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日本の「核武装論」が最大抑止力
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10558
2017年9月11日 樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長) WEDGE Infinity
北朝鮮建国記念日の9月9日、ミサイル発射など”ありがたくない引き出物”はなかった。しかし、まだ油断はできない。
金正恩があらたな挑発に出るのか、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れて軍事攻撃に踏み切るのかーー。北朝鮮の核危機は、一触即発の状態がなお続く。暴挙を押さえる手立てがない苦しい中、“劇薬”として、米国内で、日本や韓国の核武装論が台頭している。日本国内でも、自民党の石破茂元幹事長が、米軍の核の国内配備について議論すべきだという考えを示し、この問題に一石を投じた。わが国が核兵器を保有すれば、北朝鮮だけでなく、その“兄貴分”の中国も大きな衝撃を受けるだろう。
中国は、北朝鮮に核を放棄させるための説得役として期待されながら、のらりくらりとして、各国の反発を買ってきたが、「日本が核武装」となると、その怖さに、本腰を入れて北朝鮮に圧力をかけるかもしれない。
■中国が怯える「強い日本」
9月3日の産経新聞に興味深い記事が掲載された。黒瀬悦成ワシントン支局長の署名入りの記事は、米国内で、北朝鮮に核開発を断念させることは不可能という見方が強くなっていることに言及。その前提で、日韓の核武装を容認し、それによって北朝鮮の核に対抗するーという議論が勢いを増しつつあると伝えている。民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」の研究員による、「日韓の核武装を認め局地的な衝突も辞さない構えで、北朝鮮を封じ込める」との主張、米国の別な軍事専門家の「日本が自前の核兵器を持てば、すべての民主国家は安全になる。強い日本は中国の膨張を阻止する」という積極的な日本核武装支持論も紹介している。
反面、米外交界の長老、キッシンジャー元国務長官のように、北朝鮮の核脅威が深刻になれば、日韓だけでなく、ベトナムなど、核兵器で自らを守ろうとする動きが活発化するーーという「核ドミノ」への警戒感が存在することにも触れている。
一方、石破幹事長の発言は、今月6日、民放テレビの番組で飛び出した。「米国の“核の傘”で守ってもらうといいながら、日本国内には(核兵器を)置かないというのは正しいのか」と現状に疑問を投げかけ、「持たず、作らず、持ち込ませず、議論せず、ということでいいのか」とも述べ、非核三原則の見直しに言及した。
石破発言は、日本が自前で核開発を進めるという趣旨ではないが、国是としてきた三原則に疑念を呈した発言であり、波紋を呼んだ。案の定、管義偉官房長官は記者会見で「これまで(三原則の)見直しの議論はしておらず、これからもすることは考えていない」と明確に否定した。
■かつては安倍首相も言及
「日本核武装」が台頭するのは、これが初めてではない。
少し古い話だが、北朝鮮が枠組み合意を破棄して核開発を再開した直後の2003年1月、米紙ワシントン・ポストに、「ジャパン・カード」という見出しで、「日本の核武装が北朝鮮への対抗手段」というコラムが掲載された。筆者は保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏だった。コラムは「米国が北朝鮮への武力行使に消極的である理由のひとつは報復を恐れているため」と指摘。
「北朝鮮を外交的、経済的に孤立させようという手段も、韓国、中国が協力するかわからない状況では、効果を期待できない」と、当時のブッシュ政権(共和党、子)の政策を批判した。そのうえで、「こういう苦しい状況の中では、日本に自ら核武装させるか、米の核ミサイルを日本に提供して北朝鮮と、それを支援する中国に対抗させることこそ、唯一の有効なカードになり得る」と主張した。
