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働き方改革、残業時間の上限規制だけでは不十分 ニュースを斬る 社労士を活用して違反企業の監督体制を強化せよ 
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投稿者 軽毛 日時 2017 年 3 月 23 日 02:11:44: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

働き方改革、残業時間の上限規制だけでは不十分

ニュースを斬る

社労士を活用して違反企業の監督体制を強化せよ
2017年3月23日(木)
八代 尚宏
 政府が進める「働き方改革」が、今春大きく動いた。安倍晋三首相は3月13日、経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長を首相官邸に呼び、残業時間の上限規制について、繁忙月は例外として「100時間未満」とすることを要請した。労使とも受け入れたことで、政府は労働基準法など関連法の改正案を今年の国会に提出する。

 従来は、労使が合意していれば残業時間を青天井で増やすことができた。この抜け穴を防ぎ、罰則付きの法律で上限を守らせる労働基準法の改正案が決められたことは画期的だ。しかし、実効性の担保には違反企業の確実な取り締まりと、時間ではなく成果に基づく専門職の働き方ルールの確立が不可欠である。

働き方改革の柱となる残業規制を巡る折衝では、首相官邸が議論を主導した(写真:読売新聞/アフロ)
政府の介入がなぜ必要か

 働き方改革の大きな柱のひとつが長時間労働の是正である。これまでも残業時間の上限規制はあったものの、企業が労働組合と合意した特別条項付きの三六協定さえあれば、残業時間を際限なく増やすことができた。この抜け穴を防ぎ、罰則付きの法律で残業時間の上限を規制したことは画期的である。賃金や労働条件の決定は労使自治に委ねるとの従来の原則を、公共政策の観点から修正したものとして大きな意義がある。

 労働組合のない中小企業の労働者は使用者に対してとくに弱い立場にあるため、労働組合組織率の引き上げ先決という見方もある。しかし、組合組織率や賃金水準の高い大企業ほど、時間外労働時間が長いのが実態である。これは大企業のほぼ全部が労働時間の上限を外す労働組合との特別協定を締結しており、月間80時間超や100時間超等、著しく残業時間の長い労働者の占める比率が、企業規模が大きいほど高いことでも示される(下の表参照)。このように労働組合が長い残業時間の歯止めとして機能していないことが、今回の法改正の背景となった。

大企業ほど長時間残業が多い

出所:厚生労働省就労条件実態調査(2013年度)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032100633/p2.png


 これは職種別同一賃金が一般的な米国等では、企業にとって既存の社員に残業割増賃金を支払うよりも新規雇用を増やす方が人件費の節約となることと比べて、日本では不況時にも過剰雇用を維持しなければならないという制約のためである。このため普段から残業に依存する働き方で、賃金に比例した残業手当を稼ぐとともに、不況時に労働時間を削減して雇用を守ることが労使双方にとっての利益となる。

 過去の高成長期に定着した、企業内で多様な業務を経験し熟練度を高めるキャリアパスを重視する慣行のため、個々の業務範囲が不明確となり、一部の社員に過大な負担が課される場合も少なくない。また、個々の仕事と賃金とが明確に結びつかないことから社員の人事評価の基準も曖昧となり、労働時間の長さが企業への貢献度の高さと見なされ易いことも長時間労働の温床となる。

 慢性的な長時間労働は社員の健康を損なうだけでなく、時間当たりの生産性向上も抑制する。また、専業主婦を暗黙の前提とした世帯主の長時間労働は、子育て期の共働き社員に不利となり、女性の活用と子育てとの矛盾を引き起こす大きな要因となる。しかし、従来の働き方を前提とした労使協調路線にこだわる企業に委ねていれば、抜本的な改革はいつまでも実現できない。これが安倍政権の下で、労働市場への強力な介入が必要となった所以である。

労働法違反への監督体制強化

 従来の労働基準監督業務は、危険な作業の多い建設・運輸等の産業や賃金の未払いがある中小企業に重点が置かれていた。しかし、今後の焦点となる残業時間の規制対象は、大企業も含む一般の事務所であり、監督の対象範囲が大幅に広がる。労働時間の上限規制が強化されても、それを取り締まる監督体制が整備されなければ絵に描いた餅となる。

 労働基準監督官が不足するならその増員を図れば良い筈だ。しかし平成28年度の労働基準監督官数は全国で3241人に過ぎず、ILO(国際労働機関)が求める雇用者1万人に1人の最低基準を満たすには約2000人も不足しており、毎年数十人の増員では焼け石に水である。とくに多くの事業所が集中する東京都23区では、監督官一人が約3000の事業所を担当するという試算もある。

 公務員の不足は他の取り締まり官庁でも共通の課題である。これに対して警察庁では駐車違反の取り締まり業務の民間活用を、また法務省では民間の警備会社等と共同の刑務所運営など、各々、人手不足を補う知恵を絞ってきた。これらと同様に、労働基準監督官の定期監査の一部を、法律で公務員と類似の権限と義務を与えた社会保険労務士等、民間の専門家に委託することが政府の規制改革会議から提案された。これは監督官が、労働者からの申告にもとづく、より緊急性の高い監査に重点を置けるようにすることが狙いとなっているが、厚生労働省側は消極的である。

