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トランプが選ぶ対北戦略は、「小型戦術核使用」「地上軍投入なし」か その後は中国にすべて丸投げ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52559
2017.08.11 李 英和 関西大学経済学部教授 現代ビジネス
■全然、決定打にはならない対北制裁
8月5日、国連安全保障理事会が2度の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を受けて対北経済制裁を決議した。石炭、鉄鉱石、海産物などの禁輸で、北朝鮮の外貨収入を3割ほど減らす目論見だ。
当初「決定打」と目された石油禁輸は、中国とロシアの意向を汲んで、見送られた。
今回の制裁は外見上「史上最強」を更新した格好だ。しかし、北朝鮮の非核化という本来の治療目的で見れば、薬効が極めて薄いか、あるいは効き目が余りに遅い「漢方薬」の処方にとどまる。これでは北朝鮮の核武装の進展をとても阻めない。実際、北朝鮮政府は制裁の2日後に「全面排撃」を公式に宣言している。
金正恩政権はまだやり残しの「宿題」を抱えている。ICBMの追加試射と多弾頭化、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験と複数ミサイル搭載可能な新型潜水艦の建造、個体燃料式の中距離弾道ミサイル(IRBM)の開発、現有20〜60発ほどの小型核弾頭のパキスタン並みへの倍増、などである。
金正恩政権はこの宿題を片付けない内は、今回程度の経済制裁で音を上げることはない。ICBM開発を完成させ、アメリカと「対等の立場」を確保した上でしか、対話(核交渉)の席には就かない。中途半端な経済制裁はむしろ、制裁の毒が徐々に体中に回る前に、と、急がせることで、北朝鮮が核ミサイルの開発速度を早める逆効果を招く。
■米韓で沸騰する主戦論と対話論
そのせいで、制裁の履行状況を見る前に、早くも米韓両国を中心に悲観論が広まる。米国では主要メディアの論調が「主戦論」と「対話論」への二極化の様相を見せる。対話論の要点は北朝鮮の「核ミサイル凍結」、つまりは「ICBM抜き」での核武装容認論だ。どちらに転んでも、日韓両国は大きな試練に直面する。
他方、日本と韓国は「主戦論」を唱える術もないのが現実だ。その代わりに、韓国では「核武装論」が台頭してきる。保守系の主要各紙は一斉に核武装論を社説に掲げ始めている。これに呼応して、最大野党の自由韓国党は公式見解で「戦術核の在韓米軍再配備と米韓共同運用」を主張する。
韓国核保有論の大勢は、あくまで北朝鮮との「対話用」に限定し、なおかつ北朝鮮が核放棄するまでの期限付きある。北朝鮮の核ミサイル脅威で、問題の鍵を握る中国への「圧迫と催促」の意図も込められている。
核兵器の共同運用が米国の反対で無理なら、自前の核武装に進むしかなくなる。泣き所は時間との競争だ。韓国の技術力では、自前の核武装に最短でも「一年半」を要する。これでは時間的にとても間に合わない。その点では、迎撃ミサイル網の整備や敵地攻撃能力の保持に関する日本の議論も似たり寄ったりだ。
■日本は単に遭難状況
米韓両国が危機感を募らせるとは対照的に、日本の政界と言論界は「制裁と対話」を呪文のように繰り返している。保守と革新で力点の置き方に違いがあるだけで、道を失った「遭難」状態だ。この点では、皮肉なことに、親北左派で反日的色彩の濃い文在寅政権に近い。
実際、文在寅政権と日本の革新系メディアは北朝鮮との対話の入り口を「核凍結」に置く。出口は「非核化」と口をそろえるが、じっさいには可能性ゼロの袋小路だ。そもそも「凍結」では、アメリカは別にして、日韓両国には何の現実的な解決策にもならない。両国を射程に収める北朝鮮の短・中距離核ミサイルは既に実戦配備の段階にあるからだ。
それでも日韓両国がICBMの開発凍結にこだわる理由があるとすれば、「アメリカの核の傘」の問題だけである。ICBMが実戦配備されてしまえば、これが「破れ傘」となる公算が大きいからだ。アメリカの核抑止力か、それとも自前の核抑止力か――。結局のところ、対話論の着地点はどちらかになる。
