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安倍晋三首相の「腹心の友」が理事長を務める学校法人加計学園が、2013年と2014年に、自民党の下村博文幹事長代行を支援する政治団体「博友会」から政治資金パーティー券計200万円分を購入したが、それが「博友会」の政治資金収支報告書に記載されていないとして、週刊文春は、「200万円の違法な献金を受けた疑いがある」と報じた。
これを受けて下村氏は、6月29日に記者会見し、
加計学園から政治寄付もパーティー券を購入してもらったこともなく、『加計学園から闇献金200万円』という記事は事実無根。
とし、疑惑を否定した。しかし、この200万円分のパーティー券については、
2013年と14年、加計学園の秘書室長が下村事務所を訪れ、合計11の個人・企業から預かってきた各100万円ずつを持参した。1人・1社20万円以下で、それぞれ領収書を渡した。
と述べており、少なくとも、加計学園の秘書室長から、合計200万円が、下村氏の政治団体に渡ったことは認めている。(【下村氏が会見「週刊文春の報道は事実無根。告訴も検討」】)
確かに、政治資金規正法では、20万円以下のパーティー券購入については、収支報告書に購入者名を記載しなくてもよいことになっている。しかし、それは、「20万円以下の小口のパーティー券の購入」として「処理」すれば、購入者の名前を非公表にすることが「法律上は可能だ」ということに過ぎない。
極めて重要なことは、下村氏が、加計学園の秘書室長から200万円を受け取った事実を認めていることだ。
下村氏は、
本日週刊誌が報じた記事内容は、法律上、問題ないことばかりであることを説明いたしました。
などと述べているが、「法律上問題ないかのような外形で行われた」という言い訳をしただけであって、週刊文春の記事で生じた「疑惑」についての説明には全くなっておらず、かえって、下村氏の会見での発言によって、下村氏と加計学園をめぐる「疑惑」は一層深まったと言える。
政治資金規正法上の問題
まず、疑われるのは、「11の個人・企業から預かってきた各100万円」というのが、実は、加計学園が支出したもので、「11の個人・企業」というのは、「名義貸し」ではないかという点だ。週刊文春の記事によると
下村事務所が作成した<2013年博友会パーティー入金状況>によると、<9月27日 学校 加計学園 1,000,000>と記載されている。博友会とは、当時、文部科学大臣だった下村氏の後援会であり、この年の10月、大規模な資金集めパーティーを開いていた。また、翌年の<2014年博友会パーティー入金状況>には、10月10日付で<学校 山中一郎 加計学園 1,000,000>と記載されていた。山中氏は当時、加計学園の秘書室長を務めており、政界との窓口となっていた。
のであり、少なくとも、下村氏の事務所側で「加計学園による政治資金パーティー代金の支払」として扱われ、その後、政治資金の処理の段階で、20万円以下の個人・企業の名義に分散して領収書が交付された疑いが強い。その場合、
何人も、本人の名義以外の名義又は匿名で、政治資金パーティーの支払をしてはならない。
とする政治資金規正法の規定(22条の6第1項、22条の8第4項)に違反する。
私が検事時代に、政治資金規正法違反事件を捜査した経験からすると、このような形態で行われる寄附や政治資金パーティー代金の支払は、真実の資金提供者が、その事実を隠すために名義を分散させる場合が多い。
また、もし、本当に、加計学園の秘書室長が、11の個人・企業から預かってきたお金を持参したのだとすると、少なくとも、その「政治資金パーティーの支払」が、(理事長の意向に従った)秘書室長の「あっせん」によるものではないかが問題となる。
下村氏の「博友会」の政治資金パーティーは、東京で開催されたものであり、加計学園側が発表したコメントでは、「現金を預かったのは、上京して事務所に寄るついでがあったためだ」とされている。ということは、「11の個人・企業」は、東京近郊の所在ではないということであろう。
下村氏の地元でもないところの個人・企業が、加計学園と無関係に、下村氏の政治資金パーティーのことを知り、秘書室長にパーティー代金を預ける、ということは常識的には考えられない。下村氏の事務所側で、「加計学園からの支払」と記載されていることからしても、少なくとも、「加計学園の秘書室長によるあっせん」があった可能性が濃厚だと考えられる。「あっせん」でないのであれば、下村氏自身が、その「11の個人・企業」はもともと下村氏の支持者であったという説明ができるはずである。
政治資金規正法は、「政治資金パーティーの対価支払のあっせん」について、20万円を超える場合には、政治資金収支報告書に記載を義務付けるとともに、それ以下のものも、「あっせん者」の会計帳簿への記載を義務付けている。少なくとも、下村事務所側としては、加計学園によるパーティー券代金支払なのか、あっせんなのかは会計帳簿の記載に基づき明確に説明する必要があるが、会計帳簿の記載に関して、下村氏からは何の説明もない。文春記事で指摘されている<博友会パーティー入金状況>は、実質的に会計帳簿の役割を果たすものである可能性が高い。
