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今すぐ北朝鮮攻撃はない、浮き足立たず有事に備えよ
日本に求められるのは楽観論、悲観論を排したリアルな議論
2017.4.19(水) 織田 邦男
【写真特集】北朝鮮、金日成主席生誕105年の軍事パレード
北朝鮮の首都・平壌で行われた軍事パレードに登場したミサイル(2017年4月15日撮影)〔AFPBB News〕
今年も桜が咲き、そして散って行った。例年どおり、上野公園では多くの人が車座になって花見に興じていた。日本をよく知っているある米国人が筆者に語ったことがある。「日本国内の議論って、まるで『花見』だね」と。
彼が指摘したかったのは、「車座」を組んで外界に背を向け、内輪だけ通じる議論に終始している日本の異様な姿である。
3月6日、北朝鮮はミサイル4発を同時発射し、一発は能登沖約200キロの海上に着弾した。金正恩総書記は在日米軍基地が標的だと言い放ち、ミサイルの固体燃料化も成功した。1年半ぶりに実施した軍事パレードでは、大陸間弾道弾(ICBM)らしき新型装備を登場させた。
シリアでは、バッシャー・アル=アサド大統領が反政府勢力にサリンの化学兵器を使用した。ドナルド・トランプ米国大統領は懲罰として、巡航ミサイルによるシリア空軍基地攻撃を敢行した。
風雲急を告げる中で森友問題一色の日本
こういった風雲急を告げる国際情勢にもかかわらず、日本国内では、国会は「森友学園」一色、巷では「稀勢の里」「豊洲」そして「浅田真央引退」の話題であふれ、まさに「外界に背を向け、内輪だけに通じる議論に終始」していた。
北朝鮮では建国指導者金日成の生誕日である4月15日、つまり「太陽節」の前後に、6回目の核実験を実施するとの情報があった。核の小型化に成功し、米本土に届くICBMを完成させる、それは米国の「レッドライン」である。
米中首脳会談の最中にシリア攻撃を実施し、トランプ大統領は習近平主席に対し「本気度」を見せつけた。これまで20年にわたる「戦略的忍耐」は失敗だったとし、「あらゆるオプション」を排除しないと明言した。もし中国が北朝鮮を説得できなければ、米国単独でも軍事力行使を含めた対応をとると伝えた。
「太陽節」に呼応するかのように、ハリー・ハリス米太平洋軍司令官は、カール・ビンソンを主体とする空母機動部隊を北上させ、異例ながらこれを公開した。こうなると日本のメディアは一転して「すわ戦争か」と条件反射的に反応し、今にでも戦争が起きるような報道ぶりだ。
普段、安全保障に関心も知識もない識者がメディアを通じて浅薄な発言をし、国民はこれに惑わされて不安に駆られる。メディアは視聴率が取れるからさらにこれを煽って大騒ぎをする。
民主主義国家にとって、この現象は決して健全ではない。これまでのように、何があっても「話し合いを」と壊れたレコードのように繰り返して思考停止するのも不健全だが、根拠なく「米軍は攻撃する」と煽るのも、それ以上に不健全である。
今回、米軍は北朝鮮への攻撃はしないと筆者は確信を持っている。これをSNSで公表したら、思いのほか大きな反響があった。いかに国民が正確な情報に飢えているかの証左であろう。以下、筆者の考えを簡単に紹介する。
今回、空母機動部隊の動き、巡航ミサイル搭載原潜の派遣、アフガニスタンでのMOAB (Massive Ordnance Air Blast=大規模爆風爆弾)の使用、あるいは岩国基地におけるF35Bの爆弾搭載訓練、SEALS支援船の派遣など、米軍は普段は決して公開しないものを続々と公開した。本当に作戦実施なら、手の内をばらすような馬鹿はしない。
これらは「太陽節」に合わせて準備した核実験を阻止するための金正恩に対する威嚇行動であり、それを何としても止めさせろという習近平主席に対する強いメッセージである。
