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安倍首相のウソと改憲を打ち破れ!〜斎藤貴男さん、山城博治さんが講演
林田英明
http://www.labornetjp.org/news/2017/1109hayasida
気鋭のフリージャーナリスト、斎藤貴男さん(59/写真)と沖縄平和運動センター議長、山城博治さん(65)を招いた集会「2017年戦争あかん!基地いらん!関西のつどい」が10月21日、大阪市中央区の「エル・おおさか」であり、800人を超える参加者が思いを共有、団結の拳を固めた。大阪平和人権センター▽同つどい実行委員会▽戦争をさせない1000人委員会・大阪主催。
●社会保障は公助から自助、共助に
集会の副題は「9条改憲を許さない!やめろ辺野古基地建設!」。国際反戦デーに合わせた平和運動である。前者のテーマとして演壇に立った斎藤さんは、ゆったりとした語り口で安倍晋三首相を「彼はウソしかつかない」と一刀両断した。例えば法人税収。上昇を誇示するが、2016年度は10兆3000億円にとどまり、第2次安倍政権が発足した2012年度以来の低水準にもかかわらず知らぬふりである。
消費税の使途変更についても疑念を深める。消費税率を10%に上げた際の増収分の使い道で教育にも充てると自民党の公約に掲げた。幼児教育・保育の無償化や高等教育の負担軽減を高らかにうたう。旧民主党政権下の2012年に自公との3党合意「社会保障と税の一体改革」では増収分を社会保障の充実と赤字国債の返済に回すはずだった。そもそも2014年4月に消費税が5%から8%に上げられた時も「全額、社会保障に使う」と言っていたことを思い出そう。斎藤さんは「確かにウソではないかもしれない」と前置きしつつ、その手口を明かす。増税分は社会保障に使うと言えば、聞き手はプラスアルファを想像する。しかし元々あった社会保障をそのままにするとは一言も言っていない。財源をトータルで握っている彼らのトリックだから、社会保障はむしろ切り下げられてきた現実を斎藤さんは示す。2013年12月には社会保障制度改革プログラム法が成立し、社会保障を公助ではなく自助、共助と意味づけを変えてしまっている。「だから、いくら増税しようが社会保障にまともに使われるはずがない」と斎藤さんは切り捨て、「最初がウソ、次にウソ、そして今度もウソ」と語気を強めた。
マスコミの論調も弱い。使途変更での財政赤字悪化を懸念するにとどまり、財務省に丸め込まれていると斎藤さんは指摘する。
●アメリカの戦争に無条件参加も
安倍首相の改憲思想は昨年5月3日の読売新聞朝刊で披歴された。首相官邸で取材を受け、紙面上も「首相インタビュー」であるにもかかわらず、立場は「自民党総裁」というおためごかしに斎藤さんはあきれつつ、本質の9条に触れていく。
1項2項はそのままに、自衛隊を追認する3項を明記するだけだと安倍首相は言う。2012年4月に発表された自民党憲法改正草案に改憲側の本音が見えている。斎藤さんは「近代憲法の在り方を根底から覆す、すさまじいものだ」と慨嘆し、逐条解説した。国際紛争の解決に武力を用いない条項を削除し、交戦権を放棄せずに集団的自衛権を認める。9条の2として「国防軍を保持する」とし「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」と定めている。具体的に書いてはいないものの、斎藤さんが取材する限り、例えばイラク戦争のようなものを指すようだ。現在の9条2項があったから、自衛隊はサマワに派遣されたけれども戦闘行為はしなかった。しかし、改憲されれば「アメリカの戦争に無条件に参加すべしと解釈していいのではないか。現状のほうが私たちのイメージより進んでいれば、それだけで戦争は可能になりかねない」と斎藤さんは危惧する。
