共謀罪、日本以外の国内法整備はノルウェー一国だけ ? http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/ce1b8534346e34804eb5de4721f4e747共謀罪 / 2006年06月26日 先週末、知人から外務省が国連『立法ガイド』の翻訳問題についての見解をHPに掲載されているとの知らせがあった。そして、私の手元には外務省が主管して作成したものと思われる共謀罪に関する答弁書が到着した。フランスの友人からの指摘から改めて気づいた「国連国際組織犯罪防止条約」批准国の国内法整備状況について、先週の閉会前に提出しておいた質問主意書に対する答弁だ。あまりに、お粗末なので絶句だが、ここに公表しておく。 国連国際組織犯罪防止条約批准国の国内法整備に関する質問主意書 1、この条約を批准した世界各国のうちで、新たに国内法を制定した国として日本政府の承知している国名を教示されたい。 (答弁) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「本条約という)の締結に伴い新たに国内法を整備した国としては、例えば、ノルウェーがあると承知している。 2、1の国について、条約の批准の年月日と国内法の制定の年月日、さらには国内法の具体的な内容を説明されたい。 (答弁) ノルウェーは、2003年9月23日に本条約を締結したが、それに先立ち、本条や苦情の義務を履行するため、2003年7月4日に刑法を改正したと承知している。この改正により、3年以上の機関の拘禁刑を科することができる行為で、組織的な犯罪集団の活動の一環として行われるものを行うことを他の者と共謀した者は、3年以下の機関の拘禁刑に処する旨の既定が設けられたと承知している。 ただの一国か。ノルウェーで国内法が整備されたことは、国連『立法ガイド』にも記されており、私たちも知っていた。問題は、「共謀罪」も「参加罪」もない国で国内法をどのように整備しているのか、していないのかを知りたいのであり、世界中が組織犯罪対策に足並みを揃える中で、日本が法整備を怠るわけにいかないという従来からの政府の主張を裏打ちするには、国内法整備の事例を出し惜しみをする理由はどこにもない。 東京新聞にも登場した翻訳家の小林しおりさんから、メールが届いた。『外務省HP』に関する指摘である。すでに、『外務省HP』に掲載された内容は、私が受領した「6日8日付け」のこのブログで紹介した「外務省の見解」に基づいていて、小林さんのメールの大半は、この「見解」を分析する内容になっている。以下、少し長文になるが紹介しておく。 6月16日付け外務省ホームページの(東京新聞の報道に対するものと思われる)「国際組織犯罪防止条約の『立法ガイド』における記述について」は、Q&A形式になっていますが、6月8日付けの外務省の見解とほとんど同じであり、「共謀罪または参加罪のいずれかを選択して定めなければならないとした上で」と繰り返し述べ、条約にそう書いてあるのだから、の一点張りですが、6月10日に私が書いたように、各締約国における立法上はその限りではなく、こういう余地もあるよと言っているのが立法ガイドなのではないでしょうか。 しかも喜田村弁護士の言われるように、そもそも条約の第5条1(a)(i)では「agreeing」で外務省日本語訳でも「合意」となっているので、それを「共謀」と解釈するのが恣意的なものである点と、英文解釈的にAかBかのいずれかを肯定とするのは誤りである点から、正しくないと言えると思います。 さらにこのQ&Aの3.の「有権的解釈を提供するものではでない」という外務省の見解に対しては、立法ガイドの36、43、44、68(e)パラグラフなどからも違うと言えるのではないでしょうか。ちなみに、(参考2)として「立法ガイド 序文(抜粋)」の原文のみを載せていますが、(スペース上ここには訳を示しませんが)36や43パラグラフと同様の内容です。 翻訳の観点から6月8日付けの外務省の見解について (6月10日 - 小林しおり) 51パラグラフは、その中のセンテンスをきちんと訳し、上から順に読んでいけば、----この条約第5条は、2つの主要なオプションを、事実を反映するために設定しているが、そのような法的概念のない国はその限りではない、----ということが自ずと明らかなように思われます。 ●2番目の文「Article 5 of the Convention recognizes the two main approaches to such criminalization that are cited above as equivalent.」の外務省訳「本条約第5条は、上記に同等のものとして引用されている犯罪化に対する2つの主要なアプローチを認めている。」は誤訳であるが(such criminalization にかかるのは「that are cited above」までであり、これは条約文の中のことではなく、この51パラグラフの中のその上の文で述べた、ということであるため)、[「本条約第5条は、このような犯罪化に対する2つの主要なアプローチを同等のものと認めている。」(小林訳) いずれにしても「the two main approaches 」「2つの主要なアプローチ」と言っているので、いわゆる共謀罪と結社罪は「主要な」2つにすぎず、これ以外にあってもよいわけであるから、外務省の見解「共謀罪または結社罪のいずれかを選択して定めなくてはならないとした上で」、というのは正しくない。 ●さらに、3番目の文「The two alternative options of article 5, paragraph 1 (a)(i) and paragraph 1 (a)(ii) were thus created to reflect the fact that some countries have conspiracy laws, while others have criminal association (association de malfaiteurs) laws.」 