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ハリー・ハリス海軍大将(2016年12月7日撮影、資料写真、U.S. Marine Corps Photo by Lance Cpl. Patrick Mahoney/Released)
米太平洋軍司令官が語ったアジア太平洋の3つの脅威 強固な日米同盟で北朝鮮、中国、ISに対抗を
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50675
2017.8.3 北村 淳 JBpress
7月28日、駐米日本大使が主催した会合(第4回Japan-U.S. Military Statesmen Forum )でアメリカ太平洋軍司令官のハリー・ハリス海軍大将が講演し、アジア太平洋地域(太平洋からインド洋にかけての広大な海域の沿岸諸国ならびに海域)が直面している軍事的脅威について説明した。説明の概要は以下のとおりである。
アジア太平洋地域が直面する軍事的脅威
(1)北朝鮮の核弾道ミサイル
ICBMを手にした北朝鮮は、国際平和と安定に対する「明確かつ差し迫った」脅威である。それは、日本とアメリカにとってだけでなく中国にとってもロシアにとっても、そして世界中にとっても共通の脅威といえる。なぜならば、北朝鮮のミサイルは日本やアメリカのみならず、あらゆる方向に向けることができるからである。したがって、国際社会は協調して、とりわけ日米韓は緊密に連携して北朝鮮に対する経済制裁を強化し続けなければならない。
北朝鮮に対する経済制裁という外交努力が効を奏するには、日米韓は現実味のある強力な戦力を見せつける必要がある。そのためにアメリカ海軍はイージス艦を伴った空母打撃群を派遣し、世界最強の攻撃原潜を出動させ、そして爆撃機もこの地域に常駐させている。また、日本の防衛を鉄壁に維持するため、最新最強のF-35戦闘機、P-8哨戒機そしてMV-22(オスプレイ)を展開させているのである。
中国は北朝鮮唯一の同盟国であり、北朝鮮に対して最大の影響力を持っている。そこで、以上のような軍事的支援を伴った北朝鮮に対する経済的・外交的圧力とともに、中国による北朝鮮への経済的圧力が強化されることが、朝鮮半島の平和が保たれるために何よりも大切である。
(2)中国による海洋進出
国際社会が北朝鮮の核兵器開発を牽制するために中国の協力を期待しているからといって、中国による強引な海洋侵出を容認することはできない。今週も(東シナ海上空で)米軍機に対して中国戦闘機が危険な方法で接近して威嚇するという事案が発生した。このような無責任で危険極まりない中国側の行動が(東シナ海や南シナ海の上空で)頻発しているのは、理解に苦しむところである。
中国は、南シナ海に人工島を建設して軍事拠点化し、領域紛争中の海域や島嶼環礁に対する中国の主権を既成の事実としようとしている。それらの軍事施設を伴った人工島は、南シナ海の物理的、政治的な状況を根本的に変えつつある。しかし、かねてより指摘しているように、われわれは“偽の島”を真に受けてはならない。
中国軍艦はアメリカの排他的経済水域内で作戦行動をとっているが、それに対してアメリカは何ら苦言を呈していない。なぜならば、そのような海域は公海であるからだ。ところが、アメリカの軍艦や軍用機が中国軍艦や中国軍機と同じ行動を(中国の排他的経済水域内で)とると中国当局は抗議をしてくる。このように、中国は国際的ルールを選択的に用いているのである。
かねてより繰り返し主張してきたように、中国には現実的な対処、すなわち「このようにあってほしい」と期待するのではなく「このようである」として対処しなければならない。我々は、中国と協調できる部分をより発展させるために、中国と協調できない部分に関して妥協してしまうことは避けねばならない。
(3)ISのフィリピンへの勢力浸透
フィリピンに勢力を浸透させているISも、アジア太平洋地域における大きな軍事的脅威の1つと言える。