●自衛隊と米軍一体を当然視
2005年に通称「2プラス2」の日米安全保障協議委員会で在日米軍再編計画が進められた。沖縄だけでなく、これは日本全国に影響する。米軍基地に隣接する首都圏の陸海空自衛隊司令部は立体的に運用されており、同じ地図を見ながら日米は演習を繰り返しているという。米国が戦争をすれば、こうした日本の基地で指揮命令が執られる。斎藤さんは取材する中で、自衛隊と米軍は一体のものと当然視する政治家に出くわす。こうした経過を眺め、改憲されて自衛隊が追認されれば、戦争に参加しなければ憲法違反になるという逆転現象も起こりかねないと斎藤さんは静かな口調で言う。しかし、これを空想と一笑に付せない現実が迫っているようだ。
表現の自由は憲法21条によって守られている。ところが、自民党の草案では2項を次の通り付け足す。「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」。つまり、この日のような反戦集会も「公の秩序を害する」と解釈されれば認められず、逮捕すると読めてしまうと斎藤さんは語る。「自民党の言う通りにしたら、表現の自由というのは、限りなく制限されるし事実上なくなるといっていい」と断じた。
徴兵は奴隷的苦役として18条によって憲法違反とする見方がある。自民党草案は18条として「何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」と変容させている。「社会的又は経済的関係」とは何か。容易には分からない。となれば、どのようにでも解釈され徴兵に道を開く恐れがあると斎藤さんは理解している。「身体」ではない、「精神」の拘束は可能とも読める。
最大の問題は、近代立憲主義についての思想である。必要悪としての国家が暴走すると人権侵害が過度となるから権力にタガをはめようという考えだ。現憲法では99条に記されている。「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」。これに対し自民党草案は102条として「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」と、まず国民に義務を押しつけてくる。
以上を考え合わせて斎藤さんは自民党草案に沿う安倍首相の改憲の狙いを、こう結論づける。「憲法を国家権力の制限規範でなく、国民一人一人の生き方マニュアルと位置づけている」。私たちは奴隷でいいのか、そう問いかけているのだ。
●対米従属の大日本帝国ゴッコ
戦時体制を整えようとしているかに見える安倍首相をどう評価するのか。二つの見方がある。一つは、大日本帝国への回帰。もう一つは、米国の世界戦略の一環として対米従属しながらの軍事力強化。「これは矛盾しない」と斎藤さんは説く。富国強兵、殖産興業の明治復活を安倍首相は目指している。「明治日本の産業革命遺産
にどうして萩市(山口県)の松下村塾が入っているのだろう。斎藤さんは取材を重ねるうちに、私塾をつくった吉田松陰が大日本帝国の唱道者だったからだと合点する。2015年のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」も吉田松陰を取り上げた作品だった。偶然と片づけてよいものか。
安倍首相がストレートに大日本帝国を復活すれば間違いなく米国につぶされる。斎藤さんは「そこには制約がある」と踏まえつつ「アメリカには絶対逆らわない。アメリカの手助けをすることによって、主にアジアにおいて大日本帝国ゴッコをするのを許していただいて威張りたいという心情を満足させてもらうためのもの。だから対米従属と全く矛盾しない」。いま自民党草案のような改憲となれば、なるほど「押しつけ憲法」ではないかもしれないが、むしろ自発的かつ積極的に、米国に服従させていただくための憲法になるのではないかと斎藤さんは顔を曇らせる。安倍首相個人を満足させる大日本帝国憲法ゴッコのために……。