攻撃実施のメルクマールとして、NEO(Non-combatant Evacuation Operation)、つまり「非戦闘員退避作戦」の開始がある。韓国には現在、観光客を含め米国市民や軍人家族(軍人を除く)が10万人余り存在している。米国が北朝鮮に手を出せば、「ソウルを火の海にする」と北朝鮮は公言しており、事実上の人質状態とも言える。
16日、ヒル元米国務次官補は「韓国には、北朝鮮の大砲の射程に約2000万人が住んでいる」とテレビ番組で指摘している。作戦を命ぜられた司令官がまず考えるのは、一般市民、特に自国民をいかに保護するかである。
まだ発令されていない非戦闘員退避
ちなみに、「3.11」の原発事故の際、日本でNEOが発動され、関東一円から米軍人家族が一っ子一人いなくなったことはあまり知られていない。
現段階においては、マイク・ペンス米副大統領が訪韓するなど、NEO「非戦闘員退避作戦」は開始されていない。こんな状態でマティス長官やマクマスター補佐官が攻撃実施を大統領に進言することは先ずあり得ない。
また一個空母機動部隊と在韓米軍では北朝鮮攻撃には明らかに兵力不足である。北朝鮮攻撃はシリアとは状況は全く異なる。38度線に集中する約1万の火砲(多連装ロケット砲や長射程火砲など)はソウルを向いている。
ソウルを「火の海」にしないためには、初動でこれらを一挙に壊滅させねばならない。同時に、核施設や核貯蔵施設を完全に破壊しなければならない。これには明らかに兵力不足である。
金正恩を直接狙った「斬首作戦」があると主張する専門家もいる。だが実態上、非常に難しい作戦である。リアルタイムで金正恩本人の動向を把握できなければならないからだ。
これは偵察衛星ではできない。2006年、ザルカウイ容疑者を「斬首」した時のように、側近に裏切り者がいて逐一、金正恩の行動が把握できなければ、現実的にはこの作戦は不可能だ。
またこの作戦は失敗が許されない。失敗すれば北の独裁者は「火の海」や「核攻撃」を直ちに命ずるだろう。朝鮮半島はシリアとは違って「ちょっとだけ懲罰を」という作戦はあり得ない。「Half Pregnant」はあり得ないのだ。
米中首脳会談でトランプ大統領は、「中国が影響を行使できないなら、米国は単独でもやる」という強いメッセージを習近平に伝えた。現在、ボールは習近平主席側にある。今回の米軍の動きは、まずは習近平主席の「お手並み拝見」というメッセージなのだ。
16日、北朝鮮は東海岸からミサイル発射を実施した。結果的には失敗に終わったらしい。習近平主席の説得にもかかわらず、金正恩総書記は6度目の核実験を強行するかもしれない。トランプ政権はオバマ政権とは違い、本気である。その時はトランプは上げた拳は必ず振り下ろすだろう。
訪韓中のペンス副大統領も次のように述べている。「失敗したミサイル発射に対し、我々が何か特別な対応をとる必要はない。これが核実験であれば、米国として何らかの行動を取る必要があっただろう」
攻撃を決行するとなると、先ずNEOが発動となる。同時に、米本土から三沢、横田、嘉手納に攻撃戦闘機が続々と展開してくるはずだ。グアムのアンダーセン基地やハワイのヒッカム基地もあわただしい動きになるだろう。
作戦準備になると、米軍は一転して情報を公開しなくなる。湾岸戦争時の「インフォメーション・ブラック・アウト」状態だ。
情報がなくなった時こそ迅速な対応を
湾岸戦争開戦前、日本の多くの識者たちは「情報がない」ことを誤解してか「攻撃はない」と予想していた。だが見事に裏切られた。「情報がない」というのと「攻撃準備がない」というのは全く違うのだ。
「インフォメーション・ブラック・アウト」になれば必ず分かる。その時こそ日本政府は、直ちに韓国への渡航禁止措置を取るとともに、在韓邦人帰国のための作戦を開始すべきだ。日本に事前協議をするとは言うが、保全上、攻撃開始直前になる可能性はある。
日本も観光客を合わせて5万7000人の在韓邦人をどう退避させるか真剣に考えなければいけない。これこそが今、冷静に議論すべきことなのだ。
