http://www.asyura2.com/17/senkyo230/msg/492.html
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2017年8月10日 高橋洋一 :嘉悦大学教授
安部改造内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成
Photo:首相官邸HPより
秋の臨時国会では補正予算が提出される。政府が掲げる「2%物価目標」を実現するには、その規模はどの程度が適切なのだろうか。
そのカギを握るのが、「GDPギャップ」である。それを埋めるには25兆円程度の有効需要を上乗せすればよく、いまの国債市場の玉不足を考えれば、国債増発による財政出動は正当化される。
インフレ目標の達成に
経済政策の余地はある
「GDPギャップ」は、実際のGDP(国民総生産)と潜在GDPの差の、潜在GDPに対する比率と定義されている。
問題なのは、潜在GDPである。一般的には、経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で、資本や労働力などの生産要素を投入した時に実現可能なGDPとされているが、GDPギャップの大きさについては、前提となるデータや推計方法によって結果が大きく異なるため、相当の幅をもって見る必要がある。
このことはGDPを推計している内閣府や日銀でも注意事項として認識はされている。
内閣府は最近、GDPギャップの推計方法を若干、改訂した。その値は2017年1−3月期では+0.1%としている。もっとも、この結果をもって、GDPギャップがないから既に完全雇用だ、経済対策は必要ないと早合点はできない。内閣府の潜在GDPは必ずしも完全雇用を意味していないのだ。
その理由を簡単に言えば、まだインフレ率は上がっていない以上、まだ失業率は下がる余地があり、インフレ目標達成とさらなる失業率の低下のために、経済対策の余地はあるということだ。
日銀の算出しているGDPギャップについても、内閣府と似た傾向になっており、注意が必要だ。いずれにしても、内閣府と日銀によるGDPギャップの絶対的な水準をそのまま鵜呑みにしないほうがいい。
ただしGDPギャップについては、その絶対的な水準ではなく、その変化はおおいに参考になる。内閣府のデータは公表されているので、それを活用してみよう。
2%の物価上昇には
25兆円の有効需要が必要
まず、失業率とインフレ率の関係(フィリップス曲線)を整理しておこう。
それを子細に見ていくと、ちょっと違った姿が見える。
失業率とインフレ率は、逆相関になっているが、実は、両者の間を、GDPギャップが介在している。
例えば、GDPギャップがマイナスで大きいと物価が下がり、失業率が大きくなる。逆にGDPギャップがプラスで大きいと物価が上がり、失業率が小さくなる。
下の図1は、2000年以降四半期ベースで見たGDPギャップとインフレ率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸にインフレ率(消費者物価総合対前年比)をとっている。GDPギャップは半年後(2四半期後)のインフレ率とかなりの相関関係がある。
http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/670m/img_6b41951ad029c7b21f0bb7aba8e9301f98795.jpg
◆図表1:GDPギャップ率とインフレ率(半年後)
ここで、GDPギャップとインフレ率の関係から、「2%インフレ」にするために必要なGDPギャップ水準を算出してみると、+4.5%程度である。
それを埋め合わせるためには、有効需要25兆円程度が必要になる。1単位の財政出動による需要創出効果を示す財政乗数が、内閣府のいう1.2程度としても、この有効需要を作るための財政出動は20兆円程度である。
財政出動で構造失業率
2%程度まで下げられる
また、この財政出動はGDPギャップを縮小させるので、インフレ率の上昇とともに、これ以上、下げられない「構造失業率」までは失業率の低下をもたらすはずだ、
下の図2は、2000年以降の、四半期ベースで見たGDPギャップと失業率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸に失業率をとっている。図をわかりやすくするために、左軸は反転させて表示しているが、GDPギャップはやはり半年後(2四半期後)の失業率とも、かなりの逆相関関係がある。
http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/c/2/670m/img_c25010bb90e60048ceedcfa2303baaba95920.jpg
