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初告白「私が政府の機密情報を某国に流出させるまで」 公安vs.スパイ「諜報全史」第2回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53784
2017.12.10 竹内 明 報道記者 作家 現代ビジネス
「私は、彼らに籠絡されたのです……」。日本の中枢に属する情報組織・内閣情報調査室の元職員が語る驚きの実話を、当事者から直接取材した迫真のルポ。北朝鮮や米国・ロシアの元工作員や公安警察への取材を重ねてきた報道記者、作家で『スリーパー 浸透工作員』の著者でもある竹内明氏が、普段は私たちの目に見えない日本社会の「水面下」で繰り広げられている諜報戦の実像に迫ります。 |
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前回記事
日本政府の中枢にいた男が「ロシアのスパイ」に身を堕とすまで 公安vs.スパイ「諜報全史」第1回(現代ビジネス)
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カネは競馬や酒に消えていった
「内閣情報調査室」という、総理官邸に直結した組織の情報マンだった水谷俊夫(仮名)氏。
彼は、中国情勢の研究セミナーで知り合ったロシア大使館員に誘われ、会食するようになる。無論、情報獲得のための接触だというつもりだった。
だが、大使館員は会食のたびに土産を渡すようになってきた。ハンカチセットにはじまり、高速道路のプリペイドカード、デパートの商品券……。徐々に警戒心を解きほぐされた水谷は、ついに現金を受け取ってしまう。
水谷氏が実際にロシア大使館員から受け取ったハンカチ(提供:竹内明)
「私は金には困っていませんでした。妻も仕事を持っているし、親との二世帯住宅に暮らしており、家賃もローンもありませんでした。
でも、小遣いの枠が少し増える。それに、渡されるモノの金銭的価値が徐々に高くなっていく。それがいつしか心地よくなっていたのです。
当初は、もらった金はいったん預金して、いざとなったら突き返してやろうと考えていたのですが、結局は競馬や酒、海外旅行に使っていました」(水谷氏)
筆者が接触した時点での水谷は、冷静に自己分析して、坦々と語ってくれた。
会食の約束はいつも「奇妙なルール」で
「土産」はランクアップを続け、ついには現金5万円になった。最初は土産の袋の下に現金入りの封筒が入っていたのだが、その渡し方にも変化があらわれた。
「次に会うのはこの店です。●月●日■時です」
グリベンコ一等書記官が、次に会う店のパンフレットを渡す。水谷は中を確認せずに、そのまま背広の内ポケットにしまう。
自宅でパンフレットを取り出して開いてみると、封筒が挟まっている。中には現金5万円が入っているのだ。
この秘密めいた受け渡しが、ルールになった。
水谷氏が再現してくれた現金の受け渡し方法。パンフレットは実際にロシア大使館員と訪れた店のもの。取材現場では1000円札を使ったが、実際には1万円札が挟まっていた(提供:竹内明)
次の会食の店を指定する方法としても、奇妙なやり方だった。1ヵ月以上も先の約束をするのだから、普通なら電話などで連絡を取り合って、店や時間を決めるというのが相場だろう。
だが、水谷と接触していたロシア大使館員たちは、電話での連絡を極度に嫌った。
グリベンゴの前任者で、水谷が最初に会食をするようになったリモノフ一等書記官時代のことだ。
水谷は一度、大使館に連絡して約束の確認をしたことがある。この行為に、リモノフは怒った。
「個人的な関係なのだから、職場への電話は絶対にやめて欲しい」
水谷は不思議に思いながらも、このルールを受け入れた。
ロシアの諜報員たちが、日本の公安当局の盗聴を警戒して電話を拒否していることも知らずに……。
他愛もない会話で警戒心をとかされて…
奇妙なルールが設けられながら付き合いは続いた。
