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株価上昇でも国民が幸福にならない安倍経済政策ー(植草一秀氏)
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4th Jan 2018 市村 悦延 · @hellotomhanks
株価上昇とともに2018年が実質的に始動した。
2016年年初には中国初の世界経済危機が警戒されたが、
2年たって状況は一変している。私は2016年初が陰の極と判断した。
中国、新興国、資源国が緩やかに底入れして世界経済が緩やかな改善に進む。
圧倒的少数見解であったが、そのように世界経済を展望した。
現実に2016年初を境に中国、新興国、資源国は底入れを実現していった。
2016年11月に米国大統領選があった。
メディアはクリントンの当選が9割以上の確率であると言い切った。
私はトランプ勝利の可能性が十分にあると判断した。
そして、金融市場はトランプが当選すれば米ドルとNYダウは大暴落すると宣言した。
果たして大統領選で勝利したのはトランプだった。
私は2016年12月に刊行した年次版TRIレポート
『反グローバリズム旋風で世界はこうなる』のサブタイトルを
「日経平均2万3000円、NYダウ2万ドル時代へ!株価再躍動!」と記した。
内外株価の本格上昇を予測する見解は圧倒的少数見解だった。
1年たって日経平均株価は2万3000円台に乗せた。
NYダウは2万5000ドルに迫っている。
振り返って考えると、2016年の年初が大底だった。
中国の株価が急落したのは、その直前に中国株価が大暴騰したからだった。
大暴騰した株価が反落するのは当然のことで、
急落しても株価暴騰が始まった時点と比較すれば
3割以上も高い水準に株価は位置していた。
したがって、このことが中国経済のメルトダウンをもたらすとは
到底考えられなかったのだ。
世界経済は2016年初を転換点に、緩やかな改善基調をたどり、
連動してグローバルな株価上昇が観察されている。
世界経済の流れは概ね順調であると言ってよいだろう。
しかし、経済の内実に目を転じると、そこに重大な問題が横たわっている。
言うまでもない。際限のない格差拡大が広がっているのだ。
大企業の収益は拡大し、資本のリターンは高まっている。
株価は経済全体の変化を反映して変動しない。
株価は株式の利益変動を反映して変動するのである。
日本経済全体は決して好調と言えないが、
上場企業の収益だけは絶好調を維持しているのである。
株価が1万円から2万3000円になって何の文句があるかなどの言葉が聞かれるが、
「経世済民(けいせいさいみん)=世を經(おさ)め民を濟(すく)う」の意味で
「経済」を捉えるなら、これではまったくだめだ。
株価が上昇しても恩恵を受けるのは一握りの人々に過ぎない。
圧倒的多数の普通の労働者がどうなるのかが何よりも大事なのだ。
労働者一人当たりの実質賃金指数が厚生労働省から発表されている。
賃金には固定給、時間外手当、ボーナスがあるが、
現金給与総額というのはこれらをすべて合わせたものだ。
その現金給与総額の変化から物価上昇分を差し引いた実質賃金指数が発表されている。
実質賃金指数は2009年10月〜2012年12月の民主党政権時代には
ほぼ横ばいで推移した。
ところが、2012年12月の第2次安倍政権発足以降に約5%も下落した。
下落の最大の要因は消費税増税の影響だが、
消費税率は5%から8%へと3%ポイント上昇しただけだが、
実質賃金指数は約5%も減少した。
最近になって、実質賃金指数はやや持ち直す傾向を示しているが、
おおむね横ばいの域を出ていない。
株価上昇で経済全体が良くなったかのような報道が多いが、
株価が表示される上場企業というのは約4000社で、
日本の法人数約400万社の0.1%にしか過ぎない。
経済全体の上澄みの0.1%の大企業の利益が史上最高を更新し、
この利益拡大を反映して株価が上昇しているだけなのだ。
経済全体のパフォーマンスを示すのは実質経済成長率だが、
民主党政権時代の実質GDP成長率平均値が+1.8%だったのに対して、
2012年12月の第2次安倍政権発足以降のGDP成長率平均値は+1.5%で、
あのパッとしなかった民主党政権時代よりも、