◆図表2:GDPギャップ率と失業率(半年後)
GDPギャップと失業率の関係式から見た、GDPギャップ+4.5%程度に対応する失業率は2.7%程度である。
ここで、筆者が、2016年5月19日付けの本コラム(「日銀の「失業率の下限」に対する見方は正しいか」)で書いたことを参照してもらいたい。
その構造失業率の推計値は、同じく2.7%である。もちろん、経済学は精密科学ではないので、2.7%ピッタリということではなく、2%半ばという程度である。
ただし、2016年5月の本コラムでは、UV分析を用いている。、構造失業率の推計方法には、UV分析とフィリップス曲線による分析(特にNAIRU[インフレを加速させない失業率]の推計)がある。
今回のコラムは、フィリップス曲線による分析と本質的に同じだが、いずれにしても、二つの異なる分析によっても、日本の構造失業率が2%半ばと同じになっているのは興味深いことだ。
数学の証明問題では、二つ以上の方法により証明すると、その命題はより正しいとされるが、経済学でも別の二つの方法で同じ結果であれば、よりもっともらしいといえるだろう。
以上の分析を総合すると、構造失業率は2%半ば程度であろうとともに、それに対応するインフレ率はインフレ目標の2%である。
であれば、有効需要25兆円、財政出動に換算して20兆円規模を求めることは、インフレ目標2%を達成し、同時にこれ以上下げられない構造失業率2%半ばを達成することになる。つまり適度なインフレの下で、回避できない失業を除いて人々に完全雇用を実現する合理的な政策である。
国債は玉不足
増発も正当化される
ただし、財政出動しても、その効果がただちに発揮されずに、実体経済への影響が出た後、インフレ率と失業率に波及するには時間差がある。
もっとも、インフレ率も失業率もともに、GDPギャップから半年程度のラグなので、インフレ率がまだ2%に達しないようであれば、金融緩和しても実害はあまりない。
急激にインフレ率が高くなることを心配する向きもあるが、物価が上がるとしても1年以内にインフレ率5%ということはほとんど考えられない。5%のみならず、一桁インフレであっても、その社会的コストは大きいとはいえないので、今のような状況ではインフレを過度におそれる心配はないだろう。
いずれにしても、内閣府や日銀が示しているGDPギャップは、完全雇用とインフレ目標達成の観点から見ると、“過大評価”の数字である。筆者の分析では、たとえGDPギャップがプラスになっても、そう簡単にはインフレ率は上昇しないし、インフレを過度に心配すべきでないことをデータが示している。
これに対して、そうした過大な財政出動は財源の裏付けが必要であり、国債発行では財政再建に反するという、いつもの財務省の声が聞こえて来そうだ。
だが、その心配が無用であることは、2月23日付け本コラム(「日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている」)などで何度も繰り返して述べている。
むしろ問題は、現在の国債市場において、国債の玉不足になっており、日本銀行の「異次元緩和」にも支障が生じている事態であることも付け加えておこう。そうした観点から、国債発行による財政出動も正当化できる。
こうしたまともな政策を安倍政権が実施できるかどうか、内閣改造の真価が問われている。
(嘉悦大学教授 高橋洋一)
http://diamond.jp/articles/-/138218
【第1回】 2017年8月10日 櫻井よしこ :ジャーナリスト
「安倍下ろし」歪曲報道パニックにみる10年前と酷似したメディアの構図
安倍改造内閣の発足にもかかわらず、かつて60%を超えていた支持率は、いまだ40%を切っているとの世論調査もある。今回の一連の流れで大きな影響力を見せたのが、加計学園問題などをひたすら報じ続けた新聞・テレビなどのマスメディアだ。櫻井よしこ氏によれば、ここには第一次安倍政権のときと「まったく同じ構図」が見て取れるという。いったい何が「引き金」になったのか? 最新刊『頼るな、備えよ――論戦2017』が発売された櫻井よしこ氏が語った。
前知事の証言を“無視”した
「朝日」と「毎日」
櫻井 よしこ
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞。1998年、『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年、「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。著書に『頼るな、備えよ―論戦2017』(ダイヤモンド社)など多数。
日本の国内政治は、危機に直面している。日本の政治家のなかで、世界の現状と戦略を最も鋭く把握しているのが安倍晋三首相であろう。国際社会の劇的変化のなかで、安倍首相に取って代わって日本の国益を守り得る政治家はいないのではないか。しかしその首相と自民党への逆風が吹き荒れ、支持率が急落した。
