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確定拠出年金の制度改正、政府の隠れた意図とは
Special Report
公的年金に頼る時代は終わり、自己責任の時代に
2017年3月9日(木)
武田 健太郎
老後資金を自ら積み立てる「じぶん年金」が普及期に入ろうとしている。2017年から税優遇のあるDC制度を、現役世代ほぼ全員が利用できるようになる。公的年金だけに頼る時代は終わり、自己責任で将来資産を用意する時代が本格化する。
スポーツコメンテーターの杉山愛氏などが、9月に愛称iDeCoを発表(写真=時事)
iDeCo
読みは「イデコ」。英語表記のindividual-type Defined Contribution pension planからとった個人型確定拠出年金の愛称
「これは政府からの隠されたメッセージ。いま気付いてくれるかどうかで、将来設計に大きな違いが出てくる」
2017年1月から個人向け確定拠出年金(DC)制度が改正され、新たに公務員や主婦など2600万人が参加できるようになる。制度の愛称は「イデコ(iDeCo)」。冒頭のコメントは、この制度改正を受けての厚生労働省幹部のものだ。
これまで公的年金が支えてきた老後資金を、自ら積み立てる「じぶん年金」に頼る時代が既に始まりつつある。「今回のDC制度の変更は、この大きな地殻変動の一部であることに気付き、早期に自助努力で資金積み立てを始めてほしい」と厚労省幹部は話す。
個人型確定拠出年金の利用対象者が拡大する
●制度変更前後の比較
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*1=国民年金基金の掛け金または国民年金の付加保険料との合計
*2=企業型確定拠出年金のみ加入なら月額2万円
iDeCo 何がお得?
3つの税制メリットを受けられる
●確定拠出年金制度の仕組み
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個人型確定拠出年金(iDeCo)は、自分で毎月掛け金を出して金融商品を運用し、結果次第で老後に受け取れる年金などの金額が変わる制度。これまで自営業者と企業年金のない会社員向けだったのが、来年から公務員や主婦も加え、ほぼ全ての現役世代が加入対象となる。制度のメリットは3つの節税効果にある。
若い世代の運用相談やセミナー参加がここ数年増えている(写真=時事)
1つ目は積み立て時に受けられる所得控除。年末調整や確定申告を通じて、掛け金を全て所得から差し引くことができる。年収800万円の場合、所得税と住民税合わせて掛け金の30%程度の節税効果が見込める。
2つ目のメリットがあるのは運用時。通常、投資信託が値上がりして売却益を計上した場合、利益に約20%の税金がかかる。これが、iDeCoの場合は非課税となる。利益が出た分をそのまま再投資できるため、効率的な運用が可能となる。
3つ目は受け取り時のメリット。運用したお金は60〜70歳までの間に、一時金か年金、または一時金と年金の併用で受け取る。どの受け取り方式でも控除の対象となり、税金が安くなる。
DCとNISAを比較した場合、どちらも自らのリスクで資産運用する点は同じだが、税制面ではDCは3つの優遇があるのに対し、NISAでは運用時の非課税のみにとどまっている。
制度を利用するためには、金融機関を1つ選び口座を開設する必要がある。積立額は月5000円からで、1000円単位で金額設定できる。上限は公務員や自営業者などで異なる(46ページ参照)。
運用先は自ら選択
個人が自ら運用商品を選ぶ必要もある。主な商品は投資信託。株式や債券で運用するタイプのほか、主要な資産に投資先を分散するバランス型投信や不動産投資信託(REIT)を取り扱う金融機関もある。
デメリットにも注意
●確定拠出年金制度の主な制約
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このほか、定期預金や保険商品など元本割れリスクのない商品が取りそろえられている。
主なデメリットは、途中解約ができない点。原則として60歳になるまで運用資産は引き出せない。運用の責任は個人が負うため、投資した商品の運用成績が悪化して、掛け金の総額より受取額が少なくなる可能性もある。金融知識を身につけ、過度なリスクを負わないようにする必要がある。
口座を開設する際に手数料がかかるほか、毎月の口座管理にも費用が発生する。
高齢化で公的年金は限界
公的年金のみだと現役時代の収入の半分に
●厚生年金と基礎年金の合計による所得代替率の推移
