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北朝鮮ミサイル攻撃リスクへの対応シナリオ 東アジア地域の将来像をイメージした日米中韓協力のあり方 2017.4.17(月
http://www.asyura2.com/17/warb20/msg/166.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 4 月 17 日 07:18:48: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

北朝鮮ミサイル攻撃リスクへの対応シナリオ
東アジア地域の将来像をイメージした日米中韓協力のあり方
2017.4.17(月) 瀬口 清之
【写真特集】北朝鮮、金日成主席生誕105年の軍事パレード
北朝鮮の首都・平壌で行われた軍事パレードに登場したミサイル(2017年4月15日撮影)〔AFPBB News〕
1.深刻なリスクへの直面は昨年9月に予想されていた

朝の出勤前にテレビを見ると、バラエティ的なニュース番組の中でも北朝鮮による在日米軍基地を狙ったミサイル攻撃のリスクが現実的な問題として取り上げられるようになっている。

昨年9月に筆者が米国に出張した際に、ある著名な外交専門家が、今後2年以内に韓国または日本が北朝鮮から直接ミサイル攻撃を受ける可能性は排除できないため、それを前提とした事前準備が必要である。これが来年以降の日米両国政府間の最重要課題の1つとなる可能性が高いと指摘した。

この点については、帰国直後に発表した出張報告(「 米国大統領選挙の行方とTPP、北朝鮮リスク対応等への影響」キヤノングローバル戦略研究所HP掲載*1)で紹介した。

筆者自身、この話を初めて聞いた時には、正直半信半疑だったが、足元の状況はまさにこの通りになっている。

仮に北朝鮮が日本の領土に直接ミサイル攻撃を行った場合、米国政府関係者、および政府に近い専門家は、即時反撃以外に選択肢はないとの見解で一致していた。

それが日米同盟、日米安全保障条約の意味するところであるとの彼らの言葉には決然たる責任感が感じられ、直接その言葉を聞いた時には緊張感を伴う安堵の想いを味わった。

実際に日本国民が北朝鮮によるミサイル攻撃リスクを実感し始めたタイミングは前述の外交専門家の予想の範囲の中でもかなり早い時期に属する。時期が早まった主な要因はドナルド・トランプ政権の成立である。

昨年9月時点では、有識者の多くがヒラリー・クリントン氏の大統領就任を予想していた。クリントン政権が成立していれば、バラク・オバマ政権の外交方針との連続性も考慮し、これほど早いタイミングでシリアや北朝鮮に対する厳しい対応を選択していなかった可能性が高い。この点については、殆どの米国の有識者も昨年9月時点では予想できていなかった。

今後の日本としての対応策を考えるためには、北朝鮮リスクに関するいくつかのシナリオを整理しておく必要がある。

筆者は安全保障の専門家ではないため、専門的な見解は安全保障問題の専門家に委ねるしかない。しかし、現時点で考えつくいくつかの可能性について自分なりに整理しておくことが、今後専門家の洞察力に富む見解を学ぶ際にも参考になると考え、本稿をまとめることとした。この初歩的な概念整理が少しでも一部の読者のお役に立てれば嬉しく思う。

*1=詳細はURL : http://www.canon-igs.org/column/1601018_seguchi.pdfのp.6〜7を参照。

2.日本本土が北朝鮮のミサイル攻撃を受けた場合

もし北朝鮮が日本国内の米軍基地を狙ってミサイル攻撃を実施した場合、日本は個別的自衛権の行使として、即座に米軍と共に北朝鮮に対する反撃を開始すると考えられる。

中途半端な反撃は北朝鮮による2次的な攻撃による日本国内の被害を大きくすることから、初回の反撃で北朝鮮の攻撃能力を壊滅させることが重要である。

仮に北朝鮮からのミサイルによる先制攻撃に対して、日米両国、そして韓国が加わり、3国だけで反撃する場合、戦後処理は日米韓3国の主導で進められる。

それは中国として受け入れがたい。なぜなら、北朝鮮という緩衝地帯がなくなった状態で、米軍が朝鮮半島に駐留することを排除できなくなり、中国は喉元に米国の軍事的脅威を突きつけられることになるためである。