さまざまな要因はあるが、大きな原因となった加計学園問題を見てみよう。
愛媛県今治市に加計学園の獣医学部を新設する問題で、官邸の圧力で行政が歪められたと主張する前川喜平前文部科学事務次官の証言をきっかけに、反安倍勢力による倒閣運動と言える動きが生まれた。
7月10日に国会閉会中審査が行われ、獣医学部新設は愛媛県のみならず四国4県の願いだった、安倍首相主導の国家戦略特区こそ、歪められていた行政を正したのだと加戸守行前愛媛県知事は証言したが、「朝日新聞」も「毎日新聞」も加戸証言を無視した。
大半のテレビ局の報道も同様で、いまや安倍首相は一方的に悪者に仕立て上げられている。内閣府・国家戦略特区ワーキンググループ委員の原英史氏は、獣医学部新設問題を審議した一人である。氏が語った。
「加計学園についての真の問題は、獣医学部新設禁止の“異様さ”です。数多ある岩盤規制のなかでも、獣医学部新設の規制はとりわけ異様です。文部科学省は獣医学部新設を過去52年間禁止してきました。通常の学部の場合、新設計画の認可申請を受けて文科省が審査しますが、獣医学部に関しては新規参入計画は最初から審査に入らない。どれだけすばらしい提案でも、新規参入はすべて排除する。こんな規制、ほかにありません」
原氏は、「異様」の意味はもう一つ、この岩盤規制が法律ではなく文科省の「告示」で決められていることだと強調した。国会での審議も閣議決定もなしに、文科省が勝手に決めた告示によって、52年間も獣医学部は新設されていないというのだ。文科省の独断の表向きの理由は、獣医の需給調整、すなわち獣医が増えすぎるのを防ぐためと説明されている。
加計問題はまったく別の角度
からの究明・報道が必要
だが、愛媛県の畜産農家の実情を見つめてきた加戸氏は、知事時代に鳥インフルエンザも経験し、獣医師は絶対的に不足していると強調する。少ない人数の獣医師が皆、倒れそうになるまで働いているのを見ながら、加戸氏は獣医学部新設を許さない鉄の規制、獣医師会と文科省をどれだけ恨めしく思ったかしれないと、語る。いちばん強く反対したのが日本獣医師会だと、加戸氏は本当に口惜しそうに語った。
2年前の2015年9月9日、地方創生担当大臣だった石破茂氏を、「日本獣医師政治連盟」委員長の北村直人氏らが訪ねたときの様子が、日本獣医師会のホームページに掲載されている。石破氏の言葉としてこう記されている。
「今回の成長戦略における大学学部の新設の条件については、大変苦慮したが、練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした」
獣医学部新設を絶対に阻むべく、規制を強めたと言っていることが窺える。具体的にはそれは獣医学部新設のハードルを上げてきわめて困難にした「石破4条件」を指すとされている。
石破氏はそのような発言はしていないと、全面的に否定するが、上の引用は日本獣医師会のホームページに石破氏の発言内容として公開されているものだ。真の悪者は獣医師会であり、その獣医師会に石破氏が協力したということを示す資料ではないか。これが事実なら、加計学園問題はまったく別の角度から報道しなければならない。
こうした背景のなかで、加計学園がようやく新設を許可されることになった。それが安倍首相の圧力の結果だと、「朝日新聞」はじめ大半のメディアは安倍批判を強める。果たして安倍首相は不当な圧力を加えたのか。
実際にこの問題を取り扱ったワーキンググループの一員、原氏が説明した。
「絶対にそんなことはありません。獣医学部新設の提案は、新潟市、今治市と京都の綾部市からありました。綾部市は京都産業大学を念頭にしていたのですが、7月14日に正式に提案を撤回しました。新潟は申請自体が具体化していません。結局、充実した案を示したのが今治市と加計学園のチームでした。今治市はもう10年以上も申請を続け、それだけに学部の内容も練り上げていました。ほかの申請者とは熟度がまったく違いますから、彼らが選ばれるのは当然です。安倍首相の個人的思いや友人関係など、個人的条件が入り込む余地などまったくありません」
加戸氏も、国家戦略特区で今治市と加計学園による獣医学部新設が認められたことで「歪んでいた行政が正された」と語り、官邸が圧力で行政を歪めたという前川氏発言を真正面から否定した。加戸氏の指摘からも、行政を歪めた張本人は獣医師会であり、さらに文科省であることが窺える。
10年前の安倍政権のときと
「メディアの構図」が酷似…
にもかかわらず、「朝日新聞」をはじめとするリベラル系メディアは、安倍首相を非難する。実に不当な非難である。この理不尽な非難大合唱のなかで、7月2日に行われた東京都議会議員選挙で安倍自民党は大敗した。
