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「電撃解散」自民党幹部が懸念する「こんな誤算」 勝つと負けるは紙一重だから
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52982
2017.09.25 鈴木 哲夫 現代ビジネス
自民党内の「慎重論」
安倍首相が今日午後、会見で9月28日の臨時国会冒頭での衆院解散、そして10月22日投開票での総選挙実施を表明する。つい先日までは、永田町でもマスコミでも「来年後半までは選挙はないだろう」という雰囲気だったから、まさに急転直下だ。
安倍首相が解散に踏み切るのは、もちろん「今なら勝てる」という「勝算」があるからだ。しかし今回は言葉遊びではないが、勝算と誤算が背中合わせ、そんな解散総選挙になりそうである。
総裁任期三期目の満了を来年9月に控えた安倍首相が、どのタイミングで解散権を行使するかは、これまでにもしばしば話題となってきた。他でもないこの秋に狙いを定めたことには、どのような目算があったのか。首相に近い自民党幹部は言う。
「内閣支持率が回復してきて、すでに夏前の水準までほぼ戻している。森友学園、加計学園でどうしようと思っていたところに、北朝鮮の暴発が起こって支持が戻ってきた。ただ、それ以上に大きな要因は野党の惨状。民進党は壊滅し、小池新党もまだ準備がままならない。来年9月の総裁選までの間で『絶対に勝てる』タイミングは、今のところはこの秋しかないと判断した」
確かに、今の野党はもはや選挙どころではない状況だ。民進党は前原誠司新代表が選出されるやいなや、幹事長に内定していた山尾志桜里元政調会長の不倫報道・離党でスタートから躓いた。さらに細野豪志元環境相に続き、中堅の要だった後藤裕一衆議院議員や笠浩史衆議院議員らが離党。早くも今後の党運営は不安定をきわめている。
一方で、注目されているいわゆる「小池新党」のほうも、代表の若狭勝衆議院議員が小池百合子東京都知事と連携して新党の準備を進めてきていたが、細野氏ら民進党離党組との合流をどうするかなど、準備に手間取っていた。
こうして永田町を見回してみれば、なるほど野党は十分な選挙態勢など取れやしない。安倍首相にしてみれば、またとないチャンスが訪れているわけだ。
一方で、こうした「勝算」は裏を返せば「誤算」となる可能性もある。事実、安倍首相側近の中でも、今回の解散には以下のような慎重な声が出ていた。
「北朝鮮への対応で国民の信頼をせっかく取り戻しつつあるのに、その北朝鮮の問題がまだ収まらない中で解散すれば、政治空白を作ることになってしまう。すでに自民党の支援者からでさえ、『選挙なんかやってる場合か』という声が出てきている。北朝鮮でポイントが上がった、と浮かれていていいのか」(安倍首相に近い自民党参議院議員)
早まった野党共闘シナリオ
今回の安倍首相の「決断」によって、かえって野党・民進党を利することになったのではないか、という声も自民党内にはある。自民党選対委員会の議員の一人はこう警戒感を示す。
「『民進党がダメだから』ということで首相は解散を決めたが、早期解散によって、崩壊しかかっている民進党の離党ドミノを止めてしまうことになった。細野氏のような離党組は、遅かれ早かれ民進党を離れると分かっていた面々だ。
前原氏が怖がっていたのは、細野氏らにつられて、今後どんどん離党者が増えて党がバラバラになること。ところが解散が迫っているということで、他にもいた『離党予備軍』は自分の選挙のことを考えて、このまま民進党に残って戦う方が有利だと考えるようになった。つまり、解散が逆に求心力になって、民進党は真の壊滅状態を免れたというわけだ」
さらに、早期解散は野党4党の選挙協力を加速させる事態にもなっている。
「前原さんは本心では、『共産党と同じ党になることはあり得ないが、野党がバラバラのままでは戦えないから、野党再編や連携は進めるべき』という考えです。ただ、党内には他党との共闘や合流にいろんな意見があるから、一つ一つ手続きを踏んでやろうとしていました。
まずは臨時国会で社民・自由との3党で統一会派を作る。その次の段階で、一つの政党になる。さらにそのあとで共産党と接触し、選挙協力について詰めるというシナリオだったのです」(前原氏側近の民進党議員)
