(MONDAY解説)核・ミサイル開発、高まる緊張 対北朝鮮、手詰まりの日米韓 牧野愛博 2017年11月27日05時00分 朝日新聞 ■NEWS 北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り、緊張が高まっている。北朝鮮による1993年の核不拡散条約(NPT)脱退表明、2002年のウラン型核開発の表面化に次ぐ、3度目の核危機だ。北朝鮮は米本土を攻撃できる核ミサイルを手に入れるのか。国際社会はどう対処すべきなのか。 ■正恩氏「年内に米本土射程」 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は、朝鮮半島の非核化を確認した米中首脳会談を受けて17〜20日に訪朝した中国特使と会わなかった。米国も20日、北朝鮮をテロ支援国家に再指定。緊張が緩和する気配は見えない。 韓国に亡命した北朝鮮のテ・ヨンホ元駐英公使によれば、正恩氏は、年内に米本土に届く核を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させるよう指示した。実現には、米本土に届く射程、ミサイルに搭載できる小型化した核弾頭、大気圏に再突入後も燃え尽きずに爆発させる能力が必要となる。 9月15日に発射された中距離弾道ミサイル「火星(ファソン)12」(射程4500〜5千キロ)は約3700キロ飛行。7月にはICBM「火星14」(同約1万3千キロ)が、高角度で発射して飛距離を抑えるロフテッド軌道で試射された。日米韓は米東海岸に到達できるエンジン開発に成功したとみる。 火星14に搭載できる核弾頭は約500〜600キロ。日米韓はほぼ小型化に成功したとみている。ミサイルが大気圏に再突入する技術では、正確な角度で突入し、7千度に達する高温やプラズマ放電に耐える弾頭が必要。密輸やハッキングなどで、こうした技術を得たとする見方も出ている。 既に、韓国や日本、米領グアムまでは核を搭載したミサイルで攻撃できる。年内にも火星14の改良型を試射し、正恩氏が来年1月1日の新年の辞で「核ミサイル開発の完了」と「米東海岸に到達できる核搭載ICBMの実戦配備」の宣言を目指しているとみられる。 北朝鮮は9月に6回目の核実験をした。爆発規模はTNT火薬換算で50〜250キロトンと、広島に投下された原爆の約15キロトンを大きく上回った。韓国政府は、北朝鮮が十数個の核爆弾を保有していると分析。20年までに50個を保有するとの見方もある。次の弾道ミサイル試射は、核ミサイル開発を完了する最後の挑発になるかもしれない。 ■協議25年、実らぬ合意 「米国は25年間、北朝鮮と対話し、カネをゆすり取られてきた」。トランプ米大統領はこう主張する。 核問題を巡る米朝の高官協議は92年に始まった。94年の米朝枠組み合意や07年の6者協議での合意などで核・ミサイル開発を凍結したが、最終的に合意は全て破られた。 米朝協議に携わった関係者たちの証言から、北朝鮮の核開発を阻止するための外交交渉が問題を抱えていたことが浮かび上がる。 まず、国際社会は北朝鮮の実態をよく知らなかった。北朝鮮で実権を握る軍や党の幹部とは、ほとんど交渉できなかった。6者協議で当時の金桂寛(キムゲグァン)外務次官はヒル米国務次官補の要求に対し「軍人が反対しているし、私の権限ではない」と繰り返した。 脅威も過小評価していた。米国は94年合意で「03年までに北朝鮮に軽水炉2基を提供」と約束した。当時、米から資金協力を求められた日本政府高官は、「北朝鮮は軽水炉の受領前に経済難で崩壊するという米国の声を多く聞いた」と語る。 国際社会も一枚岩ではなかった。02年秋にウラン型の核開発が表面化した際、ブッシュ(子)米政権は94年合意の破棄を決めた。当時の米政府関係者によれば、同政権はクリントン政権の業績の否定に躍起になっていた。 日本政府も、核問題に加えて拉致問題という問題を抱え、07年合意では北朝鮮に提供する重油の分担を拒んだ。韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は今年9月、国際機関を通じて800万ドル(約9億円)の人道支援を行うと発表。中東や欧州諸国も最近まで、北朝鮮の海外派遣労働者を受け入れてきた。 正恩氏は「核開発と経済改革を同時に進める並進路線」を提唱。在韓米軍の撤退などを求めているため、対話の機運を呼び込むことが一層難しくなっている。 ■遠い「対話で核放棄」 北朝鮮の狙いは、核とICBMを背景に米国と「核軍縮交渉」を行って在韓米軍撤退などを引き出し、朝鮮半島の戦力バランスで優位に立つことにある。 北朝鮮が対話で核を放棄するという分析は、日米韓の中で全く出ていない。「核兵器を保有する北朝鮮」を絶対に許さないのであれば、軍事力の行使などによる金正恩体制の崩壊しか選択肢がなくなる。 だが、軍事力の行使は朝鮮半島や日本に深刻な被害をもたらす可能性がある。「核を持った北朝鮮」を前提とした安全保障の議論と並行し、軍事力の行使に至った場合に被害を最小限に抑えるための議論も現実的には必要になる。 韓国では「核を持った北朝鮮」を前提とした議論が始まっている。韓国独自の核武装論や米戦術核の韓国再配備、米韓両国による「核の共同管理」を唱える声などが出ている。 被爆国の日本ではいずれの議論も、世論の強い反発が予想される。日本政府は米国に「核の傘」を含む拡大抑止力の保証を求めている。東アジアで「核ドミノ現象」が起きないよう、韓国内の懸念を解消する試みも必要になる。 そのためには、日韓関係の改善による安全保障協力の強化が必要だ。軍事力行使に至った場合の被害の最小化や、米国が自国の安全保障を優先してICBMだけを阻止し、北朝鮮の核を黙認しないよう牽制(けんせい)する道でもある。 また、日本では米朝の軍事衝突や金正恩体制の崩壊に備え、現在ある安全保障法制がどこまで意義があるのか、実体的な議論を進める時期を迎えた。 (まきのよしひろ ソウル支局長) http://www.asahi.com/articles/DA3S13246811.html 北朝鮮の狙いは、核とICBMを背景に米国と「核軍縮交渉」を行って在韓米軍撤退などを引き出し、朝鮮半島の戦力バランスで優位に立つことにある。 https://twitter.com/toosourketchup/status/934988949373587456
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