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支持率急落で一転「低姿勢」に。改造内閣発足の会見では冒頭で深々と頭を下げた安倍首相(写真:AP/アフロ)
安倍改造内閣、「反対勢力分断」も「やぶ蛇」か 岸田氏重用、石破氏孤立も「総裁3選」不透明に
http://toyokeizai.net/articles/-/183352
2017年08月04日 泉 宏 :政治ジャーナリスト 東洋経済
「結果本位の仕事人内閣」をキャッチフレーズとする第3次安倍第3次改造内閣が3日午後、発足した。"1強"を背景とした独善的な政権運営を批判された安倍晋三首相が「初心に戻って」組み直した新布陣。いわゆる「お友達」を排除し、党内の批判勢力も取り込んだ、「"脱1強"による出直し」人事で、失った国民の信頼を取り戻そうというものだ。
首相は悲願の憲法改正への動きをギアダウンし、"道半ば"が常態化したアベノミクスの完遂を目指す。「経済最優先でデフレ脱却」に専念することで、態勢立て直しを狙う。その一方で党・内閣人事での「岸田氏重用」と「石破氏孤立化」でポスト安倍の構図を変容させたが、既定路線化していた「総裁3選」への道筋も不透明になったことは否めない。
「様々な問題が指摘され、国民から大きな不信を招く結果となった。改めて深く反省し、お詫び申し上げたい」
3日午後6時過ぎ、皇居での閣僚認証式を終えて記者会見した首相は、冒頭に神妙な表情で謝罪の言葉を述べた後、7〜8秒間じっと頭を垂れた。経営破たんや不祥事を起こした企業トップらの謝罪会見では見慣れた光景だが、一国のリーダーがテレビ中継を通じて国民に頭を下げるシーンは極めて異例で、自らの言動で追い詰められた首相の孤立感と焦燥感を際立たせた。国民の批判を意識して「高姿勢で不寛容」だった政治姿勢を「低姿勢で寛容」といった風に軌道修正してみせた首相。だが、人事工作の過程では「計算高く強かな権力者」(首相経験者)という実像も垣間見せた。
■「いやがらせみたいな人事」と石破氏周辺
今回の人事の最大の焦点はポスト安倍の有力候補とされる岸田文雄外相の処遇だった。
党内タカ派の頂点にいる首相と、党内リベラル勢力の牙城とされる「宏池会(岸田派)」領袖の岸田氏。政治信条や政治家としての立ち位置は大きく異なるが、当選同期の友人として4年7か月余りを外相として安倍外交の黒子役に徹してきた岸田氏を、首相は自民党の政策決定の最高責任者となる政調会長に起用した。
岸田氏周辺は「これで(総理総裁への)最後のピースが埋まった」(側近)と喜び、首相周辺は「"安倍・岸田同盟"で総裁3選への道筋が固まった」(同)とほくそ笑む。
その一方で首相は、これまでポスト安倍の一番手とされてきた石破茂元地方創生担当相には入閣打診もせず、石破氏側近でまだ当選3回の斎藤健農林水産副大臣を"一本釣り"の形で農林水産相に昇格させた。加えて、石破親衛隊とみられながら2015年9月の石破派(水月会)旗揚げには参画しなかった小此木八郎・党国会対策委員長代理を国家公安委員長・防災担当相に抜擢した。石破氏周辺は「いやがらせみたいな人事」と顔をしかめる。
さらに首相は、石破氏と並んで反安倍勢力の中心人物と目されていた野田聖子元総務会長を、重要閣僚の総務相兼女性活躍相に起用した。野田氏は2015年秋の前回総裁選で出馬を模索し、首相サイドの切り崩しに悔し涙を流した経緯がある。今回、首相は「批判派を取り込む場合は当選同期で個人的には交流が深い野田氏しかいない」と入閣を打診。野田氏は「やりたいのは総務相」と注文を付け、首相もそれを受け入れたという。野田氏は「義をみてせざるは勇無きなり」と"男前"の気質をアピールする一方、首相の入閣要請を「君子豹変」と評し、就任会見で次期総裁選についても「次は必ず出る」と出馬宣言した。
