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四面「核」歌¥態の日本が生き残る道
対談― 戸崎洋史(日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員)×小泉 悠(未来工学研究所客員研究員)×神保 謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
2017/04/11
浅野有紀(Wedge編集部)
冷戦の終結とともに、米国とソ連はそれぞれが保有する核兵器の数を削減してきた。
しかし、その一方で北朝鮮や中国は核戦力を増強し、脅威を増している。日本を取り囲むこれらの核保有国の具体的な脅威とは。日本がとるべき戦略とは。核戦略・安全保障の専門家3人に語ってもらった。
(写真・CLOCKWISE FROM TOP:AGENCIA MAKRO/CON/GETTYIMAGES;MIKHAIL SVETLOV/GETTYIMAGES;BLOOMBERG/GETTYIMAGES;KYODO NEWS/GETTYIMAGES)
編集部(以下、――)北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まっています。今年に入っても2月、3月と続けて弾道ミサイルを発射していますが、狙いは何でしょうか。また、その技術はどれくらい進化しているのでしょうか。
神保:北朝鮮は、自らの核抑止力を技術的に証明することに躍起になっています。かつては核開発を進めることを通じて米国との直接交渉を目指していましたが、現在は核兵器の実戦配備を通じて事実上の核兵器国としての承認を欲している状況です。核弾頭の小型化、ミサイル実験の多種化、弾頭の大気圏再突入技術の誇示など、全てこのロジックに沿っています。
小泉:核爆発装置があるという段階から、実際に戦略として核を使用できる段階まで進んできているということですね。ただ、北朝鮮は面積としてはかなり小さな国で、先制攻撃を受けた場合に核兵器が生き残る能力にはかなり疑問があると思いますが、いかがでしょうか。先制攻撃から生き残ってミサイルを発射できてもミサイル防衛もすり抜ける必要があるわけですし。
戸崎:確かに、他の核保有国と比べると開発は初期段階ですが、恐らく自らが世間一般の常識の枠を超えた「非合理的」な存在として見られていることを知っていて、初期段階ながらも、何をするか分からない、核兵器をいつ使うか分からないという恐怖心を他国に抱かせようとしている側面もあるのではないでしょうか。さまざまな計算の上での行動だと思います。
小泉:非合理性の合理的な利用、もしくは戦略的曖昧性といったところですね。
神保:北朝鮮は抑止力について3層の戦略を考えていると思います。1層目は、韓国の都市部や米軍基地に対する通常戦力による奇襲能力や核兵器の打撃力を誇示して、米韓同盟にくさびを打ち込むこと。2層目は、日本の都市や在日米軍に対するミサイル攻撃能力の確保。過去10年程度進めてきた中距離弾道ミサイル・ノドンの連続発射実験、移動式発射台の運用、ミサイルの固体燃料化などは、ミサイル防衛を難しくさせています。
そして3層目は、米国に対して長距離弾道ミサイル・テポドン2改良型や開発中のKN−08などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を本土に打ち込める能力を示し、米国と同盟国を切り離し(デカップリング)、拡大核抑止の信用性を揺るがすこと。これらが彼らの戦略だと思います。
戸崎洋史:日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター 主任研究員 大阪大学法学部卒業、大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程中途退学。博士(国際公共政策)。日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター研究員補を経て、2000年より同センター研究員。
戸崎:その中で、特に危険なのは日本でしょうね。北朝鮮にとって、朝鮮半島統一という将来的な目的のためには、韓国に核戦力で壊滅的な被害を与えることは望ましくないことから、最も実際の攻撃対象としやすいのは日本でしょう。また、日本を威嚇して朝鮮半島事態への関与から手を引かせれば、米国による韓国防衛コミットメントの遂行も難しくなります。その意味でも、日本は3カ国の中で一番適当なターゲットだと思います。
