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ミサイル発射に成功し喜ぶ金正恩だが、犠牲を強いている国内からの反発を恐れている 写真:「労働新聞」より
金正恩は「側近による暗殺」を恐れ核ミサイルから手を引けない
http://diamond.jp/articles/-/142892
2017.9.21 武藤正敏:元・在韓国特命全権大使 ダイヤモンド・オンライン
核実験や日本上空を通過するミサイルを発射するなど、北朝鮮の挑発行動はエスカレートするばかり。国際社会は制裁を強め、金正恩を対話に引きずり出そうとしているが応じないだろう。なぜなら、側近による暗殺を恐れているからだ。(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)
北朝鮮の核ミサイル開発は
いよいよ最終局面
北朝鮮は9月3日、6回目となる核実験を行った。その規模は、包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)が公表する揺れの大きさを基準に計算するとマグニチュード6.1、破壊力は160キロトンで、広島原爆の10倍と推計されている。これを受けて北朝鮮は、「水爆実験が成功した」と発表。2016年に行った5回目の実験は11〜12キロトンであったことから、その技術の急速な進歩が伺える。
さらに、9月15日には、8月29日同様に中距離弾道ミサイル「火星12型」を発射、日本の襟裳岬の上空を飛行し、3700キロメートル飛んで太平洋上に着弾した。これは、グアムまでを十分射程に収める距離だ。それに先立って、7月4日と28日には「火星14型」と言われるICBMを、ロフテッド軌道で発射している。
こうした北朝鮮の挑発行動に対し、国連安保理は9月11日、追加制裁決議を採択した。それによれば、まず石油の輸出に関し、過去12ヵ月の輸出を年間の上限にするとし、石油関連製品の輸出を3割減とすることが盛り込まれた。また、労働者の海外派遣は新規雇用を禁止、現在の労働者についても更新を禁止するとしている。
加えて、現在は、中国からの加工委託を受けて生産している繊維製品の輸出を禁止(16年の輸出額は7億2600万ドル、今年上半期の輸出は56%増)、北朝鮮の貨物船を公海上で検査することについて、禁輸品の積載が疑われる場合には加盟国に要請する、そして北朝鮮の個人団体との合弁企業を禁止する、というのが主な内容である。こうした制裁によって、北朝鮮の輸出の9割が削減されると言われている。
制裁受けても開発を加速化
有効な制裁は石油の禁輸
8月5日に決定した追加制裁では、石炭・鉄・鉄鉱石・海産物・鉛の輸出全面禁止措置を取ったため、北朝鮮は輸出総額の3分の1に相当する年10億ドルの外貨収入を失ったことになる。
しかし、北朝鮮は核ミサイルによる挑発を加速している。
そのため今回の制裁に際し、当初、米国が提案していた決議案には「石油禁輸」が含まれていた。北朝鮮の核ミサイル開発を制裁によって止めるためには軍事活動の“血液”となる石油の禁輸が不可欠だ、と考えられているからだ。
とろこがこれは、北朝鮮の暴発を招きかねない。戦前の日本が、ABCD包囲網による石油禁輸で追い詰められ、真珠湾への奇襲攻撃で太平洋戦争に突入したように、北朝鮮も身動きが取れなくなった時、一か八かの攻撃を仕掛けてくる危険性があるからだ。
そうした懸念もあり、北朝鮮を追い詰めたくない中ロの反対で、決議案の主要な部分は薄められてしまい、米トランプ大統領は、「石油禁輸のない決議では不十分」と述べている。だが、原油の取引をテーブルに載せたことは、今後の決議で石油禁輸を取り上げる足掛かりとなろう。1週間で決議を採択したことも成果と言える。
唯一、残されたのは
制裁により対話を引き出す方法
今、日米韓をはじめとする国際社会の主要国の基本的な方針は、北朝鮮に対する経済制裁を強化することによって、核ミサイル開発の資金を遮断し、北朝鮮が開発を続けられなくすることで「対話」の道に引き出そうというものである。しかし、こうした考えは、「実効性があるから」というよりは、「北朝鮮への有効な対応手段がないため、これに期待する」という“希望”が強いように思えてならない。
米朝ともに対話の道は否定していないが、米国は対話の前提として「北朝鮮の非核化」を求めている。これに対し北朝鮮の対話の目的は、米国に核保有を認めさせ、あわよくば在韓米軍を撤退させることである。つまり、対話といってもその前提が全く正反対で、妥協点がないのである。
他方、北朝鮮に対する軍事行動は、北朝鮮の報復を招いて数十万から百万人単位の犠牲が出かねないと危惧されており、何としても避けたいというのが本音である。
ただ、このまま何もできないでいると、来年前半には北朝鮮が核弾頭を搭載したICBMを実戦配備する可能性もある。したがって、今、期待できるのは石油の禁輸により北朝鮮軍の血液を断つ方法と、制裁により北朝鮮を対話に引き出す方法の2通りである。このうち石油の禁輸は中ロの反対により、当面は実施されないことになったので、今できることは後者だけだ。