中国としてそうした事態を避けるためには、中国が日米韓3国とともに攻撃に加わり、北朝鮮制圧のために協力し、重要な役割を担うしかない。

ただ、その場合でも日米両国が相対的に重要な役割を担うことになる可能性が高く、戦後処理による朝鮮半島統治のあり方を考慮すれば、中国としてはこのシナリオを回避したいと考える可能性が高い。

常識的には北朝鮮が日米中韓4国を敵に回して戦争を始めることは考えにくく、そこから類推すれば、日本本土へのミサイル攻撃もあり得ないはずである。しかし、現在の北朝鮮の金正恩政権はトランプ政権との関係で何をするか分からないため、上記のようなシナリオを全く否定することはできないと考えられる。

3.日本本土へのミサイル攻撃前に中国主導で北朝鮮を制圧する選択肢

もし米中両国が協力し、そこに韓国も加わって、日本本土へのミサイル攻撃を実施する前に北朝鮮を制圧し、朝鮮半島を安定的に統治する方向を模索する場合、日本の関与は大幅に低下する。

その場合、中国が最も重要な役割を担えば、朝鮮半島の戦後処理は中国主導で進められる可能性が高まる。米国としても泥沼の戦争に巻き込まれるリスクがなくなるため、この方式を歓迎するはずである。おそらく今月実施されたトランプ大統領−習近平主席会談においてこの点が話し合われたと推測される。

中国主導で北朝鮮リスクを制圧し、朝鮮半島の南北統一を韓国と共に実現し、韓国駐留米軍が撤退すれば、中国として最も安心できる形での戦後処理となる可能性が高い。

この場合は、日本も領土を攻撃されないで済むことから、日本にとっても望ましいシナリオである。

韓国も朝鮮半島の統一と非核化が実現し、日本が米国とともに朝鮮半島への影響力を強める懸念が小さくなるため、日本の介入を警戒する韓国にとっても望ましい選択肢の1つであると考えられる。このように日米中韓4国の利害は一致する。

そうであるとすれば、北朝鮮がミサイル攻撃を自制しないことが判明した場合には、このシナリオを実現することが関係4か国の共通目標の1つになり得る。

ただし、この選択肢を選ぶ中国指導層の政治的決断は非常に難しいと考えられる。

4.戦後処理としての半島統治

日本としては朝鮮半島の政治経済情勢が安定し、非核化が実現しさえすれば、半島の統治に強く介入する権限を持つ必要はない。

朝鮮半島情勢が安定を回復し、半島全体の経済・社会の復興を目指す場合、日中韓3国が経済発展促進の面で緊密に協力することが重要である。米国も何らかのコミットをして、朝鮮半島の安定化に貢献すると考えられる。

その場合、日本が果たす役割は非常に大きい。北朝鮮地域に対する直接的支援ももちろんだが、それを中心的に推進する役割を担う韓国および中国自身の経済基盤の安定保持が極めて重要である。

特に両国政府が雇用と税収を確保できる産業基盤整備のためには、優良な日本企業の直接投資拡大による中韓両国の産業競争力の強化が極めて重要である。

憲法の制約上、安全保障面での日本の役割は限定的とならざるを得ないが、経済協力面は何の制約もなく積極的な役割を担うことが可能である。長期的にはそれが地域経済・社会の安定持続のために非常に重要な役割となる。

以上は北朝鮮リスクのシナリオに関する部分的かつ初歩的な概念整理に過ぎず、このほかにも様々なシナリオや洞察があり得る。

重要なことは、仮に北朝鮮リスクを排除するために米国、あるいは中国の側から積極的な行動を起こす場合には、以上のような戦後処理の展望を関係国で共有したうえで、具体的な対応策を実行に移すことが必要であるという点である。

もし日本国民が北朝鮮リスクを現実のものとして受け止め始めるのであれば、戦後処理を展望して東アジア地域の将来像について、具体的なグランドデザインを描く努力も開始すべきである。

その過程では、かつて日本国民が米国において民族差別を経験した苦しみを教訓とし、日本国民自身が他民族を差別し危害を加えた経験に対する反省も深く心に刻み、そうした過去の過ちを二度と繰り返さない覚悟を全国民が共有することも併せて肝に銘ずるべきである。

中東やアフリカなど世界の紛争地域において、欧米諸国が徹底した武力介入により一時的に平和を回復しても、長期的に経済社会の安定が実現しない大きな原因は、権力の空白が生まれることを防ぐことができないためである。