連れて行かれる店は高級店でも、隠れ家的な店でもない。「すしざんまい」「土風炉」といった比較的リーズナブルなチェーン店が中心だ。
席も個室ではなく、通常のテーブル席。食事中の会話は世間話ばかりだ。
水谷はこんな会話を鮮明に覚えているという。
水谷「日本にロシアの『ボリショイ大サーカス』がやってきます。『ボリショイ』って、どういう意味ですか?」
グリベンコ「『大きい』という意味ですよ」
水谷「じゃあ、ボリショイ大サーカスというと、『大大サーカス』という意味ですね」
二人で笑った。
こんな他愛もない雑談が、安心感を醸成していった。
「日々のニュースについて意見を交わすこともない。内調の仕事のこともほとんど聞かれませんでした。
ただ、所属部署のことはときどき確認されました。国際部の中国担当であることはそのたびに伝えていました。今思えば、私が異動するのを待っていたのかもしれません。
その矢先に、人事異動があったのです」(水谷氏)
狙われた「偵察衛星」
水谷の異動先は「内閣衛星情報センター」、インテリジェンスに携わる政府関係者の間では「ホシ」と呼ばれる極秘の部署だった。
政府は日本独自の偵察衛星を打ち上げ、各国の軍事動向を監視することになり、水谷はその一端を担うことになったのだ。
これは水谷としては不本意な異動だった。研修では、パソコンが苦手なのに、衛星画像の解析ソフトの使い方を叩き込まれる。
防衛、外務、警察の各省庁から集まった研修生の中でも年配だったこともあり「学生長」になったものの、
「学生長、パソコン能力低いですね」
などと、他省庁の年下の研修生に馬鹿にされることもあった。
「なぜ、中国語を習得し、中国情勢分析の専門家である私が衛星の運用を担当しなければならないのか。専門性を無視した人事異動ではないか」
内閣情報調査室という組織への不満が膨らみ、グリベンコの前で吐露した。
カネ、異性、組織への不満……。
諜報機関にとって、これらは協力者籠絡の最強の道具だ。
スパイたちは正体を隠しながら、籠絡対象と長年交際を続け、信頼や安心を醸成しながら、これらの弱点を探す。弱点を発見するやいなや、攻勢をかけるのだ。
そして、スパイ組織は牙をむきはじめた
「水谷の弱点は『組織への不満』である」という有益な情報を得たロシア側は、この直後に動いた。
2001年9月、リモノフが在日ロシア大使館に再赴任してきたのだ。
リモノフは5年前に、水谷と二人きりで会う関係を築いた男だ。その功労者の赴任は、偵察衛星の運用が軌道に乗った、まさに狙い澄ましたようなタイミングだった。
水谷は大崎駅近くのレストランでリモノフと待ち合わせた。名刺の肩書きは「参事官」になっている。前回の来日時には「一等書記官」だったので、階級があがったことになる。
リモノフはこう言った。
「水谷さんは衛星情報センターに異動したそうですね」
「ええ。そうです」
衛星について深く聞いてこなかった。しかし以前とは違う、かたい雰囲気があることに水谷は気づいた。笑顔がないのだ。
別れ際にリモノフはこう念押しした。
「これまで通りの関係を続けましょう」
定期的に会食し、現金5万円を渡すことの確認だった。
「参事官の名刺をもらったとき、偉くなったから付き合い方が変わるのかな、と思いましたが、『これまで通り』と聞いて安心しました。
私はこの頃、グリベンコから現金を繰り返し渡されていましたから、本能的にカネをあてにするようになっていました。
カネは中毒性のあるものになっていたのです」(水谷氏)
こうして、水谷とリモノフの付き合いは再開した。
以前と変わったことといえば、リモノフが連れて行く店が高級になったことだ。高級和食、フレンチ、中華……。一人1万円は超える店ばかりだ。
「出世すると店も変わるものだな」と水谷は思った。
渡される金額にも変化があった。ある時、封筒を開けると、10万円が入っていたのだ。そんな中、会食の最中に、リモノフが身を乗り出してこういった。
「衛星情報センターのあなたの隣に座っている人が分かるような座席表はありませんか?どんな人が働いているのかわかるようなものが欲しいのです」
出会ってから5年以上、初めての要求だった。
