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写真:「労働新聞」より
トランプは日韓で多数が死ぬと知りつつ北朝鮮に「予防攻撃」を考える
http://diamond.jp/articles/-/138120
2017.8.10 田岡俊次:軍事ジャーナリスト ダイヤモンド・オンライン
米国上院、共和党の有力議員であるリンゼー・グラム氏は8月1日、NBCテレビの「トゥデイ・ショー」で、トランプ大統領と会談した際、大統領が「北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)開発を続ければ武力行使は避けられない。戦争は現地で起きる。大勢が死ぬとしても向こうで死ぬ。こちらで死ぬわけではない」と語ったことを明らかにした。
グラム議員は昨年の大統領選挙で共和党候補の1人と目されていたが、トランプ支持者が急増し、党内の予備選挙で勝てないと見て、右派のテッド・クルーズ上院議員を支持したタカ派だ。最近は「北朝鮮のICBM開発を阻止するため、大統領に予防攻撃の権限を与える法案を出す」と言明しており、NBCテレビでの発言は大統領もそれに同意していることを示すものだった。
「大勢が死ぬとしても向こうで」
軍事同盟のリアルな真実
グラム議員が語ったこのトランプ大統領の発言が正確なら、トランプ氏は「戦争は朝鮮半島、日本で起こる。多数の死者が出るのはそちらであり、米国では死者は出ない」と見て、北朝鮮攻撃を考えていることになる。
極端な「アメリカファースト」思想を露骨に表明したものだ。もし米国がそのつもりなら、日本も「ジャパンファースト」に徹し、米軍を退去させ、戦争に巻き込まれないようにするしかなくなる。
どの国にとっても、自国の平和、安全が第一だから、同盟には、もともと他国を自国の防衛や権益確保に利用しよう、との魂胆が隠されているのが普通だ。
冷戦時代には、米国は、もしソ連軍が西ドイツに侵攻すれば、戦術核兵器を西ドイツ領内でも使うことを考え、1960年代から在独米軍に、口径155mm、最大射程がわずか15km弱のM109自走砲用のMK48核砲弾が配備され、80年代には中性子砲弾W82に更新された。
戦争になれば、西ドイツ国民は米軍の核で殺されるところだったが、それはソ連の西欧支配を防ぎ、ひいては米本国を守るためにやむをえない犠牲と考えられていた。
ソ連の東欧諸国との同盟関係も同様で、米軍主体のNATO軍をソ連からできるだけ遠ざけておき、戦争になれば東欧を前哨陣地とする狙いだった。
また1980年代の米国は「水平エスカレーション」戦略を考えていた。これは数的には優勢なソ連軍が西欧や中東に侵攻すれば、米軍側は優勢な太平洋正面で攻勢に出て、ソ連の戦力を極東に割かせよう、とするもので、ソ連の戦力を吸収させられる日本はたまったものではなかった。
小国が大国と同盟を結ぶのはもちろんメリットもある。大国が小国と対立し、戦うか否かを考える際、その背後に控える他の大国が出て来る可能性を考えて穏便にすますことはあり得るし、戦いになった場合に援軍や物資の援助を得て助かる場合もある。
一方、米国に求められてベトナム戦争に参戦した韓国などや、第2次世界大戦中に同盟国だったドイツに対ソ戦への出兵を迫られ、無益な戦争に巻き込まれて多くの犠牲者を出したハンガリー、ルーマニアなどの例もあるから、同盟にはリスクもあり、一長一短だ。
グラム上院議員が言う「トランプ大統領の発言」が、単にタカ派議員の妄言に調子を合わせただけなら、真剣に案ずるまでもないが、北朝鮮の弾道ミサイルの射程が延び、精度や即時発射能力などの性能も急速に向上、米国に脅威が及ぶにつれ先制攻撃を唱える米国会議員はグラム氏以外にも現れており、さらに増えることも考えられる。
北のミサイル、米の脅威に
米国内で再び「強硬論」
7月28日に発射された「火星14」が米本土に脅威であるのは事実だ。このミサイルは47分も飛び、最大高度3700km余に達した。
旧ソ連の大型ICBMSS18は重量が200t以上もあったから加速が遅く、米国まで1万1000kmを飛ぶのに約45分を要した。米国のICBMはソ連へ約30分で到達した。それと比較すると、「火星14」の飛翔時間47分は長い。ほとんど真上に向けて発射したから、今回の射程は998kmだったが、通常のICBMの軌道(最大高度1000km程度)で発射すれば、射程は1万kmに達すると考えられる。
米国本土のおよそ西半分、ロサンゼルス、シカゴなどが射程に入るから、米国の議員は強硬論に傾きがちとなる。