10年前の第一次安倍政権の末期の状況と現在のそれは酷似している。10年前、安倍首相は1年間しかもたなかった。その間に防衛庁を「省」に格上げし、教育基本法を改正し、憲法改正に必要な国民投票法を成立させた。これで法制上、ようやく憲法改正ができるようになった。
「朝日新聞」をはじめとする憲法改正に否定的なメディアと野党は大いに反発し、警戒を強め、安倍首相への轟轟たる非難の合唱を巻き起こした。
無論、当時の自民党の側にも問題はあった。松岡利勝農林水産大臣の自殺があり、後任の赤城徳彦大臣は異様な「絆創膏姿」でマスコミに批判された。
メディアは連日書き立て、ワイドショーでは多くのタレントや有名人が同調して、世間は自民党批判、安倍批判一色となった。その結果、安倍自民党は参議院議員選挙に大敗し、首相の辞任につながった。
今回も、安倍首相は選挙前に憲法改正につながる重要な動きを見せた。5月3日に「読売新聞」での単独インタビューで憲法改正に具体的に踏み込み、核心の九条に触れた。
自民党総裁としての首相の提案は、9条1項と2項を残し、自衛隊の存在を憲法に書き込むという絶妙な曲球だった。絶対平和主義の2項を残すという首相提案に公明党は反対できない。日本維新の会も、教育の無償化を掲げる首相の改憲案に反対する理由はない。
よく考え抜かれた戦略的9条改正の提案によって、にわかに改正論議は活発化した。「朝日新聞」らはどれほど驚き、恐れたことか。憲法改正を目指し、そこに近づきつつある安倍首相を許さないというリベラル勢力の怒りと恐れが、洪水のような安倍批判となった。加計問題が材料に使われた。というより、真実を知れば加計問題は安倍批判の材料たり得ない。にもかかわらず、「朝日新聞」もテレビ局の報道番組の多くも、報道を偏向させて、加計問題で安倍政権を非難した。
10年前と今年、同じ歪曲報道が、憲法改正に向けた安倍首相の動きを打ち砕くために行われている。共通項は「憲法改正」なのである。
「不公正な情報操作」に
踊らされていていいのか!
いま、日本が自立することが、日本国民と日本にとってどれだけ重要か。自立のための憲法改正がどれほど、死活的に求められているか。いくら強調しても、し足りない。
だが、そのような改革と憲法改正の動きを、憲法9条を守り抜きたいリベラルメディアが、年来の岩盤規制の甘い蜜の味に浸る既得権益層の人々と組んで、必死に止めようとしている。テレビ局の報道番組もまた、公正を期すべしという放送法に違反して一方的かつ無責任な報道を繰り広げる。
不公正な情報操作に影響された結果、世論は安倍政権に距離を置きつつあり、支持率が急落したことはすでに指摘した。すると、低下した支持率ゆえに憲法改正は難しくなったと、他人事のような論評がなされる。こんなことで果たして日本国を守り通すことができるのか。心ある国民は声を上げるべきだ。問うべきだ。
日本を自立した国にするための憲法改正は、誰のためか。私たち国民のためだ。国民一人ひとりの子どもや孫たちのためだ。日本国民と日本国のためだ。安倍政権の支持率低下を超えて、いま、日本が自立し、危機に備えなければならない。憲法改正を目指す政治的基盤を、むしろ国民の私たちが盛り上げる時だ。
憲法改正、これを日本国民の私たちがやらずして、一体、ほかの誰がやるのか。私たちの運命は私たちが切り拓く。将来に自力で備える。それしか道はないのである。
http://diamond.jp/articles/-/137989
日本の航空運賃が高いのは適正な競争がないから
JALとANAの決算を分析する
小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字
2017年8月10日(木)
小宮 一慶
私は、国内線・国際線を合わせて年間70回程度、飛行機を利用していますが、常々「日本の航空会社の運賃は高い」と感じています。2大航空会社である日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の運賃は、高額だと感じます。後に詳しく説明しますが、「高収益」なのもそのためだと分析しています。
なぜ、こんな状況になっているのか。それはひとえに、「適正な競争」が起こっていないからでしょう。格安航空会社(LCC)が参入してきたとはいえ、国内の航空業界は、LCCも2社の傘下にある状況で、ほとんど寡占状態です。競合相手が限られる中では、健全な自由競争は期待できません。
今回は、JALとANAの決算内容を分析しながら、この問題の本質に迫ります。
(写真:ロイター/アフロ)
経営破綻によって「身軽」になり、収益力を上げたJAL
はじめに、JALの2017年3月期決算から見ていきましょう。売上高は、前の期より3.6%減の1兆2889億円。営業利益は18.6%減の1703億円。最終損益は、5.9%減の1641億円となっています。