野田氏は石破氏とも親密で、前回総裁選も石破氏擁立に動いたが、石破氏が出馬を断念したことで「代わりに挑戦しようとした」(周辺)とされ、石破氏は野田氏の入閣について周辺に「まさか受けるとは…」と苦笑したという。
■「細田派抜き・新3役」の狙いは「反安倍勢力分断」
首相は自民党3役人事では岸田政調会長とともに、国会対策委員長として国会運営を仕切っていた竹下亘氏(額賀派)を総務会長に昇格させた。「政権の骨格」として続投する二階俊博幹事長も合わせた新3役体制であえて首相の出身派閥の細田派を外した背景には、「反安倍勢力の分断」(自民長老)の思惑があるとされる。
竹下氏は額賀派の次期領袖候補で、「近い将来、派閥を受け継いで竹下派を再興する」(額賀派幹部)とみられている。宏池会のプリンスの岸田氏と旧田中派の流れをくむ竹下氏と、それに旧田中派で頭角を現した二階氏の新3役体制は「田中角栄内閣や大平正芳・鈴木善幸内閣をつくった"大角連合"パワー」(首相経験者)を想起させる。「保守本流の系譜」(同)であり、政治史からみれば、岸信介、福田赳夫両元首相(故人)の流れを汲む安倍首相にとっての対立勢力だ。その二階、岸田、竹下3氏が「首相支持」の立場を表明したことで「派閥単位でみれば、石破派の孤立」(自民幹部)が明確になった。
人事に当たって、首相と岸田氏が数回にわたり、「突っ込んだ話」(首相周辺)をした際「首相は『ポスト安倍での岸田氏支持』を、岸田氏は『安倍政権が続く限り首相支持』をそれぞれ確認し合った」(同)という。これが事実なら、ポスト安倍の構図は「本命石破、対抗岸田」から「禅譲路線で本命岸田」に塗り替わることになる。その陰には首相の盟友として岸田派も含めた「大宏池会」構想を進める麻生太郎副総理兼財務相の「キングメーカー戦略」も絡んでいることは間違いない。
その一方で首相は改造人事で「ポスト安倍以降」のリーダー候補も浮上させた。永田町的視点で「サプライズ人事」とされた河野太郎氏の外相抜擢だ。父親の河野洋平氏は外相、自民党総裁、衆院議長を務め、宏池会に所属したこともあるリベラル勢力の実力者だ。過去に首相が厳しく批判した従軍慰安婦に関する「河野談話」の当事者でもある。
しかも、河野太郎氏自身も「自他共に認める異端児」で原発反対など安倍政権の政策批判も展開してきた。ただ、安倍内閣の大番頭として留任した菅義偉官房長官はかねてから「河野氏は将来の総理総裁候補」と高く買っており、首相に河野氏入閣を勧めたのも菅氏とされる。
■河野氏は持論を封印? 小泉氏は「弾よけ」役
河野氏は第2次安倍改造内閣で行革担当相に抜擢された時も話題になった。ただ、それまで自ら公式サイト「ごまめの歯ぎしり」に書き込んできた独自の政策論を封印し「内閣の方針尊重が閣僚の責務」という姿勢を堅持した。だからこそ首相も「河野氏は外相にしても私の方針を尊重する」と起用したのだ。
河野氏以上に「ポスト安倍以降」の総理総裁候補と目されている小泉進次郎氏については、首相は党農林部会長を卒業させ筆頭副幹事長に起用した。当選3回での筆頭への起用は異例だが「幹事長会見では必ず後ろに立つのが筆頭副幹事長」(党幹事長室)だけに「強面(こわもて)の二階幹事長の後ろに小泉氏が映れば、国民からの批判の弾よけになる」(自民幹部)との"小泉効果"を期待する向きが多い。
こうした首相の人事戦略は「低下した求心力を高め、来年の総裁3選を確実にするための権謀術数」(自民長老)に基づくものだ。ただ野田氏の「次期総裁選出馬宣言」が"安倍3選戦略"を不透明にした側面もある。首相が「挙党体制の象徴」として取り込んだ野田氏が現職閣僚でも総裁選に出馬する意思を明確にしたことで、岸田氏も「党3役なら次期総裁選出馬は問題ない」(側近)ということになる。
