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日本は米中貿易戦争で「漁夫の利」を得るのに株価が下がる理由
http://diamond.jp/articles/-/165218
2018.3.30 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
トランプ米大統領は3月22日、中国が米国の知的財産権を侵害したことへの報復として、対中輸入品に関税を課す大統領令に署名した Photo:AP/AFLO
「対中貿易戦争」勃発の可能性
日本は“漁夫の利”が得られそう
「米中貿易戦争」が勃発しそうだ。トランプ米大統領は3月22日、中国が米国の知的財産権を侵害したことへの報復として、最大600億ドル相当の対中輸入品に関税を課す大統領令に署名し、中国はこれに対して報復の姿勢を示しているからだ。
米国は、ほぼ同時に鉄鋼とアルミニウムの輸入制限にも踏み切っており、米国の保護貿易が世界の自由貿易体制を揺るがし、貿易を縮小させるとの懸念が高まっている。米中貿易戦争が、米中経済や世界経済にマイナスの影響を与えるとして、株式市場は世界中で下落、日本株も大幅に売られた。
中国が、米国から半導体を輸入すると伝えられたこともあり、市場は少し緩んでいるが、これで収まったというわけでもなさそうだ。
しかし、冷静に考えると、米中貿易戦争は日本にとっては“漁夫の利”が得られるチャンスである。中国が米国から輸入している品目は、中国国内で作れないから人件費の高い米国から輸入しているのであり、中国が報復措置として米国からの輸入を制限すれば、中国は日本などから輸入せざるを得ないからだ。それなのに、なぜ日本株が大幅に下落しているのであろうか。
米国などの景気悪化で
輸出が減少するという懸念
もっとも分かりやすい説明は、「貿易戦争で世界の景気が悪化して、世界の国々が日本製品を買ってくれなくなる」というものだろう。しかし、本当にそれほど世界の景気は悪化するのだろうか。
米国が、中国からのAという商品の輸入を制限すれば、中国国内のAの生産が減るが、その分だけ米国国内のAの生産が増える。対抗措置として、中国が米国からのBという商品の輸入を制限すれば、米国内のBの生産は減るが、その分だけ日本などのBの生産(および対中輸出)が増える。そう考えると、結局のところ中国の景気は悪化するものの米国の景気は不変、一方で日欧先進国の景気は改善する、ということになるだろう。
「中国のA産業が減産せず、米国に輸出できない分を安値で日欧に売りにくる」とすれば、日欧のA産業は打撃を受けるかもしれないが、B産業の需要増と考え合わせれば、日欧の景気が悪化するというわけでもない。
もちろん、調整は簡単には行われないだろうから、摩擦的な失業などは起きるかもしれないが、世界経済が長期にわたり不況に陥るとは考えにくい。大恐慌時のように、世界経済がブロック化されてしまえば、いずれのブロックにも入れてもらえなかった国が辛酸を舐めることになるだろうが、米国の同盟国である日本がそうした目に遭うとは考えにくい。
「日本も米国の標的になるから
景気が悪化する」との読み
「米国は、日本にも矛先を向け、様々な圧力をかけてくるだろうから、日本の景気は悪くなるだろう」という見方もあるが、これも米国が本気で同盟国日本を叩きにくるとは考えにくい。
「米国は、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に際し、日本を適用除外しなかったではないか」といった批判もあるが、あれはトランプ大統領の国内向けのアピールだ。日本の鉄鋼・アルミニウムの対米輸出は年間2000億円程度であり、日本経済に与える影響が限定的なことを考慮してのことだ。トランプ大統領とはいえ、重大な影響が出かねないような輸入制限を、日本に対して行うとは考えにくい。
韓国は、米国との間で輸出自主規制などで“手打ち”をした模様だ。日本も、ある程度、トランプ大統領に花を持たせ、中間選挙を闘いやすくするための“お土産”を渡せば、手打ちになるのではないだろうか。
トランプ大統領が本気で貿易赤字を減らしたいのか、選挙民向けのポーズをしたいのかによって必要な「お土産」は決まる。場合によっては、「カナダから日本が輸入している製品Cを、米国企業がカナダから輸入して米国企業のラベルを貼って、日本に輸出する」だけで許される可能性もあるかもしれない。