武力による平和回復は短期的には有効であるが、権力の空白を生む場合には当該地域の安定回復は極めて難しい。長期的な地域の安定のためには、生活インフラ・産業基盤の整備と国家ガバナンスの回復といった内生的発展基盤の形成が不可欠である。

そうした観点に立てば、北朝鮮に対しても武力介入を回避、あるいは最小限に留め、長期的に経済社会の健全な発展を促進する政策を実施することが望ましいことは言うまでもない。

アジアでは現在、ミャンマーやカンボジアが徐々に安定を回復しつつあるが、その原因は外部からの武力制圧に頼らず、長期的に内生的発展基盤の形成が行われたことが大きいと考えられる。

今回の北朝鮮問題も権力の空白を生むような方法を避け、アジア型の紛争解決手段の成功例となることを期待したい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49751



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2016.10.17
米国大統領選挙の行方と TPP、北朝鮮リスク対応等への影響
<2016 年 9 月 19 日〜10 月 2 日 米国出張報告>
キヤノングローバル戦略研究所
瀬口清之
<主なポイント>
○ 7 月後半の共和・民主両党の党大会で大統領候補指名が行われた後、トランプ氏の
戦死者の遺族に対する問題発言から同氏の支持率が低下した。その後、クリントン氏
の健康不安等が取り沙汰されたこともあって、9 月中旬にはトランプ氏が盛り返した。
○ しかし、9 月 26 日に行われた第 1 回テレビ討論会(過去最高の視聴者数に達した)
を機に、クリントン氏が再び優勢となり、支持率の差が拡大した。
○ トランプ氏の支持者層は熱烈な支持者が多いのに対して、クリントン氏の支持者層
はトランプ氏を大統領にしたくないので仕方なくクリントン氏を選んでいるといっ
た消去法的観点からの支持者の比率が高いと言われている。このため、大統領選挙当
日に何があっても投票に行くという熱意が乏しい人が多いことから、何らかの事情で
投票率が低い場合にはトランプ氏が有利になると見られている。
○ 仮に TPP 法案が米国議会の承認を得られない場合には、TPP 成立が不可能となり、
米国のアジア太平洋地域における影響力は深刻なダメージを受ける。それのみならず、
同地域の自由貿易政策推進の主導権が米国から中国に移る可能性が高まり、TPP が
成立する場合に比べて、貿易・投資の自由化推進のテンポが大幅にスローダウンする
可能性が高いと考えられる。
○ TPP の議会承認を巡る環境は以前に比べて一段と厳しさを増している。3 月時点で
はレイムダック期間中の承認可能性は 50%以下と言われていた。6 月になるとその
確率が 30%以下にまで低下し、9 月下旬時点では 10%以下との見方が大勢である。
それでもオバマ政権関係者及び政府内部の関係者は成立を諦めていない由。
○ 国連総会出席のためにニューヨークに滞在していた安倍首相が、ヒラリー・クリン
トン氏からの要望を受けて同氏と面談した。クリントン氏が大統領選で勝利すれば、
同政権発足当初から両国首脳同士が良きパートナーであるとの心象を共有できるた
め、日米両国の緊密な関係が一段と強固なものとなる可能性が高い。
○ 一部の専門家は、今後 2 年以内に韓国または日本が北朝鮮から直接ミサイル攻撃を
受ける可能性は排除できないため、それを前提とした事前準備が必要である。これが
来年以降の日米両国政府間の最重要課題の一つとなる可能性が高いと指摘した。
○ この 1、2 年、中国人留学生が中国の政治制度やイデオロギー問題に関して発言を
控えるようになっている。これは中国国内のイデオロギー・言論統制が影響している
ものと推察されている。米国の大学関係者はこの点を憂慮している。
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1. 米国大統領選挙の推移と勝敗の行方
前回の 6 月出張時点では、その前の 3 月出張時に比べて、ヒラリー・クリントン
候補をドナルド・トランプ候補が追い上げる形で両候補の支持率の差が縮小し、僅