出馬が当然視される石破氏に加え、岸田、野田両氏が来年9月に名乗りをあげれば、「多数派工作が極めて流動化する」(自民幹部)ことは避けられない。さらに、総裁選出馬経験がありこれまでも出馬の意欲を隠さずに来た河野氏も推薦人確保に動く可能性がある。そうなれば「石破氏を孤立化させ、『安倍vs.石破』に持ち込んで圧勝する」(細田派幹部)という当初の戦略は破たんする。このため安倍陣営からは「野田氏や河野氏の起用は『藪(やぶ)をつついて蛇を出した』のでは」(同)との不安の声も出る。
■支持率アップ難しく、改憲スケジュールも断念
そもそも今回の「出直し人事」は「危険水域」に入った内閣支持率の下落に歯止めをかけるのが主目的だったはずだ。その意味では骨格維持で経験者を優先起用した実務的布陣は「新味に欠け、支持率アップにはつながりにくい」(首相周辺)ことは間違いない。だからこそ首相も「結果を出すことで国民の信頼回復に結び付ける」と頭を下げたのだ。ただ、直前に辞任した稲田朋美元防衛相も含めて"問題閣僚"と"お友達閣僚"をほぼ一掃したことで「5割を超えて急上昇した内閣不支持率」をある程度低下させる効果は見込めそうだ。
首相は記者会見で憲法改正についても「日程ありきではない。これからは党でしっかり議論し、国会での議論が深まっていくことを期待する」と語った。これは、5月3日の憲法記念日に明言した「安倍改憲」のスケジュールの事実上の断念を意味する。改憲案の党内とりまとめを託されている高村正彦副総裁が「慎重論」を述べたこととも連動している。
首相は衆院解散については「全く白紙だ」と述べた。これは首相の常套句だが、党内では「早期改憲実現のためには衆院での改憲勢力3分の2が前提となり、それが首相の解散権を縛る形になってきたが、その前提が変わればいつでも解散ができる」(自民幹部)との受け止めが大勢だ。
9月1日の代表選実施を決めた野党第1党の民進党も早期解散への怯えを隠さない。人事に当たっての自公党首会談で首相と協議した山口那津男公明党代表は「来年秋という相場観は変わった。常在戦場だ」と明言した。永田町では9月下旬に召集予定の臨時国会冒頭で解散し、衆院2補選が予定された10月22日を投開票日とするという「秋口解散説」もささやかれ、多くの衆院議員は「夏休み返上での田の草取り」に精を出す構えだ。
■「秋口解散」は"疑惑"解明が大前提に
ただ、解散も含めて首相が1強としての政局の主導権を回復するためには、支持率急落の原因となった「森友・加計両学園の疑惑」や「南スーダンPKO日報隠蔽問題」にケリを付ける必要がある。
自民、民進両党は4日午前、PKO日報問題についての衆参両院での閉会中審査を10日に実施することで合意した。首相も出席して「丁寧に説明」することで批判をかわすのが目的だが、「当事者の稲田氏や辞職した防衛省最高幹部が出席してきちんと答弁しない限り、疑惑は晴れない」(民進党幹部)ことは間違いない。さらに「森友・加計両疑惑」も閉会中審査で「真正面から疑惑解明に取り組む姿勢を示す」(自民幹部)ことが必要だ。「うやむやにしたまま衆院解散ですべてをチャラにしようとすれば自民党は大敗し、首相も退陣に追い込まれる」(首相経験者)からだ。
人事から一夜明けた4日午前、首相は記者団に「今日から新しいスタートです。謙虚に丁寧に結果を出すことで国民の信頼を回復したい」と淡々とした表情で語った。今後の政局を左右する「8・3出直し人事」だったが、4日朝のワイドショーなどでは有名女優の不倫問題など芸能ニュースが優先された。かつてない政治不信の高まりの中で、1強を誇って政権運営を続けてきた首相が、人事を境にどう変身するのか。それが今後の政局を占う最大のポイントとなりそうだ。
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― 東洋経済オンライン (@Toyokeizai) 2017年8月4日
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