出所:厚生労働省
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日本の年金制度の総合力は中国より低い
●グローバル年金指数ランキング(2016年度)
出所:米コンサルティング会社マーサ―
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言うまでもなく、日本の公的年金は制度疲労を見せている。賦課方式と呼ぶ、シニア層の年金受給分を現役世代が仕送り方式で支える仕組みを採用しているため、少子高齢化の影響を直に受ける。
国立社会保障・人口問題研究所によると、現在は1人の高齢者を2.8人の現役世代で支えているが、2030年には1.8人、2050年には1.3人で支えることとなる。支えられる側が増え、支える側が減れば制度運営が難しくなるのは当然のことだ。
現役世代の所得に対して、もらえる年金額がどれくらいかを示す所得代替率という数値がある。2014年度時点では62.7%だが、厚生労働省の試算では2040年度に50%程度まで引き下がるという。
米コンサルティング会社マーサーが各国の年金制度の持続性などを比較したランキングでは、日本は全27カ国中の26位と下から2番目に沈む。驚くべきことに、中国やインドなどよりも低い順位となっている。
日本の年金財政は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を通じて運用する130兆円の積立金はあるものの、将来、年金の支給額が減り、支給開始も70歳などに引き上げられるシナリオは避けられない状況にまで追い込まれている。
支給額の上昇を抑えやすくする国民年金法改正案を巡り国会が紛糾(写真=時事)
12月に入って成立した公的年金の支給額を抑制しやすくする国民年金法改正案を巡っては、国会で激しい論争が繰り広げられた。野党民進党は「年金カット法案」と批判する一方で、安倍晋三首相が「世代間の公平性が確保され、制度への信頼を得る」と訴える場面もあった。
こういった環境の中では、政府としても「公的年金が制度疲労を見せているので、国民自らも積み立ててほしい」とDC制度拡充の本当の狙いを声高には説明できない。
将来設計の責任が「公」から「私」にバトンタッチされつつある事実を、制度変更を通して読み解く他はない。
かつて、高齢者の生活や介護は共同体が支えてきた。それが、経済発展を通じて政府が支える体制ができ、社会が成熟して高齢化を迎えた今、自らが自らの老後を支える準備をしなくてはいけない時代となっている。
経済コラムニストの大江英樹氏は「DCは税制メリットが大きく、資産運用には優れた制度。公的年金の補完としては最適」と指摘する。
公的年金だけでは国民の将来を支えられないが、「じぶん年金」普及に向けて制度は整備した。政府の苦しい胸の内が透けて見える。
2017年1月からのDC制度変更でスポットライトを浴びているのが、新たな加入対象となる公務員だ。雇用と収入が安定しており、金融機関にとっては、喉から手が出るほど欲しい顧客層。新たに口座を開設してもらえば、少額投資非課税制度(NISA)口座の開設や他の金融商品を売り込むチャンスにもつながる。
地方公務員との結びつきが強い、地方銀行ではDC口座開設に積極営業を仕掛けているはず──。とあるファイナンシャルプランナー団体からそんな話を聞いて、四国のある有力地銀を訪ねた。すると、想定とは真逆の答えが返ってきた。
チラシを置くのも厳禁
「実は思ったようなアプローチをかけられず、歯がゆい状況です」。営業担当者は、残念そうに話し始めた。背景にあるのは公務員の労働組合である自治労の存在。特定の金融機関による営業やセミナーを避けるよう厳格な方針を示しているという。
11月に開かれたDCセミナーでは、第一地銀や第二地銀など複数の団体が講義する形式。しかも、説明できる範囲はDC制度に関する概要的な内容にとどまる。
役所には、金融機関のチラシも置けない状態。当然、職場内を直接訪れての職域セールスも、ほとんどの市町村でご法度という。
公務員という大鉱脈を目の前に、思うような営業戦略を手掛けられない金融機関の歯がゆさが見え隠れする。
先ほどの地銀の営業担当者は制度運用面での不安も指摘する。「必要な申請書が11月中に届く予定だったが、12月中旬にならないと届かない。来年1月の制度開始に間に合わない可能性がある」と焦りを募らせる。
今回の制度改正を定めた「改正確定拠出年金法」が国会で可決したのは今年5月下旬。それから約半年の急ピッチでの準備で現場の一部には混乱が見られている。