減収減益ではありますが、自己資本当期純利益率(ROE)は18.1%という驚異的な数字となっています。ROEとは、「株主が会社に預けているお金を使って、どれだけリターン(利益)を稼いでいるか」を示す指標。経済産業省主導で作成された、いわゆる「伊藤リポート」が示す「ROEの目標は8%」という数字から考えても、同社はかなり高い水準と言えます。さらには、会社の中長期的な安全性を示す自己資本比率も、56.2%と非常に高い数値です。
ちなみに、7月31日発表の2017年4-6月期決算は、売上高は前年同期より5.9%増の3148億円。営業利益は12.0%増の247億円。最終利益は32.9%増の195億円。国際線のビジネス利用が伸びたこと、国内線も機内インターネット接続無料化などによって旅客数が増えたことで、好調な結果となりました。
JALの業績を見る上で注意しなければならないのは、2010年1月に会社更生法の適用を申請し、破綻した時にとられた優遇措置の影響です。その直前に発表された、2009年4-9月期の決算内容を振り返ってみましょう。
売上高は前の期より28.8%減の7639億円。営業損益は、前の期の302億円の黒字から、この半期は957億円の赤字に転落。最終損益は、366億円の黒字から1312億円の赤字になりました。自己資本比率も8.2%まで悪化しました。いうまでもなく「危険水域」です。
●株式会社日本航空 2009年4-9月期決算 貸借対照表(抜粋)
2009年3月末 2009年9月末
資産の部
現金及び預金 163,696 97,588
資産合計 1,750,679 1,682,719
負債の部
短期借入金 2,911 21,785
1年内償還予定の社債 52,000 17,000
1年内返済予定の長期借入金 128,426 181,410
社債 50,229 50,229
長期借入金 567,963 572,434
負債合計 1,553,907 1,523,450
純資産の部
利益剰余金 △ 21,874 △ 159,397
純資産合計 196,771 159,268
負債純資産合計 1,750,679 1,682,719
(単位:百万円)
注意すべきは、当時の「有利子負債」です。貸借対照表の負債の部を見てください。短期借入金や長期借入金、社債などを合計すると、約8428億円になります。
一方、手持ちの「現金及び預金」は、975億円。2009年3月期末より半年で661億円減少しています。さらには、純資産の部にある利益剰余金、これは利益の蓄積を示すものですが、マイナス1593億円となっています。当時の財務内容は、いわば惨憺たるものだったのです。
その翌年、ついに経営破綻に追い込まれたJALですが、見事にV字回復を果たします。成功要因はいくつかあり、一つは、再建を託され会長に就任した京セラ創業者の稲盛和夫氏の改革が大きく貢献したことです。不採算路線を廃止してスリム化を図り、従業員の「行動改革」や「意識改革」を徹底したのです。
もう一つは、破綻処理にともなう負担軽減措置です。借金の棒引きと公的資金の注入、さらには法人税も減免されました。
先にも触れましたが、破綻前の有利子負債は8424億円。年間180億円程度の利息を支払っていました。その巨額の有利子負債は、破綻時に10分の1程度まで棒引きされ、支払利息の額も大幅に減少したのです。ちなみに、2017年3月期に計上されている有利子負債は、合計で1152億円。支払利息は、わずか8億円です。
身軽になったJALは、財務上の自由度が高まったのを好機に、積極的に設備投資を行います。例えば、燃費効率の悪いジャンボジェットB747をやめて、新しい小型機や中型機を次々と導入しました。
こうして事業構造をがらりと変えたことで収益率が向上し、ROEや自己資本比率もどんどん高まっていったのです。今後は、破たん後に得た「軽減措置」のために積極的な戦略がある程度規制されていた「足かせ」がなくなり、さらに積極的に事業を展開することが予想されます。
JALはANAよりもはるかに収益率が高い
続いて、ANAの決算内容を見ていきましょう。2017年3月期は、売上高は前の期より1.4%減の1兆7652億円。営業利益は6.7%増の1455億円。最終利益は26.4%増の988億円。こちらも、かなり良い業績です。
ROEは11.6%。JALほどではありませんが、高い水準です。自己資本比率も39.7%と安全性の高い数字になっていますね。
8月2日に発表された2017年4-6月期決算では、売上高は前年同期に比べて11.7%増の4517億円。営業利益は80.0%増の254億円。最終利益は、668.4%増の510億円。業績が大幅に伸びた理由は、国際線の旅客や貨物が伸びたことに加え、格安航空会社ピーチ・アビエーションが連結子会社になったことが影響しています。
ここで、JALとANAの収益率(※通期で見るため、2017年3月期の決算内容で計算)を比較してみましょう。
