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自民圧勝も浮かぬ顔。安倍首相に立ちはだかる3つのハードル
http://www.mag2.com/p/news/328006
2017.10.31 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
先の衆院総選挙では圧勝したというのに、メディアに登場する安倍首相には笑顔がない―。総理の「浮かない顔」、一体何が原因なのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の中でその理由を3つ上げそれぞれを詳細に解説した上で、「安倍政治は迷走に陥っている」と結論づけています。
与党3分の2超の圧勝なのに浮かない顔の安倍首相──「総裁3選」までに立ちはだかるいくつものハードル
車の運転中に聞くともなく聞いていたラジオで、「総選挙で圧勝した安倍首相ですが、ずっと仏頂面をしていて、ちっとも嬉しそうではないですね」「まあ、勝って兜の緒を締めよで自重しているんでしょう」という会話が交わされていた。それで初めて気が付いたのだが、確かに選挙後、安倍首相の笑い顔の映像は一度もメディアに流れていないのではあるまいか。それは「勝って兜」のゆとり故のポーズではなくて、実は大勝と言ってもその中身がスカスカで、これから降りかかるいくつもの難問を乗り越えて来年9月の自民党総裁3選まで本当に行き着くことが出来るのか、全く自信が持てないでいることの現れではないのだろうか。
モリ・カケ疑惑は隠しきれるのか?
前号までに何度か述べてきたように、安倍首相が、例えこれまでの与党3分の2超の議席を減らすことがあっても、何としてもこの時期に総選挙を打とうと決意した最大の理由は、モリ・カケ疑惑隠しにあった。6月中旬に通常国家を閉じて以降、来年1月末の通常国会召集までの7カ月もの間、国会の機能を停止して1日たりとも審議はしないということを貫けば、野党やマスコミもさすがに根負けするだろうし、忘れやすい国民はもう別のことに関心を移しているだろう──というのが安倍首相の思惑だった。こうなると、政局戦術というレベルでなく、彼の国会審議恐怖症という心の病の問題である。
しかし、まず第1に、その思惑自体が甘い。前国会末の前川旋風を通じて、ひたすら知らぬ存ぜぬと嘘をついて逃げ回るばかりの安倍首相のみっともない姿に、人々は人格的な卑小さを見てしまった。こういうことは簡単には忘れてくれるものではなく、だから来年の通常国会まで引っ張ったところで、その冒頭からこの問題が再発火するのは避けられない情勢だった。
第2に、この「7カ月もの国会機能停止」について、私が先週水曜日発売の日刊ゲンダイで書き(本号FLASH 欄参照)、私が書いたからということでもないだろうが、翌日のTV朝日「報道ステーション」がかなりの時間を割いてこの問題を取り上げ、野党も声を上げ始めたので、「疑惑から逃げているという批判をかわすためには国会審議に応じる方が得策との判断に傾」(28日付毎日)いたのだが、その踏み出し方がまた姑息で、
1.最初は首相所信表明と各党代表質問だけでどうか(これだと11月5日にトランプ米大統領が来日してその日にゴルフをする前までに閉じられる)
2.それでは余りに短い印象を与えるので、8日まで1週間の会期とする(しかし5〜7日はトランプ氏来日首相は国会不在なので「モリ・カケ」はなしですよ)
3.それでも不満なら、一旦は2.の1週間案で合意して、但し会期延長の協議には必ず誠意を以て応じるということで何とか折り合えないか──
と、小出しというか、逐次投入型というか、何とかして審議の時間を少なくしたいという逃げ腰が見えているのである。
第3に、しかも間の悪いことに、この特別国会が1週間で済むかもっと延びるかと揉めているその最中に、加計学園の来年4月開校を認可するかどうかの期限がやってくる。国会閉鎖中であれば、できるだけ騒がれないようにコッソリと認可を出してしまうという手もないではなかったが、それはほぼ難しくなった。さて、安倍首相はどうするのか。来年4月の開校が出来なければ、加計学園の経営はたちまち大ピンチに陥る。
年内に自民党内で改憲案がまとまるのか?