小泉:国力やテクノロジー面で劣勢な国は、必ずその制約の中で何かしらの軍事戦略を考えるものです。そういった意味では、北朝鮮も必ず相手の隙をつく作戦を考えてくると思われますので、侮れないですね。
北朝鮮が戦略的曖昧性を最大限に発揮する中で、米国は韓国との合同軍事演習で朝鮮半島上空に爆撃機を飛ばすなど、その程度の能力では核抑止は確立していないと北朝鮮に知らせる行動を繰り返し起こしています。これはイタチごっこのような気がしますが、どこかで均衡して交渉に向かうことはできるのでしょうか。
戸崎:難しい問題ですね。互いに相手の能力や意図を十分に認識しているつもりが、実際にはそうではない部分も少なくないと思います。北朝鮮が核を持ち、増強しようとする目的をどう捉えるかによっても変わってくるでしょうね。現体制の維持という防御的な目的であれば、交渉での解決を目指せるかもしれませんが、核を背景にした挑発などによって攻撃的な目的の達成を狙っている場合は、抑止など強い圧力をかけないと北朝鮮はチャンスだと判断しかねません。
しかも、北朝鮮の狙いも、自らの核戦力の強化とともに変わる可能性があり、その動きを絶えず慎重に把握していないと間違った政策判断を下すことになりかねません。
――トランプ大統領は就任前に、北朝鮮への対応は中国に任せておけばいいという放任的な発言もしていました。
小泉:トランプ大統領の選挙中の発言は正直あてにならないと思います。選挙戦中の発言とその後の行動が合致していないことが多々あります。選挙戦中は北朝鮮なんてどうでもいいと言っていましたが、現実的に彼が米国の安全保障戦略を仕切る立場においては、そうは言っていられないでしょう。
神保:大統領選挙期間中のトランプ大統領に明確な北朝鮮政策があったとは思えません。しかし今年2月のマティス国防長官の韓国・日本訪問や、日米首脳会談の際のミサイル実験への対応、3月に実施されている最大規模の米韓合同軍事演習を通じて、トランプ政権が北朝鮮への軍事的警戒を強めていることは明確になりました。オバマ政権の「戦略的忍耐」が失敗したという認識のもとに、現在はマクファーランド大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)の下で北朝鮮政策の見直しが行われているとも伝えられています。
しかし、対北朝鮮政策が大幅に変更されることは考え難いと思います。
――北朝鮮に関する報道の影に隠れて表に出ない中国の核戦力も日本にとって脅威となるのでしょうか。
戸崎:中国は、核弾頭を250〜300発、米国に届くICBMを少なくとも50基以上、日本を対象にできる中距離ミサイルを数百基保有していると言われています。ただし、中国の核戦力における透明性は低く、保有する核弾頭数も運搬手段の種類・数も公表していません。運搬手段については、海(潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM))、陸(弾道・巡航ミサイル)、空(爆撃機)と多様化しています。
さらに、米ロ間では、中距離ミサイルを全廃する中距離核戦力(INF)全廃条約を締結していますが、中国はその締約国ではなく、この中距離ミサイルも保有しています。このように、核運搬手段の多様性という点においては、他の核兵器保有国を上回っている状況です。
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写真を拡大 国別の核弾頭保有数およびその運搬手段※表中の6カ国の他、インドは100〜120発、パキスタンが110〜130発、イスラエルが最大80発の核弾頭を保有しているとされている。(出所・2016年版防衛白書を素にウェッジ作成)
核戦略に関して、中国は一貫して「最小限抑止」、「先行不使用」、「非核兵器国には核兵器を使わない(消極的安全保証)」、という3点を主張してきましたが、核戦力が拡大していく中で変化する可能性も指摘されています。最近では、1基の弾道ミサイルに数発の核弾頭を載せたMIRV化ICBMを配備したという話もありますが、これは先制攻撃に有効な兵器のため、先行不使用政策を本当に今後も継続するのかという懸念が生じています。
日本にとっては核・通常両用の中距離ミサイルが脅威ですが、核を後ろ盾にしつつ、通常戦力を積極的に活用する戦略をとってくるのではないかと思います。核戦力と通常戦力の双方への対応も考えなければいけないという点で、北朝鮮以上に対応が難しいと思います。