差となっていた。このため、選挙の行方を予想することは難しく、選挙当日になる
までわからないとの見方が多かった。
7 月後半の共和・民主両党の党大会で大統領候補指名が行われた後、トランプ氏
の問題発言から同氏の支持率が低下したが、その後、クリントン氏の健康不安等が
取り沙汰されたこともあって、9 月中旬にはトランプ氏が盛り返した。
しかし、26 日(月)の夜に行われた第 1 回テレビ討論会(過去最高の視聴者数
に達した)を機に、クリントン氏が再び優勢となり、支持率の差が拡大した(10
月上旬に筆者が米国出張から戻った後、トランプ氏の 2005 年の女性蔑視発言の公
開映像が新たな問題となり、同氏への批判はさらに厳しさを増している)。
以下では、この間の経緯の概略を解説し、今後の米国の対外政策への影響等につ
いて米国の国際政治専門家・有識者等の見方を紹介する。
(1)7 月の民主党大会後の推移
7 月 26〜28 日(米国現地時間)にフィラデルフィアで開催された民主党全国大
会において、初日の 26 日にヒラリー・クリントン氏を大統領候補に指名し、28 日
の最終日には同候補が受諾演説を行った。28 日には米兵だったイスラム教徒の息
子をイラク戦争で亡くした両親が応援演説に立ち、父親が感動的なスピーチを行っ
た。自分の息子はイスラム教徒だったが、自分の命を犠牲にしてアメリカのために
戦ったことを訴え、イスラム教徒の入国禁止を主張するドナルド・トランプ氏を非
難した。とくに米国憲法のブックレットを取り出し、トランプ氏に対して「あなた
はこれを読んだことがあるのか」と訴えたシーンは多くの米国民を深く感動させた
と言われている。
この演説に対して、トランプ氏は、父親が演説をする間、その横で黙って立って
いた母親に対して、彼女が発言しなかったのはイスラム教徒の習慣上父親から発言
するなと言われていたからではないのかといった趣旨の発言を行った。戦死者の遺
族に対するこうした批判は米国ではタブー視されているうえ、イスラム教徒に対す
る民族的偏見とも受け止められ、トランプ氏の発言は共和党内部を含め各方面から
厳しい批判を受けた。
この問題発言が出る前までは、世論調査でのクリントン候補の支持率のリードは
僅差に過ぎず、選挙の行方はどうなるかわからないとの見方が多かった。しかし、
この問題発言の直後、世論調査におけるクリントン氏のリードは約 10%ポイント
にまで拡大し、同氏の圧勝ムードが強まった。
しかし、クリントン氏は、8 月入り後、メディアへの露出を抑えて慎重な姿勢を
保ったことから、徐々にリードの差が縮小した。さらに、9 月 9 日にニューヨーク
で開かれた資金集めの会合において、同氏の支持者を前に油断して、次のような趣
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旨の失言をしたと報じられた。
「トランプ氏の支持者の半分は嘆かわしい(deporable)人々である。彼らは人
種差別主義者、男女差別主義者であり、同性愛者やイスラム教徒に偏見を持つ人々
である。そしてさらに言えば、彼らの一部は救いようがない(irredeemable)。」
この発言は共和党のトランプ氏支持者に向けられたものとはいえ、一般の選挙民
を侮辱する発言として批判された。
9 月 11 日には、ニューヨークで行われたアメリカ同時多発テロ事件の追悼式典に
出席していたクリントン氏が、体調不良から式典の途中で退席した。その際に、よろ
けて自力で歩けなくなり、隣の人に支えられながら車に乗り込むシーンが全米に報じ
られ、同氏の健康不安説が全米の注目を集めた。トランプ陣営は従来から、クリント
ン氏が国務長官時代に転んで頭を打った後に長期療養したが、その時の後遺症が重く、
健康状態は良くないことを訴え続けていたため、この出来事はなおさら注目を浴びた。
加えて、同氏がその時肺炎にかかっていたことを周囲のごく一部の限られた人々に
しか伝えていなかったことが報じられ、それが同氏の秘密主義的特徴の表れとして、
併せて批判の対象となった。
クリントン氏の側における、以上のような相次ぐ問題発生により、8 月時点では
約 10%ポイントまで広がっていた支持率の差がほぼなくなり、両候補の支持率は