第2次安倍政権発足以降の日本経済の方がさらに低迷が深刻化しているのだ。
安倍政権はそれなのに、消費税を増税して法人税を減税するという経済政策を
推進している。主権者である国民の生活を向上させるのではなく、
主権者である国民の生活を踏みにじって大企業の利益だけを膨らませる政策を
遂行している。
だから、この政権をできるだけ早くに退場させるべきなのである。
民を虐(しいた)げて巨大資本を潤わせる安倍政治を終焉させて、
大資本に応分の負担を求めて、民の暮らしを向上させる政権を樹立することが、
日本の主権者の幸福をもたらす方策である。
安倍政治というのは非常に分かりやすい。何が分かりやすいのかと言うと、
安倍政治が追求しているものが、すべての面において、
大企業=巨大資本の利益拡大であるからだ。
政治を見る一番大事な視点は、「誰のための政治」であるのかという視点である。
安倍政治はこの点で極めて明瞭な特性を有している。
巨大資本=大企業の利益拡大のための政治なのだ。
この問題は企業献金が合法化されていることと直結する。
日本国憲法は参政権を自然人だけに与えている。
しかも、その参政権は、貧富の差に関わりなく、一人一票というものだ。
これが参政権の基本なのだが、最高裁が政治権力の僕(しもべ)に
なってしまっていることから、
企業献金について最高裁が違憲の判断を示さなかった。
このために、日本国憲法の規定に反して、企業献金が合法とされてしまい、
大企業が金の力で政治を買ってしまっているのである。
政治を金で売っている代表が自民党である。
自民党は大企業から巨額の献金を得て政治を行っている。
自民党は大企業の利益になる政治を行うことによって
巨大な資金を獲得しているのである。
合法的な汚職が堂々と展開されているわけだ。
経済運営を市場原理にすべて委ねてしまう。
本当の政府の役割というのは、市場原理に委ねてしまうことに伴う
さまざまな問題を解決する点にある。
一番大きな仕事が所得再分配という仕事だ。
市場原理は必然的に弱肉強食をもたらす。力の強い者がより強くなり、
力の弱い者は生存すら不可能になってしまう。
これを是正するために政府が介入して、金銭的には、経済力の大きい者に
資金を提供させて、その資金を経済力の小さな者に給付する。
能力に応じた課税と社会保障給付が、この目的に沿う施策である。
しかし、力の強い者のための政策を追求すると、
こうした社会保障政策や、能力に応じた課税というものを廃止せよとの方向に
修正を迫られる。
巨大資本の利益を第一とする経済政策の考え方を総体的に表しているのが
「ワシントン・コンセンサス」というものだ。
これは、経済学者のジョン・ウィリアムソンが1989年に表現したもので、
ワシントンに本拠地を置くIMF、世界銀行、米国政府などが、
経済危機に見舞われた途上国などに適用する経済政策のパッケージを、
この言葉で表現したものである。
その柱となる政策が、
1.社会保障の圧縮、
2.規制撤廃、
3.民営化、
4.市場原理の重視である。
つまり、経済政策運営においての政府の役割を最小限にして、
基本的にすべてを市場原理に委ねるというものだ。
この政策の結果が弱肉強食の圧倒的蔓延につながることは言うまでもない。
日本において、この考え方に基づく経済政策運営を始動させたのが
小泉純一郎政権だったが、その完全な継承政権が第2次安倍政権以降の政権である。
安倍政権が提示する経済政策はアベノミクスと呼ばれているが、
その柱は
1.金融政策、
2.財政政策、
3.成長政策である。
財政金融政策は通常のマクロ経済政策だが、
特徴的なのは「インフレ誘導」を目標に掲げたことだ。
「インフレ」は実質賃金を低下させる意味で資本の側に利益をもたらし、
労働の側に不利益をもたらすものである。
安倍政権が「インフレ誘導」を目標に掲げたことも、
この政権が労働の側ではなく、資本の側に立つ政権であることを物語っている。
何よりも重要なのは、成長政策の中身である。
安倍政権が提示する成長政策の内容は、
1.農業の自由化、
2.医療の自由化、
3.解雇の自由化、
4.法人税の減税、
5.経済特区の創設、である。
これらのすべてが、大企業=巨大資本の利益増進策なのである。
農業の自由化は巨大資本に日本の農業を支配させるための施策である。
これまで農業を担ってきた農家を駆逐し、巨大資本に農業を支配させる。