もちろん、核の傘が破れて、自前の核武装もできないからといって、天が崩れ落ちて来るわけではない。日韓両国が北朝鮮の核ミサイルから身を守る道が他にもある。日本は目をつぶって北朝鮮との国交正常化を急ぎ、韓国は金正恩の「現金自動支払機」となる邪道だ。
■トランプ政権の強硬シナリオの中身
だが「かりそめの平和」に溺れず、北朝鮮の非核化をあくまで実現するのであれば、道は2つしかない。
ひとつは、中国が石油と食糧の全面禁輸を断行して、金正恩政権を「窒息死」させる道だ。
もちろん、それに見合った代償がなければ、中国が動かない。金正恩政権が北京を狙う核ミサイルを持つのだから、なおさらのことだ。親中政権の擁立であれ何であれ、中国が実質的かつ半永久的に「金正恩後」の北朝鮮を支配する――。米日韓3カ国がこれを容認する覚悟が要る。
もうひとつは、アメリカが自衛的あるいは予防的な先制攻撃を加え、北朝鮮の核ミサイル能力をひとつ残らず除去する道だ。たとえ北朝鮮の政権交代を目的としなくても、先制攻撃が成功すれば、結果的に金正恩政権が退場することになる。そこでの問題はやはり「金正恩後」の北朝鮮である。
この点で、米議会共和党の重鎮議員、リンゼー・グラム上院議員がトランプ大統領と面会した際に漏れ聞いた「肉声」が示唆に富む。
「北朝鮮(の核ミサイル開発)を阻止するために戦争が起きるとすれば、現地(朝鮮半島)で起きる。何千人死んだとしても向こうで死ぬわけで、こちら(米国)で死者は出ない、と言っていた」(8月1日、米NBCテレビ)。
これが事実とすれば、トランプ大統領は北朝鮮への武力行使で特異な戦法を採りそうだ。筆者の理解ではこうだ。北朝鮮の日韓両国への報復攻撃を許さないほど極めて短時間の内に徹底的な先制攻撃が加えられること。そして、アメリカは北朝鮮に地上軍を送り込むつもりがないこと。
前者の先制攻撃については、今年春に発刊された米ハーバード大学ベルファーセンターの機関誌『国際安保』が興味深い内容の論考を載せた。
要点はこうだ。
精密誘導による地中貫通型の低出力(0.3キロトン)の戦術核を80発使用すれば、北朝鮮の核ミサイル施設(4箇所)をほぼ完全に除去することができる。その際、発生する人命被害は1箇所当たり北朝鮮兵士が100人未満、地中爆発型なので放射能汚染もほとんどないとされる(8月1日付、韓国聯合ニュース「米専門家『0.3kt核爆弾で落塵被害なしに北核精密打撃可能』」)。
これに加えて、韓国を狙う北朝鮮軍の火砲を制圧するべく、トマホークミサイルなど通常爆弾での軍事施設や指揮所への大規模空爆が敢行されることになる。その場合でも「開戦後1ヶ月間の死者が米軍10万人以上、韓国人100万人以上」という従来の俗説は退けられる。
これが「(北朝鮮兵が)何千人」(トランプ発言)という被害予測の根拠となるようだ。
■中国とのディールの落ち着きどころ
この予測の当否はさておき、トランプ発言からは米軍が北朝鮮領土に地上軍を送り込む意図のないことが窺える。文在寅大統領は韓国軍を北上させる意思は全くない。そうなれば、先制攻撃完了後の北朝鮮、つまり金正恩後の北朝鮮では、どのような勢力が権力の空白を埋めることになるのだろうか。
金正恩の手からこぼれ落ちた旗を拾い上げて徹底抗戦を主張する者は、せいぜい15名ほどの最側近勢力に限られる。これを素早く除去すれば抵抗は止む。
残存する大量破壊兵器の廃棄、秘密警察など独裁治安機関の解体、戦後の治安維持と民生復興――。これらの難題を首尾良くこなせる勢力は、野戦軍を中心とする北朝鮮の軍部しか存在しない。
北朝鮮の野戦軍は、人脈面でも経済面でも、中国軍と伝統的に絆が深い。この点を勘案すれば、「金正恩後」の北朝鮮では、親中政権誕生の公算が極めて高い。そうなれば、中国が強く抱く「緩衝地帯消滅」の懸念はなくなる。
アメリカは、北朝鮮の核ミサイル脅威に係わる能力と意思の完全除去。中国は、緩衝地帯の確保と北朝鮮の事実上の属国化。米中両国にとって、それほど悪い「取り引き」ではないように見える。
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