現行の「在外邦人輸送」については、かなり問題が多い。拙稿「有事の際、海外の邦人救出はしなくて本当にいいのか」(2015.3.18)で指摘したので、ここでは触れない。
メディアも浅薄だが、いわゆる有識者も軍事知識は上辺の知識しか有しない。軍事を知らない者同士が語り合っても現実とは程遠い空虚な議論から一歩も出ない。国民はメディアの作り出した浅薄な「お騒ぎ」に巻き込まれるべきではない。
以上がSNSで述べた趣旨である。これに対し、驚くほどの反響が寄せられた。その一方で「自衛官OBとしては楽観的に過ぎる」といったお叱りもいただいたことを紹介しておく。
「お叱りコメント」を分類すると、だいたい以下に分類される。
(1)米国は本気だ。攻撃の可能性は高い
(2)最悪に備えるのが危機管理なのに能天気すぎる
(3)平和ボケした国民には刺激を与えた方がいい
(4)手の内をさらすのは、金正恩を利する
これらに対し反論したい。筆者は米国の本気度を疑っているわけではない。だが、段階があり今回は、攻撃はないと申し上げているのだ。
繰り返すが北朝鮮はシリアとは違い、「ちょっとだけ攻撃」という「Half Pregnant」はあり得ない。民主主義国が軍事作戦を考えるとき、自国民を犠牲にすることを前提に作戦計画を立案することは決してない。その重要性を一番分かっているのが軍人のマクマスター補佐官であり、マティス国防長官である。
現時点では中国だけが北を動かせる国である。米政府は中国の役割に期待している。それをさぼってきた習近平主席に対し、米国は空母機動部隊でもって本気度を示し、「お手並み拝見」との強いメッセージを与えているのである。
米国は本気である。北朝鮮がそれでもなお、核実験を強行し、ICBMを完成させるならば、攻撃を必ず実施するだろう。その時期はNEOの状況や、部隊の集結状況を見ればある程度わかる。これが(1)に対する回答である。
(2)については、客観冷静な情勢判断と「最悪想定」の危機管理は分けて考えなければならない。情勢分析はあくまで冷静に、しかも客観的に実施しなければならない。メディアの「お祭り騒ぎ」や国民のムードに決して惑わされることがあってはならない。
情報公開は北の為政者に最悪の事態を想起させるため
もちろん、政府レベルでは、冷静な情勢分析の中でも「最悪を想定」した準備を怠ってはならないのは言うまでもない。内閣、NSC(国家安全保障会議)、防衛省は、多くの情報を持っているはずだし、その情報を基に緻密な分析をして、最悪想定の対策を講じているはずだ。
(3)については、全く不同意だ。これはむしろ「禁じ手」と言える。共産主義国家や独裁国家では政権を維持するために、不都合な情報は伝えなかったり、あるいは情報をねつ造し、国民を政府の都合の良い方向に誘導することが多い。民主主義国家でこれをやると、政府の信頼性がなくなる。
「大本営発表」症候群になって民主主義を根底から崩してしまいかねない。あくまで国民にはいろいろな情報をいろいろな角度から正確に与え、国民自身が判断できるようにしなければいけない。
民主主義というものは国民一人ひとりが「だいたい常識的な」判断ができることで成り立っている。日本の現状は必ずしもそうではない。だが、その方向を常に目指すべきだろう。
(4)についても不同意だ。こんなプリミティブな情報分析はとっくに北朝鮮もやっている。「手の内をさらす」といった類のものではない。これを聞いた金正恩主席が「そうか」といって戦略を変えることもあり得ない。
むしろカール・ビンソンの北上をはじめ、米軍がこの時とばかりに公開した情報、その他、独自入手の秘密情報を分析し、為政者として「最悪を想定」して次の手を打つはずだ。だからこそ、軍事力のデモンストレーションは意味があるのである。
1996年の台湾総統選挙の時に、中国は台湾近海に4発の弾道ミサイルを着弾させて選挙を妨害しようとした。これに対し米国は空母2隻を近海に派遣したが、これによって中国は矛を収めざるを得なかった。
