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企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ
http://diamond.jp/articles/-/166945
2018.4.17 高橋伸彰:立命館大教授 ダイヤモンド・オンライン
「金利ゼロ」は資本主義の危機なのか。
確かに、利子を支払えるほど企業が利潤を上げられない状況を金利ゼロが表しているなら、資本主義は危機かもしれない。しかし、少なくとも日本の企業は1990年代後半以降の金利ゼロが続く中でも利益を上げ、内部留保を積み増してきた。
また、富裕層と呼ばれる資産家の金融資産も膨らみ続け、「持てる者」ほどより多くの所得を稼いでいる。
それでは、なぜ金利ゼロが生じているのか。
簡単に言えば利子を支払えるだけの利潤を上げられる企業が借金をせず、収益は人件費削減などで上げ、利潤は内部留保や株主などへの配当に回してきたからだ。一方で働き手は所得が伸びないうえ、低金利で預貯金の利子所得が激減した。
「金利ゼロ」のもとでも資本主義が“繁栄”しているのは、普通の人々の代償によるものなのだ。
投資減らし無借金経営
「アニマルスピリット」失った経営者
なぜ、このような事態に陥ったのだろうか。
バブル崩壊までの日本企業は、家計の預金を銀行経由で借り入れ、自己資金(キャッシュフロー)を上回る投資を行うことで得た収入を、賃金や利子の形で家計に還元し経済の好循環をリードしてきた。
しかし、バブルが崩壊して以降は非正規雇用を拡大し、正社員の賃金を抑制して人件費を削ると共に、キャッシュフロー以下に投資を減らして借金返済に奔走するようになった。
一方で利潤を目的としない公的サービスの供給を担う政府が借金をして、事業を拡大し同時に財政赤字を累増させている。
その結果、日本の企業部門は1998年以降フローベースで資金不足から貯蓄超過に転じ、日本政策投資銀行の中村純一氏(『無借金企業の謎』)によれば実質無借金(有利子負債を上回る現預金を保有)を含めると、日本の上場企業主要5業種(製造業、建設業、不動産業、商業、サービス業)の40%強がいまや「無借金経営」だという。
経済学史家のハイルブローナーは無借金を誇るような経営者を「現代の地主」にすぎないと喝破する。
ケインズの言う「血気(アニマルスピリット)」をもって不確実な投資に挑むわけでも、またシュンペーターの言う「企業家精神(アントレプレナーシップ)」を発揮して技術革新にチャレンジするわけでもなく、ひたすら人件費を削減して利益を上げ、内部留保の蓄積に血道を上げるような経営者など、経営者としては失格なのだ。
企業が借金を減らしたことで銀行は預金の運用に苦しみ、やむを得ず低い利回りしか期待できない公債を購入するようになった。
実際、銀行の総資金利回りは全国銀行ベースで2016年度決算では0.91%にまで低下し、人件費などの経費率0.84%を差し引くと、利鞘はわずか0.07%にすぎず、預金に利子を付けるのはほとんど難しい状況に陥っている。
借入金利を上回る利益率を期待して設備投資を行っていたかつての企業と異なり、最初から利益を目的としない政府に家計の預金が回れば金利ゼロになるのは当然である。
その一方で、企業は積み上げた内部留保を海外への投融資に回して高い利益を上げており、その利益は株式の配当や株価の上昇あるいは高額な経営者報酬という形で富裕層に還元されている。
苦しんでいるのは「普通の人びと」
家計の利子所得は激減
一方で「普通の人びと」はどうか。
ほとんどの個人や家計は、雇用や生活の不安がある中では、長期的には収益が期待できても、価格が変動する株式や投資信託などのリスク資産を避け、元本が保証された金利ゼロの預貯金で資産を運用している。
実際、リスク資産を保有する家計の割合は、日本銀行の調査(『日米家計のリスク資産保有に関する論点整理』)によれば日本で1割程度、アメリカでも15%程度にすぎない。
それでも、デフレが続く間は、金利ゼロでも預貯金の価値は減価せず、零細な資産保有者の利益も守られるから、人々は預貯金から離れようとはしなかったのだ。
この結果、家計が得る利子所得は、『国民経済計算』によれば1991年度の37.5兆円をピークに2016年度では6.1兆円に減少している。
同期間に家計が保有する現預金が511兆円から938兆円に増加していることを考えれば、家計の預金利回りはバブル崩壊後の長期停滞の中で7.3%から0.65%へと10分の1以下に減った計算になる。
企業が生みだす付加価値、つまり売り上げから原材料などの中間投入費を差し引いた価値の中には、人件費や営業利益と並んで借入に対する支払い利息も含まれている。
