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なぜ銀行はダメになったのか?エリート行員たちが忘れてしまったもの パラダイムシフトを迎えて
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55436
2018.05.06 浪川 攻 現代ビジネス
「ウォームハート」な銀行員たち
「相双」とは相馬・双葉地域を示す福島特有の表現だ。同じ独特の表現に「浜通り」がある。これは相双地域にいわき市を加えた太平洋沿いの広大な地域を指す。
2018年3月13日。私は久しぶりに相馬市にいた。相双五城信組と東京の第一勧業信組による連携協定締結の取材である。両信組を仲介したのは、浜通りにあるいわき信組だった。
この記者会見で、私は7年ぶりにある人物と再会した。いわき信組の本多洋八常勤理事である。
東日本大震災は2011年3月11日に発生し、15日までに福島第一原発が3度の水素爆発を起こした。それから数日後、私は崩壊を免れた常磐高速道を飛ばして福島に通う日々を始めた。
当時、いわき市内は津波被害もさることながら、原発事故の影響で物資が搬送されず、著しい物不足に瀕していた。
同市内は暗かった。そのなかで、ほとんどの営業店を再開し、被災者に対応していたのがいわき信組だ。さっそく、小名浜の同信組本部に飛び込み取材した。混乱のさなか、突然の迷惑な取材に応じてくれたのが本多氏である。そのとき、彼が語った言葉が強く印象に残った。
「何も持たずに避難した被災者向けに、金利1%(当時としては破格に低金利)の無担保・無保証ローンを提供している。家族が亡くなっても、葬式代にも困ってしまうのが被災者だから」
「本人確認の手段がないのでは」と尋ねると、本多氏は「私たちはすべてのお客さんの顔を知っている」と即答した。私は東京に帰って、その話をすぐに執筆しネットニュースで報じた。
それ以来の再会だった。本多氏も、唐突に訪れた記者と、ネットで配信された自社のニュースが印象的だったらしい。
ふだん、記事を感謝されたり褒められたりしても、真に受けないように心がけているが、「記事はあの状況で働く職員たちの励みになった」という本多氏の話は率直にうれしかった。
やはり、当時のことである。東京に戻っていた私のもとに、システムトラブルで全国のATMが停止していたみずほ銀行の広報担当者がやってきてこう尋ねた。
「システムトラブルに対して、何をすればいいのか」。
私は「世間に謝っても許されない」と冷たく突き放し、「何か喜ばれることをすべきでは」と答えた。
彼は直ちに行動を起こした。その次の週末に福島に行く私の予定を確認した彼は、自身のワゴン車に医薬品、ペットボトル飲料等々を満載して、土曜日の早朝にやってきた。「避難所に配りたいので、私の車で福島に行きましょう」と。
その後、彼の活動は銀行内で広がって、みずほは避難所となっている南相馬などの小中学校に膨大な数の絵本を配ってまわった。これは、避難所にいる子どもたちにとても喜んでもらえた。
しかし、システムトラブルを引き起こした直後のことである。みずほはこの活動をマスコミに伏せた。
私は結局5年間ほど福島に通い、仮設住宅に避難中の女性たちに古着を活用した手作り商品を作成してもらい、それを首都圏で販売していた。
このとき、休日返上で販売会場の外でビラ配りをしたり、レジ周りの作業をしたり、あるいは職場の仲間に商品購入を呼びかけたり、一緒にやってくれたのがメガバンクなどの広報担当者たちだった。
私が彼らの銀行について批判的な記事をいくら書いてもやってきたが、彼らは自分たちの行動を世間には隠し続けた。会場にマスコミの取材がくると、彼らはひたすら目立たぬようにしていた。
一般には金融機関関係者は冷たい印象をもたれがちである。実際にはそんなことはない。ビジネスでも「ウォームハート」でいたいと思っている。現に、狭域で活動している中小金融機関のなかでも、いわき信組などが事業で示している。
もし、メガバンクなどの銀行がそれをできないのならば、おそらく、経営の仕組みに何か桎梏を抱えてきたからだろう。
今、銀行業界で動き出したデジタル技術導入によるビジネスモデルの転換はその何かを変えるインパクトになりうる。
このたび上梓した『銀行員はどう生きるか』では、銀行改革のエッセンスとともに、その「何か」を探り出そうとしたつもりでいる。
もっとも、それもこれも銀行経営者の資質と覚悟の問題に尽きるのだけれど。
読書人の雑誌「本」2018年5月号より
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