再び僅差となった。このため、26 日(月)の第 1 回テレビ討論会直前の時点では、
選挙の行方は混沌とした状態に戻っていた。
(2)第 1 回テレビ討論会後にクリントン氏若干優位に
そうした状況で 26 日(月)21:00(米国東海岸時間)から第 1 回のテレビ討論
が行われた。その討論会の中身の受け止め方について数名の識者に伺ったところ、
概ね以下のような見方で一致していた。
最初の 30 分程度はトランプ氏が理性的で落ち着いた態度をとっていたため、そ
れまでの過激な問題発言を繰り返していたことによる不信感が後退し、好印象を与
えた。しかし、時間の経過とともに徐々に理性的なコントロールが効かなくなり、
感情を露わにしながら、自分の発言の順番を待たずにクリントン氏の発言を途中で
遮って発言を繰り返すようになった。このため、終始冷静さを保ち、見識と経験に
支えられた政策論議を展開するクリントン氏との差が明確になった。クリントン氏
の支持者は後半の議論の様子を見て、この討論会でのクリントン氏の圧勝を確信し、
安心した由。
この討論会の 2、3 日後に討論会での議論の勝敗に関する世論調査の結果が公表
されたが、クリントン氏勝利との回答が 6 割を占め、トランプ氏勝利と回答したの
は 3 割にとどまった。
ただ、この評価の大きな差が支持率の格差拡大に直結するわけではなかった。7
月下旬の民主党大会後に約 10%まで拡大した格差が 9 月中旬に僅差にまで縮小し
たが、この第 1 回テレビ討論によってクリントン氏とトランプ氏の支持率の差は約
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5%ポイントに拡大したに過ぎない。その格差が維持されるか、再び縮小に向かう
かは予想がつかないとの見方が多い1。
また、トランプ氏の支持者層は熱烈な支持者が多いのに対して、クリントン氏の
支持者層はトランプ氏を大統領にしたくないので仕方なくクリントン氏を選んで
いるといった消去法的観点からの支持者の比率が高いと言われている。このため、
大統領選挙当日に何があっても投票に行くという熱意が乏しい人が多いことから、
何らかの事情で投票率が低い場合にはトランプ氏が有利になると見られている。
以上のような理由から、10 月初時点では、クリントン氏が若干優位に立ってい
ることは間違いないが、それが選挙での勝利に確実に結びつく保証はまだないと見
られていた。
2. 選挙の行方と米国の対外政策への影響
(1)米国議会による TPP 承認の可能性
大統領選挙の行方は依然として不透明であり、選挙後の米国の対外政策はどちら
の候補が勝利するかによって大きく左右される。トランプ氏が勝利する場合には、
大きな変化が生じることは確実視されているが、どのような政策方針が打ち出され
るかはわからないとの見方が大勢である。一方、クリントン氏が勝利する場合には、
基本的にオバマ政権の対外政策が受け継がれ、継続性・一貫性が概ね維持されると
見られている。
とくに TPP は米国のアジア太平洋政策の最も重要な柱の 1 つであり、その成立
の行方が重大な関心を持って注目されている。
仮に米国議会での承認が得られない場合には、TPP 成立が不可能となり、米国
のアジア太平洋地域における影響力は深刻なダメージを受ける。それのみならず、
同地域の自由貿易政策推進の主導権が米国から中国に移る可能性が高まり、TPP
が成立する場合に比べて、貿易・投資の自由化推進のテンポが大幅にスローダウン
する可能性が高いと考えられる。これは最近の米国自身の保護主義化傾向の強まり
と相俟って、グローバル経済の保護主義化を助長することが強く懸念されている。
そうした事態に陥ることを防ぐためにも、米国議会による TPP 承認は極めて重要
である。ただし、実際にはその実現の見通しはかなり暗いとの見方しかない。
<TPP 議会承認を巡る様々な可能性>
オバマ政権はその点を十分認識しており、選挙終了後直ちにレイムダック期間中
の議会承認取り付けのために動き始める用意を進めている模様。USTR や商務省の
担当官も TPP の議会承認に向けて全力を投入する姿勢を崩していない由。