●航空2社の収益率の比較(2017年3月期)
JAL ANA
売上高営業利益率 13.2 8.2
売上原価率 71.9 75.1
販管費率 14.9 16.7
有利子負債 152,223 729,877
支払利息 843 9,804
(単位:百万円、%)
売上高営業利益率(営業利益÷売上高)を計算しますと、JALは13.2%。ANAは8.2%。JALの方が効率よく稼いでいることが分かります。
その前提となる売上原価率(売上原価÷売上高)は、JALは71.9%、ANAは75.1%。ANAの方が、費用がかかっているということです。また、販管費率(販管費÷売上高)は、JALは14.9%、ANAは16.7%となっており、こちらもANAの方が高くなっています。
つまり、JALの方がANAよりも利益率が格段に高いと言えます。
ANAの有利子負債を計算しますと、合計で7298億円。支払利息は98億円計上されています。一方、先に説明したようにJALは破綻によって借金を棒引きされたお陰で、支払利息を8億円程度まで抑えています。
この点でも、JALの方が利益を上げやすい構造になっているのです。破綻したことで身軽になったことは、収益率の向上にも大きく貢献していると言えるでしょう。
これは、海外の航空会社にも同じ事が言えます。2011年11月に米連邦破産法11条を申請したアメリカン航空、2005年9月に破綻したデルタ航空は、経営破綻を機に身軽になり、構造改革を進めたことで、収益率が大幅に改善されました。
日本の航空業界は、適正な競争が起こっていない
JALとANAの業績を振り返ってきましたが、私は、ここで2社の企業努力を讃えたいわけではありません。冒頭でも触れましたように、日本の航空運賃が高すぎることにフォーカスしたいのです。
先にも触れたように、JALとANA、特にJALのROEは驚異的な高さです。「資本や資産を効率的に使って利益を上げている」と言えば聞こえはいいのですが、経営破綻に伴う負担軽減措置という「追い風」も相まって、少々稼ぎすぎではないかとも感じます。しかし、その高収益の根本的原因は「寡占」ではないでしょうか。
日本の航空会社がかなり高い利益を上げているのは、運賃が高いからでしょう。それは、国内の航空業界はJALとANAで寡占状態となっており、適正な競争が起こっていないからです。
国内を運航している航空会社は、ほとんどがANAかJALの傘下になっています。特に、私が疑問に感じたのは、2015年1月にスカイマークが民事再生法の適用を申請し破綻し売却された際に、ANAが共同スポンサー企業になったことです。この時、エアアジアなどのLCCがスカイマークを買収していれば、国内の運賃体系も変わっていたのではないかと思います。
日本の航空運賃が高いから、新幹線の料金も高い。JR東海も「超」がつくくらいの高収益企業です。交通は社会のインフラですから、その料金が高いということは、国民にとって大きな負担となります。
「独占・寡占」は、国民経済にとってプラスになるからこそ許されるものです。規模のメリットによって、国民に安価にサービスを提供できるという前提があるからこそ、独占や寡占は許されているのです。
それが単に企業、それも既得権益の利益になってしまうのであれば、問題は大きいでしょう。日本で飛行機を利用する場合、航空会社の選択肢は非常に限られています。その中で競争が起こらないことは、決して良いことではないのです。
先にも少し触れたように、JALの経営は、2016年度末まで国交省の監視下にありました。それまでは、新たな投資や路線の開設が制限されていましたが、その期限を過ぎた今、自由な戦略をとることができます。
ここで適正な競争が起こり、国民にとって非常に重要なインフラである航空便の運賃が下がり、さらには新幹線の運賃も安くなることを心より期待しています。
このコラムについて
小宮一慶が読み解く経済の数字・企業の数字
2020年東京五輪に向けて日本経済は回復するのか? 日銀の金融緩和はなぜ効果を出せないのか? トランプ米大統領が就任した後、世界経済はどこに向かうのか? 英国の離脱は欧州経済は何をもたらすのか? 中国経済の減速が日本に与える影響は?
不確定要素が多く先行きが読みにくい今、確かな手がかりとなるのは「数字」です。経済指標を継続的に見ると、日本・世界経済の動きをつかむヒントが得られる。
企業の動きも同様。決算書の数字から、安全性、収益性、将来性を推し量ることができる。
本コラムでは、経営コンサルタントの小宮一慶氏が、「経済の数字」と「会社の数字」の読み解き方をやさしく解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/011000037/080900018/
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