中国は空母派遣によって米中戦争になるとは思っていなかっただろう。だが、「最悪事態」を想定すれば、力の誇示を続けることによって自分に不利に作用すると考え矛を収めたに違いない。
今回の米軍の動向も、決して無駄ではないし、いつでも「やるぞ」との意思を示すことは外交の力強い後ろ盾となっていることは間違いない。逆にいえば「力の後ろ盾」のない外交は無力なのである。
以上が「楽天的に過ぎる」との御批判への筆者の回答である。要はパブロフの犬のように、条件反射的に反応するのではなく、情報を見極め、動くべき時に動き、そうでないときに軽挙妄動してはならないということだ。
朝鮮半島の非核化は話し合いで解決できない
もちろん事実を直視せず、楽観を決め込むことがあってはならない。だが「すわ戦争だ」という根拠なき悲観論に右往左往するのも有害極まりない。またぞろ壊れたレコードのように「話し合いを」と繰り返し、思考停止に陥っている楽観論も百害あって一利なしだ。
2003年から9回にわたって繰り返された六か国協議の「話し合い」で、果たして「朝鮮半島の非核化」は実現できたのか。1994年の核疑惑危機から23年にわたる「話し合い」の結果が今の状況だということをまず直視する必要がある。
金正恩総書記の「核・ミサイルの野望」を止めさせるには、もはや「話し合い」だけでは無理である。いざとなれば「伝家の宝刀を抜くぞ」という本気度を示して初めて可能性が出てくる。今回の米軍の動きは、そのための第1弾としての力の誇示であり、まずは習近平主席の働きかけと金正恩総書記の決心を見てみようということだ。
それがだめなら、第2弾としてNEOを開始して本気度を示すだろう。NEOの開始は金正恩総書記に対し、相当インパクトの大きいメッセージとなる。
併せて攻撃部隊を集結させて金正恩総書記に決心を迫る。もちろん国際社会での合意形成を得る努力は必要である。同時並行的に「核とICBM」を断念させる交渉を中国に引き続きやらせる。それでもだめなら・・・今後は、そういった展開になるだろう。
日本は当事者意識を持たねばならぬ。北朝鮮の核・ミサイルは米国だけの問題ではない。日本の安全保障そのものなのである。
70年前、講和条約の調整で来日した大統領特使ジョン・フォスター・ダレス氏が、あまりに国際情勢に疎い日本を「周辺情勢に目をつむり、まるで不思議な国のアリス」と言って嘆息したという。
日本人は70年前と全く進歩していないのか。我々は「お花見」よろしく車座になって外界に背を向け、内輪だけ通じる議論に終始している場合ではないのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49767
徹底解説自衛隊:最新の海外PKOで果たした重要な役割
自衛隊の歴史を読み直す(6)〜ハイチから南スーダンまで
2017.4.19(水) 田中 伸昌
南スーダン第2の都市で戦闘、民間人16人死亡 国連
南スーダンのワウに国連が設置した文民保護地区 (PoC)の避難民たち〔AFPBB News〕
毎週水曜日にお送りしている徹底解説自衛隊。これまで、終戦後に自衛隊が誕生した背景、国内での災害派遣での活動、また海外PKO活動に参加するようになるまでを時系列に沿って詳しく見てきた(前回はこちら http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49687)。
今回は最新の海外PKOにおける自衛隊の役割と成果について解説する。前回解説したゴラン高原、東ティモール、アフガニスタン、イラク、スーダンに続き、今回はハイチでの業務から最新の南スーダンまでを振り返る。
12.ハイチ国際平和協力業務(2010年2月〜2013年2月)