小泉:中国は、北朝鮮やロシアと違って通常戦力をどんどん近代化させているので、核に頼らなければならない場面は逆に減っていくと思います。日本にとって中国の核が問題になるとすれば、尖閣諸島などで米国のコミットメントが後退した場合に、通常戦力ではなんとか中国に対応できたとしても、核を使用されることになれば何もできなくなるというシナリオでしょう。
ただし、トランプ大統領は尖閣諸島においても日米安保条約を適用すると明言しました。その意味では、トランプ政権に変わったことで日本が中国の核を今まで以上に気にする必要が出てきたということはないと思います。
――中国の核弾頭数が明らかにされていないことを踏まえると、中国が数年後に米国やロシア並に多くの核弾頭を持つこともあり得るのでしょうか。
小泉 悠 :未来工学研究所客員研究員 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に『プーチンの国家戦略』(東京堂出版)。
小泉:それはさすがに難しいでしょうね。米国の分析にもありますが、中国で生産できる核分裂物質の数から考えると、そこまで多くの核弾頭を作れないと思います。
戸崎:もし仮に、核弾頭数を大幅に増やすことができるとしても、どこまで増やすのかは、中国がどのような核戦略を目指すのかによっても変わってくると思います。米ロと同数程度の核弾頭を持つことで、米ロに並ぶ大国としての地位を築きたいと考えるのであれば、米ロの核弾頭数に並ぶまで数を増やすことを考えるかもしれません。
一方、米国に相当程度のダメージを与えられる能力を持つことで中国の目標達成に十分だと考えるのであれば、そこまで核弾頭数を増やす必要はないと考えるでしょう。
神保:冷戦期の米ソ間の「戦略的安定性」を中国は異なる文脈で追求していくと思います。かつて米ソは数万発の核兵器を保有し、互いに第二撃能力を保持することを通じて、確実に報復が可能な「相互確証破壊」を基礎に据えて、相互抑止を模索しました。
しかし中国は自らの核心的利益を保護するために、米軍の介入を阻止する通常戦力を重視し、核戦力はその延長に位置付けられています。中国にとって重要なのは米国に対する限定的な確証報復(米本土の都市部を確実に攻撃すること)であり、米国と同じレベルの核戦力(パリティ)は目指さないと思います。したがって米中・中ロの間で核弾頭数では非対称の「戦略的安定性」をつくることができるかが、大きなポイントになります。
――中国が核開発を進める一方で米国とロシアは2国間で核軍縮を進めてきましたが、この構図は続いていくのでしょうか。トランプ大統領は核戦力を増強する姿勢を見せ始めています。
小泉:米ロ間では18年までに戦略核弾頭(長射程で破壊能力の高い核兵器)の数を1550発まで削減する新戦略兵器削減条約(新START)という条約を結んでいます。ここまでは減らせるかもしれませんが、さらに1000発まで減らすことはできないでしょう。ロシアは中国を恐れているため、米国との2国間でのさらなる軍縮は避けたいと考えているからです。
そして、核軍縮に中国を巻き込めないのであれば中距離ミサイルを持てるようにすべきだというのがロシアの主張です。先日、ニュースでも報じられていましたが、とうとうロシアが米国とのINF全廃条約を破ったことは、その主張の強い表れだと思います。
米国にとっては、中国から飛んでくる核弾頭はせいぜい100発程度でしょうが、ロシアの場合は距離が近く、もっと多くの核弾頭が中国から飛んでくる可能性があります。保有する核弾頭数を1000発程度まで減らすと、ロシアは米国の1000発に加え、中国の数百発を気にしなくてはならなくなるため、新STARTを超えたさらなる削減はのまないでしょう。
――ロシアの核戦略の中には、日本を核攻撃する計画もあるのでしょうか。
小泉:ロシアの参謀本部の中には日本を核攻撃するオプションも用意してあるのでしょうが、標的は自衛隊の基地というより米軍基地でしょう。日ロ間の軍事的な対立レベルは低いので、日本を攻撃する優先度はそこまで高くないと思います。
ロシアが本当に核戦力を使うのは、日本と通常戦力で戦って劣勢になりそうな場合でしょうが、そのシナリオ自体が考えにくいです。今ヨーロッパでロシアと緊張が高まっているのは、ソ連崩壊後、ロシアの勢力圏だと思っていた地域が西側に取り込まれそうになっているからです。
――昨年の日ロ首脳会談では北方領土問題が話題になりましたが、より重要なのは、平和条約締結によりロシアの危険度を下げることなのでしょうか。
