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写真:労働新聞(電子版)より
元海将が指摘「北のミサイルは狙った所に飛ばない可能性がある」
http://diamond.jp/articles/-/142570
2017.9.19 ダイヤモンド・オンライン編集部
9月15日午前6時57分ごろ、北朝鮮は弾道ミサイル1発を発射した。ミサイルは、約3700キロメートル飛行して北海道上空を通過、襟裳岬の東約2200キロメートルの北太平洋に落下した。元海将で、潜水艦艦長として防衛の第一線を経験したほか、在米防衛駐在官、情報部長などを歴任、朝鮮半島情勢や安全保障政策を熟知する伊藤俊幸・金沢工業大教授は、ダイヤモンド・オンライン編集部のインタビューに応じ、北朝鮮のミサイル性能を疑問視し、「狙った所に飛ばない可能性もある」と指摘する。(聞き手 ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)
本音は発射実験を続けたい北朝鮮
ミサイルの制御技術は未熟
──北朝鮮は9月15日、再び日本上空を通過する弾道ミサイルを発射しました。「核保有国」として認められない限り、北朝鮮は核実験やミサイル発射をこれからも続けるということでしょうか。
米国も軍事介入を示唆するなど、緊迫した状況が続くことになると思います。その先に軍事衝突というシナリオも考えられますが、それには至らないにしても、北は核・ミサイル開発をやめないでしょう。本音としても、北朝鮮はミサイルなどの改良実験は続けたいわけです。
伊藤俊幸・金沢工業大教授
というのは、核弾頭の開発は順調に進んでいるようですが、ミサイルの方はまだ狙った所に飛ばす技術が確立されていないからです。
人工衛星などを載せて、ロケットや長距離ミサイルを宇宙空間にまで飛ばす技術は持っているようですが、ミサイルでどこかの都市を狙うとなると、補助エンジンがロケットの方向を調整したりするコントロール技術が必要です。また宇宙空間から大気圏に再突入する際の角度を調整できないと、弾頭部分の角度が深すぎれば燃え尽きたり、逆に角度が浅すぎればはじかれて再突入できずに弾道部分が壊れたりします。
8月末の発射実験で、北海道上空を通過した「火星12型」の場合も、二段目の弾頭部分の切り離しに失敗して、狙った所に到達しないまま、ばらばらになったようです。北朝鮮自身もどこまで飛んだか確認できていない。変な言い方になりますが、こうしたミサイルの性能を向上させるために、北朝鮮はまだ実験を続けたいと思っていますから、それが結果的に「チキンゲーム」を継続させることになってしまうわけです。
米国は北を攻撃する名分乏しい
「虎の尾」は踏まない北朝鮮
──米国は、北朝鮮の発射実験を黙って見ているのでしょうか。
北朝鮮のミサイル基地などを空爆するという見方もありますが、「自衛権の発動」という要件がない限り、米国といえどもできません。
国連で、武力制裁が決議されれば集団安全保障として攻撃ができますが、中国やロシアが反対しますから無理でしょう。コソボ紛争の時は、NATOが国連の決議がないまま空爆をしましたが、あの時は「虐殺行為から守る」という人道的な理由が掲げられたので、国際法上は「違法であるものの正当性がある」ということになりました。
今年4月に米軍がシリアを空爆したのも、アサド政権が「化学兵器を使用した」という非人道的行為への介入という大義名分です。しかし、北朝鮮が核実験をしたからという理由では攻撃できないでしょう。
かつて中東戦争の際にはイスラエルが、エジプトが空軍を整備していることを名分に、単独で「予防攻撃」をしたのですが、国際法違反で世界から批判されました。だから、米国はそれもできません。
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2017.9.19
元海将が指摘「北のミサイルは狙った所に飛ばない可能性がある」
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米国がやるとすれば「先制攻撃」、相手が戦争をする兆候があるということで、先にたたくということがあるかもしれません。「先制自衛権」と言っていいかもしれません。しかしこれをやれば、本格的な戦争に発展する可能性があるわけです。双方に多数の犠牲者が出るので、米国としても相当な覚悟が必要です。
──米国としては、北の核やミサイル実験をやめさせる手段がないということですか。
だから現状は、米韓で軍事演習をしたり、空母を出動させたりして、2013年の北の核実験を機に新しく作り直した「5015」作戦で、「先制攻撃や斬首作戦をいつでもできるのだ」ということを、北に見せつけるしかないわけです。ただ、それだけでも金正恩氏は、十分怖いはずです。
それに米国にとっても、北朝鮮がミサイルをグアムなどの米国領海に落とした場合には、自衛権行使の口実になります。まさにそれが北にとっては「虎の尾」を踏むことになるのです。
金正恩氏は、米国に自衛権を発動させてしまったら終わりだということで、微妙な所にミサイルを撃つわけです。グアムについて、私は最初から撃たないと思っていました。しかし、グアムや米国本土を外した太平洋の中央に日本列島を越える方法でミサイルを撃ってくる可能性は今後も十分にあります。
イージス艦の仕事は
ミサイルの「落下防止」
──日本の「守り」は大丈夫なのでしょうか。
まだ実験中であることから、日本を越えるミサイル発射をした場合、失敗してその一部が日本国内に落ちる可能性があります。日本にとってはひどく迷惑な話です。
現状のミサイル防衛システムは、イージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM3」が、宇宙空間で敵のミサイルを撃ち落とす、撃ち漏らした場合は、地上に配備された「PAC3」が待ち構える、いわば二段構えです。
