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ジビエの汚染が問題になっているが、野生動物の汚染の例をもう一つ挙げよう。
スカンジナビア半島の北部、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの三国にまたがる地域に
昔から住んでいる先住民であるサーミ人は、その多くがトナカイとともに暮らして来た[1]。
(以前はラップ人と呼ばれていたが、現在これは蔑称とされている)
トナカイを放牧しその肉を食べ皮で服や靴をつくる生活を営む彼らは、
近代文明とはおおよそ無縁の暮らしをしてきた。
以前は、サーミ人は「知能が低い」、「不潔だ」などといわれのない差別、抑圧を受け、
同化を強いられてきた。
北海道のアイヌやアラスカのイヌイットに対する差別・迫害と似ている。
映画「サーミの血」(アマンダ・シェーネル監督 2016年)は、そういった屈辱的なサーミの
被差別社会から逃れようとする少女の話である[2]。
コルトと呼ばれる色鮮やかな上着。出自を示す胸元の美しい刺繍。
民族衣装を着た少女はとても愛らしいが、彼女にとっては屈辱の象徴でしかなく、
それを焼き捨て町へ出て行く。
サーミを理解する上で必見の作品である。
さて、1986年4月、自然の中でトナカイと静かに暮らしていたそのサーミたちに、
とんでもない災禍が襲った。
1500キロも離れたチェルノブイリ原発が爆発を起こし、大量の死の灰がスカンジナビア半島に
降り注いだのだ。
(ちなみに福島第一原発から半径1500キロの円に日本列島はすっぽりはいってしまう)
彼らにとって大切な森もトナカイも魚もすべて汚染されてしまった[3]。
とくにコケを食べるトナカイの汚染は猛烈で、その肉の汚染は数万Bq/kgにも及んだ。
トナカイの大半は処分せざるを得ず、政府は補償金を支払って買い取り廃棄した。
サーミにとってトナカイの肉は主食で、大人は1日500グラムも食べる。
それが1ヶ月100グラムまでと制限されてしまったという。
多くのサーミはトナカイで生計を立てることをあきらめざるを得なかった。
以前は自然の中で自立した暮らしをしてきたのに、事故後は政府の補償金に
頼らざるを得なくなった。
トナカイを中心とする生活基盤も文化も、すべて失われてしまったのだ。
ドキュメンタリー映画「脅威」(ステファン・ジャール監督 1987年 スウェーデン)には
生活を完全に破壊されたサーミの悲劇が記録されている。
(この映画の台本翻訳は文献[4]に収録されている)
映画の中でサーミのユンさんはこう訴える。
「ここには電気も、道路もありません。そんな私たちがなぜ、世界の進歩とか
発展とかの犠牲にならなくてはならないのですか。
関係もないぜいたく品のために、罪のない人々が苦しめられているのです。
私たちの文化全体が、根底からくつがえされてしまったのです」
彼の悲痛な叫びに応えられる人はいるだろうか?
サーミの被ばく被害はないとする研究結果がいくつかあるが、よく見ると著者は
原子力推進国ノルウェーの政府機関である放射線防護機関NRPA
(Norwegian Radiation Protection Authority)の所属であり、
調査の中立性は疑わしく、御用研究である可能性が高い[5][6][7]。
NRPAは原子力推進の総本山IAEAやその傘下団体ICRPと協力関係にある。
あの福島エートスが研究結果を引用しており、信頼性は推して知るべしだろう[8]。
ノルウェーはサーミに対する補償費用を抑えるため、トナカイ肉の汚染許容値を
3000Bq/kgととんでもなく高く設定している[9]。
もちろんサーミはこんな放射性廃棄物を食べているわけではなく、
彼らの多くはトナカイを食べることを断念している。
食べていないから深刻な健康被害は出ないのは当たり前とも言える。
このように放射能汚染により先住民の生活や文化が徹底的に破壊されたのに、
健康被害は出てないから大丈夫、普通通りの生活習慣を維持するのが大切、
と平気で言う無神経さは許しがたい[10][11]。
チェルノブイリ事故から30年近く経過した2014年、ノルウェーではキノコが豊作で
これを食べるトナカイの汚染が実に8000Bq/kg以上に跳ね上がった[9]。
この先、何百年も汚染はなくならないだろう。
自然の中でトナカイを放牧して暮らしてきた生活にサーミが戻ることは二度とないだろう。
原子力事故は人間が長い間育んできた伝統も文化も容赦なく一瞬で破壊する。
一刻も早く原子力をこの地球から無くさなければならない。
(関連情報)
[1] 「サーミ人」 (ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%9F%E4%BA%BA
[2] 「映画 『サーミの血』」 (アマンダ・シェーネル監督 2016年)
http://www.uplink.co.jp/sami/
[3] 「世界のヒバクシャ 第2章 第3部: 国境越えた原発汚染 - スウェーデン」
(中国新聞・ヒロシマ平和メディアセンター)
http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?post_type=exposure&lang=ja
[4] 「ドキュメンタリー映画 『脅威』」 (反核太平洋パシフィカ 1988/4/10)
http://www.eizoudocument.com/06genpatsu/FILM003book.pdf
[5] 「サーミの人々の全身計測と健康」 (ハーバード・トーリング研究員 NRPA)
https://drive.google.com/file/d/0B4rfFM81kBnxT1IyX0Z3WlJUbmFzNlk3Y25RdWZVdw/view
[6] 「Cancer in the Sami population of North Norway, 1970-1997」
(T Haldorsen & Tore Tynes 2005)
https://journals.lww.com/eurjcancerprev/Abstract/2005/02000/Cancer_in_the_Sami_population_of_North_Norway,.9.aspx
[7] 「Mortality in the Sami population of North Norway, 1970-98.」 (Tynes T1, Haldorsen T. 2007)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17530553
[8] 「伊達ダイアログセミナー ハーバード・トーリングさん、Haavard Thorring 」
(ETHOS IN FUKUSHIMA 2012/4/15)
http://ethos-fukushima.blogspot.com/2012/04/haavard-thorring.html
[9] 「30年後の福島、チェルノブイリの影響でノルウェーのトナカイ肉、セシウム2500ベクレル、
今年は放射能濃度急上昇(AFP)」 (阿修羅・赤かぶ 2014/10/11)
http://www.asyura2.com/14/genpatu40/msg/624.html
[10] 「トナカイの常食と被ばく」 (坪倉先生の放射線教室 福島民友 2015/9/27)
http://www.minyu-net.com/kenkou/housyasen/FM20150927-015870.php
[11] 「サーミ人被ばく量と健康」 (坪倉先生の放射線教室 福島民友 2015/10/4)
http://www.minyu-net.com/kenkou/housyasen/FM20151004-017870.php
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