集団的自衛権の行使容認の議論を丹念に読んだ斎藤さんは、範囲が極東に限るとは思えなくなった。経済同友会が2013年にまとめた「安全保障に関する提言」に着目。「要するに、9条はグローバルビジネスにとって邪魔ものと書かれている」と本質を突く。9条があると海外に軍隊を派遣することが難しく、用心棒が欲しい時に来てもらえない――それが財界の考えである。そこで「集団的自衛権を認めてほしい」とはっきり言わずに「自衛、国益の範囲を考えてみよう」と本音に衣をかぶせている。
国益として挙げられたのは三つ。一つは日本列島および日本国民。これは誰しも納得いくだろう。次に日本企業が海外に持っている資産や権益である。侵害されれば武力を用いて守るべきだとする。範囲が広くならないかと懸念されるが、ここまでは財界の思惑として斎藤さんも想定内だった。問題は3番目の考え方だ。国益の範囲を普遍的な価値観とする。その価値観とは、法の支配や民主主義。そこまではいい。ところが、自由貿易体制まで挙げられて驚く。「ということは、自由貿易体制を脅かす存在がどこかに現れた場合、アジア周辺だろうが地球の裏側だろうが、自衛隊が出て行って攻撃するのが当然だという考え方ではないのか」。会場も、さすがに恐るべき近未来が見えて息をのんで聴き入る。「私たちには異様に思えるが、米英仏など戦勝国が取り入れてきた考え方だ」と続け、そうして「普通の国」に日本が突き進む怖さを実感させる。「つまり帝国主義。形式的な植民地支配を伴うかどうかは別にして。経済的に支配し、軍事力によって担保されていく。逆らう者があれば撃ち殺せばいいという状態があって成立する」。敗戦国だった日本が、東西冷戦の“勝利”をテコに、戦勝国型になっていく。少子高齢化に伴う内需の減衰で日本に本社を置く大企業の利益追求は外需へと向かう。安倍首相の言うインフラシステム輸出という国策が優先され、道路、橋、鉄道、発電所などの受注を官民一体のオールジャパン体制で前進させる。見返りとして地下資源を求めれば紛争がつきものだから軍事力の後ろ盾も必要だとの論理に行き着く。
2013年1月にアルジェリアの天然ガスプラントが武装グループに襲撃され、日本人10人を含む40人が犠牲となった人質事件が起こった。自公与党で構成するプロジェクトチームの座長に就いた中谷元衆院議員にインタビューした斎藤さんは、事件を契機に自衛隊による在外日本人の陸上輸送を可能とした自衛隊法改正の意図も問いながら「国策の産業兵士として出て行くのだから軍事力で守るのは米仏では常識であり、日本も先進国型にならなければいけない」との趣旨の言葉を引き出している。いずれ武器の携帯をどうするかの議論になることを斎藤さんは示しつつ、経済界の利益も加わって単純な帝国主義ではない日本という国家の行く末を見抜くよう集会参加者に求めて結びとした。
●核の恐怖に落ち込んだ少年時代
静が斎藤さんなら、動が山城さん(写真)といえよう。身ぶり手ぶりを交えて開口一番、「恐ろしい戦争の時代に突入しないよう努力していきたい」と力強く訴え、沖縄からの特別報告を始めた。
翌日を衆院選投開票に控え、どうしても選挙状況に触れざるをえない。小選挙区4議席とも「オール沖縄」で保持し、沖縄の反基地の意志を翁長雄志知事の下で日本政府に突きつけようというものだ。「政府は一角でも崩せと至上命令を出していると思う。そうなれば、沖縄の空気も世論も変わったと言うだろう。絶対負けられない選挙になっている」と警戒心をあらわにした。結果は3勝1敗。4区で自民党候補に保守重鎮が敗れ、全体でも自公与党が3分の2の議席を維持する安倍信認を国民は選んだ。