 監督官の役割は取り締まりだけでなく、賃金や労働時間等、企業に対する労務管理の適切なあり方の指導も含まれ、社会保険労務士の果たす役割と重なる面が多い。これは国税庁と納税の適正化を指導する税理士との関係や、企業会計を監査する会計士の役割とも共通した面がある。こうした労働基準監督業務の民間活用を積極的に進めることを通じて、ただでさえ不足している労働基準監督官の監査の効率化と労働者保護の実効化に役立てることに真剣に取り組むべきだ。

時間に囚われない働き方へ

 残業時間に割増賃金を支払う現行の規制は、労働者が1時間余分に働けば、それに見合った量の製品が必ず生産される集団的な工場労働を暗黙の前提としている。ここでの残業手当は、追加的な報酬だけでなく労働者の疲労という労働コストの増加に見合ったペナルティーを使用者に科すことで、その乱用を防ぐことに意味がある。

 しかし、個人単位で多様な質の高いサービスが期待される研究者やプロジェクトの企画者等の高度専門的な業務では、労働時間の長さよりもアウトプットの質が重視される。ここで工場労働のような残業手当を支給すれば、不公平なだけでなくモラルハザードを引き起こし易い。このため上司の具体的な指示なしに働く高度専門職には、労働時間の規制を除外する「ホワイトカラー・エグゼンプション」が欧米では一般的である。

 日本でも特定の専門職について実際に働いた時間の長さを考慮しない「裁量労働制」が設けられている。しかし、自由に働く時間を選べる職種であるにもかかわらず、「深夜・休日労働には割増残業代の支払義務」という規制が厳格に定められていることが欧米との大きな違いである。

 2000年代初に、電機労連が会社との交渉で作り上げた新裁量労働制は、深夜・休日に働く場合の多い長時間労働のプログラマーやシステム・エンジニアが対象である。自らの裁量で働き、時間の空いた時には少しでも長く休むことが容易になるように、労働時間と切り離された定額の報酬である「裁量手当」を定めた。これはいわば残業代のない管理職の手当に相当し、本給・調整給の約3割が相場であった。

 こうした先進的な労働組合の主導で作り上げた仕組みを、深夜・休日の割増残業手当を守らない労働基準法違反として摘発し、働き方の改革に結び付けなかった当時の近視眼的な労働基準監督行政が悔やまれる

 また、類似の仕組みはほかにもある。例えば、働く時間が不規則なマスコミ業界等では、みなし残業時間分の手当てを毎月一定額支払う制度が運用されている。これも現行法上、厳密には違法行為となる。これを現場の実際の働き方に合わせて法律を改正しなければ、見かけ上の違法行為がまん延することになる。

労働市場の流動化は労働者にとってもプラス

 こうした状況で、労働時間と報酬との関係を完全に断ち切った「高度プロフェショナル制度」等を含む労働基準法改正案が2015年に国会に提出されたが、未だ法制化されていない。これは高度な技能を持ち、自らの裁量で働く労働者について、時間に比例した残業手当規制を適用しない米国型の「ホワイトカラー・エグゼンプション)」に類似したものである。

 しかし、企業間を自由に移動する欧米の専門職労働市場と日本の労働市場との間には大きな違いがある。このため2015年の改正案では、年収が少なくとも1000万円以上の、企業との交渉力の高い労働者に対象を限定した上で、年間104日の休業日数を与える使用者の義務等の健康確保措置を設けていた。これは社員がひとつのプロジェクトに集中して働いた後はかならず連続して休暇を取ることを促し、疲労を蓄積させないことを法律で担保する仕組みである。

 少子化の進展で労働力が減少することは、労働者にとっての「売り手市場」を意味する。日本では労働市場の流動化に対しては、「企業のクビ切りの自由化」という否定的なイメージが強いが、それは労働者にとっても「労働条件の悪い企業からの脱出」を容易にすることでもある。長労働時間是正のためには、「雇用保障のために生活を犠牲にする」現行の働き方だけでなく、「働き方の質の高い企業に移る」労働者の選択肢を増やすことが基本となる。労働時間制度の改革は、労働市場の流動化を促す同一労働同一賃金等、他の制度改革と一体的に行うことで、いっそう大きな相乗効果を持つと言える。


このコラムについて

ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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コメント
 
1. 函館の犬。[133] lJ@K2YLMjKKBQg 2017年3月23日 05:22:42 : WnVTjt0cwo : qcZaUKtzuBI[3]
スーパーフライデーだって。最初、トリのから揚げの特売日のことかとおもったぜ。

一方で、過労死推奨法案を通過させといて喜劇だよな。似非右翼仲間の森友学園の教育方針は、戦前の「月月火水木金金」だろ。

役人の発想って、ピントがずれまくっていておもしろいなあ。自分になんの才能がないものが役人になるって本当なんだなあ。


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