この議論が日本国内にどの程度の影響を与えたかは明らかではないが、その後、2006年には、日米の政府間で、表沙汰にこそされなかったが、議論されている。しかも、そのときは、第1次政権を担っていた安倍晋三首相が、コンドリーザ・ライス米国務長官(当時)に直接、提起したという。
ブッシュ政権2期目で国務長官を務めたライス氏の回顧録によると、2006年10月に訪日、官邸を表敬した時のこと。
安倍首相は「日本が核開発に手をつけるという選択肢は絶対にあり得ない」としながらも、「それを望む声も多いのは事実だし、しかも、その声は次第に大きくなっている」と日本国内の空気を伝えたという。
回想録の中でのやりとりはそれだけで、ライス長官がどう答えたのかなどは明らかではないが、ライス女史は、「日本でそういう声があがることは意味がある。北の核開発を野放しにすれば大変なことになると中国も思い知るだろう」とコメントしている(『ライス回顧録』集英社)。
そう、中国なのだ、日本の核武装論をもっとも気にするのは。中国が戦後ずっと恐れてきたのは、最近こそあまり口にしなくなったが、“日本軍国主義”の、復活だ。日本からみれば、軍国主義復活など、とんだ取り越し苦労だが、実のところ、「強い日本」を中国はもっとも恐れている。
かつて、日中国交正常化前、中国が日米安保条約に必ずしも反対しなかったのは、この条約が存在することによって、日本が防衛費を抑制、軍事大国になることを防ぐことができると考えたからだ。“ビンのふた論”である。
北朝鮮の核開発が深刻化した当初の1990年代はじめごろから、中国が、北朝鮮への影響力を行使して説得することへの期待感は強かった。その際の“殺し文句”として「核開発を続ければ、日本も核武装する。そうなったら、われわれにとって大きな脅威になる。それを避けるためにも中止しろ」というのが有効ではないかと考えられていた。
中国が実際にそういう言葉を使って説得をしたかはわからないが、いずれにしても、国連の制裁に従わずに、密かに支援し続けてきた中国のいうことに、北朝鮮が耳を貸すはずがなかった。
今回、日米で再び日本の核武装論、核持ち込み論が展開されはじめたのだから、この機会を逃さず、議論を本格化すべきだろう。
■議論もせず、ということでいいのか
石破発言に対する管官房長官の発言は冷淡そのものだったが、政府の立場としては当然だ。“無役”の石破氏は立場が違う。ここは石破氏同様、自民党内で議論を活性化させるべきだ。
第1次安倍内閣時代、安倍首相とライス米国務長官が日本の核武装論議を交わした、ちょうど同じ時期、自民党政調会長だった故中川昭一氏が、非核三原則の見直し論をぶち上げ、論議を呼んだ。非核三原則のもとで、核を持たずに北朝鮮の核開発に対して、どういう対抗措置をとることができるのか考えなければならないーというのが発言の趣旨だったが、日本国内の一部政治家や反核団体から激しい非難を浴びた。
石破氏が今回、「議論もせず、ということでいいのか」と疑問を投げかけたのは、まさに、経緯があるからだろう。
核に関する議論は、ある種タブー視されている。それだけに、石破発言に対して自民党内でもさまざまな議論があるようだ。中川発言の時のように、ごうごうたる非難の声が出るかもしれない。
しかし、北朝鮮の核・ミサイルに日本国民が脅威を感じ、中国は強大な軍事力を背景に、南シナ海、東シナ海で暴虐の限りを尽くしている。そうした状況を考えれば、この時期に、議論を展開するのは、国民の理解を得やすいだろう。批判があったとしても、そういう議論が正しいことを国民に対して訴えかけ、説得すべきだ。そもそも、核武装論を展開することと、実際に核を持つこととは全く別の問題なのだ。
日本政府は、非核三原則の手前、議論するには躊躇がある。党主導で大いにアドバルーンをあげ、賛否を含めて国民の間に議論を広げるべきだろう。
米国内ではいま、在韓米軍への戦術核再配備に関する議論が展開されている。日韓両国での活発な議論によって、今度こそ日本は真剣だと思わせ、金正恩だけでなく、中国の習近平指導部の肝を冷やしてやるのも一興だろう。
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