ハイチでは2000年の議会選挙および大統領選挙の結果政治的対立が激しくなり、国内騒乱・暴動へと発展した。この状況の中、2004年2月に反政府勢力が蜂起し内戦状態、無秩序状態へと発展した。
これに対して国連安保理は決議を採択して、同年3月、多国籍暫定軍(MIF)を現地に展開させて治安回復を図った。
国連は、さらに治安回復、国家機能の再興・充実を図る必要があるとの判断から、新たな安保理決議(第1542号2004.4.20)を採択して国際連合ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)を設立(2004.6.1)し、MIFを引き継いでハイチの国家機能の回復・充実を継続支援することとした。
このような状況の中、2010年1月12日に大地震が発生し、ハイチは大きな被害を被った。国連安保理は、被害の緊急的な復旧を図るとともに国家機能の復興を促進させる必要があるとの判断からMINUSTAHの派遣人員の増強を図る安保理決議(第1908号2010.1.29)を採択した。
これに基づく国連からの要請に対し、我が国はハイチ国際平和協力業務を実施することを閣議決定(2010.2.5)し、ハイチ国際平和協力隊を設置した。
ハイチ国際平和協力隊は、MINUSTAHの中の軍事部門を形成し、司令部要員として第1次2人を2010年2月24日から半年間、以後2013年1月30日に任務を終えて帰国するまで、半年ごとに2人を第6次まで派遣し、合計12人の自衛官が司令部要員として職務を遂行した。
地震被害の復旧支援の実働部隊としては、2010年2月6日以降、陸自施設部隊から第1次として203人が派遣され、第1次のみ1か月という期間を除き、第2次以降第7次までで合計2140人の隊員が災害復旧支援業務に従事した。
この間、施設部隊はがれきの除去、敷地造成、道路補修などのほか、国連資金を活用して、孤児院施設および結核診療所施設、小学校校舎の建設等を企画し実施した。また国連施設の耐震診断あるいは施設部隊に随行している医官による現地コレラ対策への協力など、専門性を生かした支援も行った。
また、現地に派遣されていた韓国部隊との共同作業、我が国ODA事業への支援やNGO活動に対する支援など多方面にわたる活動を積極的に行った。
航空自衛隊は、空輸隊を編成して、本邦、ハイチおよび米国(フロリダに先遣隊配置)との間で、C-130H輸送機、KC-767空中給油・輸送機および政府専用機により人員や物資・装備機材等の空輸により活動を支援した。
ハイチ国際平和協力隊は、2013年2月にすべての任務を終えて日本に帰国した。なお、帰国に先立って、我が国はハイチ政府の要請を受けて、現地で使用してきたドーザーなどの施設機材をハイチ政府に譲与した。
また、国連からの要請を受け、現地宿営地内に保有していたプレハブ建物および付属設備・備品などを国連に譲与した。
13.国際連合東ティモール統合ミッション(2010年9月〜2012年9月)
1994年から東ティモールの行政支援のために設立されていた国連暫定行政機構(UNTAET)が、2002年5月20日の東ティモール民主共和国の独立をもってその任を終えたが、国連は、引き続いて主権国家としての安全と自立体制の整備を支援する必要があるとの判断から、新たに東ティモール支援団(UNMISET)を設立した。
ところが司法分野を中心として国家機能が不十分であることが露呈したため、国家統治機能の更なる充実強化支援を目的に、国連は国連東ティモール事務所(UNOTIL)を2005年4月28日に設立した。
しかし、その後に発生した離脱兵士への警察対応に対する抗議行動などから治安状況が極度に悪化し、国連は東ティモール政府の要請により、治安の維持・回復並びに大統領選挙および国民議会選挙の実施を支援することを目的として、2006年8月25日に、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)を設立した。
