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以前、カルト板でとりあげたこともあるが、竹山隆範という、なかなか芯のある笑芸のタレントが最近、後輩をTVの本番中に一喝したときの放送事故が話題になっている。
「俺たちはサラリーマンじゃないんだ。どんな目にあっても、心が傷ついても、それを笑いにかえることが、道化師の仕事なんだ」
面白くもなんともない説教だが、竹山のいうことは正しい。生放送のシチュエーションでこれだけ完結にコメディアンの正典に基づくような解答がでてくるというのは、彼が日頃から堅気ならざる宿命やあるべき規範に忠実に生きる侠客である証拠かもしれない。
芸人は、笑われ屋なのか?歌も踊りも綱渡りも猛獣使いもできずにチョコチョコ走り回ってはずっこける道化師がその本質なのか?
早大出身で、後には都知事や議員にまで出世した直木賞作家の青島幸男氏はコメディアンという存在を反定立の中に求め「いつか這い上がって見返してやる」という反骨精神の延長に笑芸は表現されるべきのだと説いていたものだった。
青島と竹山、新旧大物の言い分は方向性が違うだけで芸人が低い地位にいる被差別者だという現実を反映している。
私の知る限り、お笑いを上部文化だと宣言した初の芸能人は吉本興業の松本人志である。松本はまだ全国区に進出していない時代にゴールデンタイムで放送事故に近いような発言を起こした。彼は「お笑いだなんて言われたくない。俺たちはギャグの伝道師なのだ」と胸をはった。周囲は暴走気味の松本に作り笑いで寄り添うしかなかったが、松本はいつものボケを忘れて本気だった。
ギャグという言葉は死語に近いが、彼は笑芸というものに新たな定義を与えたかったのだろう。一つの宗派、学派としての文化的品格を持つべきだ、という松本の強い選民的ともいえる使命感は、「笑われ屋」を卒業するために高級で洗練された笑芸を追求することでなく慣習的な社会ランク(*2)でいう上位にある俳優の世界に足を踏み入れた先輩芸人達との違いを物語っていた。
さて、メディアと喧嘩をする芸人の太田光。
今年さんざんっぱら運営体制への批判を浴び、汚名という傷を負った日大の余罪をつっつくメディアはその日大関連人物の過去を洗い始めた。
ターゲットにされたのが日大芸術学部を中退した太田光である。「中退したらアカンやろ」と説教されたわけでは無論なく、問題は80年代に受験した際の背景にあった。週刊新潮の調査によると合格が危ういとふんだ太田の父は暴力団関係者を介して日大とかけあい800万円の委託金をもって裏口入学の手配をした。その結果、合格できた太田光は結局その事実を知らぬまま日大へ入学して後に除籍に。
太田光は激怒した。事実無根、デフェメ―ションとして提訴する。中退している人間がそこまで真偽に拘るというのは「日大中退」という正式な学歴ではない(履歴になる学歴は卒業することで発生する、と永六輔が言っていた)ようなハンパな肩書きがそれだけ大きな意味を持っていたということである。高卒と、3流私大中退では、差がないじゃないか、つうか高卒のほうが実直でマシじゃないのかというもっぱらな説もあるが、太田の世代では「高等教育」と引っかかりを持つことは社会参加の前提条件だとでもいうような傲慢な定説がメディアで勝利し世論をのっとった価値観の一端をなしていた。
週刊新潮は改めて自社の製作した記事の信憑性を主張、太田側へ訴訟の取り下げを勧告した。太田は所属事務所の社長である妻と共に戦い、前大阪市長の橋下徹の下で働く弁護士が代理人を務める。訴訟総額は3300万円と太田光という名前からして高いか安いか微妙なことろだ。
芸人は道化師なのか?やってない過去の不名誉な不祥事も、ネタにかえなくてはならないのか?お笑い芸人はどうせバカな奴のつく職業なのだから、文化人気取りの太田にせよ劣等な学生だったにきまっている、日大だって地力でいけないだろう、という世論を導くメディアの暴力に屈して、悪びれながら「そいうこともありしたね〜チャンチャン」と頭をかかなくてはいけないのか。そうやって、如何わしい世界の業をしょうことによって、芸人としての厚みを増すことが正解であるはずなのか?