この前原氏のシナリオは、安倍総理の解散表明によって展開を早めざるを得なくなった。それを前出の自民党選対にいる議員は危惧しているのだ。
「民進党はそもそも、単独で小選挙区すべてに候補なんか立てられない。しかし、逆に言えば単独で戦えないなら、少々党内に反対や不満があろうとどうのこうの言っている時間はない。現実的に考えれば、野党4党の選挙協力で行くしか道はないということになる。
実際、(民進党の)長妻昭選対委員長らは、前回の2014年総選挙でのデータをもとに、水面下で各党と一対一の折衝を進めていたという情報が入ってきている」
民進党幹部の一人も、こうした動きを認め、私にこう話した。
「小選挙区制というのは、基本的に一騎打ちの対決構図になる。これは理屈じゃなく現実だ。そうした中で勝つために、共産党と一緒になることはないが、『(連携は)地域事情がある』と前原代表も何度も言ってきた。解散してから告示までの2週間の間にも(4党選挙協力については)かなり進むだろう」
「小池新党」は、二桁は取る
一方の小池新党も、解散総選挙によって結党のスケジュールが早まり、予想よりも大幅に早い段階で新党の形が見えてきた。
9月解散が濃厚になる以前は、若狭氏と細野氏の新党結成の話し合いが、政策理念やメンバー構成などに関してなかなか進まずこう着状態になっていたという実情があった。そのため9月11日には、小池氏を交えた3者会談が行われている。
「ボスの小池さんが立ち会った上で、『とにかく大枠でいつか一緒になろう』という調整をした。政党交付金がもらえる年内には新党を作る。ただし、早期解散ならすぐ合流しよう、という確認を3者会談の場でしたばかりでした」(小池氏周辺)
明日にも党名を「希望の党」として船出を迎える「国政小池新党」。当面の焦点は、総選挙でどれだけの新人を立てられるかということになる。細野氏は全国で100人、若狭氏も東京の25小選挙区すべてで擁立を進めると話しているが、少しでも多くの候補者を立てて票を獲得し、比例復活の保険をかけたいところだろう。
ただ、「細野さんは全国の地方議員に『うちから出ないか?』と声をかけているようだが、準備期間が短いことや資金の問題もあるので、最終的には何人立てられるか分からない。新党の理念や政策を『急ごしらえ』と批判される可能性も高い。早期解散は正直言って痛い」(同小池氏周辺)と、投開票まで1ヵ月しか残されていない中、課題は山積みである。
とはいえ、今回の突然の解散が、もたついていた小池新党の結成を促したことは事実。前出の自民党選対にいる議員は、「いろいろあっても、小池新党は比例もあわせて全国で二桁の議席は取るだろう」(前出自民党選対議員)と見ている。
マスコミ各社の世論調査を細かく見ると、確かに内閣支持率は上がっているが、質問項目別に見れば、森友・加計両学園の問題について「説明が足りない」という声がほとんどの社で未だに半数を超えている。その底流には、安倍首相が説明責任を果たしていないことへの不満がくすぶっている。冒頭にも登場した、安倍首相側近の自民党議員はこう話した。
「安倍首相や自民党幹部は、解散総選挙に突入すれば、国会でのモリ(森友)カケ(加計)追及をかわせてご破算にできると思ったら大間違い。逆に選挙で野党がこれを争点にすれば、事件を忘れかけていた有権者にも再び火が付いてしまうかもしれない」
当の自民党による調査でも、またマスコミ各社の票読みでも、自民党の議席減が予想されている。それでも安倍首相は「大敗はしない」と考えたからこそ、解散総選挙を仕掛けた。別の安倍首相側近はこう言う。
「官邸の今井尚哉補佐官や菅義偉官房長官は、ギリギリまで解散のリスクを安倍首相に進言していたと聞いています。しかし安倍首相の心情としては、森友・加計問題での支持率低下に心底参ってしまったんだと思います。『盤石だったはずの一強が崩れた』という現実が、首相の決断を早めさせたのです」
場合によっては、結果がどうあれ、これが安倍首相にとって最後の解散総選挙となるかもしれない。首相の戦略は、果たして奏功するだろうか。
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