2010年5月、国連は我が国に対しUNMITの軍事部門への要員派遣を要請した。これに対し我が国は、2010年9月10日、国連の要請を受け入れることを閣議決定し、東ティモール国際平和協力隊を設置した。
我が国は第1次として2010年9月27日からおよそ半年間の任期で、陸上自衛隊から2人を首都ディレに設置された軍事部門の司令部に情報収集・連絡要員として派遣した。以降、2012年9月21日まで、半年ごとの任期で第4次まで各2人ずつ、合計8人が国連東ティモール統合ミッション軍事部門の要員として勤務した。
この間東ティモールにおいては、2011年3月から7月にかけて大統領選挙および国民議会選挙が行われ、5月20日に新大統領の誕生、8月8日には新たな政権が発足し、順調に国家統治機能の充実が図られ、成長・発展へと進んでいる。
このような成果を見て、国連は2012年12月31日をもって東ティモール統合ミッション(UNMIT)の活動を終了させた。
14.国際連合南スーダン共和国ミッション(2011年11月〜2017年5月末)
南スーダン共和国は、20年以上にわたる内戦が終結した後、国連安保理が設立した「国際連合スーダン・ミッション」(UNMIS)の支援もあって、南北包括和平合意に基づく住民投票において、有効投票数の99%がスーダンからの分離独立を支持する結果を受けて大統領はこれを受け入れ、2011年7月9日に新たな独立主権国家として誕生した。
これに伴いUNMISの任務を終了した。
新たに誕生した「南スーダン共和国」は、国づくりのスタート台に立ったばかりであり、独立主権国家として成長して行けるかどうかは、アフリカの平和と安定にとって極めて重要な課題である。
このような認識に基づき、地域の平和と安全の達成と新しい国づくりを支援するため、国連は安保理決議(第1996号)を採択し、「地域の平和と安全の定着」および「南スーダン共和国発展のための環境構築支援」を目的とする国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)を2011年7月9日に設立させた。
我が国政府はこの決議に基づく国連からの要請を受けて、2011年11月15日、「南スーダン国際平和協力業務の実施について」および「南スーダン国際平和協力隊の設置等に関する政令」を閣議決定し、同月18日に「南スーダン国際平和協力隊」を設置した。
派遣期間は、2011年11月18日から2012年10月31日までとし、派遣規模は、陸自施設部隊(最大330人)、国連や現地政府機関などとの調整等を行う陸自部隊(最大40人)、UNMISS司令部へ派遣する幕僚(3人)とした。
この計画に基づき、2011年11月の司令部要員2人の出発を皮切りに、要員、装備品などの輸送を、大型輸送チャーター機、海自輸送艦、空自輸送機(C-130H×4機、空中給油・輸送機KC-767×1機、政府専用機×1機)などにより実施、2012年3月25日に南スーダンにおいて第1次隊の人員、装備などすべての態勢を完成させ、2012年4月2日から現地における活動を開始した。
南スーダンは長年にわたる内戦の末、2011年7月9日にスーダンから分離独立した新興国家であるため、国土は内戦で荒れ果て、衛生状態も悪く、400万人を超えると言われる避難民を抱え、治安も悪く、国家統治機能も整備途上である。
派遣された自衛隊はこのような過酷な状況の中でのPKO活動となった。
派遣期間について、当初は2011年7月9日から1年間ということであったが、逐次延長が繰り返されて現在に至っている。
我が国は2011年11月に司令部要員、2012年1月に施設部隊をそれぞれ派遣したが、期間延長の安保理決議に基づき、その都度派遣期間の延長を行ってきており、現在、施設部隊については2016年12月12日から第11次派遣施設隊が現地で活動している。
