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感情的な仮想通貨「批判」の罪…銀行を脅かすほどの「潜在力」、制度を育成すべき
http://biz-journal.jp/2018/02/post_22419.html
2018.02.23 文=加谷珪一/経済評論家 Business Journal
このところ仮想通貨をめぐる議論がヒートアップしている。仮想通貨に対して批判的な人は、どういうわけか、かなり感情的になっており、識者と呼ばれる人ですら「インチキ」「詐欺」といったかなり汚らしい言葉を口にしている。
筆者は仮想通貨に対する投資を積極的に推奨するつもりはまったくないし、こうした新しいプラットフォームについては順次、適切な規制を加えていく必要があるとの立場だが、一方で、仮想通貨が持つ極めて大きなポテンシャルも無視すべきではないとも考えている。
特に注目すべきなのは、ICO(イニシャル・コイン・オファーリング)と呼ばれる仮想通貨を使った資金調達である。このプラットフォームは、場合によっては、従来の金融機関の仕事を根こそぎ奪ってしまう潜在力があり、社会に大きなインパクトを与える可能性がある。
ただ感情的になって批判するのではなく、今、何が起こっているのか、そして現在進行形の事態に対して、社会としてどのような措置が必要なのか真剣に考える必要があるだろう。
■仮想通貨というよりも、ベンチャー企業による資金調達
このところベンチャー企業などがICOを実施し、多額の資金調達を行うケースが増えている。一般的に企業が株式市場で資金を調達する際には、IPO(イニシャル・パブリック・オファーリング)を実施する。企業が新しく株式を発行し、これを引き受けた投資家が資金を会社に払い込む。資金調達を行って成功して株価が上昇すれば、投資家は株式を売却して利益を得ることができる。
ICOも基本的にはこれと同じである。プロジェクトを計画している企業やグループが、「トークン」と呼ばれるデジタルの権利証を発行し、これを引き受けた投資家がビットコインなどの仮想通貨を払い込む。
トークンにはサービスを利用する権利やプロジェクトが得た収益の一部を受け取る権利などが付与されており、その企業が成功すれば、多くの人がトークンを欲しがるのでトークンは値上がりする。さらにメジャーになれば、仮想通貨の取引所で売買されるようになり、投資家はこれを売却して利益を確定できる。
会社の株式は会社の所有権や議決権を定めたものであり、トークンはサービスを利用する権利などを定めたものなので、法的に両者はまったく異なる存在だが、ICOで発行されているトークンは事実上、ベンチャー企業、ベンチャー企業の株式と同じ役割を果たしている。
ICOによって無数の仮想通貨が発行されていると報道されるので、通貨が乱発されているようなイメージを持つ人も多いかもしれないが、実態は少し違う。これは実質的にベンチャー企業の株式発行であり、実際、米国ではそのように認識されている(誤解を招くのでICOという言葉はよくないかもしれない)。
コダックのような上場企業がICOを実施するケースもあり、日本でも上場企業のメタップスがICOを実施したほか、金融大手のSBIホールディングスも大型ICOを計画している。筆者がざっと確認したところではすでに1000を超えるICOが世界各地で実施されており、仮想通貨の価格が暴落した年明け以降も、ICOによる資金調達の勢いは衰えていない。
■従来型の機関投資家は時代に合わなくなっている
株式を発行すると、商法や証券取引法の厳しい規制を受けるため、多額のコストや手間がかかる。一方、トークンによる資金調達はスキームにもよるが、こうした制約条件が少なく、より簡単に資金調達が可能となる。スマホ時代を迎え、ベンチャービジネスがより小規模になり、事業の立ち上げが簡単になったことも、こうした新しい資金調達を後押ししている。
従来、ベンチャー企業に対する投資は、専門の機関投資家であるベンチャーキャピタル(VC)が担ってきた。VCは時間をかけてベンチャー企業を評価し、10億円単位の資金を投入した上で、時間をかけて育成するのが標準的であった。しかし、近年は、起業家がアイデアを立案すると、すぐにプログラミングしてサービスを立ち上げるのが当たり前となっている。
こうした、動きの速い新世代のベンチャービジネスに対して、従来の投資ファンドは規模が大きすぎる。ネット上で新しいプロジェクトを告知し、趣旨に賛同した個人投資家から資金を募るというコンパクトなスキームに対して、ICOのプラットフォームはうってつけなのだ。
こうした状況に目をつけ、実際にはプロジェクトが存在していないにもかかわらずお金を騙し取るという詐欺も横行している。それでもICOを実施しようという企業は今後も増える可能性が高く、それに応じる投資家層も拡大していくだろう。
現在は、設立間もないベンチャー企業の資金調達が主流だが、ICOのプラットフォームはあらゆる種類の資金調達に応用できる。その気になれば、規模の大きい企業が、商業銀行や投資銀行を介さず、直接トークンを発行して資金を調達するということも理論的には実現できてしまう。
■適切な規制・管理についての議論が必要
重要なのはテクノロジーの進化によって、今までは各種の制約によって実現できなかったことが、物理的に可能になったという現実である。
技術的に可能になったことに対して感情的に反発したり、否定しても問題の解決にはならない。むしろ、こうしたイノベーションは不可逆的であることを前提にした上で、どのように管理・育成すべきなのか議論したほうがずっと有益である。
筆者がもっとも危惧するのは、仮想通貨に対して「好き」「嫌い」「ケシカラン」といったレベルでの議論に終始し、適切な管理の枠組みについて議論しないまま事態が進行することである。
法律の枠外による資金調達が増加すれば、投資家の安全が保護されないケースが出てくることに加え、マネーフローの把握が極めて難しくなったり、最終的には既存の金融機関の経営が脅かされるなど、多くの問題が発生するだろう。
日本は、仮想通貨についていち早く法整備を進めた国であり、ある意味では世界の先端を走っている。ICOについても、実質的には株式による資金調達に近いという考え方を共有し、会計、税務、法務においてどう位置付けるのが適切なのか、議論を進めていく必要がある。
重要なのは、健全な市場を育成することであり、新しい技術を抑制したり封印することではない。
(文=加谷珪一/経済評論家)
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