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ハーバードが絶賛する「日本」のポテンシャルと課題
https://www.newsweekjapan.jp/nippon/season2/2018/03/210199.php
2018年03月22日(木)20時01分 印南敦史(作家、書評家) ニューズウィーク
<新幹線清掃から福島第二原発まで、事例が豊富な『ハーバードでいちばん人気の国・日本』。世界が高く評価する日本のポテンシャル、そして、これからの日本の3つの課題とは?>
『ハーバードでいちばん人気の国・日本 』(佐藤智恵著、PHP新書)が焦点を当てているのは、ハーバード大学において日本のポテンシャルが大きく評価されているという事実である。それは、この国に対する悲観的な論調に慣れてしまっている私たちにとって、非常にインパクトのあるトピックだといえよう。
本書の「はじめに」の部分で、まず登場するのは、JR東日本が運行する新幹線(東北・上越・北陸・山形・秋田)の清掃業務を請け負う「JR東日本テクノハートTESSEI」(以下テッセイ)の話題だ。次いで第1章でも詳細に解説される同社の取り組みは、マスメディアでも頻繁に取り上げられているのでご存知の方も多いだろう。
新幹線が東京駅に到着してから、乗り降りの時間を引いたわずか7分間で清掃を終えるという事実はそれだけで衝撃的であるだけに、「新幹線お掃除劇場」として注目された。実は私自身、そのシステムを構築したテッセイの矢部輝夫さんには何度も取材させていただいた経験があり、ハーバードの教材になるという話もお聞きしていた。そんなこともあり、ここでその取り組みに焦点が当てられていることには十分納得できる。そこには、本当の意味での"日本人らしさ"が反映されているからだ。
階級社会が色濃く残る欧米で、清掃の仕事にやる気満々で取り組んでいる人はほとんどいないといってもいいだろう。(中略)ところがテッセイの従業員は皆、情熱をもって仕事をしている。それはお金のためというよりは、「人のために役立っているのが楽しい」と感じているからである。3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれ、一般的には敬遠されるような職場で、やりがいをもって仕事をしている。それこそがまさに「奇跡」なのだ。(58〜59ページより) |
もしかしたら、この文章を読んだだけではそのリアリティを実感できないかもしれない。「一般的には敬遠されるような職場で、やりがいをもって仕事をしている」というフレーズを使えば、なんとなく話がまとまってしまうのも事実だからだ。ところが、これは単なる美辞麗句ではない。新幹線清掃の現場にいる「おばちゃん」たちは、本当にとてつもないことをやってのけているのである。この話題は終章にも登場しているので、そこからも引用してみよう。
東日本大震災後、本線上に残された東北新幹線を清掃したときの話も感動的だ。二週間ぶりに清掃に入った新幹線はひどい汚れっぷりで、とくにひどかったのが、水が流れなかったトイレだった。 ペーパーと排泄物で溢れたトイレを、ゴム手袋をはめた手で清掃していく。そんなたいへんな作業をしながら、従業員の方々は、「こんな状況のなかにいたお客さまは大変だっただろう」と、自分のことではなく乗客のことを考えていた、というのだ。(232〜233ページより) |
まったく同じ話を、実際に掃除をしたおばちゃんから聞いたことがあるので、このエピソードが決して大げさなものではないことが私にはわかる。そんなことがありうるのかとにわかには信じ難く、何度も聞き返したのだが、彼女は戸惑うかのように「だって、みんな困っていたワケですからね......」と、こちらの目を見ながら答えたのだ。そのとき私が感じたのは、おそらく本書を通じて著者が伝えたかったことと同じなのではないかと思う。
日本の社会は、世界でも類をみないほど平和で安定している。金融史を教えるデビッド・モス教授(David A. Moss)はいう。 「日本はとてつもない力を秘めた国です。政治システムも安定しています。経済状態が悪くなっても、暴力的な事件や、暴動が起きるわけでもありません。日本がいかに平和で安定しているかというのは、経済問題を抱える他国と比較してみればよくわかります。日本は『平和で安定した国家をつくる』という偉業に成功した国なのです」 偉業に成功した国から、明日何が起こるかわからない時代を生き抜く指針を見出そうとしているのである。(37ページより) |