政治資金規正法は、寄付や政治資金パーティーの「あっせん」に対して、「相手方に対し業務、雇用その他の関係又は組織の影響力を利用して威迫する等不当にその意思を拘束するような方法」(地位利用)の禁止、「賃金、工賃、下請代金その他性質上これらに類するものからの控除」(天引き)の禁止等の制限を設けている。寄付や政治資金パーティーの代金の支払の「あっせん」は、自ら寄付や代金支払を行うのと同程度に、政治家や政党を政治資金に関して支援する性格の行為であり、あっせんの態様に制限を設け、透明化を図る必要性が高いと考えられているからである。
「11の個人・企業」と加計学園とがどのような関係なのかは全く不明だが、仮に、加計学園の役職員や工事受注業者等の関係者であれば、「地位利用」や「天引き」による政治資金パーティーの代金支払である可能性も出てくる。
文科大臣在任中の加計学園側からの資金提供又はあっせん
そして、何より重要なことは、このような加計学園の秘書室長による「他人名義」或いは「あっせん」の疑いが濃厚な合計200万円の資金提供が、下村氏の文部科学大臣在任中に行われた事実が、今回の文春の記事と下村氏の会見によって明らかになったことである。
下村氏は、文科大臣として、学校法人加計学園に対して、様々な便宜を図り得る立場にある。そのような関係において、現金200万円のやり取りが行われたこと自体が「重大な疑惑」と言うべきであるが、それについて、下村氏は全く説明責任を果たしていない。
それどころか、この点について、下村氏は、
大学や学部の設置については、有識者で構成される「大学設置審」で行われているのであり、大臣の意向が入るという制度はありません。
などという、信じ難い「詭弁」を持ち出している。
「大学設置審」というのは、文科省が、大学・学部等の設置認可を行うに当たって、外部有識者の審議会に「諮問」し、その「答申」を得ることが必要とされているというだけであり、設置認可は、文科大臣の権限によって行われるのである。
現に、安倍首相や菅官房長官などは、獣医学部の設置が「文科省の告示」によって50年以上認められてこなかったことを「岩盤規制」だと言って批判しているではないか。この「告示」というのも、当然のことながら、「文部科学大臣の権限」で定められているものである。
「ネタ元の犯罪」は、下村氏の説明責任とは無関係
下村氏は、文春記事の中に出てくる「事務所関係者」が、昨年、下村氏の事務所を退職し、現在自民党以外から都議選に立候補した私の元秘書であり、同秘書の退職理由が事務所の金を使い込んだからであることを明らかにし、週刊誌に内部情報を提供したのは内部者である可能性が強く、この元秘書に大きな疑惑を持たざるを得ないと述べ、偽計業務妨害罪で告訴するとしている。しかし、そのような事実があるのであれば、そういう人物を秘書にした自らの不徳を恥じる事由ではあっても、加計学園と下村氏をめぐる問題とは全く関係ない。
一般的には、そのような内部者が持ち出した事務所の内部資料による記事だとすれば、それは逆に、情報の信憑性を高めるものである。実際に、「加計学園秘書室長からの200万円の受領」という最も重要な事実は間違いがなかったことを自ら認めている。
下村氏側が、内部者による情報持ち出しに対して、法的措置をとるのは自由だが、それによって明らかになった事実について、政治家として、元文部科学大臣としての説明責任を免れるものではない。
週刊文春のネタ元が、事務所の金を使い込んで退職した元秘書であることを強調し、あたかも、指摘されている事実には問題がないかのような、「強気の発言」をしていることが、政治家の対応としていかに愚かなことか、下村氏にはわからないのだろうか。
検察は速やかな捜査を
既に述べたように、政治資金規正法違反の容疑は十分にある。これまでの同種の問題の例から考えると、早晩、市民団体等の告発の対象となるのは必至だ。検察当局としても、速やかに必要な捜査を行うべきだろう。「都議会議員選挙期間中なので、表立った捜査はできない」という言い訳も考えられるが、少なくとも、加計学園の秘書室長が下村事務所に持ち込んだ200万円が、加計学園が支出したのか、「11の個人・企業」が支出したのか、いずれであるかを明らかにすることは、検察にとって「赤子の手をひねる」程度に容易なことだ。
都議選が終わり次第、ただちに資金の出所を明らかにするための捜査に着手し、文科大臣在任中の下村氏と加計学園をめぐる問題の実態解明をめざすべきだ。
甘利氏の事件などで「政権に弱腰の検察」を露呈してきた特捜検察にとって、現時点では、検察の動きに注目が集まっていないこの事件こそ、検察に対する信頼と期待を回復する格好のチャンスと言うべきであろう。
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