外”が大幅黒字だからだ。民間部門が巨額の黒字を稼ぎ、その分を中央政府や外国に貸し出しているのである。
経常収支は貿易、サービス
第一次、第二次所得収支の合計
経常収支は、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計だ。
このうち第一次所得収支は、外国から受け取る利子や配当から、外国に支払う利子や配当を差し引いた金額、第二次所得収支は、主に途上国への資金援助の一部のことだ。
貿易収支は、輸出から輸入を差し引いた金額。サービス収支は、サービス輸出からサービス輸入を差し引いた金額だ(詳しくは後述)。
2017年度のそれぞれに金額を見ていこう。
まず、 第一次所得収支は、19兆9105億円巨額の黒字。日本国が海外に巨額の資産を持っている一方で、外国からの借金はそれほど多くないことに加え、海外の方が金利が高いため、同じ金額を預け合っても日本が海外から受け取る金額が、日本が海外に支払う金額より大きいのだ。第二次所得収支は対外援助なので、2兆1532億円の赤字となっている。
貿易収支は、かつては巨額の黒字だった。だが、日本の製造業が海外での現地生産を積極的に進めてきたことなどもあって、最近では年によって赤字になったりしている。2017年度は4兆5818億円の黒字となった。サービス収支は、かつては明確な赤字であったが、訪日外国人旅行者が急増していることもあり、2017年度には6029億円とわずかな赤字にとどまった。
これらを合計した2017年度の経常収支は21兆7362億円と、巨額の黒字だったのである。しかし、これを見て「日本株式会社は大いに儲かっていて結構」と考えてはいけない。経常収支は「企業の損益」ではなく、「家計簿の黒字」と似たものだ。
経常収支は
家計簿と似ている
家計簿は、給料などの収入から消費を差し引いて、銀行預金の利子受け取りや住宅ローンの利払い、赤い羽根共同募金への寄付なども考慮して、結果として収入の範囲で暮らせたのか否か(金が手元に残ったか否か、銀行預金が増えたか減ったか)を見るものだ。
給料の収入は、会社のために働いて、対価を受け取るものだから、輸出(およびサービス輸出)と似ている。輸出企業の社員が働いて自動車を作り、外国人がドライブを楽しむとして、対価を日本に払うのが輸出。日本人のコックが料理を作り、外国人旅行者がそれを食べて楽しみ、日本に対価を払うのがサービス輸出だ。「他人のために働いて対価を得る」という点では同じだ。
これに対し消費は、他人が働いて作った物やサービスを自分が楽しみ、その対価を支払うものだから、輸入(およびサービス輸入)と似ている。外国人が作ったワインを日本人が飲んで楽しみ、対価を払うのが輸入、ディズニー映画を日本人が見て楽しみ、ディズニーに著作権料を払うのがサービス輸入だ。他人が働いて自分が楽しみ、他人に対価を支払うという点では同じだ。
銀行預金の利子受け取りから住宅ローンの利払いを差し引いた金額が、国際収支統計では第一次所得収支に該当する。第一次所得収支は、外国に預けた金が利子や配当を生んだ分から、外国から預かった金に利子や配当を払った分を差し引いた値だからだ。
家計の場合、日本の銀行預金の金利が低いため利子がほとんどつかないが、国際収支の場合、海外に投資すると結構な利率の利子がもらえたり、結構な配当利回りが得られたりするので、第一次所得収支は巨額の黒字だ、という違いがあるだけだ。
赤い羽根共同募金は、第二次所得収支に該当する。当然ながら赤字だ。
これらを合計したものが経常収支である。つまり、日本国の家計簿と言えるのだ。経常収支が黒字なら、日本国全体が外国に対して持っている資産(厳密には負債差引後の「対外純資産」で論じる)が増える。家計簿が黒字なら銀行預金が増えるのと同じである。
例外としては、家計簿は黒字でも株式投資で損したので財産が減ってしまった、といったことは起こり得るが、それは経常収支の場合も同様だ。したがって、米国の株価が大暴落したりすると、経常収支は黒字なのに対外純資産が減ってしまうといったことも起こり得る。
対外資産はドル建てが多く、外国から預かっている資産は円建てが多いので、米国の株価が暴落しなくても、ドル安円高になると対外純資産が大幅に減ってしまう場合もある。
経常収支は黒字が
いいとは限らない
家計簿の黒字や赤字は、企業の決算の赤字や黒字とは異なる。企業の決算は黒字がいいに決まっているが、経常収支はそうとは限らない。現役世帯の家計簿が赤字なら問題だが、高齢者世帯の家計簿は赤字であるのが一般的。高齢者になったときに備え、現役時代に家計簿を黒字にして老後資産を蓄え、老後にそれを取り崩していくのが普通だからだ。
企業の目的は利益を稼ぐことだが、人生の目的は巨額の遺産を残すことではなく、稼いだ金を使って楽しい人生を送ることだ。家計簿が黒字のまま死んでしまったら人生を楽しめずにもったいなかったと思うだろう。経常収支もそれと同じことだ。
現役世帯であっても、子どもの大学の入学金を支払えば、その月の家計簿は赤字になるだろうが、気にすることはない。将来の子どもの収入を増やすための「投資」だからだ。その意味では、「途上国が工場用の機械を輸入したら経常収支が赤字になった」といったケースは全く気にする必要はない。
もっとも、現役世帯で世帯主が失業し、家計簿が赤字ならば大問題である。それと同様、日本製品の売れ行きが落ち込んで日本が経常収支赤字になり、輸出企業が次々倒産して失業者が大勢いるというのでは問題だ。しかし、今の日本は労働力不足であって失業に悩んでいるわけではないので、仮に経常収支が赤字になっても、それ自体が問題ではないだろう。
それでも経常収支が
黒字だと安心だ
以上は一般論だが、日本の置かれた状況を考えると、やはり経常収支が黒字だと安心する。第一に、日本は今後、少子高齢化が進むので、経常収支が赤字になると予想されているからだ。極端な話、30年後には「現役世代は全員が高齢者の医療と介護に忙しく、製造業で働ける若手がいない」「したがって、自動車も洋服も全部輸入せざるを得ない」といった状況が予想されるからだ。
現役世帯が将来に備え、家計簿を黒字にして老後資金を蓄えるべきであるのと同様に、今の日本は経常収支を黒字にして対外純資産を積み上げておき、将来の経常収支赤字に備えているのだ。
もう一つは、日本政府の財政が赤字で、巨額の借金を抱えていることだ。現在は、日本政府が日本人投資家から借金しているので安心だが、経常収支の赤字が続くと、日本政府は外国人投資家から借金をせざるを得なくなるかもしれない。そうなると大変だ。外国人投資家は日本人投資家と異なり、簡単に「日本政府は破産しそうだから、投資を引き揚げる」などと言い出しかねないからだ。
そう考えると、日本が経常収支の黒字を稼ぎ、日本の民間部門が巨額の資金を持ち続け、日本政府に金を貸し続けていることは、心強いことといえるのだ。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。