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日本はいま、不可解な「円高サイクル」に突入したのかもしれない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54566
2018.02.22 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
「金利差モデル」の崩壊
2月に突如として始まった主要国株式市場の大幅調整だが、その震源地は米国の債券市場だといわれている。
もともと、米国長期金利(10年物国債利回り)は昨年9月頃から緩やかな上昇基調にあったが、それでも2.5%を下回る低水準で推移していた。これが、今年に入ってから次第に上昇ピッチを強め、3%台をうかがう展開をみせたことが投資家に嫌気され、株価の下落につながったとされている。
米国長期金利上昇の背景には、このまま米国景気の好調が続くと、やがてインフレ率が上昇し始め、それがFRBの加速度的な金融引き締めにつながることを投資家が懸念し始めたためだと推測される。
このような長期金利の上昇(債券価格の下落)と株価の下落の同時進行は、金融引き締めの初期に典型的にみられる現象である。思い起こせば、日本のバブルが崩壊し始めた1990年にも同様のことが起こったと記憶している。
米国市場の混乱の影響を日本の株式市場も受けざるを得なかった。元来、日米の株価はある程度連動しており、米国株価が急落する中、日本株が無傷ということは想定しづらい。そのため、ある程度の下落は仕方がないことである。
だが、不思議なのは、この局面で為替レートが円高ドル安で推移していることだ。
一般論でいえば、ドル円レートは日米金利差で決まるといわれている。この一般論で考えると、米国金利の上昇はドル高要因のはずである。
さらにいえば、日本の債券市場は、日銀による「イールドカーブコントロール(YCC)政策」が効いていることもあり、安定的に推移している。そのため、日米金利差でみれば、円安ドル高が加速していてもおかしくない状況である。
従って、残念ながら、金利差モデルは「見るも無残に」崩壊しており、為替レートの動向を考える際に、これまでのように機械的に金利差を当てはめただけではどうしようもない。
最近の円高ドル安の原因を考えてみると、投資家が日米金融政策の差についての認識を変え始めているのかもしれない。
円高要因とドル安要因
そこで、日米の金融政策を「マネタリーベース」という「量的指標」でみてみる。
1月の日本のマネタリーベースは前年比+9.7%、季節調整済前月比年率換算で−4.1%と量的緩和のペースが目にみえて落ちてきた。その一方で、米国の1月のマネタリーベースは前年比+6.5%、季節調整済前月比年率換算で+0.5%と底堅く推移している。
この1月の日米のマネタリーベースの動きは、これまでの動きと比較するとわずかである。純粋に数字だけみれば、これが為替レートに影響を与えたようにはみえない。
だが、現行のQQE(量的質的緩和)政策が当面継続すると思われていた日本でマネタリーベースが予想外に減少したこと、そして、利上げがある程度進捗し、いよいよこれから資産圧縮によって、本格的な出口政策に向かうと思われていた米国でマネタリーベースが予想外に拡大したことは投資家にとって比較的大きなサプライズではなかっただろうか。
ここで、もし、日本の現在のマネタリーベース減少が、日銀による現状の国債買い入れを中心とした量的緩和の限界を露呈しているとすれば、今後、何か新たな量的緩和の枠組みを導入しない限り、マネタリーベースの拡大は難しいということになる。これは明らかに円高要因である。
一方、FRBがさらなる株価調整を回避するために、資産圧縮のペースを緩和させれば、米国のマネタリーベースはそれほど急激に減少しないかもしれない。これは、ドル安要因である。
従って、今回の株安局面によって、いままで投資家が描いていた日米金融政策のストーリーが壊れ始めた可能性がある。マネタリーベースでみたこれら日米の金融政策(すなわち、日本で減少、米国で横ばい)が今後も続くとすれば、円安への転換はなかなか難しく、為替レートには円高バイアスがかかりやすい展開が続くと考えざるを得なくなる。
以上のような見立ては、実際のドル円レートの動きを購買力平価との対比でみた場合にも成立する。
「円高サイクル」が始まっている
そこで、企業物価で算出したドル円レートの購買力平価をみると、1月末時点で、1ドル=95円程度となっている。一方、1月末の実勢相場は1ドル=108.76円であり、1月末時点で、実際のドル円レートは購買力平価対比で約15%弱の円安水準となっている。
過去において、実際のドル円レートは概ね購買力平価を中心値として上下20%程度のレンジ内で推移してきた。すなわち、購買力平価から20%程度円安、及び、円高に乖離した場合、ドル円レートは、それぞれ円安、円高の天井圏を形成し、その後、トレンドは逆方向に転換してきた(図表1)。
そこであらためて、ここまでのドル円レートの推移を購買力平価との乖離率に注意しながら振り返ってみると、2016年10月以降の円安局面(1ドル=112〜113円程度の水準で一進一退)において、購買力平価との乖離率はずっと20%前後で推移してきた(図表2)。
このように考えると、ドル円レートは、昨年終盤の段階で、すでに円安の天井圏に到達しており、その結果として、ドル円レートのトレンドの転換点が近づいていた、との見方も可能である。
したがって、ドル円レートのサイクルでいえば、「円高サイクル」が始まりつつあるということになる。これは、ようやくデフレ脱却の光明がうっすらとみえてきた日本にとっては都合の悪いことである。
なんとかここから円安が再加速するシナリオはないものだろうか?