お金を借りて投資を行い、利益を挙げて利息を払うことは付加価値の創造でもあるからだ。
この支払い利息の推移を『法人企業統計』で見ると、91年度の34.6兆円から2016年度には6.2兆円に減少している。これが普通の家計が得る利子所得減少の主因である。
借金を減らして無借金を目指す企業経営によって失われた家計の利子所得は、ピーク時との差額として試算すると92年度から2016年度までの累計で650兆円近くに及ぶ。
このように見てくると、企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。
企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる。
それだけではない。企業や富裕層は稼いだ利潤や所得から税金を支払うことも巧みに逃れている。
日本の財政が歳出に見合う税収を確保できずに赤字を累増させているのは、高齢化による社会保障費の増加よりも、むしろ持てる企業や富裕層から支払い能力に応じた税金を徴収しない(できない?)からである。
このようにゼロ金利で苦しんでいるのは「普通の人びと」であり、企業と富裕層を主役とする資本主義は健在である。
しかも日本の企業はゼロ金利の下で、一貫して労働分配率を引き下げてきた。
かつての日本的な経営者であれば、経営が苦しいときには損失を、また経営が改善したときには収益を従業員と分け合ったものだが、バブル崩壊以降は損失を押しつけるだけで、収益を(公平に!)分け合うという発想はほとんど見られない。
いまや経営者にとって賃金は「上げる余裕がないから上げない」のではなく、余裕はあっても「上げなくて済むのなら上げない」という発想が支配的だ。
働き手も消費者の立場になったなら、一杯300円払ってもいいと思う牛丼が一杯200円で食べられるなら、あえて300円は払わず200円で済ますのは合理的だと思うかもしれない。
しかし、経営者が働き手に対して月30万円払ってもいいと思う賃金を、月20万円で雇えるなら20万円しか払おうとしなければ、賃金はぎりぎりの水準まで引き下げられてしまう。
“繁栄”を支えているのは
不平等の拡大
「ゼロ金利」で自然に消滅するほど資本主義は脆弱な経済体制ではない。
実際、資本主義の中心に位置する企業や富裕層はゼロ金利の下でも繁栄を謳歌している。
ただ、その内情は、かつてのようには市場が伸びなくなり、マクロ的な成長率が停滞する中で、その“繁栄”を支えているのは、1%が裕福になり99%が貧しくなる不平等の拡大であることを見落としてはならない。
それでも資本主義の増殖が止まらない一因は、人々の欲望を刺激するように工夫された商品が不断に創出され、それをを人びとが競うようにして求めるからだ。
しかも、人びとは際限のない購買欲を満たすために少しでも多くの所得を稼ごうとして「勤労意欲をますます高め、たとえ給料が変わらず、むしろ下がることになっても、現在の労働市場と労働環境の厳しい要求に従うようになる」(W・シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』)。
この結果、生き延び繁栄するのは資本主義であり、失われるのは人びとの生活と精神の豊かさである。
アルジェリアのフランスからの独立を目指し植民地主義と激しく闘った思想家、フランツ・ファノンは「ひとつの橋の建設がもしそこに働く人びとの意識を豊かにしないものならば、橋は建設されぬがよい。市民は従前どおり、泳ぐか渡し船に乗るかして、川を渡っていればよい」(『地に呪われたる者』)と述べた。
橋の建設が支配者にもたらす利益や橋の通行者が得られる便宜よりも、その建設のために駆り出され働く人びとの精神的な豊かさを優先しなければ、宗主国に支配された植民地の人びとは永遠に解放されないというわけだ。
ファノンが言う「橋」を、現代の資本主義の下で次々と創出される新製品や新サービスと、その生産と販売のために劣悪な条件と環境の下で労働を強いられる人びとの精神に置き換えてみれば、同じことが言えるのではないか。
「打倒」しなければ
生きる基盤が破壊される
拡大する不平等や際限ない欲望と人びとが闘わずに、耐えて待つだけでは資本主義はいつまでも終わらない。
そのための第一歩は、月並みだが「適度な必需品による豊かな生活や安定した『善き生』」(D・ハーヴェイ『資本主義の終焉』)に真の幸福を見いだすことだろう。
そうでなければ、どんな手段を使っても増殖を続け生き延びようとする資本主義の猛威によって、人びとが生きる社会的、自然的な基盤までが破壊されてしまうのである。
(立命館大教授 高橋伸彰)
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