3分の2超の再確保で、さあ改憲まっしぐらかと思いきや、そうでもない。むしろ選挙戦の最中から終了後にかけて、安倍首相の言い方は「スケジュールありきではなく」と慎重さを増しているようにさえ見える。
第1に、自民党の中がまとまる気配がない。そもそも安倍首相は今年5月3日、自民党の誰とも相談もせずに唐突に「9条加憲論」をブチ上げてしまったので、執行部や憲法族はもちろん、石破茂氏はじめ2012年の同党憲法草案の作成に関わった人々が、この安倍首相の不真面目な案に簡単に賛同するとは思えない。
年内に自民党案をまとめて、それを来年の通常国会早々にでも衆参両院の憲法審査会に提示し、他党にもそれぞれの案を出すよう促して、巧く行けば通常国会中に改憲を発議し、発議から60日以上、120日以内と定められている国民投票を8月から年末までの間に決行する──というのが安倍首相の前々からの計画だが、まずは自民党案がまとまらなければお話にならない。
なにしろ事は戦後初めての憲法改正であって、まずは自民党が打って一丸、火の玉と化して熱い国民運動を繰り広げ、議員一人一人が伝道者となって地元民と激論を交わしつつ説得し支持を広げていくのでなければ、とうてい成功はおぼつかない。が、安倍首相にその統率力はないどころか、この総選挙を通じてむしろ求心力は弱まっていて、年内に自民党案をまとめるのは、かなり難しいのではないか。
第2に、仮に自民党案が安倍首相の意向に沿ってまとまったとしても、公明党がそれに賛同することはありえない。安倍首相が9条加憲論を持ち出した理由の1つは、公明党が前から「改憲ではなくて加憲」と言ってきたのに媚びたからだが、同党は9条に関しては元々護憲派であって、それをいじくってどうこうしようということなど考えたこともない。それを「加憲」という言葉だけで引っかけようというのは余りにも浅はかな考えで、同党指導部はともかく、広範な創価学会員の支持するところとはならない。
今回の総選挙で、公明党の比例票が697万票で、史上初めて700万票を割ったというのは相当に衝撃的な出来事で、それは学会の組織勢力そのものが衰えてきただけでなく、安倍首相の改憲路線にズルズルと引き摺られていく公明党への不信が広がっているからで、立憲民主党に入れた学会員もかなりの数に上ったと言われている。公明党としてはこれまで以上に改憲に慎重姿勢を採らざるをえなくなっている。
第3に、仮に自民と公明がまとまったとして、野党の意向を無視して3分の2の力で押し通すという訳にはいかない。自民党憲法族の間では少なくとも野党第一党のそれなりの熟議の末の納得と協力を得ずして突っ走っても、国民投票で過半数を確保することは出来ないだろうとの考えが強い。総選挙で希望の党が失速して安倍流の改憲に反対を真っ向から唱えた立憲民主党が野党第一党に躍り出たことで、その見通しはますます難しくなった。
改憲の段取りが立たないままで来年9月を迎えた場合に、安倍首相は何を訴えて総裁3選を求めるのだろうか。彼にとって残されたミッションはそれしかないのであって、それをやり切れないのであればお引き取り願いたいということになる可能性が高い。
春の「アベノミクス5年」を乗り切れるのか?
来春にアベノミクスは丸5年、4月には黒田東彦=日銀総裁の任期が満了する。野党もマスコミも、安倍&黒田の「異次元金融緩和」路線で本当のところ日本経済は一体どうなったのかの徹底総括に挑むだろう。
その中で、遅くとも年末までには次期総裁の候補を絞り込まなければならないが、安倍首相が「アベノミクスは成功だった」と主張する限り黒田氏の続投を拒む理由はなく、従って「ポスト黒田も黒田氏本命」(28日付日経一面トップ)ということになる。
ところが、アベノミクスが成功したという虚構を維持するのはもはや限界で、黒田氏自身がそのことに疲れ果てて、最近は引きこもりがちで、到底、続投には耐えられないと言われる。かといって、この不始末の後引き受けて事態収拾の泥をかぶりたいという人もなかなかいないだろうから、この人事は難航する。
この問題については、近く本誌で包括的に論じたいと思っているが、さしあたり年末から春にかけての安倍首相にとっての最大の難関となることは間違いない。
こうして、安倍政治は、せっかくの3分の2超再確保にも関わらず、実は何をどうしたらいいのかよくわからない、迷走状態に陥っているのである。
image by: 首相官邸
『高野孟のTHE JOURNAL』
著者/高野孟(ジャーナリスト)(記事一覧/メルマガ)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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