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文大統領のTHAAD配備問題への中途半端な対応
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10087
2017年7月17日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、「韓国の防衛上の大失策:新大統領はミサイル防衛についての中国の圧力に屈した」との社説を6月12日付けで掲載、文在寅韓国大統領が6月7日にTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイルの配備を一部中断する決定をしたことを批判しています。社説の要旨は次の通りです。
6月7日のミサイル防衛の配備中断という文在寅の決定は、韓国の新大統領が北の脅威および米、中、日との関係にどうアプローチするかを示している。文は中道左派の前任者たち(注:廬武鉉や金大中)のように地域強国の間でバランスをとり、北朝鮮との協商を交渉したいとしている。このナイーブさが韓国の安全保障を危機にさらす。
米国のTHAADが北のミサイル攻撃に有効なことは明らかである。費用も米国が10億ドル負担するので問題ない。しかし、中国がTHAADのレーダーで中国の空域を覗き見られることに怒っているために議論が生じている。中国は非公式な制裁を韓国に課している。
文は中国の圧力に屈して、環境評価をするまで新しい発射台の配備を2年間、遅らせる決定をした。国家安全保障補佐官は、THAAD配備に関する米韓合意を守ると述べたが、他の大統領側近はTHAADの必要は「緊急」ではないと述べた。多くの韓国人は信じられない気持ちでいる。コリア・ヘラルド紙は「北のミサイル実験の頻度が増す中、THAADの配備は緊急課題である。対ミサイル能力は韓国にとり生き残りの問題である」と言っている。
文は5月、米国のディック・ダービン上院議員(民主党)に「THAAD配備の決定は逆転させない」と言ったが、ダービン議員は、「文は米国との協力よりも中国との協力で北朝鮮を封じ込めるほうが可能性が大きいと考えている」と懸念を表明した。
THAADのレーダーと前政権の時に配備された2基の発射台を撤去しない限り、北京をなだめることはできないだろう。海外でも国内でも皆を喜ばせようと言う文の試みは逆効果になろう。北は新しい政権を試すためにミサイルその他の軍事挑発をエスカレートさせかねない。
文は誤りを正すべきである。安全保障が問題になっている時にあって、環境評価は見送りうるし、そうすべきである。
出典:‘South Korea’s Defense Blunder’(Wall Street Journal, June12, 2017)
https://www.wsj.com/articles/south-koreas-defense-blunder-1497309007
この社説は、的を射ています。今回の文在寅大統領の決定は、理解しがたい決定です。
追加の4基の発射台の配備を環境評価が終わるまで中断すると言いますが、すでに配備済みの2基の発射台とそのためのレーダーの配備はそのまま継続されます。中国は、高性能のレーダーが中国のミサイル基地の情報も入手できることをTHAAD配備に反対する理由としてきました。したがって、今回の決定で中国側を満足させることはできません。
中途半端に中国に譲る政策は中国に期待を持たせ、更なる要求を引き出すことになりかねません。北の脅威が強まる中、THAAD配備をせざるを得ないとの姿勢を貫くのが正解であったと思われます。
THAADの追加4基の搬入が大統領に報告されていなかったということで調査がなされ、6月5日、国防省の国防政策室長(中将)が「隠ぺい」したとの調査結果が大統領府から出されました。6月7日には、追加4基の配備が、環境評価が終わるまで見送られることになりました。国家安全保障にかかわる問題についての決定としては、極めて異例な経緯、理由づけに基づくものです。
北の脅威について文在寅大統領が深刻にはとらえていない証左であると思われます。日米韓が協力して対処しなければならない北朝鮮問題について、文在寅大統領は不協和音の素になる可能性が大です。
今後、どう文大統領を教育していくか、米国とも相談していく必要があります。
なお、ニューヨーク・タイムズ紙も6月12日付で本件について社説を掲載しています(‘South Korea, Caught Between Superpowers’)。同社説は、「北との交渉においては、米中韓の統一戦線が必要である。二つの超大国に挟まれた韓国の立場の配慮が必要」という主張をしています。3か国の団結保持を優先せよとの意見ですが、これは、無原則な対応になりかねない意見です。
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