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「出荷作業8時間を1秒に」三浦市農協で起きた驚異の進化
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12062
2018年2月27日 山口亮子 (ジャーナリスト) WEDGE Infinity
農業のIT化が進む中、農協の業務の中でもやっかいな出荷物の配送予定の作成時間を大幅に短縮するシステムが登場した。1日8時間かかっていた作業がわずか1秒で済むという。導入するのは、神奈川県の三浦市農業協同組合(以下三浦市農協)とサイボウズ。独自のアルゴリズムを使って、人間が計算するよりも速く、かつ効率的な配車予定を組むことが可能になる。
時間かかるうえにトラック台数多く非効率
農協にとって出荷振り分け作業というのは、最も面倒な作業の一つ。翌日に農家から出荷される出荷物の量を把握し、市場などの配送先ごとの出荷数量と、荷物をどの運送会社のトラックにどう積み分けるかを決める。この作業は基本的に手作業で行われていて、三浦市農協の場合、まずは農家が各出荷所に翌日の出荷予定を連絡し、各出荷所が農協に連絡。農協は全出荷所から受け付けた数量をExcelへ入力し、北海道から大阪までの約50の市場への出荷数量を決め、それをもとに配車予定を組んでいた。
システム導入で煩瑣な作業が改善される(サイボウズ提供)
なかでも最も時間がかかるのは、配車予定を組む部分。同農協では農家の出荷量を把握してから市場ごとの出荷数量を決める作業は2時間ほどで終わるが、その後の配車予定を組むのに、中堅職員で8時間ほどかかっているという。ベテランでも5〜6時間はかかり、負担が大きいため、この部分をサイボウズと連携してシステム化した。
三浦市農協はよこすか葉山農業協同組合(横須賀市)と共同で販売業務を行っていて、農家が広く点在するために出荷所は21カ所ある。2月中旬だと1日に40品目ほど、トン数でいうと約600トンが出荷される。配送には10トントラックで最低60台が必要になるわけだが、実際には80台ほどが使われているという。これだけの量のものが、市場ごとに「A市場は大根800ケース、ベビーリーフ30ケース、ブロッコリー10ケース……」といった具合に細かく分けて運ばれていくのだから、配車予定を立てる作業の面倒さがわかろうというものだ。
出荷予定が固まる午後3時半ごろから、配車表の作成が始まる。まずは京浜地区以外の遠方の市場への配車予定を確定させ、それから近隣市場の配車予定を組むという「地道な作業」が夜半まで続く。
「こんなのはさすがにやれない」と若い職員から言われていた作業が、「三浦市農協配車システム(仮)」だとわずか1秒で完了する。これはサイボウズの業務アプリ開発プラットフォーム「kintone(キントーン)」を使ったもの。出荷所で出荷情報を入力し、農協でどの市場に何をどれだけ出すかを入力したうえで、配送ルートの自動作成画面でデータを選択し、使うアルゴリズムを選択、自動計算のボタンをクリックすれば瞬時に配車予定が作成される。
2月14日にサイボウズで行われたセミナー「農業×ICT/IoT『100農家いれば100通りの農業』」では自動作成のデモが披露されたが、実にあっけなく配車予定の作成が終わってしまう。同社社員が「デモ映えしない」と苦笑していたほどだ。
独自のアルゴリズムでトラック台数削減
セミナー「農業×ICT/IoT『100農家いれば100通りの農業』」での発表のようす
アルゴリズムは3パターンが用意されており、「アルゴリズム1」は人間が頭で考えて予定を組む方法をそのまま使っている。「アルゴリズム2」はサイボウズの子会社のサイボウズ・ラボが作成した独自のアルゴリズムに基づき、人が考えるよりも効率的な配車方法を作成できる。
「アルゴリズム3」は今後、三浦市農協で入力するデータが蓄積されていけば、ビッグデータに基づいてより最適な配車システムをつくることができるようになるというもの。
14日のデモでは、アルゴリズム1を選ぶとトラックの台数は106台となったが、2だと85台まで台数が減った。3はまだデータが少ないため95台に増えてしまっていたが、データが蓄積されればより効率的な配車ができるようになるという。自動作成後に各トラックの積載がどうなっているかチェックし、変更を加えることも可能だ。
時間も経費も節約できる、一挙両得のシステムは4月から運用をスタートする。同農協共販部長補佐の飯島昌祥さんは「労働時間の短縮が一番大きい。職員の負担が減るし、空いた時間を営業などに効率的に使えるので期待している」と話す。
サイボウズと三浦市農協は2017年5月から農家の収益安定化を目的に農業のIT化推進で連携している。飯島さんは今後もIoT導入で流通や生産の効率化をしたいと誓っていた。
「生産の面では、今後の高齢化や人手不足をITでどこまで埋めていけるかも農協として考えないといけない。出荷の面では、市場側に前年の出荷実績や今年の実績、見込みなどの情報を見てもらうことも可能なのでは」
農協とIT会社のコラボレーションで始まった農協発の流通改革。今後に期待したい。
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