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「基地はいらない!」米国から持参した旗を手にエマさん(中央)は訴えた=名護市辺野古で
(中)絶えぬ米兵の性犯罪
世界の米軍駐留地域から集まった「軍事主義を許さない国際女性ネットワーク会議」のメンバーは六月二十三日、バスで大戦末期の沖縄戦で激戦地となった糸満市に向かっていた。車内で元那覇市議の高里鈴代さん(77)が語り始めた。「沖縄には百四十五カ所もの慰安所があったんですよ」
戦後、米兵による性犯罪が続いてきた沖縄。しかし、戦時中も植民地だった朝鮮半島や沖縄の遊郭、本土から集められた女性が、慰安婦として日本軍将兵の性の相手をさせられていたという。
「軍隊と性暴力。ふたつの関係は基地や軍隊を女性の人権からとらえ直すときに切り離せない視点です」と高里さんは強調する。
高里さんらは一九九五年の沖縄少女暴行事件をきっかけに「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」を結成。九七年に初めてのネットワーク会議を沖縄で開いた。それから二十年。九回目を数えた今年の会議でも「軍隊と性暴力」は解決されていない問題として、議論を続けている。
沖縄の女性史研究者の宮城晴美さん(67)は「兵士による性暴力は個人の問題ではなく、軍隊が抱えた構造的な暴力。男性優位の家父長制や性差別など、この社会のあり方に目を向けなくては乗り越えられない」と語る。
韓国のメンバーは四五年の米軍駐留から多くの女性が性被害に遭っていたという事例を報告した。五〇年に始まった朝鮮戦争時には米兵の性の相手をする慰安施設「基地村」が政府の管理下で設けられ、今、当時の被害女性らが裁判を起こしている。
フィリピンから参加したアルマ・ブラワンさん(53)は基地に隣接する町で、米兵相手の性風俗が産業になった実情を語った。アジア最大級といわれたスービック基地に駐留していた米海軍は、冷戦終結後の九二年に撤退。地元のオロンガポ市では、米兵の相手をしていた一万人ともいわれる女性たちも失業したという。
アルマさん自身もかつては米兵相手に働き、米兵を父とする三人の子を持つシングルマザーだ。今は女性の自立を支える市民団体「ブックロードセンター」を運営している。
性暴力と性産業。どちらも、基地があるゆえの性搾取であり、根は同じだとネットワーク会議のメンバーは考える。
アジア太平洋地域での米軍基地強化に合わせて、オロンガポ市には経済策として米軍が戻ることを望む声もある。だがアルマさんは女性の人権を考えると反対だ。「基地に依存する経済構造こそ変えるべき。女性が自分で生活できる道をつくろう」と呼び掛ける。
2017年7月21日 夕刊
(下)武力に頼らない安保
沖縄県名護市の辺野古(へのこ)新基地建設に抗議する人々と、機動隊員が向かい合う米軍キャンプシュワブゲート前で六月下旬、米カリフォルニア大学バークレー校大学院生のエマ・トーメさん(27)が市民の側に立ってマイクを握った。
エマさんは、米軍駐留地域の女性が沖縄に集う「軍事主義を許さない国際女性ネットワーク会議」に参加し、一九八〇年代に米国に移住した父親の故郷である沖縄への思いを深めた。
「私はルーツがあるから基地建設に反対するのではない」と言う。「米国は自国民にも数々の暴力と差別を繰り返してきた。その責任を国民の一人として感じるから、沖縄で見たことを米国の人に伝えたいのです」
地元のバークレー市議会は二〇一五年秋、米国の議会で初めて、辺野古の新基地計画に反対し、米政府に計画中止を促す決議をした。決議案を作成した「正義と平和委員会」のメンバーもネットワーク会議に参加した。
「女たちが連帯できるのは、交流で培った信頼があるからよ」と元那覇市議の高里鈴代さん(77)は思う。
高里さんは二〇〇八年に全国の女性たちとグアムを訪ねた。当時、辺野古新基地計画に対する県民の批判をかわすように、米海兵隊八千人をグアムに移転する計画が示されていて、県内では移転を歓迎する声も上がっていた。
米国の海外領土であるグアムは沖縄と同様、基地負担の“差別”を強いられていた。反基地運動の先頭に立つ、先住民のチャモロ人女性は「海兵隊が移転してくればグアムの基地被害はさらに深刻になる」と高里さんらに訴えた。
米軍駐留地域の女たちが共闘することの必要性は、今回のネットワーク会議でも熱心に語られた。
韓国では一六年、東シナ海の済州島に米軍の新基地が建設された。反対運動にかかわるチェ・ヘヨンさん(29)は「基地は完成しても平和を求める心は消えない」と語ると、プエルトリコのドミンガ・アナヤさん(64)が力強く言った。「基地閉鎖が無理だと思っていない? 小さな島がそれを実現したのよ」
カリブ海北東に位置するプエルトリコの島々は、スペイン領から米自治領へと被支配の歴史が続く。しかし、島の大半が六十年間、米海軍に使用されてきたビエケス島では〇三年、市民の抵抗運動によって米軍を撤退させたのだ。
米軍の駐留で、私たちの想像力までもが奪われていないか。「軍事に頼らない安全保障の道を求める」。女たちが確認しあったのは未来に対する責任だった。 (この企画は編集委員・佐藤直子が担当しました)
2017年7月22日 夕刊
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