水谷はこう解釈した。
「『私では駄目なんだな。だから次の接触相手を探すために、衛星情報センターのスタッフが知りたいに違いない』と思いました」(水谷氏)
リモノフの要求に対して、水谷はこう返した。
「座席表ですか? そのようなものはありません」
するとリモノフは眉をひそめ、気を悪くしたように見えた。
次はもっと露骨な要求があった。
「日本の衛星はどこを撮像しているのですか?」
偵察衛星がどこをターゲットにしているのかは、秘中の秘である。リモノフはロシア国内のどの軍事基地を撮影対象になっているのかを知りたかったに違いない。
「それはちょっと難しいですね。いま摸索している最中で、今の段階ではなんともいえません」
水谷はこの要求をなんとかごまかした。
すると、渡される金額に変化があった。これまで10万円だったのが、9万円に減ったのだ。
まるで「ボーナス査定」をされるように…
これについて水谷はこう感じたという。
「揺さぶりだと思いました。お前は有益な話をしないから10万円は渡せない。お前の話にはこのくらいの価値しかない。そんなメッセージだと思いました。
毎回、封筒を開けるたびに、ボーナスの査定をされているような気分になりました。リモノフの表情に絶えず不満が浮かんでいて、私もプレッシャーのようなものを感じはじめました」
リモノフはさらに揺さぶりをかけた。大森のしゃぶしゃぶ店での出来事だ。
「もうこの関係はやめにしますか?」
リモノフは言った。
水谷が黙っていると、繰り返した。
「もう、会うのは終わりにしましょうか?」
水谷は返事をせずに、ごまかすしかなかった。
「もうお前にはカネは渡さないといっているようなものです。
あのとき、私は『もういいです。やめます』と言えばよかったのです。そのときは、結論をうやむやにしたくて、私は何も答えなかった。
それが失敗でした」(水谷)
水谷は黙ってやり過ごして、カネをもらい続ける道を選んだのだ。リモノフもその意思を確認するために、揺さぶりをかけたに違いない。
二人の対等な関係が崩れ、上下関係が明確になった。
「ロシア側からカネをもらったら、アウトです」
この一件以降、水谷の中に、リモノフの機嫌を取りたいという強い気持ち持ちが芽生えたという。
職場から持ち出せるようなものはないだろうか――。
水谷は思案したあげく、衛星センターのデスクの端末に送られてくる海外メディアの翻訳記事に目をつけた。
この記事に、水谷自身の解説を加えて、レポート形式にすれば、体裁は整う。あたかも、貴重な情報かのように装えば、リモノフは納得するのではないか。
こうして中国情勢などの解説レポートを、リモノフに渡すようになった。だが、職場から文書を持ち出していることには変わりはない。
これをきっかけに水谷のタガが外れはじめた。
そんなある日、衛星画像分析の研修中にある講義を受けた。テーマは「秘密保全」。講師は自衛隊OBだった。
「ロシア人からおカネをもらったらアウトです。
たとえば5万円を受け取ってしまったとします。おカネを渡す瞬間を別のロシア人が写真を撮っていて、あとで脅されます」
この自衛隊OBは、衛星センターの職員たちに、ロシアスパイたちの典型的な籠絡手法を講義したのだが、これを聞いたとき、水谷は冷や汗をかいた。
これは俺と同じではないか―――。
だが同時に、水谷は心の中で葛藤していたという。
「(接触してくる)ロシア人は危険だという話をされると、マズイと思う一方で、その事実を遠ざけようという心理が働くようになっていました。
これは嘘だと。何を言っているんだ、この講師は、と。
自分の中で自己完結させていたのです。彼らがロシアのスパイであるという事実を私の心が拒絶していたのです」
しかし、自分では認めたくなくとも、この時点で水谷は、ロシア大使館員たちの正体に気づき始めていたのである。
そう。リモノフたちは外交官ではなく、ロシアの諜報機関GRU、ロシア軍参謀本部情報総局所属の、スパイだったのだ。
(つづく)
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