国際反戦デーは、当時の総評がベトナム反戦統一ストを実施した1966年10月21日が出発点で、今日まで続いている。当時、山城少年は中学生。米軍B52爆撃機の撤去運動に大人も子どもも黄色いリボンを胸に従事していたと振り返る。15歳の時の墜落事故に「沖縄は核で吹っ飛んでいたかもしれない。核の恐怖にとらわれ、落ち込み、それを契機に反戦運動に入っていく高校時代を思い出す」と語る。米軍統治下の沖縄、核の恐怖は目の前の危機だった。9月のNHKスペシャル「スクープドキュメント 沖縄と核」を紹介。日米の密約で沖縄に核弾頭1300発が配備され、1959年の誤発射がもし海でなければ沖縄全土が壊滅的な被害を受けたかもしれなかったと知って、恐怖を全身に表した。毒ガスの撤去は1971年に見たそうだが、核弾頭1300発が撤去されたかどうかは今も不明である。
●逮捕にも「どちらが犯罪者か」
山城さんたちの裁判についても触れておかねばならないだろう。2016年10月17日、基地建設反対運動中の威力業務妨害、公務執行妨害などの容疑で沖縄県警に逮捕された。山城さんは、それから152日にも及ぶ勾留。前年見つかったステージ4の悪性リンパ腫の闘病も5カ月にわたった。この不屈の精神はどこから来るのだろうと思ってしまう。通常なら、とっくに心が折れてしまいそうな苦難である。
裁判では、意見陳述の場で現地の思いを2時間ほど話したという。「ペンチで針金を切ったとか、ブロックをゲート前に積んだとか、スクラムを組んで押し返す際に暴行をはたらいて傷害を負わせたと言われるが、1000名の機動隊を押しつけて、抵抗の声を上げる県民を無理やり力ずくで排除し、あばらを折り、失神させ、心臓発作で救急搬送させるようなことをむげもなくやっているような人たちに犯罪者呼ばわりされるいわれはない」と感極まって話すと会場からは同調の拍手が起こった。誰が犯罪者かを裁判所が明らかにしてほしいと、山城さんは声を裏返しながら語った。
だが、現実の裁判は厳しい。接見制限は解かれず、関西大学の高作正博教授の意見陳述も書面にとどめられた。琉球大学の森川恭剛教授も同様に意見書を出したために傍聴ができなくなり、国連人権理事会の特別報告者、デビッド・ケイ氏の意見書は裁判所から断られたという。
司法が政権に寄り添うような判決が圧倒的に多いこの国で、山城さんは腹を立てつつも腹をくくっている。形式にのっとって門前払いが予想されても「このままでは、またぞろ戦争国家に突入していく」と恐れ、権力の暴走を何としても食い止めたいと考える。与那国、石垣、宮古島で造られているミサイル基地が中国の艦船に向けられ、嘉手納基地から爆撃機が朝鮮半島に行くかもしれない。そうなれば、島は反撃されて消滅しかねない。山城さんは「恐怖の瀬戸際に立たされていて、そういう時代にノーだと声を上げようとしたら押しつぶされる。でも私たちは、裁判の結果がどうであれ、この時代を県民の思いを思いとして、裁判にやむを得ず立たされた仲間たちを理解し、結果にかかわらず闘い抜こう。この裁判を歴史的な意義あるものにするために沖縄の思いを、県民の思いを訴えて正義の闘いにしたいと決意をしている」とボルテージを上げると今日一番の拍手が山城さんを包んだ。
●「黄金のシルバー」鼓舞し合って
安倍政権が安保法制によって集団的自衛権の行使容認に踏み出したことで一つの懸念があると山城さんは吐露する。朝鮮民主主義人民共和国(以後、北朝鮮)がグアムに飛ばすミサイルを日本のイージス艦が日本海と太平洋側から撃ち落とす計画もあると聞いて、そうなったら米朝でなく日朝の対立になってしまい、在日米軍のキーステーションである嘉手納や普天間基地が狙われる。岩国、横田、横須賀あるいは京都に造られたXバンドレーダーも標的になるのではないか。山城さんの心配は「懸念」のレベルを超えているように聞こえた。ならばこそ、安保法制に反対して2015年に結成されたSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の名を代表例として挙げながら、政治離れをしている若者たちに呼びかけて共に平和をつくるための努力をすべきだと訴えた。