自衛隊の現地への派遣任期は、施設部隊については概ね半年、司令部要員については概ね1年としている。なお、日本政府は、2017年5月末をもって自衛隊の施設部隊を撤収することを決め発表した(2017年3月10日)。
これについて政府は、「5年以上にわたる自衛隊担当の首都ジュバ周辺における施設活動に一定の区切りをつけたと考え、今後は自衛隊による施設活動を中心とした支援から南スーダン政府による自立の動きをサポートする方向に支援の重点を移すことが適当と判断した」と発表した。
ただし、司令部に派遣されている要員については、施設部隊の撤収後も引き続き継続派遣するとしている。
派遣規模について、国連は2011年7月9日のUNMISS設立時の安保理決議で、軍事部門、最大7000人として各国に派遣を要請し活動を開始したが、その後の治安の悪化などに伴い人員を増強し、2016年2月時点で軍事部門要員は約1万2000人に上っている。
我が国は、2011年11月にUNMISS司令部要員として2人を派遣したのを皮切りに次のとおり司令部要員並びに部隊を派遣している。また部隊や装備、資・機材等の輸送に当たっては、海上自衛隊並びに航空自衛隊の輸送能力を活用している。自衛隊の派遣規模の概要は次のとおりである。
○司令部要員
派遣部隊の活動の企画・調整などのためUNMISS司令部に兵站幕僚および情報幕僚各1人を2011年11月29日に派遣し、2012年2月に施設幕僚1人を派遣した(第1次)。
以後、2014年1月に派遣した第5次までは、それぞれ3人の要員であった。その後、政府は2014年10月に司令部に飛行運用幕僚1人の新規派遣を決定したので、第6次以降の司令部要員は合計4人の派遣となった。
○施設隊
主として道路補修・整備などの国づくり支援活動を行う“南スーダン派遣施設隊”は、第1次隊が2012年1月から3月にかけて、現地において人員・装備・施設の態勢を整えて同年4月から活動を開始したが、部隊規模としては最大330人という陣容である。
その後活動地域の拡大あるいは任務の変更などに伴い、2013年11月から逐次派遣された第5次施設隊から最大410人という陣容へと増強された。現在南スーダンに展開している第11次施設隊は、2016年12月に派遣され、派遣部隊指揮官(1等陸佐)以下約350人が、現地で活動している。
○支援調整所要員
施設隊を現地に展開させるために必要な輸送業務に係る調整、さらに展開後の施設隊の業務の形成およびそのための調整等を行うため、2012年1月11日に最大40人から成なる支援調整所を首都、ジュバに設置した。
ジュバのほかウガンダ共和国の首都カンパラおよび同国のエンテべにも要員を配置し、所要の調整業務を行わせた。
支援調整所要員は第1次から第4次まで、それぞれ半年間の任期で勤務してきたが、2013年11月の第5次施設隊の展開に伴い、支援調整所の機能を施設隊に統合し、2013年12月24日をもって支援調整所を廃止した。
施設隊の活動内容について
南スーダンにおける安全と平和の定着および独立主権国家としての発展のための環境の構築支援を任務として、2011年7月9日に設立された「国際連合南スーダン共和国ミッション」(UNMISS)は、世界63か国から派遣された軍事要員、警察要員、文民要員および国連ボランティアで構成されている。
軍事要員は日本、英国、インドなど14か国から派遣された部隊からなり、我が国は陸上自衛隊の施設部隊を派遣し、英国、インド、韓国、中国およびバングラデシュは工兵部隊(注:陸自施設部隊と同等)を派遣し、その他の国は歩兵部隊、航空部隊、医療部隊および憲兵隊を派遣している。
国連は、南スーダンにおける国家機能強化の環境整備が進展する一方で、国内の政治的対立に起因する抗争激化による治安の悪化と人道危機対処のため、UNMISSの活動の焦点を(1)文民保護(2)人権状況の監視・調査(3)人道支援実施の環境づくり(4)衝突解決合意の履行支援へと移していった。
