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世界で主力の風力発電、日本ではわずか「0.6%」…政府、「水素」発電を重視へ
http://biz-journal.jp/2018/04/post_23173.html
2018.04.28 文=北沢栄/ジャーナリスト Business Journal
2013年7月、風車「ふくしま未来」の実験開始にあたり集まった関係者(楢葉町役場提供)
かつての「原発のフクシマ」が今、「洋上風力と水素エネルギーのフクシマ」として甦ろうとしている。東京電力福島第一原子力発電所事故という大災害からの復興に向けた「福島イノベーション・コースト構想」プロジェクトが、事業化に向けて大きく踏み出した。洋上風力、水素エネルギーのいずれも、実現すれば世界最大級の発電規模が見込まれる。
原子力に代わる電源として脚光を浴びる再生可能エネルギー。これを欧州並みに普及させるためのカギとなるのが洋上風力だ。さらに、低炭素社会の実現に向けて火力に代わる「未来のクリーンエネルギー」と目されるのが水素ガス。双方の実用化を狙うプロジェクトが、原発事故に打ちひしがれたフクシマで「実現間近」までこぎ着けている。
■世界初で世界最大の「浮体式」洋上風車
福島県双葉郡楢葉町の海辺近くの公園。事故を起こした福島第一原発から約18キロ南にある。備えつけの望遠鏡で覗くと、遠くの沖合に、肉眼では見えなかった洋上風車3基が揺らいで見える。2011年3月の大津波で、町は沿岸の住民13人が死亡、直後に発生した原発事故で住民7108人が一斉避難を強いられた。
15年9月に避難指示が解除されてから、2年半がたつ。この間、住民の3分の1に当たる2390人が町に帰ってきた。住民の6割が避難したいわき市にある13カ所の仮設住宅が今年3月末に供与期限を迎えたのを機に、今後もかなりの数の避難者が帰還する見込みだ。
3月に訪れた際、楢葉町役場の復興推進課に聞くと「これで帰ってくる住民は3600人ぐらいになりそう。原発事故前の人口の5割は超えそう。楢葉小学校の生徒は68人、中学校も43人になった。町は若年者を呼ぶために、仕事・教育環境・住宅の3分野で支援事業に力を入れる」と弾んだ声が返ってきた。
楢葉町が将来の夢として描くのが、町の沖合約20キロで進行中の洋上風力の実証研究事業だ。前出の担当者は、「町としても、再生エネへの転換を力強く進めていこうと考えている。経済産業省が主導し、丸紅を中心に企業や大学が協力して運営は順調です」と話す。
福島沖に3基の世界初の「浮体式」の洋上風車を設置する実験プロジェクトは、国・県・地元市町村が一体で福島県浜通りの復興を目指す「福島イノベーション・コースト構想」の一環だ。その構想のなかで、原発に代わる新たなエネルギー産業創出プロジェクトとして具体化した。
世界最大規模となる出力7000キロワットをはじめ、同5000キロワット、2000キロワットの風車3基と洋上変電所を沖合に浮かべ、16年度から3年計画で事業化に向けた実証運転を開始した。
■欧州と比べて格段に遅れる、日本の再生エネ導入
資源エネルギー庁によれば、風力発電の利点は「大規模に開発できれば発電コストが火力並みに下がる」ところにある。「特に洋上は陸上と比べて好風況で発電効率が高く、大規模な風車の設置が可能」と指摘する。
しかし、海に囲まれているのに日本の風力導入は遅れている。16年度の発電量比率で風力はわずか0.6%。再生エネは、水力の7.5%を除くと7.3%。うち太陽光が4.8%と群を抜く(環境エネルギー政策研究所調べ)。
再生エネでの日本の遅れは、欧州と比べて歴然だ。15年の欧州連合(EU)は加盟国平均が29%、うちドイツ29%、英国25%と、再生エネが主力電源に育っている。欧州の再生エネの柱は、太陽光よりも風力だ。日本と同じ島国の英国は、25%のうち風力が12%と、太陽光の2%の6倍に上る。ドイツも、風力は太陽光の2倍と際立つ。
遅ればせながら、経済産業省は洋上風力発電の普及を目指した「洋上風力新法案」を今国会に提出した。日本では浅瀬が少ないため、洋上風車の様式も海底の基盤の上に風車を建てる着床式より、海上に浮かせる浮体式が有利だ。
出力7000キロワットの大規模風車は、高さ約190メートル、羽の長さ約80メートル。3基が稼働すれば、年間発電量は約1万2000世帯分の年間使用量に相当するという。2000キロワットの風車1基は、すでに東北電力に売電している。
■始動した世界最大の水素プロジェクト
フクシマ復興のカギとなる、もうひとつの新エネルギーが水素ガスだ。福島第一原発が立地する大熊、双葉両町とともに事故で最大の被害を受けた浪江町の産業団地で「水素プロジェクト」が進む。
同プロジェクトは、国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主導し、東芝エネルギーシステムズと岩谷産業、東北電力の協力を得て、世界最大級の出力1万キロワットの水素製造装置を備えた水素エネルギーシステムを構築する。
特長は、太陽光から水素を製造することによって二酸化炭素(CO2)の排出をなくす一方、再生エネの利用を拡大することだ。実現すれば、1日の水素製造量で約150世帯の家庭に電力を供給、または燃料電池自動車約560台分の水素を供給できる。用途は電力会社や燃料電池車・バス向け水素ステーションなどに広がる。
政府は今夏にも改定するエネルギー基本計画で、水素重視の方針を打ち出す。昨年12月に発表した水素基本戦略で、福島プロジェクトについて、福島県内ばかりか「20年の東京五輪でも、同プロジェクトで製造した水素を利用する」と表明している。
水素は水を電気分解して得る。炭素分を含まず、地球温暖化をもたらすCO2を排出しない特性がある。水素技術は日本勢が先進的に取り組む。トヨタ自動車は、すでに燃料電池乗用車「MIRAI」を発売している。浪江町役場産業振興課は、「18年度に土地の造成を終え、(水電解装置などの)製造設備をつくって20年度中に運用開始する」と明言した。
フクシマ発のエネルギー革新の芽は、確実に育っている。
(文=北沢栄/ジャーナリスト)
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