1 現地時間 10 月 9 日(日本時間 10 月 10 日)にミズーリ州セントルイスで行われた第2
回テレビ討論会でも、討論の評価に関するクリントンの優位は変わらなかったが、その
差は第1回ほどの大差ではなかった。しかし、トランプ氏の女性蔑視発言問題の影響が
大きく、世論調査での支持率の格差は、むしろ若干拡大した。
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ただし、議会承認を巡る環境は以前に比べて一段と厳しさを増している。3 月時
点ではレイムダック期間中の承認可能性は 50%以下と言われていた。6 月になると
その確率が 30%以下にまで低下し、9 月下旬時点では 10%以下との見方が大勢で
ある。それでもオバマ政権関係者及び政府内部の関係者は成立を諦めていない由。
とは言え、もしトランプ氏が大統領選に勝利すれば、米国の保護主義化は一段と
加速し、レイムダック期間中を含めて TPP 成立の可能性はほぼなくなると見られ
ている。
一方、クリントン氏が勝利する場合には、以下の 2 つの可能性が指摘されている。
クリントン氏が僅差で勝利する場合には、保護主義化を支持する米国民の意向を
より重視せざるを得なくなるため、もしレイムダック期間中に議会承認が得られな
い場合には、当面成立は難しくなる可能性が高い。もしクリントン氏が当選直後に
TPP の議会承認に向けて動けば、選挙公約違反であるとの批判が強まることが必
至であるためである。
クリントン氏が大差で勝利する場合には、レイムダック期間のオバマ政権にとっ
ても追い風となる。また、もしオバマ政権の下で議会承認を得られない場合でも、
クリントン政権発足後、時機を見て TPP 交渉参加国との再交渉、あるいは付帯条
項を付与することなどによって TPP の議会承認を取り付ける方向に動く可能性は
十分考えられるとの見方が多い。ただし、その場合でも選挙公約で TPP への反対
を主張した以上、就任 1 年目から公約を無視して動くことは難しく、2 年目以降に
始動すれば、成立は 2019 年頃にまでずれ込むとの見方が多い。
(2)日米関係への影響
9 月 19 日、国連総会出席のためにニューヨークに滞在していた安倍首相が、ヒ
ラリー・クリントン氏からの要望を受けて同氏と面談した。大統領選挙期間中に大
統領選の候補者と会談するのは異例である。同時期にドナルド・トランプ氏との会談
は行われなかったことから、安倍政権としてクリントン氏を応援する姿勢が明らかに
なったと見られている。
これはかなり大胆な賭けであるとの見方が多い。これでクリントン氏が勝利すれば、
同政権発足当初から両国首脳同士が良きパートナーであるとの心象を共有できるため、
日米両国の緊密な関係が一段と強固なものとなる可能性が高い。しかし、仮にトラン
プ氏が勝利する場合には、マイナス効果を生むと考えられる。
この点についてある日本通の国際政治学者は、もしトランプ氏が勝利すれば、対日
政策方針の転換によって日本が被るダメージの大きさは甚大であると予想されるため、
この程度のマイナス効果は大した問題ではなくなる。そうした点を含めて判断すれば、
今回安倍首相がクリントン氏と会見を行ったことのリスクはそれほど大きなものでは
なかったとの見方を示した。
また、日米関係に詳しい複数の専門家は、次のメリットを指摘した。これまで一
般的に自民党議員やその関係者は共和党には個人的に親しく交流できる人脈を持
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ち、親近感を感じる一方、民主党との関係においては個人的なパイプがないため、
それほど緊密ではなかったことが懸念されていた。しかし、クリントン政権が発足
すれば、最初から首脳同士の緊密な信頼関係が構築され、これまでの自民党の米国
民主党に対する見方が転換する可能性が期待できるとしている。
自民党関係者が民主党に対して親近感を持っていないのは、1980 年代の共和党
レーガン政権時代に、民主党が共和党によって否決されることを前提に、地元選挙
民を意識して日本に対して厳しい要求を突き付けた。これを受けて日本のメディア
が、民主党の厳しい対日要求を大々的に報道したため、日本国内で民主党に対する
反発が強まった経緯がある。
実際、当時の民主党による厳しい対日要求法案に関する議会答弁が行われた現場
に居合わせた国際政治学者によれば、その場には民主党議員も共和党議員も一人も
出席せず、答弁に立つ民主党議員だけが一人で話し続けて記録を残し、地元選挙区
向けのアピール材料として利用していたのが実情だった。その状況を日本のメディ