今のイージス艦などの仕事は、北が発射したミサイルをじっと監視し、間違って日本に落ちてくるものを撃ち落とすことです。撃ち落とせる確率もかなり高い。実際、ハワイでの訓練も見ましたが、今、配備されている「SM3ブロック1a」は全部、命中させています。
最近、失敗したのは「ブロック2a」という開発中のものです。
これは「1a」より速度も射程も長いので、北朝鮮が仮にグアムを狙ったとしても、イージス艦が日本海にいながら後追いでも撃ち落とすことができます。「1a」では、後ろから追いかけた場合は届かないだろうと思います。
──イージス艦はそんなに信頼できるのですか。
イージス艦の迎撃システムは、追尾レーダーがセットになっていて、レーダーが敵のミサイルを追尾して、そこに迎撃ミサイルは誘導され、最後にミサイル自身が相手を認識して的中するのです。
ただ、一隻で撃てるミサイルの数は限られていますから、敵が一度に何ヵ所かからミサイルを一斉に発射すれば、対応できるにしても限界はあります。
PAC3は、もともと拠点防護用として開発されたので、こちらにまっすぐに向かってくるミサイルには命中しますが、守備範囲が狭い。
約20キロメートルの幅なら対応できますが、飛んでくるミサイルが横に飛んでいく、いわゆる角速度が大きいミサイルには対応できません。
発射機は34機ありますが、1機当たりで発射できる数は限られていますから、敵が多数のミサイルを一斉に撃ち込んでくるとなれば、これも対応しきれない面はあります。
平時において「チキンゲーム」が行われている今の状況は、あくまで北朝鮮がミサイル発射実験をして、間違って日本に落ちて来そうなケースになります。
イージス艦が撃ち落とすといっても、弾頭以外の部品などです。それも宇宙空間から大気圏に落ちてくる途中で燃え尽きたりします。「落ちてくる隕石から、どのようにして身を守るか」というイメージで考えればいいかと思います。
本来、イージス艦は情報収集能力などに優れた最先端の艦船ですから、もっとできることがあるのですが、「ミサイル落下防止」のためにずっと監視業務をするということにもなっているわけです。
爆弾を積んだミサイルが日本を狙って上空に来て、それを撃ち落とすとなれば、それはもう戦争状態、有事になっているということです。
「有事」と「平時」では違う
米の「5015」作戦と連携
──仮に有事となればどうなのでしょうか。
有事となれば、米国は「5015」作戦で、25分ほどの間に北朝鮮の核施設やミサイル基地など約700ヵ所を一斉に攻撃するといっています。グアムに配備されているB1爆撃機や、空母などに搭載されている巡航ミサイル「トマホーク」などで先制攻撃をするわけです。
それでも北朝鮮側は生き残って、「ソウルを火の海にする」と言っているように、本格的な戦争になる。しかしそうなると、北朝鮮はまず米国や韓国との目の前の戦いに専念するでしょう。在日米軍基地などへの攻撃はその後になります。
日本への攻撃があるとなれば、そのタイミングではみんな構えるわけです。日本のイージス艦4隻も日本海で並んで防衛網を張るし、米第7艦隊のイージス艦5隻や、場合によってはハワイなどからも駆けつけるから、かなりの数のイージス艦が北のミサイルを待ち構える。北の発射施設は米軍の先制攻撃で、かなり破壊されていると考えられるので、数的にも対応できるはずです。
つまりそうなった時は、今の平時の「ミサイルの落下防止」の体制から、有事の体制に一気に切り替わる。米国の「5015」作戦に応じた作戦は、表には出ていませんが、日本も韓国も持っています。パトリオットも、日本全土を守るのは無理ですから、防護対象を原発や首都圏の重要施設に絞って配備するということになるでしょう。
ミサイル防衛は十分な守りにならないから、「敵基地攻撃能力」を保有すべきという声も出ていますが、私は、米国の「5015」作戦と連携した作戦で対応できると考えています。敵基地攻撃能力の議論は、飛んできたミサイルを排除しても排除してもきりがないから、その発射基地を叩くという流れで考えるべきものです。それは基本的に米軍の任務ですが、日本もその文脈からある程度の能力を持つべき、という考え方なのだと思います。
「戦争」に慎重な米制服組
核保有で米朝が先に手を握る可能性も
──チキンゲームが軍事衝突につながることは本当にないのでしょうか。
繰り返しますが、現状では、米国はそういう選択はしないと思います。トランプ大統領は、脅しや駆け引きもあって時に強硬発言をしますが、私の知っている米国の制服組(軍人)は、軍事行動をとることに対する「正当性」にものすごくこだわります。国際法上、どうなのか、正義はあるのかと。中でも国連決議があることにもこだわります。実際、戦争になったら、双方に相当の被害が出るというのもありますが、じつは制服組の方が戦争には慎重なのです。
結局、米国は、北の核保有を認めざるを得ないということで、「核シェアリング」(同盟国で核兵器を共有する政策)などによって、どう北の核抑止をするかという軍備管理の方向に戦略を変えていく可能性が大だと思います。もしかしたら、米朝がそうした方針で先に手を握り、日本や韓国が核持ち込みなどに対する国内合意ができていないまま慌ててしまうということもあるかもしれません。
伊藤俊幸(いとう・としゆき)/1981年に防衛大卒業後、海上自衛隊入隊。潜水艦「はやしお」艦長などを務めた後、在米日本大使館防衛駐在官、防衛省や海上幕僚監部の情報部長として、北朝鮮の核開発、「9・11」テロなどの安全保障、危機管理を担った。海上自衛隊呉地方総監を最後に2016年退官。現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授(リーダーシップ論、安全保障論)
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