小泉:日本にとってのロシアの危険度はそこまで高くはないものの、日ロ間でずっとわだかまりが続くことは戦略的に望ましくないため、それを取り除こうとはしていますね。一番の原因は相互不信だと思います。結局日本は米国の同盟国であり、そんな国に領土を譲り渡すのは心配だ、ということをロシアは繰り返し言っています。
神保 謙: 慶應義塾大学総合政策学部准教授、 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院客員研究員などを歴任。
神保:過去数年間の航空自衛隊のスクランブル数は、冷戦期の最も多い時期に匹敵します。中国機への対応が急速に増えたことに加え、ロシア機も過去3年ほど活発な活動を続けています。
日本は新しい防衛大綱のもとで力点を中国と接する南西にシフトしたいのですが、北方から離れられない状態であり、ロシアが自衛隊の構造改革を遅らせているともいえます。日本は中国とロシアの二正面で防衛態勢を維持する余裕はないので、ロシアとできるだけ信頼関係を深めて中国に注力できる状態にしていく必要があります。さらに外交戦略まで踏み込むと、日本は中ロ分断を進める必要があるでしょう。
戸崎:中ロを分断するという意味においては、日本は基本的価値、あるいは国際秩序などよりは、もっと「利益」の側面に焦点を当てる方が良いと思います。
神保:その通りだと思いますね。ヨーロッパから見たロシアとアジアから見たロシアは違い、アジアにとっては機会主義的な見方ができると思います。
小泉:ロシアは、アジア太平洋にはそんなに不満を抱いているわけではなく、むしろ期待を持っています。ヨーロッパの国々と付き合ってもそこまで高度成長を望めないので、アジアに入っていくというポジティブな姿勢でいます。これまでは中国という非常に大きなパートナーがいましたが、その次に日本とどんな関係が結べるかというのがロシアの関心だと思います。その時に日本がロシアをうまく引き付けることで北方の脅威を軽減し、南西側の脅威に専念できるようにすることが、安保上の重要な方策でしょう。
――北朝鮮、中国、ロシアという核保有国に取り囲まれる中、日本が生き残るための具体的な戦略について教えてください。
神保:核戦略は単純なものではなく、それぞれの国、地域の特色に応じた戦略が重要で、日本はそれに適合した形での抑止戦略を丁寧に作り上げていく必要があります。その前提として、米国のアジアにおける地域的な核戦略が明確に定義されている必要があります。具体的には、米国が北朝鮮や中国の戦力構成に対してカスタマイズした兵器体系と宣言政策を明示していることです。
日本については、海上配備型迎撃ミサイルのSM−3ブロック2Aの配備計画を着実に遂行し、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)との二段構えのミサイル防衛態勢を構築するとともに、早期警戒、破壊措置命令が運用レベルで維持できるように整えておくことが重要だと思います。それでも穴があるようであれば、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)を導入してさらに多層的な迎撃態勢を整えていく必要があるでしょう。
ミサイル迎撃態勢を強化する高高度ミサイル防衛システム(THAAD)
(写真・U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE, MISSILE DEFENSE AGENCY/REUTERS/AFLO)
小泉:日本独自の敵基地攻撃能力も視野に入るのでしょうか。
神保:実際の運用は難しいのではないかと思います。日本を射程におく北朝鮮のノドンについて言えば、発射までに要する時間が短い上に、抗堪化(敵の攻撃の中で生残り,その機能を維持できるようにすること)・秘匿化が進み、移動式発射車両を利用するとなると、これらの策源地を確実に攻撃できる能力を持つことは至難の技です。
そう考えると、日本にとっての有効な資源配分の在り方は、確実なミサイル防衛配備と拡大核抑止の信頼性の担保の2点セットであり続けるのではないかと思います。
戸崎:おっしゃるとおりですね。ただ、北朝鮮による日本への核攻撃に対して、もし米国、韓国による防衛が間に合わないという状況になったときには、日本として敵基地攻撃をせざるを得ないような状況に追い込まれるかもしれません。