どちらに転んでも円高に…
そのような問いかけをした場合、多くの人は、「米国でインフレ懸念が急激に高まり、FRBが資産圧縮のペースを加速させれば、再び円安局面に戻るのではないか」と考えるだろう。
確かに当初は円安で推移するかもしれない。だが、注意しなければならないのは、FRBの資産圧縮が加速した場合、為替レートの「レジーム」が変わり、一転、「リスクオフ」による急激な円高がもたらされかねない点である。
もし、FRBが、インフレ率の加速度的上昇懸念から利上げや資産圧縮のペースを加速度的に早めた場合、世界の投資家は、リスク回避的な姿勢をより強める懸念がある。この場合、米国の長期金利は一転、低下基調に転じ、それと同時に金価格が上昇する可能性が高まる。
この場合、為替市場では、日本円、ないしは、スイスフランが買われる可能性が高い。例えば、リーマンショックなどの世界的な金融危機でも日本円やスイスフランが主要通貨に対して上昇した。
また、リーマンショック後のFRBによるQE(量的緩和)政策においても、「もはや危機は去った」という判断のもと、マネタリーベースを削減したことが数回あったが、いずれも世界的な株価下落と同時に円高が進行した。
筆者の考えでは、このような「リスクオフ」の局面が一旦始まると、経済状況などの「ファンダメンタルズ」を重視する投資家は投資を控え、チャートなどを用いて投機的な取引を短期的に繰り返す投資家が為替市場を席巻することになるのだろう。
例えば、為替ディーラーなどは、逆張り投資でリスクをとるよりも、そのときのマーケットの流れに身を任せる「順張り投資」を行う傾向が強いと聞く。そうすると、円高の動きが自己実現的に続き、急激かつ、大幅な円高局面が到来することになる。
このように過去の事例をみると、今後、米国FRBの金融政策において、投資家の現時点の想定よりも加速度的に金融引き締めが実施される公算が高まった場合、「リスクオフ」による円高リスクが高まる懸念がある。「リスクオフ」局面になれば、購買力平価を上回る円高(すなわち、1ドル=100円を切る円高)となるかもしれない。
そのように考えると、現状では、程度の差こそあれ、どちらに転んでも円高リスクがあるということになる。
最後の砦は日銀だが
FRBが景気や株価を壊さない形で利上げをどんどん進めていくことができれば、円安が進む可能性も出てくるが、過去、金融引き締めがそのような形で「ソフトランディング」した記憶はない。
従って、それを食い止めることができるのは、日銀しかいないのかもしれない。
これは筆者の私見だが、マイナス金利政策採用前の状況、および、最近の円高要因を考えると、円高回避の肝は、「量的緩和の限界論を打破する新たな量的緩和の枠組みの構築」にあるのではないかと考える。
だが、ここまで日銀はその「量的緩和限界論」に対する有効な反撃を行っていない。もし、それが本当に不可能であれば、日本経済は不安定な為替レートに身を任せるしかないのかもしれない。
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