新幹線の清掃以外にも、トヨタの圧倒的な強さの秘密からアベノミクスまで、日本のさまざまな功績が紹介されていく(もっとも、後者がハーバードで取り上げられる理由に関しては個人的に理解し難く、また本書での考察も浅いように感じたが)。また、「戦略・マーケティング」「リーダーシップ」についてもそれぞれ章が立てられている。なかでも「福島第二原発を救った『チーム増田』」には、強力なリーダーシップ論として読み継がれていくべき価値があるといえる。ひとつ間違えばメルトダウンを起こすかもしれなかった福島第二原発のリスクが、リーダーであった増田尚宏所長の立ち回りによってすんでのところで食い止められたという話だ。
「増田さんは、作業員でごった返す緊急時対応センターで、ホワイトボードにひたすら数字と図を書いていったのです。(中略)つまり『私にも何が起こっているかわからないが、少なくともいま私が知っていることはこれだ』と作業員と情報を共有したのです。これを社会心理学では、『センスメーキング』(sense making)といいます。危機の真っただ中にいて、センスメーキングをできるリーダーはなかなかいません」(206〜207ページより) |
センスメーキングがあったからこそ作業員がパニックに陥らなかったというわけで、ここにはさまざまなリーダーが応用できるヒントが隠されているといえるのではないか?
さて、本書を読み進めていくと、実感せざるを得ないことがひとつある。「いわれてみれば、たしかにすごいかもしれない」日本人の持つ力を、我々日本人がいちばんわかっていないのではないだろうかということだ。
終章においてもそのことにページが割かれている。ただし、そこには「ハーバードの教授陣も手放しで日本を絶賛しているわけではない」という記述もある。「課題」として提示されているものは次の3つ。「@グローバル化」「Aイノベーションの創出」「B若者と女性の活用」だ。
グローバル化が遅れている理由として挙げられているのは、「変化への極度の抵抗」、そして「ローカル志向」の人の多さだ。グローバル派が増えないのは、それが日本では「出る杭」として認識されているからだそうだ。また、イノベーションの創出が昔ほど進んでいないのは、「快適な国」であることが一因であるともいう。アメリカは問題だらけの国だから、それらを解決するためにイノベーションが生まれる。しかし、日本にはそれがないということだ。このことに関する唯一のチャンスが、高齢化にあるという指摘も興味深い。
いまの日本はイノベーションを起こすチャンスだ、と前向きな意見を述べるのが、ロザベス・モス・カンター教授だ。 「日本は高齢化社会ですね。高齢化社会であることはイノベーションを生み出しやすいという利点があります。高齢者が多ければ『若い労働者が不足しているから、道路も鉄道も思うように建設できない。それならどうしようか』と考えますね。それを解決するにはイノベーションを起こすしかありません」(238ページより) |
その点も含め、若者と女性の活用が実現すれば、そこが突破口になるかもしれないという考え方だ。
先にも触れたとおり、ハーバードから、あるいは全世界からこれだけ注目されているにもかかわらず、そうした情報は私たちのもとにはほとんど入ってこない。だからこそ、その重要な部分を開示した本書には大きな価値があるといえる。
ただし、そのうえで求められるべきは、我々の意識の持ち方なのではないだろうか? たしかに、現在の日本の閉塞感には無視できないものがある。しかし、だからといって「もうダメだ」「先がない」と囁きあっていても、そこからはなにも生まれない。それよりも、(ダメかもしれないけれど)「これだけの可能性もある」ということを意識していくべきだということ。そうやって前向きに信じ、そこから「どうすればいいか」を考える。そんな姿勢こそが、なによりも大切なのではないかと思えるのである。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。
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