また、米韓が自国だけでなく日本の防衛も目的として敵のミサイルや指揮命令系統を攻撃するという梃子(てこ)、のようなものを常に与えておく必要があると思います。日本単独で24時間体制の監視・攻撃を行うことはほぼ不可能なので、米韓との協力体制を強化しておくことがいずれにしても不可欠です。
――仮に日本がTHAADを配備したとすると、中国からの大きな反発を生むことになるのでしょうか。
神保:韓国のTHAAD配備とは少し意味合いが違うと思います。中国が最も気にしているのは、新たに前方配備されたレーダーにより、核能力をはじめ中国の軍事情報が収集されてしまうことです。日本は、THAADの運用に必要なXバンドレーダーを既に地上に配備しているので、韓国のTHAAD配備と同じ目線で反発するということはないと思います。
ただ、一般論として新しい兵器体系が日本に入ることに対しての反対は間違いなくあるでしょう。
戸崎:韓国がこれまでミサイル防衛に慎重だったのは中国との関係に留意していたからですが、その韓国が16年に入ってTHAAD導入を決定したこと自体に中国は強い不快感を抱いています。さらに、それが日米韓のミサイル防衛を通じた連携を強める可能性があるということも、反発を強める一因になっていると思われます。
――米国が日本に対して、新たな役割として期待していることはありますでしょうか。
神保:自らの防衛や地域間協力の責任をもっと担ってほしいという考え方はオバマ政権以前から継続してあると思います。
中国のA2/AD能力(遠方で米軍の部隊を撃破し、中国軍の作戦地域に進出させないようにする能力)拡大により、米国の前方展開のコストは飛躍的に増えています。その中で同盟国として期待されるのは、やはり抗堪性の高い形での駐留能力、つまりは米国がプレゼンスを確保できる環境を整備することだと思います。
そうすると、日本のミサイル防衛も首都防衛だけでなく、在日米軍基地防衛の在り方を考える必要がありますし、敵の攻撃に耐え得るような地下施設やコンクリートの厚い滑走路の建設、修復能力の強化、場合によっては、嘉手納、岩国、三沢などの米軍基地が攻撃されたときに他の航空基地や民間空港が使える体制を整える必要があるでしょう。
トランプ政権になって、米軍の駐留経費負担の問題も議論されます。労務費や光熱費といった使途もいいのですが、日米が協力して在日米軍基地の抗堪性の強化に投資するとすれば、非常にピントの合った議論ができるのではないかと思います。現代の戦略環境に沿った形で同盟を位置づけるためにお金を使うことが重要だと思います。
写真・NORIYUKI INOUE
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9176
戦略なきシリア攻撃、背景にホワイトハウスの権力闘争
2017/04/12
佐々木伸 (星槎大学客員教授)
トランプ政権のシリア攻撃は長期的な戦略に基づいたものではなく、場当たり的な作戦だったことが一段と明らかになりつつある。その背景には、孤立主義を主張するバノン首席戦略官派と、国際的な関与を強めるトランプ大統領の娘婿クシュナー上級顧問派との権力闘争が激化していることがある。
沈黙する大統領
(GettyImages)
「米第一主義」を掲げてきたトランプ氏が化学兵器を使用したシリアへの攻撃に踏み切ったことで、「米国の国益に関係のない他国の問題から距離を置く」としてきたこれまでの「不介入戦略」は大きく転換、時には人道的な問題でも軍事介入する姿勢が示される形になった。
トランプ氏自身、攻撃に関する声明の中で「シリアでの殺りくや流血を終結させるため米国の行動に加わるよう」世界に呼び掛け、シリアの和平に主導権を取っていく考えすら示唆した。
トランプ政権の方針転換を鮮明にしたのはティラーソン国務長官だ。長官はG7の開催されたイタリアで、「世界のどこであっても、無辜の人々に対する犯罪をなすどんな者に対しても責任を取らせる」と踏み込み、トランプ氏が批判してきた米国の伝統的な価値観に回帰するような態度を見せた。
だが、7日以降、トランプ氏はツイッターも含め、シリア問題に関する発言を一切控え、沈黙している。なぜか。その大きな理由はシリア介入派とこれに反対する一派が対立し、長期戦略を描けないでいるからだ。
米メディアなどによると、シリア攻撃を積極的に主張したのは、クシュナー上級顧問やコーン国家経済会議委員長らニューヨーク出身の実業家勢力だ。これにマクマスター補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官、ティラーソン国務長官らも賛同したようだ。
イバンカの助言が影響?