「第5条1(a)(i)および(a)(ii)の2つの選択的なオプションは、このように、共謀の法律を有する諸国もあれば、犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律を有する諸国もあるという事実を反映するために設けられたものである。」(小林訳)、 ここから読み取れるのは、本条約の(いわゆる)共謀罪または結社罪の規定は、一部の(すべてではない)国がこれらを採用している「事実を反映するために設けた」ものでしかない、ということである。 ちなみに外務省訳では「(前略)いくつかの国には共謀の法律があり、他方、他の国には犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律があるという事実を反映して設けられたものである。」となっているが、原文「some..., while others...」は「...もいれば...もいる」のように訳すのが適切で、外務省訳のように「いくつかの国には」「他方、他の国には」と訳し、全体を網羅するかのように解釈するのはおかしい(同様の例は49パラグラフにも見られる)。つまり、2番目の文と3番目の文から、共謀罪か結社罪のいずれかをすべての国が定めなければならない、のではないと言うことができる。 ●では、そういった制度を持たない国ではどうなのかというのが次の(問題の)4番目の文であり、 「The options allow for effective action against organized criminal groups, without requiring the introduction of either notion‐conspiracy or criminal association‐in States that do not have the relevant legal concept. 」 の外務省訳「これらのオプションは、関連する法的概念を有していない国において、共謀または犯罪の結社の概念のいずれかについてはその概念の導入を求めなくとも、組織的な犯罪集団に対する効果的な措置をとることを可能とするものである。」のように、いずれかを選択して定めなくてはならないと解釈するのは、そもそも2番目および3番目の文とつじつまが合わず、また、without 以下の否定節におけるeither〜、A or Bは両否定であること、さらにはThe options allow for〜の意味合いから(ちなみに「allow for」を辞書で引くと、「を許す」「余地を認める」「を見越しておく」「に備える」「誤差に対する余裕をとっておく」、というような意味があります)、 「これらのオプション [訳注:いわゆる共謀罪と結社罪のオプションのこと] には、関連する法的な概念を持たない国が、共謀罪および結社罪のいずれの制度も導入することなしに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることを認める余地がある。」(小林訳)などと訳すのが妥当であると思われる(ここでは「制度」と訳しているが、「notion」は外務省訳のように「concept」と同様に概念のことなので、どちらの概念すらも導入する必要はない、ということ)。 立法においては各締約国の裁量に委ねられており、むしろ確実に国内法と合致させる(矛盾のない)ことが求められている(例えば、43. They must ensure that the new rules are consistent with their domestic legal....)のだということをよく示している一部の例として、立法ガイドの以下のパラグラフを記しておきます: 36.締約国は、組織犯罪防止条約の実施へ向けて一定の立法上および行政上の措置をとることを求められる。第34条1項に述べられているように、これらの措置は各締約国の国内法の基本原則と合致する方法で行うこととする: 「締約国は、本条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置を含む。)をとる。」 43.国内法の起草者は、単に条約文を翻訳したり、条約の文言を一字一句逐語的に新しい法律案や法改正案に盛り込むよう企図するよりも、むしろ条約の意味と精神に主眼を置くべきである。法的な防御や他の法律の原則を含め、新しい犯罪の創設および実施は、各締約国に委ねられている(第11条6項)。したがって、国内法の起草者は、新しい法が国内の法的な伝統、原則および基本法と合致するものとなることを確保しなければならない。これによって、新しい規定の解釈において裁判所や裁判官の違いにより対立や不確定要素が生じる危険性を回避することができる。 44.本条約によって義務付けられる犯罪は、締約国の国内法、または議定書により導入される法の他の規定と併せて適用してもよい。したがって、新しい犯罪が現行の国内法と合致することを確保するよう努めなければならない。 51.本条約は、世界的な対応の必要性を満たし、犯罪集団への参加の行為の効果的な犯罪化を確保することを目的としている。本条約第5条は、このような犯罪化に対する2つの主要なアプローチを同等のものと認めている。第5条1(a)(i)および(a)(ii)の2つの選択的なオプションは、このように、共謀の法律を有する諸国もあれば、犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律を有する諸国もあるという事実を反映するために設けられたものである。これらのオプションには、関連する法的な概念を持たない国が、共謀罪および結社罪のいずれの制度も導入することなしに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることを認める余地がある。また第5条は、組織的犯罪集団によって行われる重大な犯罪を他の方法で幇助ならびに援助する者も対象としている。 68.(e) 犯罪の規定は、締約国の国内法に委ねられる。本条約の犯罪化要件を遂行するために国が定める国内犯罪は、必要な行為が犯罪化される限り、本条約とまったく同じ方法で規定される必要はない(第11条6項)。 (訳責:小林しおり)
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