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朝鮮半島の融和ムードをよそに、台湾を恫喝する中国 台湾の防衛は日本の防衛、他人事ではない台湾海峡情勢
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52994
2018.5.3 北村 淳 JBpress
中国海軍の海上演習で、空母「遼寧」に駐機されたJ15戦闘機(2018年4月撮影)。(c)AFP PHOTO〔AFPBB News〕
朝鮮半島では南北間の融和ムードが生じているが、時期を同じくして台湾海峡では中国側による台湾に対する軍事的恫喝が行われた。これに対して台湾側も、中国の侵攻に対して一歩も引かない姿勢を示すと共に、国民に防衛の意志を強固にするように呼びかけた。
台湾を威嚇する中国軍
水陸両用上陸部隊を含む中国人民解放軍は、4月18日、台湾海峡で実弾演習を実施した。
中国人民解放軍は3月下旬に、南シナ海で空母や駆逐艦、それに潜水艦を含む40隻以上の艦艇を繰り出す“海軍示威パレード”を実施している。それに引き続いて執り行われたこの軍事演習は、アメリカに対する海軍力のデモンストレーションではなく、台湾に対する軍事的威嚇と考えられている。海軍を中心とする軍事演習に加えて、台湾周辺上空には爆撃機を含む中国軍用機が接近飛行を繰り返し、空からも威嚇を加えた。
3月下旬の中国大艦隊演習(写真:Planet Labs)
一方、中国軍の実弾演習に対抗して台湾軍も金門島や台湾本島各地で実弾演習を実施した模様である。
さらに台湾軍当局は、きたる6月4日から5日間の予定で、中国側の軍事的威嚇に対抗して、大規模な軍事演習を実施する予定である。これは「漢光演習」と呼ばれる軍事演習で、毎年台湾軍が中国軍の侵攻に対する備えを誇示するために実施されているものだ。今年の「第34号漢光演習」は蔡英文総督が指揮を執り、スケールアップされて実施されるという。中国軍の実弾演習は、直接的には第34号漢光演習に警告を発する示威運動と考えられる。
4月26日には、再び多数の中国軍航空機が台湾周辺上空を“回遊飛行”し、台湾に威嚇を加えた。この軍事戦闘演習には、中国の数カ所の航空基地を発進した戦闘機、早期警戒機、偵察機、そして新鋭のH-6K爆撃機も加わっていた。中国軍当局によると、H-6K爆撃機は「中国の統治権と領域の一体性を確保するため」の各種訓練を台湾周辺を回遊飛行しながら実施したという。
中国軍のH-6K爆撃機(写真:中国軍)
そして中国軍当局は、上記のように台湾を恫喝すると共に、台湾の背後に控えているアメリカ軍への威嚇のために、「グアムキラー」と呼ばれている東風26型中距離弾道ミサイル(DF-26)の運用を開始したとの声明を発した。核弾頭も通常弾頭も搭載可能なDF-26は、台湾有事の際にアメリカ政府が台湾救援を決心した場合に、アメリカ航空戦力の拠点となるグアムの米軍施設を攻撃するための弾道ミサイルである。
アメリカは誰でも助けるわけではない
以上のような中国軍による一連の台湾海峡や台湾周辺空域での軍事的威嚇に対して、台湾政府は断固として中国の侵攻をはねのける決意を表明すると共に、台湾国民にも国民一人ひとりが中国の軍事侵攻と対決する意思を強固にするよう呼びかけた。
中国軍の飛躍的戦力強化、とりわけ長射程ミサイル戦力、海洋戦力、そして航空戦力の強化が急速に進んでいるため、台湾の防衛戦力は大きく劣勢を強いられつつある。
「台湾関係法」を堅持しているアメリカは実質的に台湾を軍事的に支援する立場を取っているが、1979年に失効した米華相互防衛条約のように相互に防衛義務を課している軍事同盟国ではない。そのため、万が一にも中国が台湾への軍事攻撃や軍事侵攻を実施した場合に、アメリカが軍隊を派遣して台湾を支援するかどうかは定かではない。
では、アメリカ政府・連邦議会にとって、アメリカ国民の少なからぬ犠牲を前提としてでも軍隊を投入する最大の要素になるものは何か。それは、「台湾軍はもちろん、台湾の人々に自ら中国の軍事的脅威に立ち向かう意思がどれほどあるのか?」であろう。
実際に少なからぬ米軍関係者たちは、「アメリカ国民は伝統的に、『自由を守る』という名目の下にアメリカ軍を世界中に派遣して、圧迫されている国を支援してきた。しかし、自ら圧迫と対決し戦おうとしない人々を支援しようとは思わない」という趣旨の言葉を口にする。つまり、台湾国民に「防衛の意思」あるいは「防衛戦の戦意」すなわち「Will to Fight」が乏しく、はじめからアメリカに頼りきっているような場合には、中国による台湾攻撃が実施されたとしても、アメリカ国民の血を流すことが前提になる軍事的支援は行わないということだ。
実際のところ、台湾国民の戦意はどのような状態なのであろうか?
最近、台灣民主基金會が実施した世論調査によると「もし中国が台湾併合のために軍事力を行使した場合、あなたは戦うか?」という問いに対して、39歳以下の台湾国民(世論調査に返答した人々に限られるが)の70.3%が「戦う」と答え、26.5%が「戦わない」と答えた。そして40歳以上の場合には、66.1%が「戦う」、24.9%が「戦わない」と返答したという。これらの数字だけで台湾国民の「防衛の意思」の精確な姿を計り知ることはできないが、大ざっぱな傾向として「Will to Fight」は比較的低くはない、と考えることができる。
日本国民の「Will to Fight」は?
欧米のメディアでは、北朝鮮情勢の沈静化と反比例して、台湾海峡情勢が悪化しており、今後ますます軍事的緊張が強まるといった論調が増えつつあるが、日本にとっても決して人ごとではない。台湾軍事情勢は日本の安全保障に直結しているからだ。中国人民解放軍が、九州から南西諸島を経て台湾へと連なる島嶼ラインを「第一列島線」と称して国防戦略の重要な基準に据えているからには、台湾の防衛は日本の防衛であると言っても過言ではないのだ。
日本も台湾も、完全な島嶼国家である。また、日本も台湾も、中国の極めて強力な長射程ミサイル戦力や海洋戦力、そして航空戦力により軍事的劣勢に直面しつつある。そして、日本も台湾も中国との武力衝突の際にはアメリカによる軍事的支援を頼みにしている。このように、日本と台湾は似通った軍事環境に置かれている。
だが、日本国民の「Will to Fight」はどうであろうか?
日本国防当局は当然のことながら日本国民の一人ひとりが、「万が一にも外敵が軍事攻撃を仕掛けてきた場合には、自らの方法(組織化されていない非戦闘員が武器を手にして戦うことはできない)で外敵に立ち向かう」という強固な「防衛の意思」あるいは「防衛戦の戦意」を持ち合わせていなければ、アメリカが日米安保条約を根拠として日本に援軍を送り込むことはないであろう。
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