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中国がまもなく「世界最強のIT国家」になる歴史的必然性 プライバシーも独禁法もない国だから
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54575
2018.02.23 野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 一橋大学名誉教授 現代ビジネス
中国のIT産業は、いまや世界の最先端を走っている。
しかし、それに対して世界は危機感を強めている。なぜか?
個人のプライバシーを尊重しない中国の特殊な社会構造が、中国ITの強さの基礎にあるからだ。そして、中国ITの膨張によって、個人の自由が奪われる危険があるからだ。
正確な個人識別が可能になりつつある
「プロファイリング」という技術がある。
もともとは、犯罪捜査で、犯罪の特徴などから犯人像を割り出す方法のことだった。
最近では、インターネットから得られる個人データを分析し、個人像を描き出すための手法を指すことが多い。
プロファイリングが進めば、個人の行動を予測できるようになる。そこで、一人ひとりの好みに合わせた商品の広告などを出すのに使われる。
最近では、AIとビッグデータの活用によって、精度が向上している。
プロファイリングの応用は、広告以外にも広がっている。まず、金融に利用され始めている。
保険では、「テレマティック保険」というものがある。自動車にセンサーを搭載し、運転状況を詳細にモニターする。「運転行動連動型保険」では、アクセルやブレーキの踏み方などの運転情報を取得し分析し、診断結果に応じて、契約者ごとに異なる料率を適用する。
中国の衆安保険は、糖尿病患者を対象とした新しい医療保険を提供している。これは、テンセントが開発したタッチパネル式測定端末で血糖値のデータを取り、規定値を下回れば、保険金が増額される保険だ。
これにより、人々はこれまでより健康管理を心がけるようになり、医療費や医療保険の支払いが節約できると言われる。
また、融資判断に用いる個人の信用度を算出する試みも始まっている。アリババの関連会社、アント・フィナンシャルサービスが2015年1月に始めた「芝麻(ゴマ)信用」は、学歴、勤務先、資産、返済状況、人脈、行動の5つの指標の組み合わせで信用度を計算し、950点満点で評価する。
スコアが高いと、シェア自転車を無料で使えたり、海外旅行時にWi-Fiルータを無料で借りられる。芝麻信用のスコアだけで無担保融資をする業者も出てきている。人々は信頼を失わないように心がけるので、人間の質を高めるとされる。
また、趣店というスタートアップ企業は、ビッグデータを利用することによって、個人の信用を識別する消費者金融を開発した。
以上では、秘密にされている情報を使うのではなく、オープンにされている情報を大量に集めて分析する。だから合法だ。
しかし、危険な面もある。プライバシーが侵されるリスクがあるからだ。
アメリカでできないことを中国ではできる
グーグルは、検索やメールなどの情報を用いるプロファイリングを、以前から行なっていた。それを広告に用いて、巨額の収益を上げてきた。フェイスブックも、書き込みなどから、同様のことを行なっている。
グーグルはさらに、個人の行動を予想してアドバイスを与える「Google アシスタント」というサービスを2016年から提供している。勤務先等を入力しなくても、グーグルカレンダーなどに書き込まれた予定やグーグルマップの利用状況などから推測しているようだ。
ただし、グーグルやフェイスブックは、ビッグデータを集め、利用する面で、本質的な制約にぶつかる。
アメリカは個人主義を基礎とした民主主義社会であり、個人のプライバシー保護について、強い社会的要請があるからだ。
ところが、中国ではそうした制約が非常に弱い。したがってビックデータを簡単に集めることができる。そしてその利用についても、社会的な制約が働かない。
中国でも2017年から、「インターネット安全法」を施行している。しかし、これは、個人情報の保護というよりは、むしろ、当局によるインターネット支配を強化するものだと考えられている。
実際、中国では、インターネットは検閲されている。テンセントやバイドゥは、政権にとって都合の悪い書き込みを排除している。
思い起こせば、2010年3月に、グーグルはこの問題で中国から撤退したのである。
前出のアリババの関連会社アント・フィナンシャルが運営する電子マネー・アリペイでは、顔認証のシステムが導入されている。これが広がれば、決済にスマートフォンさえ必要なくなる。
顔パスで支払えるのは、確かに便利だ。しかし、そのためには、アント・フィナンシャルに写真を提供する必要がある。その情報が政府に渡れば、街角に設置されたカメラで行動を監視されてしまうことになりかねない。
個人の信用情報について懸念されるのは、それが融資の際の評価に用いられるだけでなく、様々な用途に用いられることだ。そのうち、雇用の際の評価に用いられるようなことにもなりかねない。そうなれば、この点数が個人の一般的な評価として社会的に用いられることになってしまうだろう。
そうした評価が一企業によって決められてしまうことに対して、中国の国民はあまり強い危険を感じていないようだ。
中国政府は、ビットコインを禁止し、中央銀行による仮想通貨に強い関心を示している。ビットコインでは個人情報は集まらないが、中央銀行仮想通貨であれば集まるからだろう。 そして、中国人民銀行は、いずれ仮想通貨を発行するだろう。
拙著『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)で説明したとおり、中央銀行の仮想通貨は、ビットコインとはかなり異なる仕組みによって運営される。
そして、仮想通貨を発行すると、中央銀行がすべての国民と企業の経済活動を細大漏らさず把握できるようになる。