いま沖縄での反基地闘争の焦点は、ヘリパッドの高江(東村)や普天間飛行場の移設先とされる辺野古(名護市)だ。しかし、その現場に若者はほとんどいない。定年退職した人が中心となるのはやむを得ないと山城さんは苦笑いし「黄金のシルバー」同士が鼓舞し合う状況である。「永遠の青春などと称してですね」と会場を笑わせながら、憲法のありがたみを肌で感じる団塊世代の団結を固めている。「私たちこそが戦後の日本の民主主義を体現してきた誇りある世代。恐縮だが、“最後のご奉公”と思って戦争への道を止めるのが責務であり、課題だろうと思う」と力を込めた。課題とは、若者たちの心に届く言葉をまだ持ち得ていないことを指すようだ。
税金を食う非生産的な軍隊が実権を握った時代を顧みれば、市民生活は窮乏を余儀なくされ、言論の自由も奪われた。これから自衛隊が最終的に国防軍となり、さらにカネと人員をかさ上げすれば消費税も10%ではすまなくなるだろう。年金は引き下げられ、物価は上昇する。山城さんは「そういう生活を破壊するシステムが来ようとしている」として、内実とは裏腹な安倍首相の「この国を、守り抜く」という声高なスローガンに憤りを隠さなかった。「カッコイイ」などと安倍首相の表面上の勇ましさを称揚する声も少なくないが、山城さんは「言葉の後ろにある本質、恐怖を語りながら、彼のような政治家をはびこらせてはならない」と口を真一文字に結んだ。
●圧力一辺倒でなく外交で平和追求
沖縄の地元2紙に寄稿する、元外交官で評論家の孫崎享さんと元防衛官僚の柳沢協二さんの2人の意見が山城さんの胸にしみこむ。北朝鮮のミサイルに対し、安倍首相が主張する圧力一辺倒では解決しないと考える。「戦争か平和か」の二者択一なら、日米韓あるいは、それに中露も交えた6カ国協議による平和しかないではないか、と。
自民党の今選挙公約に「地下シェルターの整備等の国民保護関連施策の強化に加えて、公共・民間の既存の地下空間を利用して緊急避難場所を確保するための新たな取組を早急に進める」と初めて明記された。この公約が川上高司・拓殖大学教授によれば、北朝鮮からの核・ミサイル攻撃を念頭に地下シェルターの整備などの具体案を盛り込んだものと指摘していると山城さんは紹介。1億2000万人のシェルターなど不可能であり、もし国民の命が大事だというなら、安倍首相自らが北朝鮮に赴いて、相手の要求を取捨選択しながら譲歩しアジアの平和を外交で追求すべきだと主張した。それは決して弱腰外交と呼ばない現実路線だと私も思う。沖縄の核におびえてきたからこそ、アジアで核戦争の恐怖にさらされるのがたまらない山城さんの言葉に真実を見る。
和平が成立すると、戦後賠償や慰安婦問題、拉致被害者の帰国などの外交的難題が持ち上がると川上教授は予想する。山城さんは「当然あるべき問題にこれまで封印をして知らぬ存ぜぬだから仲良くできないわけだ」と一蹴し、協議で正面からそうした問題も話し合うべきだとする。謝罪すべき点は謝罪し、追及すべき点は追及する。ウィンウィンでなく、相手を屈服させるために米国を後ろ盾にした圧力一辺倒の欺瞞を突いた。
本当の意味で「誇りある国」をつくるリーダーとはどういう人物か。山城さんは問いかける。「それは憲法に従って政治をし、外国との意見の違いを自分の力で堂々と協議できる仕切り役。本物の政治が今求められているのは、間違ったら戦争が始まるからだ」とし、安倍首相に対して「サヨナラ。長州に帰りなさい」と突き放した。
●なぜ市街地の低空でヘリ訓練
集会の10日前、米軍の大型輸送ヘリコプターCH53が高江の民有地に不時着、炎上した。山城さんは「墜落」と表現して2004年8月に沖縄国際大学に同型機が墜落した事故を思い返した。