また今回の発射地点は北朝鮮北部の山岳地帯、中国国境からわずか50km程の慈江道(チャガンド)の舞坪里(ムピョンリ)だ。この地帯は航空攻撃を受けにくいため、北朝鮮弾道ミサイルの主要展開地域となっていると見られてきた。これまでの北朝鮮の弾道ミサイル発射は、戦力誇示を狙ったからか、比較的観察しやすい地点から行われることが多かったが、今回は実戦で想定される本物の発射地域から撃った形だ。
北部の山岳地帯には数百のトンネルが掘られ、その一部にトレーラーや自走式発射機に載せた弾道ミサイルがひそむ。旧式の「スカッド」「ノドン」なら、トンネルから出て来てミサイルを立て発射されるまで約1時間、新型の「ムスダン」なら約10分で発射可能と見られる。
「火星14」は16輪の自走発射機に搭載されており、液体燃料を使っているが、タンクに充填したまま待機可能な「貯蔵可能液体燃料」だから、発射準備に要する時間は短い。
今回、米国は慈江道から発射されるとは予知できず、約130km南の平安北道(ピョンヤンプクド)の亀城(クソン)で発射準備らしい活動が行われていることの方に注目していた。
トランプ政権は4月から6月初旬にかけて、日本海に空母2隻を入れ、海上自衛隊、韓国海軍と共同演習を行うなど、北朝鮮に対して威圧を加えたが、ミサイル開発を止めさせる効果はなかった。最近は「中国が何もしてくれない。期待はずれだ」と中国まかせの態度も見せていた。だが米本土に届くことがまず確実なICBMを北朝鮮が作ったから、米国タカ派の突き上げは激しくなり、再び戦争を語らざるをえなくなったのだろう。
攻撃すれば、被害大きい
日本の米軍基地も目標に
トランプ氏が一度振り上げた拳をそっと引っ込めたのは、国防長官J・N・マティス海兵大将(退役)、安全保障担当補佐官H・R・マクマスター陸軍中将ら、軍人から「攻撃に出て、1953年以来停戦中の朝鮮戦争再開となれば大量の犠牲者が出る」と説明を受けたためだ。
米国は1994年にも北朝鮮の核施設を航空攻撃する計画を検討したが、在韓米軍司令部が「全面的な戦争となり、最初の90日間で米軍に5万2000人、韓国軍に49万人の死傷者が出て、民間人を含むと死者約100万人」との損害見積もりを示したため、攻撃を諦めた。
今日の状況は当時よりはるかに厳しい。ソウルから約40kmの南北境界線の北側は巨大な地下陣地になっていて、射程60kmの22連装車載ロケット砲約350門や、多数の長距離砲が配備され、北朝鮮は戦争となれば、人口約1000万人のソウル(首都圏全体では約2500万人、韓国の人口の半分)を「火の海」にする構えを示している。
韓国軍は北の地下陣地を破壊しようと短距離地対地ミサイル「玄武2」(射程300kmないし500km)1700発の配備を進めている。従来は北のロケット砲などの70%を除去するのに6日かかったが、2017年に計画完成後は1日ですむ、としている。
だが1日あれば、北の攻撃でソウルが大損害を被る公算は高いし、韓国軍にとっては北の地下陣地のロケット砲、長距離砲の正確な位置を空からはつかみにくいから、結局は地上部隊が突進し陣地を制圧する必要が出そうだ。
北朝鮮は射程500kmないし1000kmの短距離弾道ミサイル「スカッド」約800発、射程1300kmの準中距離ミサイル「ノドン」約300発を保有していると韓国国防省は見ている。 核弾頭は20発程度と推定されるが、戦争になれば、韓国が核攻撃を受ける可能性は高く、人的、物的損害は1994年の見積もりを大幅に上回ると考えざるをえない。
トランプ氏は「こちらで死ぬわけではない」と言ったそうだが、韓国には米軍2万8000人、米民間人約20万人がおり、日本には米軍4万7000人(艦隊乗組員を含む)、民間人5万人余がいるから、米国人にも相当の死傷者が出るのは不可避だ。だが米本土の大都市をICBMで攻撃される場合にくらべれば、はるかに“まし”という判断も核戦略としてはあり得るだろう。
もし米軍が北朝鮮を攻撃すれば、その発進基地や補給拠点となる日本の米軍基地――横須賀、佐世保、三沢、横田、厚木、岩国、嘉手納などもミサイル攻撃の目標となる公算は高い。崩壊が迫り自暴自棄となった北朝鮮は東京も狙いかねない。
攻撃目標の位置は不明
自走式、山間部から発射
もし米軍、韓国軍が一挙にすべての北朝鮮の弾道ミサイルを破壊できれば良いが、そもそも目標がどこにあるのか、緯度、経度をリアルタイムでつかめないと攻撃はできない。