この問題があるので、欧米諸国でも日本でも、中央銀行の仮想通貨発行には、技術的に可能であっても踏み切れない。
しかし、中国では、この問題はあまり大きな障害とならないだろう。
中国のITが世界最強となる本質的理由
AI(人工知能)の技術開発においては、ビッグデータをどれだけ集められるかが重要だ。
それを簡単に集められる中国は、人工知能のディープラーニングにおいて、有利な立場に立つ。
中国のITにおける強さが、潤沢な資金力や優秀な人材に支えられている面は確かにある。しかし、そうしたことだけではない。
中国の特殊な社会・国家構造が、中国のIT産業に対して有利に働くのだ。
ヨーロッパの近代社会は、個人主義を前提に形成された。そして、市場経済は、独立した個人の自由な行動を基本的な社会構成原理としている。
中国という国家は、政治的には共産党の一党独裁体制であり、市場経済とは矛盾すると思われていた。
仮に一党独裁体制の下で市場経済を認めれば、汚職が蔓延して、経済は立ち行かなくなるだろうと考えられていた。そうした面があることは否定できない。
しかしIT産業について言えば、以上で述べた理由によって、中国の体制が有利になるのだ。
これまでの工業社会では、個人の自由と経済全体の発展がうまく調和できた。しかし情報産業においては、産業の発展が個人のプライバシーを犯してしまう。
ITには従来なかった特殊な規模の利益が働く。そして人口は途方もない大きさだ。IT産業は本質的な意味で中国に合っていると考えざるをえない。そのことが中国でいま実証されつつあるのだ。
しかも、アメリカでは、巨大化した企業は独禁法の問題に直面するが、中国には、その問題もない。
アメリカでは、「ITの先端分野でいずれ中国に抜かれる」という中国IT脅威論が、急速に高まっている。
グーグル元CEOのエリック・シュミット氏は2018年1月にイギリスBBCの放送で、「今後5年間は、まだアメリカがAI分野でリードしていくことができるが、すぐに中国が追いついてくる」と述べた。
また、アメリカの情報機関の高官は、「中国はAI分野でアメリカを超える可能性がある」と発言した。
これは、純粋に技術的な意味で抜かれるというよりは、以上で述べた中国の特殊性に、アメリカは対抗できないということであろう。
今や歴史の大逆転が起ころうとしている。
個人情報を握る「独裁者」が登場する
すでに述べたように、中国では、インターネットは検閲されている。
いまは人間が行なっているので大変な作業だが、AIを利用すれば、簡単にできる。
イギリスの作家ジョージ・オーウェルは、小説『1984年』の中で、ビッグブラザーという独裁者に支配される未来社会を描いた。
しかし、ここで描かれているようなことは、実際にはありえない。なぜなら監視をするために、監視される側と同じ位の数の人間が必要になってしまうからだ。
しかしAIを用いて行えばそうした必要はなくなる。
それに加え、プロファイリングで得られた詳細な個人情報を政府が入手できれば、どうなるか?
どんな本を買い、何を検索して誰と交信したかが分かれば、思想を読める。これまでは、外部からは分からなかった政治的な思考が明らかになる。こうした詳細な個人情報を国家が得、それを個人のコントロールに用いる可能性がある。
歴史上、これほど強い権力基盤を持った支配者はいなかった。これは、ビッグブラザーを超える独裁者の出現だ。
EUは個人データの保護を強化
歴史的に、中国には拡大主義的な思想はなかった。しかし、現代中国は、それとは違う動きも示している。
実際、習近平政権は、「一帯一路」政策を推し進めようとしている。
また、中国はすでにフィンテックで東南アジアに進出している。東南アジアには西欧的な個人主義の伝統はないから、中国的ITが急速に拡がる可能性がある。
こうした中国の膨張傾向に対して、世界は、危機意識を持ち始めている。
データを保護する法制の整備や運用を強化する動きが、世界的な流れとなっている。
ヨーロッパでは、プライバシーと個人データの保護を、欧州連合(EU)基本権憲章で保障する基本的人権として位置付けてきた。
GDPR(一般データ保護規則)は、EUにおける新しい個人情報保護の枠組みであり、個人データの処理と移転に関するルールを定める。1995年から適用された「EUデータ保護指令」に代わり、2016年4月に制定された。2018年5月に施行される。
個人の権利として、不要なデータの消去を要求する権利などとともに、プロファイリングに異議を唱える権利を定めている。また、欧州の消費者や従業員などの個人データを保有したり域外に持ち出そうとする企業に、保護体制の整備を求める。
メールアドレスやクレジットカードカード番号情報といった個人データを域外による第三者が見られるようにすることを原則禁止する。
当面の対象は、グーグル、フェイスブックなどのアメリカIT企業なのだろうが、中国IT企業も意識されていると思われる。
日本はどう対応したらよいか?
日本は、以上で述べた中国の状況に対して、危機意識を持っているだろうか?
日本の電子マネーは、アリペイなどに比べてはるかに遅れている。だから、アリペイは、日本にも進出する可能性がある。
アリペイのシステムを取り入れる(日本の銀行に預金して使えるようにする)こととすれば、日本の利用者の利便は増すだろう。
だが、それは日本の決済システムがアリババに握られることを意味する。それだけではなく、顔認証で決済が行われるようになれば、日本人一人ひとりの顔が把握されることになる。
しかし、それを危惧してアリペイの日本上陸を拒否すれば、日本はフィンテック鎖国をすることになる。
日本でも2017年5月に個人情報を扱うルールが本的に見直した改正個人情報保護法が全面施行された。ここでは、個人情報の定義を明確にしたほか、個人を特定できないようデータを加工すれば、本人の同意なく第三者に提供できる仕組みを導入した。
しかし、こうしたことだけで、以上で述べた問題に対処できるかどうか、大いに疑問だ。
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