アは知っていたはずであるが、そうした背景を説明せずに日本向けに報道していた。
これが上記のような誤解を招いた事情だそうである。
ただし、こうした自民党と米国民主党との関係に関する見方には必ずしも賛成で
きないとの声も聞かれた。すなわち、日米関係に精通している政府関係者等は、2015
年以降、安倍首相の上下両院合同会議における日本の首相として初めての演説実現、
日米防衛協力の枠組みの見直し、TPP 交渉への協力、オバマ大統領の仲介による
日韓関係の改善、オバマ大統領の広島訪問の実現など、数多くの歴史的成果を生ん
でおり、すでに自民党と民主党との関係を心配する必要はなくなっていると指摘し
ている。
(3)北朝鮮リスクに対する対応への影響
今回の出張で、事前の予想以上に米国の専門家・有識者が深刻に懸念していたの
は北朝鮮リスクである。
北朝鮮が進める核実験や弾道ミサイル発射訓練について、これは抑止力強化が目
的であることから、実際に日本や韓国の領土に直接ミサイルを撃ち込むことは考え
られないとの見方が一般的である。しかし、一部の専門家は、今後 2 年以内に韓国
または日本が北朝鮮から直接ミサイル攻撃を受ける可能性は排除できないため、そ
れを前提とした事前準備が必要である。これが来年以降の日米両国政府間の最重要
課題の一つとなる可能性が高いのではないかと指摘した。
また、一部の国際政治学者は、仮に北朝鮮が日本の領土に直接ミサイル攻撃を行
った場合、米国は日本とともに北朝鮮に対してすぐに反撃する準備に入るが、その
際には中国に事前に通告する。そこで中国は、北朝鮮に対して日米両国が反撃する
ことには強硬に反対すると予想される。その場合、米国政府は中国の意向に配慮し、
どのように対処するか判断に迷う可能性があると指摘する。
これに対し、別の専門家は、確かに中国は強く反対するであろうが、そうした緊
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急事態の下で日米両国が自衛のために即時反撃する事情を理解するはずであり、中
国の反対に左右される必要なないと述べた。
米国政府関係者、および政府に近い専門家は、即時反撃以外に選択肢はないとの
見解で一致していた。それが日米同盟、日米安全保障条約の意味するところであり、
日本が北朝鮮から直接攻撃を受ければ、日本とともに即時反撃に出ることに関して
微塵も疑いの余地はないとの考え方が明確に示された。
3. G20 および東アジア・サミットに対する評価と米中関係
米国の外交専門家・有識者に対して、9 月 4〜5 日に中国の杭州で開催された G20
首脳会合とラオスで開かれた東アジア・サミットの 2 つの会合に関する評価を伺っ
たところ、概ね評価できる内容だったとの見方でほぼ一致していた。
@G20
G20 については、開催前日の 9 月 3 日に米中首脳会談を行い、2015 年 12 月に
採択された温暖化対策「パリ協定」を米中両国が批准することを発表した。米中両
国は温暖化ガス削減を強化することで合意し、それぞれ新たな排出削減目標を打ち
出すとともに、年内の同協定発効を促すという大きな成果を生んだ。加えて、オバ
マ大統領と習近平主席は 2 度にわたって首脳会談を行い、会談の時間はトータル 5
〜6 時間に及ぶなど、両国の対話の機会としても実り多い内容だったことから、高
く評価できるとの評価が一般的である。G20 の存在意義は、共同声明の中身以上に、
首脳同士の意味のある対話の場としての意義が大きいと見られており、その点で今
回の G20 は評価されている。
習近平主席からオバマ大統領に対して、米国の協力のおかげで G20 が成功した
との謝辞があり、二人で乾杯したとの情報も耳にした。政府関係者の中には、米国
の国際政治学者に対して、現在の米中関係は歴史上最も良好な協力関係にあると語
った人もいる由。
とは言え、米中間の懸案事項である、台湾、チベット、南シナ海・東シナ海、サ
イバー攻撃、人権問題等に関して両国の間の溝が埋まったわけではなく、意見の食
い違いの距離は縮まってもいない。それでも必要な対話は継続できており、相手の
考え方を互いに理解し合っている状態である模様。
A東アジアサミット
日本のメディア報道の一般的論調では、共同声明の中に中国の南シナ海問題に対
する批判も盛り込むことができなかったなど、日米両国は中国に押し切られてしま
い、満足のできる内容ではなかったとの評価が多かった。
しかし、共同声明に中国という固有名詞を挙げて南シナ海での行動を批判するこ
とはなかったが、それを意味する内容は盛り込まれた。また、会議の席上では、多
