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権力による政治とメディアの私物化の入り口−(田中良紹氏)
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25th Jun 2017 市村 悦延 · @hellotomhanks
23日に前川喜平前文科事務次官が日本記者クラブで会見を行い、
「加計学園の獣医学部新設問題」について
「岩盤規制に穴を開けるのは良いが、穴の開け方に不明朗で不公正なものがある」と
語った。
大学の設置を国が認可すればその大学は補助金や助成金を受け取ることが出来る。
加計学園の場合、政府の国家戦略特区で獣医学部の新設は決まったが、
まだ文科省の認可が下りていない段階から、愛媛県今治市が37億円分の土地を
無償で提供し、さらに96億円の建設補助金を支給することにしている。
前川氏が会見で語ったのは初めから「加計ありき」で岩盤に穴が開けられた
ということだ。前川氏は昨年9月上旬に官邸に呼ばれ和泉洋人総理補佐官から
「総理は自分の口から言えないので私が言うんだが」として、
獣医学部の新設を早く行うよう求められたという。
医学部や獣医学部の新設を検討するには医師の国家試験を所管する厚労省や農水省と
協議し需給予測を参考にするのが普通だが、
そうした時間的余裕が与えられないまま、
文科省は総理直属の内閣府から「平成30年4月開学」を「官邸の最高レベルが
言っている」とか「総理のご意向」と押し付けられた。
困った文科省は文教族の一人である萩生田官房副長官に調整を依頼し
時間的余裕を与えてもらうよう頼んだ。
萩生田副長官は10月7日までは「4月開学は無理」と文科省の側に立っていた。
それが10月21日には態度が一変する。
内閣府同様「4月開学」を求めるようになった。
その間に何があったのか、今回の問題のポイントの一つは10月中旬の出来事にある。
加計学園以外に獣医学部新設に手を挙げた京都産業大学が断念した理由は、
申請の条件に「広域的に獣医学部が存在しない」、
「平成30年4月開学」、「1校に限る」が付け加えられたことによる。
3条件は京都産業大学を排除するための「規制」だった。
安倍政権は「規制緩和」を行うのに規制を3つも重ねたのである。
一方で国家戦略特区諮問会議の民間議員は記者会見を行い、
加計学園に決まったプロセスには「一点の曇りもない」と胸を張る。
前川氏は「曇りが見えなかったのではないか」と批判し、
そのうえで民間議員が「1校に限る」との前提に立ったからだと指摘した。
これから他の地域にも獣医学部を作る考えで今回は加計学園にしたという理屈である。
それなら加計学園を優遇したことにならない。。
すると24日に安倍総理が神戸市で講演を行い、
「加計学園1校だけを認めたから疑惑をもたれた。
これから獣医学部をどんどん全国に展開する」と獣医学部増設方針を打ち出した。
国会終了後の記者会見で「国民に丁寧に説明する」と反省の姿勢を見せたのが
どこへ消えたか。獣医学部を「速やかに全国展開」する方針に
国民の目をひきつけようとした。
しかしである。獣医師の需要がないのに獣医学部を増設すれば、
それでなくとも少子化時代に学生を集められる保証はない。
学生が集まらなければ大学経営は苦しくなり、
大学が倒産すれば目的をもって入学した学生は将来を見失う。
仮に卒業できても学生の数が増えれば国家試験の競争率は高くなり、
卒業後に浪人生活を余儀なくされる学生も増える。
また獣医師の需要がなければ獣医師になっても仕事に就けないかもしれない。
だから何よりも需給の予測が大事なのである。
前川氏が農水省や厚労省と協議を行い需給予測をしなければ
すぐに結論は出せないと主張したのはそのためだ。
ところが安倍総理にはその主張が抵抗勢力に見えるようだ。
岩盤規制に穴を開ければどんな開け方でも正義だという子供みたいな論理になる。
むやみに獣医学部を増やせば日本国家の将来を担う人材を育成する教育の目的が
阻害され、資源の乏しい日本において人材という貴重な資源を無駄にすることになる。
それを安倍総理は理解できない。これが国家のリーダーなのか、
フーテンは心底から恐ろしくなる。
そして安倍政権は抵抗勢力を打ち破るためにはメディアを使った人格攻撃を厭わない。
その象徴が5月22日の読売新聞朝刊に掲載された「出会い系バー通い」報道である。
前川氏は会見で「官邸のリークを感じた」と語った。
前川氏は警察庁出身の杉田和博官房副長官から「出会い系バー通い」を
直接注意された。つまり警察は前川氏の行動を監視していた。
それが5月20日と21日に読売新聞社会部記者から連絡があり
「出会い系バー通い」についてのコメントを求められた。
前川氏はその取材に応えなかったという。
すると21日に文科省の幹部から
「和泉補佐官が話をしたいなら会っても良いと言っていますが」との連絡が来た。
「考えておきます」とだけ返事してそのままにしたが、
これによって読売の記者の動きと和泉補佐官の動きは連動していると感じた。
「記事にしてほしくなければ官邸に頼みに来い」という意味だろうと思った。
前川氏は「記事になっても構わない」と考えると同時に
「読売は記事にしないだろう」とも思っていたという。
しかしそれは大きく目立つ記事になりフーテンをも驚かせた。
一般紙が記事にしたことのないレベルの記事だったからである。
イエローペーパーはゴシップ専門だから記事にするかもしれない。
しかしゴシップはニュースではない。
しかも買春の確たる証拠もつかんでいない取材力のない記事だった。
また前川氏は最初にインタビューをしたNHKがそれをいまだに放送していない事実や、
官邸の言いなりしか言わないコメンテーターがテレビに出演していることに言及し、
「我々は権力によるメディアの私物化が始まる入り口に立っている」と
日本の民主主義に危機感をあらわにした。
何でも米国の命令に従う安倍総理はTPPを受け入れるために国家戦略特区を作った。
米国は日本に米国流の仕組みを導入させ、日本を骨抜きにする目的で、
構造協議だの年次改革要望書だのTPPだのを仕掛けてきた。
それを日本政府は経済成長のためになると国民をだまして受け入れてきた。
岩盤規制を自らがドリルになって穴を開けるというのはそうした話である。
昔、日本には弁護士が足りないと米国から言われ、「法科大学院」なるものを
作ったことがある。将来の日本を米国のような訴訟社会にするという発想である。
しかしその構想は学生が集まらず見事に失敗した。
もはや米国経済はトランプ大統領の主張を聞けば分かるように
日本が真似をする必要などないほど疲弊している。
だから米国を真似た成長戦略など意味がないのに安倍総理はそれが分からない。
そしてトランプと同じように政治とメディアの「私物化」を図ろうとする。
しかし米国には三権分立が機能し、トランプによる「政治とメディアの私物化」を
阻むメディアも存在する。そこだけは米国の方が優れているとフーテンは思う。
しかし日本には三権分立も権力に抵抗するメディアも存在しない。
その意味でこの通常国会で明らかにされた「森友・加計問題」は深刻である。
前川氏の言うように我々は「権力による政治とメディアの私物化」という
恐ろしい事態の入り口に立っていることを自覚する必要がある。
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