特にクシュナー氏の夫人で、トランプ大統領が溺愛する長女のイバンカ氏が化学兵器で被害を受けた赤ちゃんらに衝撃を受け、トランプ氏に助言したことが攻撃に傾いた大きな引き金になったと見られている。家族重視のトランプ氏の姿が思い浮かぶ。
対して慎重論を唱えたのは、バノン首席戦略官やプリーバス首席補佐官、ミラー上級顧問らトランプ氏の大統領当選を支えた「米第一主義」論者たちだ。ミサイル攻撃後、この一派の支持者らからは「介入は裏切り」という批判も出始めている。
「不介入戦略」を掲げてきたトランプ政権にはもともと、長期を展望したシリア政策はない。ミサイル攻撃のほんの数日前まで、アサド政権の存続を「政治的現実」(スパイサー大統領報道官)として容認していたにもかかわらず、攻撃後唐突に「アサド氏の退陣を要求」(ヘイリー米国連大使)している事実が場当たり的な政策しか持っていないことを浮き彫りにしている。
シリア内戦の終結のため外交的なイニシアチブを取り、和平交渉を積極的に推進する考えはあるのかどうか。アサド政権の居座りを認めるのか、追放を掲げるのか。反体制派をオバマ政権同様、支援するのか、支援を打ち切るのか。過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅作戦と並行して内戦終結も目指すのかどうか。
本来はこうした点を入れたシリア政策を策定していなければ、武力行使には踏み切ることはできないはずだ。戦略のないまま、軍事的に攻撃することはその後の展開に不確定要素が多すぎてリスクが大きいからだ。
こうした戦略の欠如に加え、両派の権力闘争が激化しているため、シリア政策を策定することがさらに困難な状況になっていると言えるだろう。トランプ氏が何らかの発言をすることはどちらかの意見に与することになり、同氏としても簡単には決められない。
IS壊滅作戦にも影響
アサド政権側にも大きな疑問がある。アサド政権がなぜ、米国の懲罰攻撃を招く恐れがある化学兵器を使ったのか、ということだ。ロシアやイランの支援が奏功して反体制派に対して圧倒的な優位に立っていた現状を考えれば、化学兵器をあえて使う必要はなかったはずだ。
これに対してはさまざまな見方がある。軍の一部が独走したという説や、過去3回に渡って化学兵器で攻撃をしたが、国際社会から大きな関心は呼ばず、今回も見過ごされると慢心したのではないかという見方もある。
アナリストの1人は「計算された使用」だったと指摘する。その背景には政権軍の人員不足がある。政権軍は今や1万8000人ほどしかいない上、ロシアから結果を出すよう強い圧力を受け続けていたため、大きな打撃を与えられる化学兵器に「つい頼ったのではないか」という分析だ。
ロシアが化学兵器の使用を前もって承知していたという米当局者の発言も報じられたが、トランプ政権はこれを否定した。ロシアをこれ以上怒らせてはIS壊滅作戦に支障が出かねないと危惧したためだったろう。
というのも、ロシアは米国のミサイル攻撃後、シリアにおける偶発的な衝突を回避するための米ロのホットラインを一方的に遮断した。このため、ロシアの防空網に引っかかることを恐れた米国のIS攻撃は激減、IS壊滅作戦が遅れる懸念が高まっている。
ティラーソン国務長官は12日、ロシアを訪問し、ロシアのラブロフ外相にアサド政権支援を弱めるよう要求するといわれているが、ミサイル攻撃を「国際法違反の侵略」と非難するロシアがこれを受け容れる見通しは全くない。米ロ関係は改善どころか、新たに悪化の道をたどるのは決定的だ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9362
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