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「全国民に月7万円」は誰も幸せにしない まずは金のなる木を探そう
http://president.jp/articles/-/24443
2018.2.22 東京大学大学院経済学研究科教授 柳川 範之 PRESIDENT Online /PRESIDENT BOOKS
すべての個人に一律で生活費を現金給付する「ベーシックインカム(BI)」。この制度を導入すれば、働かなくても生活費がもらえるようになるため、格差是正や失業対策になると期待されている。だが、東京大学大学院の柳川範之教授は、「いまの社会保障制度は低所得者に手厚いのでBIになれば低所得者ほど損することにもなりかねない」と指摘する。論じられてこなかった「BIの論点」とは――。
「ベーシックインカム(BI)」とは、社会のすべてのメンバーに、一定額の所得を定期的に受け取る権利を認めるという考え方のことだ。イギリスの思想家トマス・モアが1516年に『ユートピア』という著書で発表して以降、このアイデアは繰り返し論じられてきたが、近年、あらためて爆発的に関心が高まっている。
BI推進派のリーダーであるロンドン大学のガイ・スタンディング教授は新刊『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社)で、「猛烈なグローバル化が進み、20世紀型の所得分配の仕組みは破綻してしまった。新しい所得分配の仕組みとしてBIが必要だ」と訴えている。その訴えはどれだけ妥当なのか。BIに懐疑的な東京大学大学院の柳川範之教授に聞いた――。
いくらあれば生活が維持できるのか
柳川範之・東京大学大学院経済学研究科教授
わたしはベーシックインカムに関しては、どちらかといえば反対派です。積極的に反対するというよりは、懐疑派といったほうがよいかもしれません。理念として共感できる部分もありますが、現実的には難しいと思います。最大の問題は、全国民全員に一律で、働かなくても生活が維持できるだけのお金を配る、という点です。
「全員に一律で配る(経済学でいうところのランプサムトランスファー)」という部分にはメリットはあると思います。いろいろな条件をつけ、資力調査などを行ったうえで給付する社会保障は莫大な行政コストがかるうえに、働いて収入を得たらその分援助を減らされるといった「貧困のわな」にもつながり、生産性や幸福度の向上を阻害している場合もあります。そういうものを整理してシンプルなやり方に変えよう、という考えは否定しませんが、問題は「生活が維持できるだけの」金額がいくらになるか、そして、果たして「維持できるだけ」でいいのか、という点です
難易度は消費税の比ではない
日本の2018年度予算でいうと社会保障費は100兆円弱です。これを国民全員に平等に配ると6〜7万円になります。フィンランド政府によるベーシックインカムの実験でも毎月支払われる額は7万円程度です。たとえば東京のような都市で月6万円とか7万円でまともな暮らしができるでしょうか。しかし、それを大きく超える額を出した場合、財政がさらに悪化します。社会保障費の総額を変えずにベーシックインカムに移行する場合、もうひとつ問題があります。とくに低所得者や貧困層のあいだでいまより受取額が減る人が出てくる、という点です。
中長期的にはランプサムトランスファーにすることで制度の無駄や歪みは緩和されますが、給付額をフラット化すればするほど短期的にはもらえていたものがもらえなくなるという人が多く出てくるので、実現する際の政治的な難易度は消費税の比ではないと思います。いま給付しているものはそのままで、それに上乗せして6〜7万配りますというのなら誰も文句は言わないでしょうが、それだと単なるばら撒きです。
結局、どうやってお金を配るかという再分配の方法論だけでは、ベーシックインカムの財源問題は解決できません。つまり、「ない袖は振れない」のです。中東の産油国であれば、原油輸出から得られた収入の一部を国民に還元することも考えられます。リターンが湧き出てくるような資産があればその一部を国民の権利として平等にもらえるという理念を実現するメカニズムは導入しうるでしょう。しかし、そういう資産がない場合はみんなで汗をかかないかぎりリターンは得られないわけです。
日本の観光資源は「旧家のお宝」