将来、米中が接近して「太平洋を半分ずつ治めよう」といったことになれば話は別だが、米中が対立する構図の中で、同盟国である日本の位置づけは非常に大きいものだ。クリントン大統領が、中国を重視して起こしたジャパンパッシングのような事態は、今の米中関係を考えると起こりそうにないだろうと筆者は強く期待している。
日本株が下がるのは
「パブロフの犬」
株価は、理屈通りには動かない。特に短期売買の際には、市場の思惑などを重視しないと痛い目に遭いかねない。それは、短期的な株価が「美人投票」で動くからだ。つまり、「皆が上がると思うと、皆が買い注文を出すから上がる。皆が上がると思った理由が正しかったり理論的であったりする必要はない」のだ。
株式市場では、長年にわたり、「米国の株価が下がると、翌日の東京で株価が下がる」ということが繰り返されてきた。合理的な理由が全くないわけではないが、最大の理由は美人投票だ。「過去に、米国株安の翌日は株価が下がったから、今日も下がるだろう」と考えた日本株投資家が、売り注文を出すから実際に下がってしまう。つまり、日本株は米国株の「パブロフの犬」なのだ。
米国には、エネルギー産業の株も多く上場されているため、原油価格が下落すると米国の株価も下落することが多い。そして、その翌日には日本株もつられて下落する。日本経済にとって、原油価格が下落して困ることはないにもかかわらずだ。それならば、米中貿易戦争懸念で米国株が下がった翌日に日本株が下がるのも、理解できるだろう。
そして、投資家は、常にリスクをとってリターンを狙っている。その兼ね合いを決めるのが「リスクオン」「リスクオフ」という「気分」である。投資家たちが、「多少のリスクは構わないから、儲けを狙って積極的に投資しよう」と考えている状態が「リスクオン」であり、投資家たちが「儲けを狙わずに、リスクを減らして静かにしていよう」と考えている状態が「リスクオフ」である。
世の中で不穏な空気が漂うと、投資家たちが「リスクオフ」になる。「貿易戦争が起きそうだから、しばらく静かにしていよう」と思う投資家もいる。「自分は貿易戦争は気にしないが、気にしてリスクオフになる投資家が株を売るだろうから、自分が先に売っておこう」という投資家もいるだろう。そうして株価が下がるわけだ。
日本の場合、それに加えて「対外純資産国である」という事情もある。米国債などを持っている投資家は、「ドル安になって為替差損を被るリスクはあるが、儲けるために米国債などを持っている」わけだから、リスクオフになると、米国債などを売ってドルを売って日本に持ち帰る。それによるドル売りがドル安円高をもたらし、「円高ドル安だから日本株を売ろう」という動きを誘発するのだ。
米国の“円高要求”を
先読みした可能性も
米国政府が対日輸出を増やすことで対日輸入を減らし、結果として米国の雇用を増やそうと考えたとき、一つの手段として「口先介入による円高誘導」が考えられる。米国政府高官が「円は安すぎる。日銀が異次元緩和で円安誘導しているのはケシカラン」といった発言をすれば、市場関係者は「美人投票」的にドルを売り円を買う。それを見越した投資家たちが、「円高になるなら、株価が下がるだろうから、今のうちに売っていおこう」と考え、日本株を売っている可能性もある。
しかし、トランプ大統領が本気で円高誘導をする可能性は高くないだろう。というのも、彼は支持者に向かって直接的にアピールをしたいのであって、彼の支持者は「口先介入で円高に誘導したから、皆さんの雇用が増えるでしょう」などという回りくどい演説より「日本に製品Cの輸入を認めさせた(実はカナダ産だが)」といった演説を好むからだ。
以上を総合的に考えると、たとえ米中貿易戦争が激化しても、株価が大幅に下がり続ける可能性は大きくなさそう。それ以前に、米国が単に米中貿易交渉を有利に進めるために脅してみただけで、意外とあっさり「手打ち」となる可能性もあるから、過度な懸念は不要だろう。
もちろん、株価は様々な要因で動くので、株価が下がらないなどと記すつもりは毛頭ないし、読者各位におかれては投資は自己責任でお願いしたい。
今回は以上だが、米中貿易戦争で日本に漁夫の利が得られるかもしれないという点については、拙稿「米輸入制限で貿易戦争勃発、日本が得られるかもしれない『漁夫の利』」を、投資家がリスクオフになると円高になるという点については拙稿「北ミサイル発射後の円高は『円は安全資産』が理由ではない」を併せてご覧いただければ幸いである。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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