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国会から逃げ回る安倍政権が炙り出した日本政治の欠陥−(田中良紹氏)
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3rd Nov 2017 市村 悦延 · @hellotomhanks
国会の追及から逃れるために臨時国会冒頭解散を行い、
選挙後も臨時国会を開かせないつもりでいた安倍政権は、
与党内からの批判もあり特別国会を12月9日まで延長することにした。
しかし野党の追及逃れを諦めたわけではなく、
今度は質問時間の配分を見直し、野党に十分な追及時間を与えない作戦に出た。
これまで全体の8割を与えられていた野党の質疑時間を3割に減らそうという
のである。
この国会で野党が「森友・加計問題」を追及することは必至である。
それを与党議員の質疑時間を増やすことで安倍総理ペースの答弁を
国民に印象づけることが出来る。
一方で野党の追及時間を短くすればだらだらと答弁を繰り返すことで
追及をはぐらかせる。
そんな見え見えの策を弄してでも安倍総理は逃げ切りを図りたい。
国会の追及を心底恐れている証拠と言える。
仮にそれが実現すれば、国民は延々与党議員の「太鼓持ち」質問と、
打ち合わせ済みの安倍総理の答弁という茶番劇をテレビで見せられることになる。
これは安倍総理の国政私物化を象徴する話で日本政治の現状そのものなのだが、
一方で与党の若手議員による質疑時間配分見直しの理由を聞けば、
投票してくれた有権者に自分の仕事ぶりを見せたいらしい。
つまりテレビ中継を意識し選挙運動の一環として国会の質疑を捉えている。
そうなるとこれは安倍総理の国政私物化だけでなくもう一つの日本政治の歪みを
提起することになる。つまりNHKの国会中継が日本政治に与える影響である。
そこで議院内閣制の日本政治において国会審議の公開はどうあるべきかを考える。
日本人はNHKの国会中継を何の疑問もなく受け入れてきた。
しかも英国や米国の議会関係者から長年にわたりそのことを批判されてきたことを
知らない。日本は英米から国会審議をテレビ中継すれば
議員が国益より自分の選挙区の有権者を意識し大衆迎合の議論を行うようになると
批判されてきたのである。
大衆迎合の政治がナチスのヒトラーを生み出した経験を欧米は共有している。
従って英国も米国もテレビ放送が始まっても議会のテレビ中継を禁止してきた。
それが変わったのは米国がベトナム戦争に敗れ情報公開の重要性が
意識されてからである。ポピュリズムに陥らない議会中継が
民間のケーブルテレビ会社C-SPANによって始められた。
C-SPANは大衆迎合の政治家を生み出さない議会中継を考える。
対立する政党の政治家同士が激論する審議は放送しない。
議会が法案を審議する前に専門家を呼んで話を聞く公聴会を放送する。
その方が国民に法案の意味を理解させるのに役立つからだ。
党利党略の議論は民主主義を堕落させると考えられている。
1979年に下院から始まったC-SPANは、
大衆迎合的な弁舌をふるう政治家が有利にならないことを確認した8年後に
上院でも始まり、それを見て英国議会もベルリンの壁が崩れた89年に
ケーブルテレビで議会中継を始めた。
こちらは毎週水曜日に行われる本会議場でのクエスチョン・タイムの中継が
中心である。首相と野党第一党の党首が討論を行う。
与野党対決の議論だが30分と短く、
国民にとっても理解しやすく与野党党首の力量を比較できる。
これに対しNHKの国会中継はテレビ放送が始まった戦後すぐから行われてきた。
総理が出席する本会議と予算委員会の一部だけが中継される。
なぜそうなのかをNHKに問い質しても「慣例」としか答えない。
予算委員会は予算を巡る委員会だが全大臣が出席し野党は何を質問しても構わない。
そこで主にスキャンダルが追及されてきた。
55年体制の時代には野党が審議拒否を行い、
裏で与野党のボスがすべての法案の帰趨を決めてきた。
国民は予算委員会で予算の審議など見たことがない。
テレビで見せられるのは与野党の激突する姿だけである。
一般的に日本で法案を作っているのは若手の官僚である。
それを国会に提出する前に与党がチェックする。
国会に提出されれば与党議員に党議拘束がかけられるから与党は
全員法案に賛成の立場である。
国会中継で国民が見ているのは「討論」ではなく「質疑」である。
「質疑」とは政府に対し法案の字句をチェックすることで、
与党議員が賛成の「討論」をする意味はあるが、
事前にチェックした法案の「質疑」をする意味はない。
やればただの「太鼓持ち」になるだけだ。
従って「質疑」の時間配分は野党に多く与えられてきた。
安倍政権はそれを変えようとしているわけだ。
自民党の若手議員がテレビに映りたいと思うだけの、
つまり選挙運動まがいの国会活動を、
そして英米の議会関係者から民主主義を堕落させると批判されてきたことを
実現させようとしている。
おそらく自民党の若手議員は野党議員がテレビ中継で安倍総理に
舌鋒鋭く迫る姿を見てうらやましくて仕方がないのだろう。
しかし自民党の若手議員には党の政調部会で自由に発言する機会が認められている。
官僚が作った法案に舌鋒鋭く迫る若手議員は
そこで力を認められ政治家としての階段を上っていく。
その代わり自分が賛成の立場になった法案の「質疑」をする機会がないのは
致し方がない。やるならば自民党政調部会の「質疑」を公開すればよいのである。
ところが自民党が部会の議論を非公開にしているのだ。
文句を言うなら自民党に公開せよと言うべきである。
またNHKテレビに映りたいと言うのならNHKの国会中継が本会議と予算委員会の
一部だけしか放送しない「慣例」を問題にすべきで、
他の委員会も放送させるよう要求すべきである。
それもしないで議席数の差をもって「質疑」の時間配分を変えさせろというのは
フーテンには全く合点がいかない。
戦前の大日本帝国議会は英国の議院内閣制と議会制度を模倣し、
戦後の国会は議院内閣制を残しながら大統領制の米国議会を真似した。
この「接ぎ木民主主義」の弊害を国会議員が自覚せず、
しかも英米から批判されてきたNHKの国会中継を
何も考えずに「慣例」とし続けてきた日本政治の欠陥が、
国会から逃げ回る安倍政権によっていま炙りだされてきたのだとフーテンは思う。
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