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北朝鮮が破棄約束したプンゲリ核実験場、すでに「使用不能」か
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10096.php
2018年5月4日(金)09時05分 ロイター
北朝鮮が豊渓里(プンゲリ)の核実験場。2017年4月撮影。提供写真(2018年 ロイター/Airbus Defense & Space and 38 North)
北朝鮮が豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄すると約束したことは、重要な前進のようにみえるが、それが実際に実行されたかどうか検証することは困難だ。
そのため、北朝鮮と米国がどんな合意を交すにしても、複雑なものにならざるを得ない。
豊渓里の核実験場は、北朝鮮北東部の万塔山の地下に掘られた数カ所のトンネルからなる。トンネルのうちいくつかはすでに崩壊しているとみられ、すでに使用できない状態になっている可能性があると、最近の中国の研究チームが指摘している。
北朝鮮政府は、豊渓里廃棄の約束は、核とミサイルの実験を停止するというコミットメントを「透明に保証する」ためのものだと説明。
これは、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領による27日の南北首脳会談、そして5月か6月に行われるトランプ米大統領との史上初の米朝首脳会談を控え、北朝鮮が新たな歩み寄りの姿勢を示したものだと専門家は指摘する。
また、北朝鮮が現地での検証を容認する可能性も出てきたという。
「北朝鮮は過去、実験場を訪問してサンプルを採取するという米国の要請を拒んできた」と、米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト氏は指摘。「今回の声明で、そうしたアクセスが可能かを試してみる余地が生じた」
北朝鮮は、過去6回全ての核実験を行った同実験場を完全廃棄するよりも、単に閉鎖するだけの可能性が高いとみる専門家もいる。現地査察を許せば、科学者が核実験の証拠を集めることも可能になるため、北朝鮮側は認めないのではないかと、彼らは推測する。
「北朝鮮は一方的に実験場の閉鎖を宣言した。交渉で譲歩した結果ではない」と、米ミドルベリー国際大学院のジョシュア・ポラック氏は語る。「彼らが過去の実験情報の採取を認める理由があるだろうか」
■使用不能説
北朝鮮は昨年9月、平壌の約370キロ北東に位置する同実験場で、水素爆弾実験を成功させたと表明した。テレビ朝日は、この実験でトンネルの1つが崩壊したと報じた。
中国科学技術大学の最近の研究ではさらに、9月3日に起こった爆発規模が巨大すぎたため、核実験場全体が使用不能になった可能性を指摘する。
同大学の研究者は、地震観測データの検証によって、爆発の8分半後に小規模の地震が起きていたことを突き止めた。学会誌に提出された論文要旨によると、研究者は、万塔山内部で崩壊が起きたことで地震が引き起こされたと指摘している。
「崩壊の発生により、万塔山の地下構造は今後の核実験に使えなくなったとみられる」と、昨年12月に行われたアメリカ地球物理学連合の学会で発表された研究概略で説明。同様の実験が行われれば、「さらに大規模な崩壊が起き、環境的大災害となるだろう」と、予測した。
それこそが、北朝鮮が同実験場を廃棄する意思を示した理由かもしれないと、国際原子力機関(IAEA)元査察官で、今はストックホルム国際平和研究所に所属するロバート・ケリー氏は推測する。
「彼らは何かを手放そうとしている訳ではない。あの実験場は、すでに使用不可能なまでに破壊された状態なのだと思う」と同氏は語る。
一方で、米ジョンズ・ホプキンズ大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、今年に入ってトンネル掘削が行われたことが衛星写真で判明しており、同実験場がいまも稼働している可能性があると指摘。ただ、最近では動きがあまり活発ではなくなっているという。
「豊渓里の核実験場が、今後の実験に使用できないと結論づける根拠はない」と、同サイトは23日に記している。
■核クラブ
北朝鮮側は21日に行った発表で、北朝鮮はすでに兵器開発の目標を達成したため、もはや核実験を行う必要がないとした。
事実上、完全な核保有国になったという宣言だと、専門家はみている。
「誰が実験を必要とするか。新規参入者だけだ」と、前出のポラック氏は語る。「(実験は)技術的に不完全であることの証左になる。北朝鮮が送りたいメッセージではないだろう」
豊渓里の現状が不明なことに加え、北朝鮮が透明性を約束していることからも、トランプ大統領は金委員長との会談で査察の受け入れを迫るだろうと専門家は予想する。
「米側が確認しようとすることの中でも、最も重要な点の1つだ」と、ケリー氏は言う。
IAEAは、これまで寧辺(ヨンビョン)の核施設の査察は実施したが、豊渓里の実験場を査察したことはなく、「ひとたび政治的合意が交わされれば、同国での査察活動を再開する」ことで「貢献する用意はできている」との声明を出している。
米国は、国防総省傘下の国防脅威削減局による査察の実施を求める可能性があると、ケリー氏は話す。だが北朝鮮は、もし査察を受け入れるにしても、米国組織ではなく国際組織を好む可能性が高いという。
どの組織が担当するにせよ、もし現地査察が認められれば、査察官はトンネル内に入るか、ロボットを送り込んで内部の状態を調べるとみられる。また上部から地層を貫通するレーダーを使う可能性もあると、ケリー氏は話す。
ミドルベリー国際大学院のジェフリー・ルイス氏は、北朝鮮がそこまでの査察を認める可能性は低いと予想。また、北朝鮮は豊渓里の実験場を、破壊せず、単に閉鎖するにとどめるのではないかと語る。
「これらはトンネルであって、(寧辺で破壊された冷却塔のような)塔ではない。仮に北朝鮮が最大限の譲歩をするとみせかけて、トンネル閉鎖を演出しても、無意味だ。再び封印を解けばいいだけの話だ」と同氏は指摘した。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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