その結果として、食料の自給率は下がり、食の安全と安心も崩壊する。
国民に与える不利益は無限大だが、
大資本の利益さえ拡大すれば問題なしという判断から生まれている施策である。
医療の自由化は医療関連の価格を自由化するとともに、
公的医療保険でカバーされない医療を一気に拡大させる施策である。
医療のGDPを拡大させる施策であるが、
その結果として、公的医療保険による医療しか受けられない国民には
十分な医療が提供されなくなる。
医療の分野に露骨で冷酷な貧富の格差が持ち込まれることになる。
解雇の自由化は、より広く表現すると労働規制撤廃ということになる。
「働き方改革」と表現すると耳に聞こえが良いが、推進されているのは、
1.正規労働から非正規労働へのシフト、
2.長時間残業の合法化、
3.残業代ゼロ制度の創設、
4.外国人労働力の導入拡大、
5.金銭解雇の全面解禁などである。
狙いは明確だ。
大資本が労働力を最小コストで使い捨てにできる体制を確立することなのだ。
そして、大資本にとってのパラダイスを生み出す最重要施策が、
消費税増税による法人税減税の推進である。
法人税負担を激減させて、消費税大増税を推進する。
消費税大増税がもっとも過酷な影響を与えるのが所得の少ない階層である。
大資本の利益を極大化させるためには、
所得の少ない階層の生存権をも奪って構わない。
この考え方が鮮明に浮かび上がっている。
民営化は利益が保証される事業を民間に譲り渡すことである。
水道などの事業は公共性が高く、また独占事業になるため、
政府が利益を生まない事業として実施してきた。
水道を必要としない家庭はないため、
こうした事業は努力なしに成り立つ事業である。
また、独占事業であるため、事業者が価格を吊り上げて超過利潤を獲得することも
可能になる。このような事業の運営権を獲得することは大きな利権であり、
特定の者にこの利権を付与することが典型的な政治腐敗の温床になることは
疑いようがない。
現に安倍政権が実行している特区における事業には、
この種の政治腐敗を強く疑わせるものが多数含まれている。
安倍晋三氏は2012年12月総選挙で、
「ウソつかない!TPP断固反対!ブレない!日本を耕す自民党」のポスターを
貼り巡らせて総選挙を戦った。
ところが、選挙から3ヵ月もたたぬ2013年3月にTPP交渉への参加を
正式決定した。そのTPP交渉から米国が離脱した。
安倍政権は米国が離脱する可能性のあるTPPの国会承認を急ぎ、強引に批准した。
米国が離脱すれば最終合意文書の修正が必要になるなかで、
最終合意文書に一切手を入れさせぬために批准を急ぐと主張した。
その後に米国が離脱して、最終合意文書の修正がなければ、
米国抜きのTPP発効は不可能になった。
すると、今度はTPP最終合意文書の修正を日本が先頭に立って主張し始めた。
この経緯は安倍政権が完全なペテン師政権になっていることを意味している。
「TPP断固反対!」のポスターを貼り巡らしていた安倍政権が
TPPに突進している。
その理由はTPPが巨大資本の利益極大化を目指す枠組みだからである。
TPPの最大の問題はISD条項にある。
ISD条項は各国の制度・規制について、投資者である資本が、
損害を蒙ったと提訴し、国外の裁定機関が決定を下すと、
その決定が強制力を持つという仕組みである。
つまり、主権国家の制度・規制を外部の裁定機関が決定できる枠組みなのである。
しかも、その外部の裁定機関に最も強い影響力を与えることができるのが、
巨大資本自身であると考えられている。
日本政府はISD条項が「国の主権を損なう」として
「合意しない」と公約に掲げたにもかかわらず、
いまや、ISD条項を盛り込むことを強引に主張する先頭に立っている。
巨大資本の利益のために活動する安倍政権の正体が鮮明に浮かび上がっている。
このような政権が存続することは、
日本の主権者にとって百害あって一利なしである。
株価が上昇していることの意味を間違って解釈し、
この政権の存続を容認ししまうことが、
日本の主権者自身の首を絞めることになることに早く気付かなければならない。
主権者国民にとって大事なことは株価が上がることではなく、
すべての主権者の生活が向上することなのである。
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