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「私はもう終わり」人生を諦めはじめたエリート銀行員が急増中のワケ 特に、バブル採用組に顕著なようで…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55217
2018.04.19 浪川 攻 現代ビジネス
メガバンクの大幅な人員削減に、店舗の統廃合……。今、日本の銀行に、一体何が起こっているのか。そして、将来に漠然とした不安を抱えるエリート銀行員たち。激変する組織のなかで、これから彼らに求められることとは——。『銀行員はどう生きるか』の著者・浪川攻氏が深層に迫った。
動揺するバブル採用組
メガバンクの中堅銀行員たちが浮足立っている。最近、取材で会っても、「私はもう終わりですから」という言葉があいさつ代わりに飛びだす。「銀行員人生が終わります」という意味である。
昨年11月、3つのメガバンクグループが、生き残りを賭けた構造改革を明らかにした。
このうち、三井住友グループは明言していないものの、三菱UFJ、みずほの両グループは人員削減する具体的な人数を公表している。三菱UFJは2023年度までに6000名程度、みずほは2026年度までに1万9000人を削減するという。
ずいぶんと悠長な話である。変化が激しいこの時代に、なぜ、これほどの長期ビジョンしか描けないのか――。答えは簡単だ。大量の退職者を新卒採用で穴埋めせず、「自然減」で対応するという発想だからだ。
量的金融緩和やマイナス金利政策により、いかに経営環境の悪化が著しくとも、社員は着実に歳を重ねる。したがって、退職者数は確実に予想でき、あとは新卒採用を絞り込めば、自然と人員数は減っていくという話にすぎない。
それでも、銀行員たちはひどく動揺し、戸惑っている。それはいま、銀行独特の退職制度に対する信頼性が大きく揺らいでいるからだ。
かねて銀行業界は、独特の新陳代謝のしくみを作り上げてきた。
銀行員の定年退職年齢は60歳だが、そのほとんどが10歳ほど前倒しで退く「早期退職制度」が連綿と運営されていて、その代わり、去りゆく者には第二の職場=「セカンド・キャリア」が用意されてきた。行き先は銀行が数多く抱えている子会社や関連会社、そして取引先企業である。
今回の人員削減は、おもにこのしくみをフル回転させるにすぎない。それにもかかわらず、銀行の経営陣があえて強調するのは、まもなく銀行では膨大な数の銀行員がこの早期退職の年齢に達するからだ。
彼らは、金融危機の前のバブル時代に行われた大量採用世代――俗に「バブル採用組」と呼ばれる銀行の団塊世代≠ナある。
今後、この団塊世代がいっせいにセカンド・キャリアに向かっていくわけだが、銀行員たちはセカンド・キャリア制度のキャパシティ・オーバーを感じ始めている。「取引先企業の受け入れが次第に厳しくなっている」(中堅銀行員)からだ。
暗黙の使命
じつは、この中堅銀行員の勤務先では、営業現場の幹部たちに対して本業(取引先企業からの資金借入案件の獲得など)のほかに、暗黙事項として銀行員の受け入れ先開拓が使命として与えられている。
もちろん、「ウチの行員を受け入れてほしい」などと強要すれば、融資している立場から、借り手が謝絶できないような要求をしたとみなされかねない。独禁法上の優越的地位の濫用である。
したがって、この話は「なんとなく」持ち出すしかないが、近年、取引先の感触は決してよくないという。
そこで、昨年11月以降、銀行員のあいだで急速に広がってきたのが、転職サイトへの登録である。銀行に頼り切りになることには、やはり不安があるからこその現象だろう。
しかしいま、起きているのはそれだけではない。あるメガバンクの大物OBによれば、「最近、転職の相談にやってくるかつての部下が増えている」という。
相談に来るのは、本部に勤務している銀行の職場エリート≠ナ、年齢的には30歳代〜40歳代前半だ。今回の「自然減」対象世代には該当しないはずなのに、転職を考えだしていることになる。
彼らも日頃、将来への漠然とした不安を感じていたものの、今回の人員削減策を受けて、「転職するなら若いうちに」という思いを強めたのだろう。銀行の職場では、確実に人員削減の余波が広がり続けている。
米銀の現状から邦銀の未来を探る
メガバンクが公表した事業構造改革には、収益悪化が著しい国内リテール部門(個人、中小企業向け業務を担っている営業店)に最新のIT技術(AIを搭載したRPA〈Robotic Process Automation〉)を導入し、これまで人手に依存してきた業務の量を軽減することも含まれている。
一定の条件を設定すると、精緻なデータ解析から資料の作成までを自動的に行うのがRPAであり、これによって膨大な業務が一挙に効率化されるという。業務量が軽減されればその分、人員は不要になるため、このシステムは営業現場で大きな効果を発揮することになるだろう。
しかし、RPAの導入対象として適しているのは営業現場よりも、むしろ本部の人事や営業支援などの業務であり、これまで銀行内のピラミッドの頂点に君臨してきた職場エリートたちも人員削減のターゲットとなりうる。
こうしてみると、「自然減」の対象世代ならずとも多くの銀行員たちが不安を抱くのは当然といえよう。
しかも、今回の事業構造改革の目的は、コスト削減だけに限らない。事業コストを抜本的に軽減しながら顧客サービスの質的向上を実現しなければ、近年、銀行業界が陥っていた構造不況から脱却できないからだ。
じつは、邦銀に先駆けて、欧米の銀行ではすでに同様の改革が2008年のリーマン・ショック後から行われている。
その最新事情は、4月17日に発売となる拙著『銀行員はどう生きるか』で詳報しているが、欧米の銀行における改革のエッセンスはやはり、コスト削減と顧客サービスの圧倒的な向上である。つまり、邦銀の事業構造改革はその動きの後追いであり、欧米の銀行業界からの周回遅れのランナーなのだ。
顧客サービスを向上させるためには、最新のIT技術の導入によって生み出される本部の余力≠営業現場に投入することもある。要するに、「稼がない者はたんなるコスト」というわけである。
わが国にもフィンテック(金融とIT技術の融合)の波が本格的に押し寄せて、ようやく資金決済などの分野で銀行よりも低廉な費用で質の高いサービスを提供するプレーヤーが誕生してきている。
従来のような似たり寄ったりのサービス品質で銀行同士が痛み分けのような闘いを連綿と繰り広げてきた時代は終わり、銀行は「顧客を選別する立場」から「顧客に選別される立場」に追い込まれることになる。
そうした時代に向かうなかで、これまで保守的な企業の代表格であった銀行も、いよいよ変わらざるをえなくなった。今後、「変われる銀行」だけが生き残るという進化論的な世界が始まり、銀行員像も劇的に変わるのだ。
銀行員にとってそれは未体験ゾーンへの突入を意味し、当然ながら不安が付きまとうだろう。世の中から社会的なエリートの典型とみなされてきたのが銀行であり、銀行員だった。その評価には安定という要素が含まれていたが、もはや安定は失われつつある。
真のエリートとは様々な困難や不安定さをものともせず、ライバルとの競争に勝ち残ることができた者であるとすれば、これから銀行員という社会的エリートたちはまさにその真価が問われることになる。
自分の能力で顧客の信頼を得ながら、銀行が用意したセカンド・キャリア制度に依存せず、自らの手腕で次の職場を切り拓いていく時代が、すぐそこにまで来ている。
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