全体のパイを大きくする場合、王道はみんなの能力水準をあげて稼げるようにすることですが、日本は少子高齢化が進み、労働人口が減るので、それだけでは間に合いません。そこで考えるべきは、わたしたちの代わりに稼いでくれるアセットがないかということです。ひらたくいえば「働かなくてもお金が入ってくる仕組み」です
真っ先に思い浮かぶのは観光資源でしょう。日本のインバウンド観光客数も2017年には2800万人を超え、5年で3倍になるなど急成長していますが、日本より人口の少ないフランスやスペインは日本の3倍以上のインバウンド観光客を受け入れています。たとえば観光業などでお金がどんどん入ってくれば、1人ひとりが稼ぐ力をつけるための再教育への投資もできます。
まだ発掘されていない観光資源は、旧家に眠っているお宝のようなものです。時代の変化で家業がたちゆかなくなった旧家で、子どもがアルバイトをしながら学費を稼いでいるが、仕事をしながらだと思うように勉強も進まない。でもそこでお父さんが気づくわけです。うちの蔵にはお宝が眠っているじゃないか、と。ためしに入場料をとって近所の人に見せたら、評判になって遠くからも続々と人訪れるようになった。その結果、この家には収入がもたらされるようになり、子どもは受験勉強に専念できるようになって希望の大学に進み、よい仕事につくことができるようになった。資産を有効活用するとこういう好循環が生まれるわけです。日本は幸いにして眠っているお宝がある旧家です。ベーシックインカムの導入の是非を問う以前に、まずはこうした「お金のなる木」をつくることに時間をさくべきだと思います。
稼げる人が逃げてしまっては元も子もない
AI(人工知能)の普及によって失業者が大量に増えるので、そこにベーシックインカムのようなセーフティネットが必要になるという議論もあります。AIと補完的に必要になってくる仕事ものも多いので、技術的失業についてはそこまで心配することはないとわたしは考えています。ただし、その新しく生まれる仕事が今ある仕事よりも稼げるとはかぎりません。
より稼げる人と、そうでない人の所得水準が二極化していくという見方はおおむね正しいと思われます。所得が下がってしまう人がより稼げる仕事につくには、その間の生活を下支えするだけでなく、何らかの能力開発への支援や職業機会の提供も必要です。それには月7万円程度の給付ではまったく不十分でしょう。となると、やはり国全体の富を増やしていくことが先決です。AI時代にはものすごく稼げる人も出てくるわけですから、その人たちから税金をとってベーシックインカムの財源を充実させるのがいちばん簡単なわけですが、そんなことをすれば彼らはタックスヘイブン的なところに逃げてしまいます。
再分配の方法を変えるだけでは不十分
Guy Standing著『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社刊)
ベーシックインカムによって生活できるだけの所得を保障することで労働力の移動を促したり、起業のリスクをとりやすくしたりするといった議論もありますが、これは実質的には失業保険を充実させるということと同じです。となるとやはり財源の問題に突き当たります。北欧など高福祉国の一部では、高額な失業給付をランプサムで給付するよりも、職業訓練を受けることに対してお金を払う方式に変えてきています。
ただ単に生活を支えるというより、次によりよく働けるためのお金として限定したほうが再就職には効果があるということです。ランプサムで生活費が給付された場合でも稼げばもっと増えるので、働く意欲は落ちないという意見もあります。しかし、働く意欲があっても、能力がなければ稼げる仕事にはつけません。ベーシックインカムなど、社会保障制度による再分配の方法を変えるだけではその能力の底上げにはつながらないというのがわたしの考えです。
柳川範之 (やながわ・のりゆき)
東京大学大学院経済学研究科教授
1963年生まれ。88年、慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。93年、東京大学大学院博士課程修了。経済学博士。96年、東大助教授。2011年より現職。『法と企業行動の経済分析』『東大教授が教える独学勉強法』など著書多数。
(聞き手・構成=プレジデント社書籍編集部)
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