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「年金入力ミス」の責任を業者に押し付け…政府機関のやり口を告発! まるで恫喝まがいの実態も
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55076
2018.04.02 佃 均 ジャーナリスト 現代ビジネス
年金の所得控除にかかわるデータの入力ミスと、データ入力業務の無断再委託が明らかになった。年金の過少支給の原因であることもわかり、波紋を呼んでいる。
マスコミ報道では、年金機構の管理責任よりも「下請け業者のずさんな仕事ぶり」を指摘するものが多い。だが今回、現代ビジネスにはデータ入力に携わる業者から反論の声が続々と寄せられた。
彼らが訴えたのは、発注元である政府機関の耳を疑うような横暴だった。ジャーナリスト・佃均氏のレポート。
業者たちの訴えが続々と…
日本年金機構とデータ入力業者「SAY企画」が引き起こした一連の問題を見ていて、筆者にはある疑問が浮かんだ。「年金機構がずさんな仕事をしたのは『今回だけ』だったのか?」という疑問だ。
年金受給にかかわる個人情報の更新は、毎年必ず行われる重要な作業だ。個人情報の秘密を担保する方法、信頼できる入力業者の選び方など、ノウハウも知識も少なくとも「日本屈指」の水準でなければおかしい。
「前例絶対主義」の官公庁がなぜ、1300万人分(実際に更新があったのは694万人分)ものデータ入力を、従業員わずか80人の会社に一括発注したのか? まして中国への無断再委託を見逃すなど、あまりに突拍子もない話である。
そのようなことを考えていたとき、前回の記事を読んだ複数のデータ入力専門会社から「話を聞いてほしい」と連絡があった。その中には「日本年金機構や国民健康保険の入力業務を受託したことがある」という会社も含まれている。
各社が異口同音に言うのは、「データ入力業者は、いい加減な仕事をしているところばかりだと思われるのは心外」ということだ。そして、彼らの言い分を総合すると、「根本的な問題は、データ入力を発注する役所の側にこそある」ことも見えてきた。
「スキャナーを使う」のが悪いのではない
第一報のあと新聞各紙は、今回発覚したデータ入力ミスの主な原因を「手書きの原票をスキャナーで読み取ったこと」そして「スキャンした画像からそのままデータを作ったこと」である、とする続報を打っている。
しかし結論から述べると、この報道は「業者のずさんさ」だけを強調しようとするミスリードと言っても過言ではない。筆者に連絡をくれた、ある業者はこう話す。
「原票をスキャナーで読み取ること自体は、データ入力前の下処理として当たり前のプロセスで、どの業者もやっています。ただし普通は、スキャナーで読み取った画像から、そのままデータを作るわけではありません」
年金、健康保険、所得税、住民税、住民記録台帳、戸籍台帳など、マイナンバーと関連づけられた重要な個人情報の場合、もし一部が流出しても「完全なデータ」にならないよう、要素をバラバラにする必要がある。
「スキャンした原票の情報をパーツごとに分け、氏名は姓・名・読み方の3つの要素に分解し、住所も別のファイルにして、それぞれを個別に入力していくんです」(前出の業者)
この作業を「イメージカット」と呼ぶ。これにより情報は分解され、個人の特定が困難になる。さらには、特定の情報だけ見えなくする「マスキング」という技術もある。どのように分解するかが、業者の腕の見せどころである。
また、「(スキャナーを使うのではなく)2人1組で手入力する契約になっていた」という新聞報道もあったのだが、これに首をかしげる業者もいた。
「『2人1組』というのは『ダブルエントリー』のことでしょうね。2人が同じデータを同時に入力して、食い違った箇所を修正していくやり方です。
これは素人でもパソコンで作業できる手軽な手法ではありますが、食い違いを検出するソフトの精度に結果が左右されますし、崩れた字や略字などを入力した際、2人が同じように間違うと、そもそも食い違いが検出されません。なので、プロの入力業者はまず採用しないやり方です」
年金機構が知らないはずがない
実際には、業者はどのようなやり方でデータを入力してゆくのだろうか。
前出の業者によれば、スキャナーで取り込んだ画像を前述の「イメージカット」にかけたあと、「連想方式」と呼ばれる専用システムを使うケースが多いという。
例えば、「化」という漢字の場合、字の形から「i・hi(イ・ヒ)」と打つ。すると一発で「化」という文字が現れる。同じように「ka・ro(カ・ロ)」で「加」という漢字が表示される。語呂合わせのようだが、「ka・a(カ・ア=car)」で「車」、「ni・a(ニ・ア=near)」で「近」という入力方法もある。読み方や意味、音の連想で入力していくわけだ。
日本で使われている漢字は約6万種あり、手書きだと異体字や崩し字、略字も混在する。いちいち引っかかっているとキリがないので、判読不能の箇所にはインバリッド(無効)情報として「*」を入れておく。その後、ベリファイ(検査・校正入力)の際、「*」を修正するのだ。
通常は上記の作業を、約20人のオペレータを1チームとして共同で進めていく。
では、今回のような年金情報のデータ入力を行う場合の、「適正な業務の進め方」とはどのようなものかと問うと、業者からは以下のような答えが返ってきた。