フィリピン南部に勢力を張り巡らせているアブ・サヤフ(イスラム原理主義組織)の指導者の1人であるイスニロン・ハピロンは、昨年、ISの東南アジア指揮官に指名されている。(今年の5月から6月にかけて)ミンダナオ島のマラウィ市におけるフィリピン軍治安部隊(アメリカ軍特殊部隊も支援していた)とアブ・サヤフの武力衝突は、東南アジア地域において発生したISの影響を受けた武装勢力による戦闘としては最大規模のものであった。
アメリカ海兵隊とフィリピン海兵隊の対アブ・サヤフ合同訓練
マラウィ市での戦闘は、外国から流入したISのイデオロギーや戦闘資源やノウハウが地元出身者の間にも浸透し、東南アジアにも拡散しつつあることを物語っている。
ISのような暴力的過激組織の勢力の伸張を防ぐためには、国際協力が必要不可欠である。このようなIS打倒のための国際連携に日本は貢献している。たとえば、日本がフィリピンに供与した巡視船や海洋哨戒機などは有用だ。アメリカも、新型哨戒機をフィリピンに提供し、それらはミンダナオ島やスールー諸島での対IS作戦に貢献している。
このような二国間(日本とフィリピン、アメリカとフィリピン)の協力も大切だが、それ以上に効果的なのは多国籍間の協働(共通の目的に向けての協力)である。最近実施されたアメリカ、日本、オーストラリア、そしてインドによる合同軍事演習は、批判を加える勢力もあるが、民主主義という共通の価値を分かち合って集結する安全保障協力関係の構築努力と言える。
講演するハリス司令官(写真:米国防総省)
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以上のようにハリス司令官は北朝鮮の核ミサイル、中国の海洋進出、そしてISの東南アジアへの浸透がアジア太平洋地域の3大軍事的脅威であることを説明した。
同時に、アメリカがアジア太平洋地域を最も重視し、今後も最優先で関与していくことが、アメリカの指導者たちの共通認識であることを強調した。
ハリス大将によると、これまでの70年と同様に、アメリカ太平洋軍は今後もその強力な統合戦力で睨みを効かすことによりアジア太平洋地域の軍事的安定を維持していき、アメリカが太平洋国家そして太平洋のリーダーとしての地位に留まり続ける決意であるという。そして、世界中で脅威が高まり、より強いリーダーシップが求められている今日ほど強固な日米同盟が求められている時はない、と日米同盟の必要性を繰り返し強調した。
米海軍が誇る空母打撃群
いまだに定まっていない中国に対する姿勢
本コラムでも何度か触れたように、ハリス司令官は太平洋軍司令官に就任する直前の太平洋艦隊司令官時代より、中国による好戦的な海洋進出政策に対して強い警鐘を鳴らし続け、対中強硬派とみなされていた。しかし、極めて“平和愛好”的な日本主催の会合での講話であることに加え、アメリカとしては中国に北朝鮮への何らかの圧力を発揮してもらうことを期待せざるを得ないという状況のため、ハリス大将の中国に対する姿勢は上記のように穏やかなものであった。
ただし、アメリカ海軍関係者たちの間では、来年の「リムパック2018」に中国を招待したことを巡って、それを容認したとしてハリス司令官を含む海軍やペンタゴン上層部を強く批判する人々も存在する。
また、アメリカ軍関係者たちの間では、東アジア地域での新興覇権国である中国と既成覇権国であるアメリカは武力衝突が避けられないという「トゥキディデスの罠」に関する議論も半年以上にもわたって続いている。さらには、最近、中国海軍首脳が明らかにした最新鋭潜水艦技術を巡っても、アメリカ海軍関係者たちの間では中国に対する姿勢を巡って意見の対立が見られる。
そのため、果たしてトランプ政権がアジア太平洋を最優先させるのか、中国に対して封じ込め的姿勢を取るのか? それとも融和的姿勢を取るのか? については、いまだに定まっているとは言えない状況である。
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