ところが1週間後には飛行再開。普天間飛行場所属の同ヘリは、訓練を海ではなく市街地の上を楕円軌道で回る。カーブすると、車で言えばブレーキとアクセルを同時に踏むようなもので音量は増幅され、高さも10〜20メートルの低空だから、その爆音を「バリバリバリバリ!」と臨場感をもって山城さんは再現する。いや、それでも控えめな発声に感じた。現実は、耳を塞いでも腹の底まで響く耐えられない不快音なのではないか。なぜ、そんな低空の訓練をするのだろう。それは、ヘリにとって敵にミサイルやレーダーに捕捉されない高さだからだと山城さんは解説した。「何で人の頭の上でやるのか。やるのなら、あなた方の米軍基地の上でやれよ。落っこちたら危ないから基地の上ではやらない。それで市街地の周りでグルグルグルグル回る。ふざけるな、アホ!」とユーモア交じりの怒りのボルテージは最高潮に達した。「機動隊にごぼう抜きされ、たたかれ、ぶん殴られても、悔しさを胸に、違うものは違うという運動をしていきたい」と、辺野古と高江のゲート前で歌われている『今こそ立ち上がろう』『座り込めここへ』をアカペラで熱唱する姿に、てらいはなかった。
「オール沖縄」の役員の一人として山城さんは翁長知事のさらなる奮闘を期待した。4月に着工された辺野古の護岸工事に対しても知事権限でさまざまな抵抗が今後も可能と見ている。大浦湾を埋め立てる全体工期は10年にも及ぶ。投入された箱型コンクリートのケーソンは、海底のサンゴがもろいため定着できず、工事はそこでストップしている。土木技師の北上田毅さんからもたらされる情報も紹介しながら、闘う勇気を得ているようだった。「山城博治のような、わけもなく吠えまくって、アジテーションして、歌って踊って泣いて笑って捕まって、そして叫ぶ。そういう人も大事」とおどけながら、理論として冷静に分析する北上田さんのような存在の重要性を語った。埋め立てには辺野古の山を流れる美謝川の水路変更が必要となるので、水利権を管理する名護市長の稲嶺進氏が健在な限りはこれを許さない。長丁場の闘いを山城さんは構えながら仲間たちに活を入れている。沖縄に機動隊を派遣した警視庁と千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡の5府県警に対して住民訴訟が起こり、辺野古への土砂搬出反対で8県の団体で発足した全国連絡協議会も活動を続けている。しぶとく諦めない。全国との具体的な連携に山城さんは希望を託す。
●沖縄県民の安寧の願い「国賊」か
この日、山城さんは「命(ぬち)どぅ宝」のTシャツを着て演壇に立った。命こそ宝なのである。安寧に暮らしたいという沖縄県民の当たり前の願いが、安倍政権にとっては許し難い「国賊」の行動と映るのかもしれない。
ネットの世界では、政権に刃向かう者たちへの誹謗中傷があふれている。アジアの身近な国や国民を劣等扱いし敵とする。「日本万歳」にくみしないような意見は批判として受け止められない。斎藤さんは極左とされ、山城さんに至っては凶悪暴力犯扱いである。国家の暴力性に鈍感な者たちは、沖縄の抵抗を外国人主導の圧殺すべき対象として誤解あるいは意図的に攻撃する。そしてバーチャルが次第にリアルを侵していく。それでも、倒錯した現実を山城さんたちは座して受け入れはしない。非暴力不服従を貫く。ちょっと言葉は荒いように聞こえるが、それも熱い血潮の表れではないだろうか。むろん運動の課題も自覚している。しかし、最前線の闘いは、平和への意志を持ち続けるなら、全国に、世界に広がっていく。やがて歴史が証明するだろう。2人の話を聞いて、強くそう思った。平和は、黙っていては訪れない。
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