「スキャニングとイメージカットは発注元がやって、落札したデータ入力会社に渡す。受託する入力会社は専用システムで1次入力とベリファイをして納品する。納品されたファイルを発注元が統合し、元の情報に復元する」
発注元(今回の場合は年金機構)が自前でスキャニングとイメージカット、データ復元をできないなら、それぞれをまた別の業者に発注すればいい。こうしたノウハウは年金機構の側にもこれまで蓄積されていたはずだし、それにデータ入力の内実を機構が全く知らないはずがない。
にもかかわらず、「いやー、下請け業者が勝手に約束と違うやり方で進めていたんですよ」などと弁解にならない弁解をし、あげく全ての責任を業者に押し付ける年金機構の姿勢は、どう考えてもヘンだ。
ヒドすぎる「下請けいじめ」
別の業者が指摘したのは、年金機構が受託業者へ無理難題を押し付けるーーもっと忌憚のない言い方をすれば、立場を利用した「下請けいじめ」を行うことが常態化しているのではないか、という見方だ。
政府機関との取引がある、某データ入力会社の営業担当者が言う。
「数年前、ある国の機関からデータクリーニングの仕事を受けたんです。最初の話では、クリーニング対象のデータのエラー率は1万分の3(精度99.97)程度ということでした」
1万分の3というエラー率は、業界団体である日本データ・エントリ協会(JDEA)がかつて示していた、データの品質目標だ。この政府機関は古い目標に基づいていったんデータを作ったのだが、これを最新の品質目標である「エラー率10万分の1(精度99.999)以下」の精度まで高めてほしい、という要求だった。
ところがフタを開けてみると、その元データのエラー率は1000分の3(300件に1件=精度99.7)以上で、聞かされていた条件より30倍も悪かった。これでは当然、システムも必要な人員もまるっきり見直さなければどうしようもない。
「これではムリだ、と契約の見直しを求めたのですが、向こうは『契約書には、そんなことは書いていない。こちらはあくまで目標値を示しただけだ。契約を破棄すると言うなら、違約金を請求する』と言ってきたのです」
この業者のチェックが甘かったといえばそれきりだが、この案件の営業から契約までを担当した役員は、「まさかお役所がそんな詐欺まがいのことをするとは、夢にも考えていませんでしたから」と訴える。
結局同社は、そのプロジェクトを引き受けざるを得なかった。案の定、大赤字に終わり「その後、その政府機関とは付き合っていない」そうだ。
役所が因縁をつけてくるなんて
さらには、こんなヒドい話もある。情報提供元の業務に支障がないよう具体名は伏せるが、ある政府機関の案件で、「恫喝まがい」の行為を受けたというのだ。
「落札後に契約を締結する段になって、その機関の職員十数名に囲まれました。彼らはクチャクチャとガムを噛みながら、『間違いなく仕事ができるんでしょうね』『1件たりともミスは許しませんよ』『いまハンコを押すと、あとで違約金が発生するかもしれませんが、いいですか?』などと口々に言うんです。
あんまりだと思い、その場で社長に電話し、事情を説明しました。結局、これでは後で面倒なことになると判断して、弊社は契約を辞退することにしました。
これはどうやら、私たちにその仕事を辞退させて、機関OBが関与する入力業者に回したい、という背景があったようです」
一般競争入札では、業者側に「納品後の経費査定」という関門が課される。経費が適正な用途で使われたか、架空取引はないかなど、報告書に領収書を添えて提出するだけでなく、会計担当官のヒアリングを受ける必要もある。
その際、役所側から「これは認められません」と言われたら、いくら反論してもまず認められない。「全額お支払いできなくなりますよ」などと言われれば、業者は沈黙せざるを得ない。「後で面倒なことになる」とは、これを指しているのだろう。
受注している別案件の支払いストップを匂わせて法外な値引きを要求されたり、「受け答えの態度が悪い」「言葉遣いに気をつけろ」などと因縁をつけられることも珍しくないという。こうした悪習だけは、「前例主義」を忠実に貫いているのだろうか。
コストカットに汲々とする理由
前出の業界団体JDEAも、このような実態をある程度把握している。
「民間企業からの受注の場合、こうしたトラブルはまず発生しません。民間企業にとっては、正確なデータができなければ事業の成否にかかわりますから。ところが官公庁の場合は『間違い』を認めない。間違っていたら、それは業者のせいにする。ですから健全な入力業者ほど、取引先を民間にシフトしているのが実情です」
データ入力業者にとって、いまや「お役所」は鬼門というわけだ。そのうち最も「危ない」のは政府の外郭機関だという。
「彼らは上(所管省庁)しか見ていないので、『コストを削減した』というのがいちばんの手柄になる。親元の威を借りて、値段を叩くだけ叩くのです」(前出の業者)
今回問題になった、年金機構の一連の不祥事の原因についても、「2007年に発覚した、いわゆる『消えた年金事件』の事後処理で、年金機構は財務省に大きな借りを作った。それ以降、業者への発注価格をできるだけ抑えることがミッションになった」との見方が霞が関には流れている。
まっとうなデータ入力業者は、本稿で解説したようなシステム構築やセキュリティ整備に少なからぬ費用を投入している。データ作成を発注する側の官公庁が、コストカットばかり追求して業者と共存する意識を持たないと、最後に割を食うのは我々国民である。
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