私は闘う決意を示す太田に、80年代の松本人志の姿をみるのだ (*3)。「コメディアンは、文化的リーダーで啓蒙をする側の才能を持つ種族なのだ」という自負である。生まれぞこないの劣者で、見下され笑われることを、ひねり銭に換えて生きていく可哀想な人たち、そんな時代は終わったのだ、一つの知的サービスの提供をする説法師であり思想家なのだ、という宣言である。それがたかだか三流私大の入学資格を得るのに大金をはたくような小市民ぶりでは格好がつかない、安物の人格へ貶めるような悪質なでっちあげには断固抗議しないと自己の活動の全てが疑われることになる。
もし裏口入学の事実が実際にあったということが判明していたなら、おそらく太田は速やかにプロフィールから日大中退を削除してきっぱり「なべやかんの不告知&成功バージョンでした」と過去を清算しているだろう。
日大芸術学部というところは、タッカーことあの高田文夫を輩出したところなので、日本の放送界における聖地のようなものであろう。高田という越南系の尊い血統をひいた絶対神が笑芸の世界に君臨していたからこそ、あのような、大学と呼ぶにふさわしい学術価値が皆無である箸にも棒にも掛からぬような三流の学校に、吉本ばなな、三谷幸喜、太田光といった平成娯楽の枠組みを作った創造主のような大物が神の後へ続けとばかりに進学を希望して押し寄せたのだろう。
そして学歴問題が暗礁に乗り上げたままの元日大生が誰であろう、三角寛である。日本の言論の歴史の中に特別な空間を生み出した伝説の作家である三角は、その存在が濃い灰色に包まれたままの人物であるが、彼は日大卒を生涯通して言い張っていたw。一回、校歌でも歌わせてやればいいが、誰も(おそらく虚偽、というかネタであった可能性が高い)彼の学歴を問いつめたことはなかったようである。太田はこの際、三角寛を祭り上げ、三角を象徴にした「疑惑の日大関係者会」を主宰するという手もある。放送界の守護神である高田文夫もその場合は「自分も裏口でした」と挙手して理事長に就任するであろう。
大学というのはこれからもどんどん私大を中心に潰れていくだろう。現在でも、中国からの留学生だけで経営されている名前だけの大学も各地にあり、有名大学も敷居を下げ推薦枠の拡大でようやく定員をみたし、聖徳太子をサッカー選手と答えるような学生さんがわんさかいる。そろそろ芸能人も大学の経験を全面に誇示するような真似はサラリーマンじゃあるまいし控える時代であろう。太田の今回の騒動での過剰な反応にしろ、いままで日大というブランドの威を借りては空威張りの芸人をやってきました、という欺瞞の裏返しなのだから、これを機に、もう日大などという何の肥やしを得ることもなかった三流の学校のことは完全に自分から切り捨てて、平成の立川談志を目指すべきだろう。まあ、無理だろうが(当たり前だ)。
裁判はどうなるか。私の予想で締めくくろうか。ちょっと願望もはいるのだが、太田は勝利するだろう。そして慰謝料が請求額の1割未満くらいで手が打たれるだろう、あっても2割にはいかない。新潮の記事には、当時の日大総長であった鈴木勝までが計画に参加した一味だったとされており、太田の名誉以上に、日大へのさらなる非難を高める効果があることは明白である。日大は広域暴力団がケツ持ちをしていることは朝堂院大覚によってとうに報道されており、今回の元ネタが暴力団関係者から新潮へもたらされている関係からして、記事は裏社会で巡回された秘策であり、同業者とつるんで暴利をむさぼる日大と暴利をむさぼる芸能人の双方を叩いてメディアにも利を還元するというヤクザ方程式が背景にある。裁判所はそれを知っているから太田敗訴にして、事件性をうっちゃりたいのはやまやまではあるが、記事は日大総長をはじめとする個人の私的言動まで暴いており、裏口請負人たった一人の裏切り証言だけをもって補助的証拠もなしに展開できる暴露の自由の範囲としては週刊誌の持つべきジャーナリズム権威上の限界を超えているであろうという判断を下し、太田勝訴、雀の涙のような損害賠償で手をうたせるだろう。
おまけ
動画でCWニコルは「上からいうことをきかされるだけでなく、みんなが議論できる日本」を願うメッセージを発している。ニコルはおそらくどうして日本人が議論できないか、その根本を理解していない。太田のような低学歴でも私見をしっかり述べることのできる人間が増えることで一番困るのは御上ではない。一般の人間である。日本という国は「エライ人のいうことにみんなで従う」ことで調和(ユニゾン)を生むタイプの文化をもって先進国の仲間入りを果たしたのだから、それが嫌なら出ていくがいい。日本人は議論は無駄で、個人の尊重は結局、怠惰でバカな奴の言い分を聞いてやる低落にしかつながらないことを知っているから、意見を持つライセンスを得た人間に特権を与え、あとは黙る、という規律を守っているのだ。問われるべきは「みんなが議論をする」ことなどではなく、「意見をする権利を獲得するための称号をいかに手に入れるか」ということである。CWニコルが偉大な文学者なのであれば、「CWニコル弁論大会」でも「CWニコル随筆コンテスト」でも開催して毎月何百人の凡人を言論者としてデビューさせてやれ。
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