これに伴って自衛隊の活動も逐次変化していくとともに活動範囲も拡大していった。すなわち、まず幹線道路整備、ジュバ大学敷地造成などの国づくり支援から始まり、次いで避難民に対する医療活動・給水活動・トイレ設置などの避難民支援へ、そして避難民保護区域の整備、ジュバ河川防護柵整備などの人道支援のための環境づくりおよび文民保護支援等へと活動の重点を変化させていった。
さらに、我が国が南スーダンへ提供している政府開発援助資金(ODA)により行われている事業や、現地で活動しているNGOとの連携、国連の他の機関および他国の派遣部隊との連携等、自衛隊の活動の範囲は拡大していった。
南スーダン共和国ミッション(UNMISS)における特筆すべき事項
〇「駆け付け警護」の取り扱い
「平和安全法制」が平成28年(2016年)3月29日に施行されたことに伴い、国際平和協力活動などで実施できる業務の拡大が図られ、自衛隊による「安全確保業務」および「駆け付け警護」が実施できることとなった。
2016年12月に派遣された第11次南スーダン国際平和協力隊に、最初にこの法律を適用して、「宿営地の協同防護」および「駆け付け警護」任務が付与された。派遣された部隊は、新たに付与された任務に対する訓練を十分に実施してきたと言明している。
武器使用に関しては、国連が示している基準は、(1)PKO要員の生命等の防護のため(2)任務の遂行を実力によって妨げられる行為に対抗するためとしているのに対して、我が国は従来上記(1)のみであった。
このことに対しては、PKOなどが国際社会の共同活動であり、同じ場面で他国のPKO要員とともに活動している以上、我が国から派遣された自衛隊員も共通の国際基準で活動しなければ、彼らを危機に瀕しさせる、あるいは爾後の自衛隊との共同活動に対する不信感を抱かせることになるであろう、ということが従来から言われていた。
今回の法改正により(2)の任務遂行型の武器使用を極めて抑制的ながらも認めたことによって、派遣される自衛隊は、従来にも増してより安全、確実に任務を遂行できるようになったということが言えよう。
〇韓国PKO部隊への銃弾提供
2013年12月23日、南スーダン共和国ミッションに部隊を派遣している韓国軍の現地部隊は、国連に対し銃弾1万発の提供を要請し、国連は日本に対し現地韓国軍へ銃弾1万発を提供するよう要請した。
この要請を受けて我が国は、国家安全保障会議ののち持ち回り閣議の決定を経て、国連南スーダン派遣ミッションの韓国軍に銃弾1万発を無償で譲渡することを決め、現地派遣中の陸自部隊から銃弾1万発を韓国軍に提供した。
これはこれまでのPKO法の審議等を通じて国会において「『物資協力』に武器・弾薬は含めない」としてきた政府見解と異なるため、官房長官が譲渡を決定した理由等について、次のような談話を発表した。
「現地で活動中の韓国隊隊員や避難民の生命・身体を保護するために一刻を争い、韓国隊の保有する小銃に適用可能な弾薬を保有するUNMISSの部隊は日本隊のみという緊急事態である。緊急の必要性・人道性が極めて高いことに鑑み、UNMISSへの5.56ミリ普通弾1万発の提供については、当該物資が韓国隊隊員や避難民らの生命・身体の保護のためにのみ使用されることおよびUNMISSの管理の下、UNMISS以外への移転が厳しく制限されていることを前提に、武器輸出三原則等に依らないこととする」
この問題は日本国内でもまた韓国においても様々な議論を呼んだが、銃弾提供後、国連から日本政府に謝意が示され、現地の韓国隊からも現地自衛隊に謝意の表明があったことを官房長官は明らかにした。
なお、現地の韓国隊は2014年1月10日、国連を通じて現地陸自部隊から提供を受けた銃弾1万発を陸自側に返還した。
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