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「国・沖縄県 再び法廷闘争へ」〜提訴を避けるという選択肢はなかった〜沖縄に寄り添い、県民が納得できる対応がないと思われたままでいいのか/西川龍一・nhk
「国・沖縄県 再び法廷闘争へ」(時論公論)
2017年07月24日 (月)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/276196.html
西川 龍一 解説委員
国が進めるアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事について、沖縄県は、那覇地方裁判所に差し止めを求めて提訴しました。政府と沖縄の対立は、再び法廷に持ち込まれることになりました。
▽なぜ再び法廷闘争か
▽移設工事差し止め訴訟の要点は
▽今、沖縄で起きていること
以上3点をポイントに、この問題を考えます。
国を提訴したことについて翁長知事は記者会見で「無許可の行為をしてまで新基地建設を拙速に進め、豊かな生物多様性を誇る辺野古の海を埋め立てようとする態度は『沖縄県民に寄り添う』という発言ともかけ離れていて、到底容認することはできない」と話しました。
国と沖縄県の普天間基地の辺野古移設をめぐっては、去年12月、別の裁判の最高裁判決で県の敗訴が確定した経緯があります。このため、県政野党の自民党を中心に、新たに裁判を起こしても勝訴する見通しはなく、翁長知事は政府との政治交渉で解決するべきだとの意見もあります。
しかし、政府の沖縄県に対する対応は、県民に丁寧に寄り添うという言葉とは裏腹な状況です。先月23日の沖縄慰霊の日の戦没者追悼式には、安倍総理大臣も出席してあいさつしました。その中で、安倍総理はアメリカ軍の北部訓練場の返還の実現など、沖縄の負担軽減策の実績を強調したものの、普天間基地の移設問題には具体的に触れることはありませんでした。さらに、安倍総理は、翁長知事との会談もないまま、式典が終わるとすぐに沖縄をあとにしました。
翁長知事は辺野古移設阻止を掲げて知事となりました。「辺野古に基地を作らせないため、あらゆる手段を駆使する」としている翁長知事にしてみれば、政府が話し合いの土俵に上がる気配すらない状態で海の埋め立て工事が本格化している以上、法廷での国と県の対決が繰り返される異例の事態が続くことになったとしても、提訴を避けるという選択肢はなかったわけです。
では、今回の訴訟は、どういうものなのでしょうか。
最高裁で沖縄県の敗訴が確定した訴訟は、翁長知事が普天間基地の移設先とされる辺野古沖の埋め立て承認を取り消したのは違法だとして、国が県を訴えたものでした。県が敗訴したことを受けて、翁長知事は埋め立て承認の取り消しを撤回しました。
今回は、逆に県側が国を訴えました。埋め立てに必要な海底の岩礁を壊す県の許可の期限が今年3月で切れているのに国が許可を申請しないまま工事を進めているとして、工事の差し止めを求めています。埋め立て作業では、珊瑚礁など海底の環境が大幅に変わることになり、漁業に影響が出るため、知事の許可を得ることが県の漁業調整規則で定められています。県は再三、国の沖縄防衛局に許可を得るよう求める行政指導を行ってきました。しかし、国はこれに応じないまま埋め立て工事に着手し、工事を進めています。県は工事の差し止めとともに、裁判で決着が付くまでの間、工事を止めるよう求める仮処分の申し立ても行いました。
これに対し、国側は、県が求める岩礁を壊す許可そのものが必要ないという立場です。地元の漁協は、国からの補償金を条件に、今年1月までに漁業権を放棄したため、漁業権はすでに消滅しているというのがその理由で、県側の主張とは真っ向から対立しています。
菅官房長官は、午後の記者会見で、内容を確認していないので政府としてコメントは控えるとした上で、「政府としては事業を進めるに当たって必要となる法令上の手続きを適切に行っており、移設に向けた工事を進めていくことに変わりない」と述べました。
国は普天間基地の危険性を除去するには、辺野古移設が唯一の解決策という立場です。今回の訴訟に対抗するため、代執行手続きなどを起こすべきという意見もあります。ただ、現政権は歴代のどの政権より強引に普天間基地の辺野古移設を進めていると見られているだけに、こうした手段を取れば、国と県はもとより、沖縄県民との関係がさらに悪化することになり、事態は泥沼化する恐れがあります。
では、現場を含め、沖縄では今何が起きているのでしょうか。
まず、名護市辺野古の移設予定地です。国が護岸工事に着手したのは、今年4月25日のことでした。それから3か月、護岸作りは大量の石材を海に投入するなどして着々と進められ、護岸は海上およそ100メートルまで伸びました。先月末からは、護岸の根元の部分に1個の重さが20トンある波消しブロックを設置する作業が行われています。台風シーズンを前に、台風などの高波による護岸の浸食を防ぐのが目的です。さらに国は、埋め立て予定地の別の護岸工事に向けて、資材や機材を運ぶための搬入路の整備も始めるなど、護岸の建設を加速化させています。県側に裁判を見据えた動きがあるなかでこうした動きを進めることには移設に反対する人たちから「既成事実化を進め、あきらめを狙っている」とか「強引なやり方だ」などと抗議の声が上がっています。
さらに、沖縄のアメリカ軍基地では、日米両政府の合意を破るような運用がここ数か月、目に付くようになっています。嘉手納基地では、住宅地への危険性が懸念されるため別の飛行場を使って行うことになっていたパラシュート降下訓練が6年ぶりに行われ、常態化しつつあります。また、海兵隊の輸送機オスプレイが、午後10時以降も頻繁に飛行訓練を行ったり、民間地の近くで物資をつり下げて飛行しているのが目撃されたりしています。地元では、基地負担の軽減に向けたSACO合意の目的に相反する状況だとの指摘があります。「県民から見れば、日本政府がアメリカ政府に言うべきことを言わないことが、アメリカ軍を増長させているのではないか」と批判する専門家もいる中で、国の責任でこうした状況を検証する姿勢は見えないのが実情です。
一方で、翁長知事にとっても、正念場を迎えていることは確かです。翁長知事は裁判の他にも「埋め立て承認を撤回」する意向も示しています。しかし、事態の解決に向けた妙案があるわけではありません。来年1月には辺野古を抱える名護市の市長選挙があり、秋には翁長知事自身の選挙も控えています。今年に入って行われた宮古島市、浦添市、うるま市の3つの市長選挙では、いずれも翁長知事が支援した候補が敗れているほか、今月投票が行われた自身が市長を務め、お膝元である那覇市の市議会議員選挙で翁長知事を支持する勢力が議席を減らし、知事の求心力の低下が指摘されています。今回の裁判で負けることがあれば、こうした状況に拍車がかかることになりかねないとの声もあります。
先月12日、生涯沖縄の基地問題を訴え続けた大田昌秀元知事が92歳で亡くなりました。普天間基地の返還に日米両政府が合意したのは、大田県政時代の1996年のことです。その後、返還の条件として辺野古移設が盛り込まれたことから、大田元知事は、最終的に県内移設は認められないという考えを示し続けましたが、時の政権がパイプを閉ざすことはなかったと言います。
安倍内閣の支持率が下落を続けているのは、一連の加計学園の問題などで説明が不十分だと国民が判断したことが大きな要因です。そこにあるのは、長期政権のほころびとの指摘もあります。沖縄に寄り添い、県民が納得できる対応がないと思われたままでいいのか。対立だけでなく、政治対話に向けた協議と誠実な対応を国は求められています。
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