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リコー、危機深まる…将来戦略なき「ひたすらリストラ」、株価はジェットコースター状態
http://biz-journal.jp/2018/03/post_22594.html
2018.03.10 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
リコーの事業所(「Wikipedia」より/GeographBot)
2月に入って以降、リコーの株価が乱高下している。2月上旬、2018年3月期の最終損益が70億円の赤字に陥るとみられていたところ、コスト削減によって営業利益、最終損益ともに上方修正された。それが好感され、2日の終値は前日の引け値から11%上昇した。その後、22日には買収した米国の販売子会社での減損計上が検討されているとの報道を受けて一時、株価は前日から6%強急落する場面もあった。その後の株価の動向を見ても、不安定な動きが続いている。市場参加者は、リコーの成長性に懸念を強めている。
これまでリコーは事務機器メーカーとして成長してきた。言い換えれば、事務機器(ハード)はあるが、事業ポートフォリオはその分野に集中していた。連結営業利益の96%程度が当該ビジネスからもたらされている。富士フイルムなどのライバル企業に比べ、事務機器事業への依存は突出して高い。リコーは海外ビジネスの問題も抱えている。当面、同社は人員の削減などのリストラを進めざるを得ないだろう。
世界の事務機器市場では、省人化やサテライトオフィスの運営のためのネットワークサービスの提供を筆頭に、クラウドコンピューティングサービスの導入促進やペーパーレス化など、人々の働き方を支える“システム”の提供能力が重視されている。競争の環境が大きく変化するなかで、リコーがどのようにして市場のシェアを維持し、拡大することができるか、今後の経営判断の重要性は増している。
■ハード=事務機器に偏りすぎたリコー
現在、世界の事務機器業界は、大きな変革に直面している。それは、IT技術の向上とその普及によって、従来の事務作業などの在り方が大きく変化しているからだ。タブレットPCなどを用いて紙を使わずにミーティングを行うことは、多くの企業で当たり前になっている。それに加え、手書きの書類、メモなどを電子化し、ネットワーク上で保存することも増えている。テレワークなどの普及に伴って、こうした需要は増加トレンドをたどるだろう。
このような競争環境の変化のなかで、リコーは収益構造を変えようとしている。その内容は、規模の拡大から利益率重視の発想に経営方針を改め、生産の効率性を高めることである。特に、後者のコストカットに関しては18年第3四半期の決算においても業績の改善に寄与し、一定の成果を上げている。
しかしながら、同社の経営を見ていると、ペーパーレス化などの変化への対応がどのように進められようとしているのか、変化に対応し、成長力を高めるための戦略が見いだしづらい。依然として、リコーはオフィス、プリンティング向けの製品=ハードの販売を経営の基盤に据えている。ハード中心の発想で今後の競争に対応し、シェアを高めていくことは難しいだろう。
今後の事務機器業界で生き残るには、アマゾンやグーグルなどが手掛けるクラウドコンピューティングサービスの普及にどう対応するかが一つのポイントとなるだろう。クラウドコンピューティングの普及によって、インテルのCPU(中央演算装置)を搭載したパソコンを用いてマイクロソフトのソフトを使う必要性すら低下している。必要なデータや情報だけでなく、その解析などに用いられるアプリケーションもネットワーク上でシェアされることが増えている。
■リコーが抱える海外事業の問題
変化に対応していくためには、個社独自の技術をベースにしながら、ネットワーク技術の開発などを進めるハイテク企業との連携を進めることが重要になるだろう。すでに、IT、自動車、金融、物流などの業界では、複数の企業が連携しオープンなかたちでのイノベーションを目指すことが増えている。オープン・イノベーションを進めるためには、国内だけでなく、世界各国の企業との連携も必要だ。そのうえで、特定の用途を念頭に置いたモノよりも、ビジネスの環境、基盤(プラットフォーム)を提供することが目指されている。世界各国の企業と連携し、必要なノウハウや技術、コンセプトを取り込もうとする考えは、事務機器業界だけでなく、ビジネス界全体で重視されるだろう。
リコーの経営を考える上で不安なのが、海外ビジネスのリスクに対する姿勢だ。かねてより、リコーは事務機器の需要が見込める新興国でのシェアの拡大を目指してきた。1993年にはインドで販売子会社を設立し、2015年までは事業の拡大がリコーの業績を支えてきた。しかし、この子会社での不正会計が発覚して以降、インドのビジネスはリコーの業績の足かせとなっている。昨年10月、リコーはインドの子会社の再建支援を打ち切ったが、それは同社が海外ビジネスのリスクを的確にマネジメントできなかったことの現れにほかならない。
2月中旬の株価急落をもたらした米国での減損処理の詳細は明らかになっていない。同社は北米事業などのリストラを進めつつ、採算性を重視した販売戦略を進める方針を示している。ただ、中国と並びデジタル化の先頭を走る米国での事業は、本来強化されなければならないはずだ。取り組むべき強化策よりもリストラを優先せざるを得ない点に、同社の海外戦略の問題がある。
■高まるリストラ圧力と経営判断の重要性
本来、リコーは事務機器事業に集中しすぎた事業ポートフォリオを分散し、かつ従来にはない、新しいビジネス分野の開拓を進めなければならない。しかし、実際には本来あるべき戦略を進めることとは難しいだろう。海外事業の問題が浮上し、コストカットを優先せざるを得ないからだ。その間も、ネットワーク技術を応用した事務作業の省人化やデジタル化は進む。その動きが進む間にリストラを進める分、リコーは競争に遅れる恐れがある。
リコーが直面する経営環境は厳しさを増すだろう。現状の事業構造のまま収益を確保していくためには、どうしても資産の売却を進める必要性が高まる。それは、東芝の経営再建を見てもよくわかるだろう。すでにリコーは半導体子会社の株式の譲渡、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス株の売却を行っている。今後も資金捻出のために、保有資産の売却は続く可能性がある。
なかでも市場参加者が注目するのが、主要子会社であるリコーリースの売却が実施されるか否かだ。リコーリースは医療機器や産業用機器などのリース業務に加え、金融関連にも進出している。見方によっては、リコー以上に事業ポートフォリオは分散され、競争に対応しやすい事業基盤を持っているようにさえ見える。
それを売却することは、リコーの経営を立て直すうえで大きなマイナスとなりかねない。今後の競争環境に対応するためには、リコーの経営陣が自社の経営資源を活用して新しい分野への進出とシェアの拡大を進めるしかない。そのためには、何が必要な資源であるかを経営の視点から判断していくことの重要性が増す。
短期的には、資産の売却などのリストラを進め収益を確保することは可能だ。しかし、それは中長期的な成長を目指すこととは異なる。従来にはないビジネスの育成を通して、事業基盤の安定性を高め収益の持続性を実現することができるか、経営判断の重要性は増している。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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