とはいえ北朝鮮は、制裁により資金が枯渇しかけたとしても核ミサイル開発は断念しないであろう。それはなぜか。
一番よく言われているのは、北朝鮮にとって政権の存続を図るためには、核ミサイルを保持し、日米韓を威嚇することで北朝鮮に手出しできないようにする必要があると考えているからである。
金正恩は、イラクやリビアの政権が崩壊したのは「大量破壊兵器を保有していなかったため」であると考えている。北朝鮮では、金日成の時代から核ミサイル開発を続けており、これを完成させることは父・金正日の“遺訓”でもあった。
つまり、米国を攻撃できる核ミサイルを持つことで、米国と対等の立場で交渉できるという考えであり、今年の朝鮮労働党大会において核保有宣言を行い、米国に核保有国として認めさせることを目論んでいる。
核ミサイルを放棄できない
事情は国内にもあった
じつは、北朝鮮が核ミサイルの開発を放棄できない理由は、国内にもある。
金正恩にとって最も大事なことは、自身の安寧、そして保身である。金正恩は、政権を継承する前こそ、父・金正日に連れられて中国を訪問し、当時の国家主席だった胡錦涛に会っているが、政権を担ってからは一度も国外に出ていない。諸外国に赴けば、自身の身が危険にさらされると考えているのであろう。米軍の攻撃を恐れ、地下施設内を転々と移動する生活だと聞く。
それだけではない。金正恩は敵国だけでなく、国内の、しかも側近による暗殺も恐れている。
金正恩は、自身の最も近い側近を含め、政権について以来300人以上を粛清したと言われる。少しでも反逆の噂があれば、捉えて公開処刑してきた。伯父で、最側近と言われた張成澤を公開処刑したことは、今でも語り草である。しかも最も残忍な方法で。機関銃で穴だらけにする。犬に食わせる。人々はこれを見て、恐怖におののいて従っているのである。
国民に対する監視網も徹底している。夫婦の間でも不審であれば密告させており、もう誰も信じられなくなっている。金正日の頃までは、側近や軍人には贈り物をして忠誠を誓わせてきたし、一度失脚しても復権の道があったが、今あるのは恐怖のみだ。
一方で、国民の生活は困窮を極めている。国連食糧農業機関(FAO)によると、今年の干ばつは2001年以来の深刻さであり、2017年収穫初期の穀物生産は31万トンと昨年の45万トンから、3割以上減少したようである。にもかかわらず金正恩は、外貨収入を国民のための食糧輸入に使うのではなく、核ミサイル開発に注いでいる。韓国の文在寅政権からの人道支援のための交流も拒否しているほどだ。
北朝鮮国内では、「早く南北間で戦争が起きてほしい」という声をたびたび耳にするという。韓国との戦争で勝ち、経済的な恩恵を横取りしようというのではなく、「もうどうなってもいいから、早く戦争が起きて、今の生活が終わってほしい」と考えているというのだ。指導者から見捨てられた国民の悲劇である。
国内で弱みを見せれば
反逆者を生みかねない
こうした状況で、金正恩自身も追い詰められている。
自分たちを犠牲にして進めてきたにもかかわらず、開発をやめてしまえば国民はどう思うか、少しでも弱みを見せれば反逆が起きてしまうのではないかなどと考えている可能性がある。だから、どのような困難に直面しても、強い指導者で居続けなければ、生き残ることができないと考えていると見られる。
したがって、制裁によって開発資金が不足しても、国際社会と手打ちして保身を図るよりは、国民に犠牲を強いてでも、資金がなくなる前に核ミサイル開発をやり遂げようとするのが自然な見方ではないだろうか。
こう考えてくると、北朝鮮に対し、圧力と対話で核問題を解決するのは困難ではないかと思えてならない。仮に対話で問題が解決されるとしても、金正恩政権ではなく次の政権にならざるを得ないであろう。
いかに中国を
巻き込むかがカギ
前回の寄稿(「北朝鮮への石油禁輸や斬首作戦は成功するか?元駐韓大使が論評」)で、北朝鮮に核ミサイルを放棄させるためには、金正恩をトップから降ろす以外にないと書いた。米国のキッシンジャー元国務長官は、米中合意が得られれば、その機会は増すであろうと述べたようである。
中国は、北朝鮮が崩壊し、中朝国境が不安定化することは望んでおらず、まして中朝国境付近まで韓国や米国が入って来ることは、決して許すことができないだろう。習近平政権も北朝鮮の行動には辟易しており、そうした懸念さえ払拭されれば政権交代に関して、あるいは少なくとも石油の禁輸で、協力を得ることができるかもしれない。
これは、少なくとも北朝鮮との対話よりは、実現の可能性が高いだろう。北朝鮮に対する中国の影響力の拡大は、東アジアの地政学にとって好ましからざる事態ではあるが、北朝鮮との戦闘や核ミサイルを保持する国との共存よりはましだ。
北朝鮮の核ミサイル問題に正しい答えはない。どの選択肢が「最も犠牲が少ないか」という視点から考えていかざるを得ないのではないか。
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