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本当に怖い共謀罪!「LINEを証拠に逮捕」の冤罪事件が語る教訓 罪は、どうにでも作り上げられる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51762
2018.05.18 伊藤 博敏 ジャーナリスト 現代ビジネス
「自白したほうが有利やで」
京都で昨年9月に発生した強盗殺人事件の容疑者として逮捕されていた房安努氏(38)が、5月2日、起訴されることなく処分保留で釈放された。
「まったく身に覚えのない事件。その前に別件逮捕され、『証拠がある!』と、刑事さんに詰められたけど、証拠だというのは、被害者らとのLINEのやりとりだけ。それに懲りて、強盗殺人容疑で逮捕された時は、拘置所の自分の房から出ない『出房拒否』で取り調べに応じませんでした」
房安氏は、今、こう振り返るが、この事件には2つの意味がある。
ひとつは、SNSのLINEが犯罪の有力な手がかりになったこと。
SNSで友人知人とつながり、その内容がビッグデータとして残される進化したネット社会を生きる現代人は、捜査当局に自動的に監視される存在でもある。これは、国会で審議されている「共謀罪」への危惧にもつながる。
もうひとつは、裁判員裁判やそれを前提とした取り調べの録音録画など司法制度改革が進みつつある反面、罪を認めなければ保釈に応じず、長期拘留を続ける「人質司法」の問題は残されており、憲法上も刑事訴訟法上も認められた黙秘権を行使するのは、非常に困難なこと。
それだけに房から出ずに取り調べに応じない「出房拒否」は、黙秘権を行使する現実的な手立てとなることが証明された。
*
事件を振り返ってみよう。
京都市伏見区の路上で、昨年9月28日、理髪業を営む渡辺直樹氏(当時46歳)が刺殺され、犯人らは現場に停車していた渡辺氏の妻の車を奪って逃走した。
渡辺氏が、友人知人に資金を貸し付けることもあったことから、京都府警は金銭をめぐるトラブルを疑い捜査を進めていた。
その結果、今年1月21日、奪った車を大津市内で燃やしたとして男4人を建造物等以外放火容疑で逮捕し、2月11日、4人を強盗殺人容疑で再逮捕。うち2人は殺人罪で起訴され、2人は処分保留で釈放された。
京都府警は、この実行犯4人の背後に主犯格がいると見て捜査を継続、それが4人の兄貴分的存在の倉本嘉太郎氏(38歳)であり、その知人の房安氏だった。2人は、渡辺氏から各々数千万万円の借金をしていた。房安氏が説明する。
「倉本氏が、金利負担の重さもあって、一時、渡辺氏に居所を教えないことがあった。当然、渡辺氏は行方を追うし、私は2人とも知っているので、双方を仲介するような形で連絡を取り合っていました。主にLINEです。なかには、渡辺氏の行動を倉本氏に教えるようなメールもある。
それは2人が遭遇しないように、という配慮なんですが、警察は『居場所を教えた』と、疑う。まして、実行犯の動機なんてわからないのに、『倉本が指示して房安が幇助』というシナリオを描いたんです」
5月2日に倉本氏も処分保留で釈放。実行犯が、倉本、房安両氏の関与を証言することはなく、LINEでのやり取りも証拠には遠かったということだろう。
京都府警は、実行犯を特定するのと同時並行で房安氏の関与を疑っており、1月21日、失業保険金詐欺容疑で逮捕され、2月10日まで取り調べを受け、起訴される。担当署と担当刑事は同じであり、取り調べの中心は強盗殺人で別件逮捕は明らかだった。
房安氏は、京都の自動車販売会社のトップセールスマンだったが、会社とのトラブルの果てに退社。失業保険を受け取りつつアルバイトをしており、それが詐欺に問われた。
房安氏が続ける。
「不正受給は事実です。それは争いませんでしたが、拘留(20日間)の調べの中心は渡辺氏殺害容疑でした。
任意とはいえ、LINEのやり取りで詰められ、『ずーと取り調べされんのも辛いやろ。正直に言え』『捕まえた周りのもんは同じこと言うてんのに、自分だけ違うんはおかしい』と、完全に犯人扱い。
『早く自白したほうが有利になる』とか、『証拠はあるんや』とか、連日、刑事に言われ続けていると、刑事の話のほうが正しいんじゃないか、と錯覚しそうになりました」
プライバシーは丸裸
だが、そこは踏みとどまった。
その教訓と、「黙秘権行使の最大の武器は房から出ない出房拒否で、それは認められた権利だ」という高田良爾弁護士のアドバイスに従って、房安氏は、「本件」ともいえる4月11日の逮捕では、最初の数日は刑事、検事の取り調べに応じたものの、以降は、留置係が来ても房から出ることを拒否した。
「黙秘するといっても、8時間以上、沈黙を貫くのは無理で、『雑談でもしようか』と、言われると応じてしまう。すると、そこで話したことをもとに捜査員が裏付けに走ったり、揚げ足を取られるような質問を受けたりしました。前回のそんな経験から、いっそ、出ない方がいいかな、と」(房安氏)
結果、検察は起訴できなかった。ということは、「証拠がある」というのはウソで、それらしきものは、どうとでも解釈できるLINEのやり取りだけだった、ということだ。警察はいつも通り、密室に閉じ込めての自白にかけたのである。
出房拒否もさることながら、この事件は捜査が完全に新たなデータを使った新たな手法で行われる時代に入ったことを意味する。
奇しくもLINEは、4月24日、犯罪捜査の過程で、16年7月〜12月に捜査機関から利用者情報の開示請求が1719件あり、事件への関与が疑われる人物や被害者の電話番号など1268回線のデータを提供したことを明らかにした。
データは捜査当局に提供される。そのデータたるや、以前とは比較にならない膨大な量が、蓄積されている。
今回の無料通話アプリはもちろん、音声も、行動履歴も、購買記録も、メールのやりとりも、すべて検索エンジンやSNSなどプラットフォームを持つ業者が、利用者の「同意」を得たとして蓄積し、利用し、加工して販売する。捜査当局への提供は、裁判所の令状など段階を踏むが、逆にいえばルーティン化した作業のなかで、我々の膨大な個人情報は捜査当局に流れる。
プライバシーなど完全に無視して捜査当局が国民を丸裸にできるわけで、怖いのは、現在、国会で審議されている共謀罪が、犯罪を共謀した証拠として、メールやLINEをあげており、それを補完するために関係者の供述が欠かせないとしていることだ。
つまり、共謀罪における事前謀議という内心を推し量る作業は、ビッグデータのなかに既に格納されている。
それをどう使うかは捜査当局しだいという怖さが、今回、房安氏が経験した強盗殺人容疑での取り調べのなかに潜んでいる。
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