ミサイル発射機はトレーラー式か、自走式で、山岳地帯のトンネルに隠れているから偵察衛星で発見するのはほぼ不可能だ。トンネルの入口を撮影してもダミーか本物かは分かりにくい。
偵察衛星が常時北朝鮮を監視していて、ミサイルがトンネルから出て来たところを攻撃できるように思っている人も少なくない。
だが偵察衛星は約90分周期で地球を南北方向に周回し、地球は東西に自転するから、各地の上空を時速約2万7000kmで1日にほぼ1回通過する。北朝鮮上空は1分程で通るから、飛行場や人工衛星打ち上げ用の宇宙センター、港などの固定目標は撮影できるが、移動目標はつかめない。米国は光学偵察衛星5機、レーダー偵察衛星4機を持ち、日本は光学衛星、レーダー衛星(夜間用)各2機を上げている。計13機だがそれでも1日に計20分程度しか撮影できないだろう。
静止衛星にも攻撃目標を探す能力はない。赤道上空を約3万6000kmで周回する静止衛星は、この高度だと衛星の角速度(1分で何度変わるか)が、地球の自転と釣り合って、地表からは静止しているように見える。電波の中継には適しているが、偵察衛星の70倍から100倍の高度だけに、ミサイルなどは見えず、発射の際に出る大量の赤外線を探知して警報を出すだけ。攻撃の役には立たない。
ジェットエンジン付の大型グライダーである無人偵察機「グローバルホーク」はカメラ、レーダー、送信機を付け、高度2万m近くで30時間以上飛べるから、常に数機を北朝鮮上空で旋回させておけば発射機が出てミサイルを立てている状況を撮影できるだろう。 だが低速で一定の地域上空で旋回していれば、北朝鮮が持っているソ連製の旧式対空ミサイルも約3万mの高度に達するから、簡単に撃墜される。公海上空から斜め下を監視するのでは、内陸の山間部の谷間に出てきた弾道ミサイルは発見できない。
「米国第一」の予防戦争で
「認識が一致」しては大変
安倍首相は7月31日、トランプ大統領と約50分の電話会談をした後、「さらなる行動を取って行かねばならない、との認識で完全に一致した」と語った。だが「アメリカファースト」の予防戦争を考える人と「完全に一致」されては国の存亡に関わる。
8月3日の内閣改造で防衛相に再任された小野寺五典氏は「敵基地攻撃能力」の保有に積極的で、グラム議員と考え方は合致する。安倍総理は当面玉虫色の見解を示しているが、来年中に大筋が決まる次期中期防衛力整備計画(2019年度から5年)ではこれが焦点となりそうだ。
現実には米国、韓国の同意なしに日本が北朝鮮を攻撃し、朝鮮戦争を再開させる訳にはいかないから、米、韓軍が攻撃するなら手伝う形になろう。だが7月28日のICBM発射を予期できなかったことが示すように、米国、韓国にも標的の位置は確実には分からない。
韓国軍は北朝鮮全域に達する地対地ミサイル「玄武2B」等を1700発も持ち、対地攻撃用の戦闘爆撃機が300機以上あるから、日本の戦闘攻撃機F2(総数92機)の一部が攻撃に加わったり、日本海上の潜水艦、護衛艦から巡航ミサイル、「トマホーク」数十発を発射したりしても、たいした助けにならず、むしろ米・韓軍の指揮・統制を混乱させる「お邪魔虫」かもしれない。
もう一つの「さらなる行動」となりそうなのはイージス艦が搭載する迎撃ミサイル「SM3ブロックIA」(1発約16億円)を進歩型の「SM3ブロック2A」(価格は2倍以上)に換装する計画だ。
現在のものは射程1000km、最大高度500kmで準中距離弾道ミサイル(「ノドン」級)にしか対抗できないが、日米共同開発の新型「ブロック2A」は第2、第3段ロケットも第1段と同様に太くし、射程2000km、最大高度1000kmに達する。これは本来グアムなどに届く中距離ミサイル「ムスダン」等に対抗するために開発され、弾道ミサイルの軌道の頂点付近での迎撃をめざす。少し工夫をすれば、北朝鮮から米本土に向けて発射されたICBMが上昇中に大気圏外に出たあたりで迎撃することも可能となりそうだ。
もしそうなら日本海で待機する日本のイージス艦は、北朝鮮から米本土に向け北東方向に飛行するICBMを中国東北の吉林省、黒龍江省の上空で撃破できることになる。だが米国が韓国、日本を犠牲にしても“自国の安全が第一”との姿勢を示すなら、なぜ日本のイージス艦が米国に向かうICBMを撃墜してやるのか、との疑問が出そうだ。
(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)
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