くの参加国が中国の問題を指摘しており、中国に対してのメッセージは十分伝える
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ことができたという点で、評価できる会議だったとの見方が一般的である。この評
価については日本政府関係者の評価とほぼ一致していた。
4. 米国留学中の中国人学生にみられるイデオロギー・言論統制の影響
今回の出張中にワシントン DC の某大学の教授が筆者に対して、この 1、2 年、
中国人留学生が中国の政治制度やイデオロギー問題に関して発言を控えるように
なっていると語った。その原因は、中国政府の現体制を批判するような言論に対し
て、中国人留学生が相互に発言内容を牽制しあっていることによるとの指摘だった。
この点につて、ボストンの別の大学でも確認したところ、その大学では 2、3 年
前から同様の現象が見られているとのことだった。
中国人留学生がその大学の某教授に語ったところによれば、互いに信頼できるご
く少数の親しい仲間内であれば、自由に議論を交わすことができる。しかし、議論
の場に一人でもよく知らない中国人が混ざっている場合には、政治的な発言は控え
るよう自制している。
こうした現象は中国国内のイデオロギー・言論統制が影響しているものと推察さ
れている。中国人留学生を直接指導する立場にない教授・准教授はこうした現象に
気づいていないほか、一部の大学ではこうした現象が見られていないケースもあっ
た。米国の大学関係者はこの点を憂慮しているが、有効な対策は見つかっていない。
5. 日本企業の経営理念の共有化を図るための具体策
筆者は前回 6 月の出張時に、欧米諸国の経済社会における貧富の格差拡大が社会
問題化し、多くの中間層がエスタブリッシュメントに対して強い不満を持ち始めて
いる点を指摘した。同時に、そうした社会問題のソリューションとして、短期的な
株主利益の最大化より、長期の社会的信用、従業員の雇用安定、地域社会への貢献
等を重視する日本企業の経営理念・企業文化が重要な役割を担うことができるので
はないかと提案した。
この点について、今回の出張中に多くの専門家・有識者に意見を伺ったところ、
概ね以下のようなポイントが指摘された。
@米国企業経営者の説得は困難
米国の経営者の多くは日本企業の経営の在り方を高く評価してはいない。その背
景には 2 つの問題点の指摘がある。
第 1 に、日本企業の経営の多様性の欠如である。多くの日本企業は外国人の登用
に極めて消極的であり、民族的には日本人中心、しかも女性の登用は稀で、役員の
ほとんどが男性である。
第 2 に、日本企業の経営は米国企業に比べて透明性が低い。
確かに、経営トップの報酬を抑えて、長期的な信用と従業員雇用を重視する点は
評価できるが、その他の点で多くの欠陥をもつ日本企業に学べと言われても、多く
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の米国企業経営者は反発を覚えるはずだ。
A学者・政治家は賛同する可能性が高い
一方、欧米の学者・政治家は日本企業の経営理念・企業文化の価値を素直に認め
る可能性が高い。彼らは欧米企業の問題点をしばしば指摘しているが、企業経営者
は何も改善策を講じていない点に強い不満を抱いている。彼らに対してきちんとわ
かりやすく日本企業の経営理念・企業文化の価値を伝えれば、支持をする可能性は
十分考えられる。
B具体策はソーシャルメディアの活用
米国企業は社会貢献活動をアピールするのがうまい。それが企業のブランド価値
の向上を通じて株価の上昇にもつながるからである。それに対して、日本企業は米
国内でのアピールが下手である。実際、一般的米国人の中で、日本企業がそうした
経営理念や企業文化に基づいて行動していることを知っている人は日本企業の従
業員等ごく一部に限られている。
日本企業も米国企業のアピールの仕方を学び、もっと上手に日本的経営理念・企
業文化の価値を伝えるべきである。
具体的には、日本企業の社長自らが米国の従業員を前に、自社の経営理念や企業
文化に基づく実践活動についてわかりやすく、心に響くスピーチを行い、その様子
をビデオに撮って、ソーシャルメディアにアップするといった方法が有効であると
の指摘を受けた。これはまさにサンダース候補を支持する若者たちが活用した方法
で、現在の米国社会ではこれが最も効果的なアピール方法であると言われている由。
以 上
http://www.canon-igs.org/column/1601018_seguchi.pdf
 

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