2017年当初からの個人型DC制度普及へのロケットスタートは、現時点では期待薄だ。個人の基礎年金番号の記入などの手続きに煩雑な部分もあり、多くの人が申請を見送る可能性も懸念される。
さらには、「認知度がNISAに比べてかなり低い状態」(野村総合研究所の金子久・上級研究員)という点も見逃せない。
ジュニアNISAのわだち踏まぬ
これらの課題に対し、政府も手をこまぬいてはいられない。今年4月に開始した未成年者向けの少額投資非課税制度(ジュニアNISA)では、加入者数が伸び悩み、政策効果が出ていない。ジュニアNISAの二の舞いは避けたいと、政府は下の表にあるように次々と対策を打ち出している。
政府は制度普及を急ぐ
●主なキャンペーン内容
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なかでも厚生労働省は2016年度の補正予算で約5億円のDC制度普及に向けた予算を計上した。
テレビやラジオ、インターネット広告を実施するほか、効果を測定して次の広告戦略へフィードバックするなど、マーケティングの手法を取り入れる。
金融各社は低コスト投信を拡充する
●商品数と信託報酬
注:「個人型確定拠出年金ナビ」から一部引用
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国内の個人が保有する金融資産は約1700兆円。それに対し投資信託の保有残高は全体の約5%にとどまる。モーニングスターの朝倉智也社長は「NISAとDCを通じて、政府は資産運用を日本に根付かせる大勝負に出ている。来年からのDC制度拡充を空振りさせるわけにはいかないという思いは強い」と分析する。
「SBI証券がさらに割安な日本株投信を投入してきたぞ」。今年、ネット証券業界では、DC向けの運用商品を巡る最新情報が激しく飛び交っていた。
各社が意識するのは、信託報酬とよぶ投資信託の管理費用。保有金額に応じて運用期間中はかかり続けるコストのため、長期運用を基本とするDCでは低ければ低いほど良いとされる。
赤字覚悟の消耗戦
今年9月には楽天証券がDC事業に参入。運用できる商品数を28本と、SBI証券(62本)など同業に比べ少なく抑えた。「投資初心者にも推奨しやすい低コストの安い商品に絞り込んだ」と楽天証券経済研究所の篠田尚子ファンドアナリストは話す。
楽天証券のサイトでは、商品別の投資比率や評価損益などの情報を見やすくした
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商品数などで戦略の違いこそあれども、顧客の関心を引くコストを提示できるかに各社は注力している。上の表にある通り、確定拠出年金に力を入れる証券会社で最もコストの安い投信の信託報酬は0.1%台が並ぶ。モーニングスターによると、株価指数などに連動するインデックス型投信の信託報酬は平均で年率0.64%。激しい競争の結果、業界平均を大きく下回る商品がDC向けに取りそろえられている。
仮に顧客が信託報酬0.15%の商品を100万円運用した場合、年間わずか1500円を運用会社などと分け合う形になる。「DC事業はどこの会社も当面は赤字。消耗戦が続くよ」。ある大手証券の幹部は嘆く。
もうからないのに各社は顧客争奪戦を繰り広げざるを得ない。その背景には、政府の動きがある。
金融庁は長期的な顧客利益につながる商品を作るという「受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)」の確立を金融機関に強く求めている。
これまで証券会社は、毎月高い水準の分配金を支払う投信を積極販売し、投信の運用状況に陰りが出たら次の売れ筋商品に乗り換えさせる、「回転売買」で販売手数料を稼いできた。当然、短期志向の投資家しか育たない。
金融庁は金融機関へ規律順守を強く求め、低コスト投信などを通じた長期の積み立て運用を促すよう働きかけている。当然、20〜30年単位での運用を前提とするDC制度の普及は、金融庁の描く未来図に合致している。
金融各社も回転売買で稼ぐビジネスモデルがもはや続かないとの意識は強い。そのため低価格競争で身を削りながらも、DC向けの顧客争奪には手を抜けない状況となっている。
もっとも、顧客視点で見ると、コストの低下や金融機関からの長期視点の運用提案は、消費者利益にかなっている。個人が将来資金の積み立てを増やし、証券会社側も低コストの金融商品を提供する。将来的にウインウインの関係を作るための、金融機関にとっての生みの苦しみの時期と現在を捉えることもできる。
1980年代からDC制度を導入している米国では、じぶん年金は機能しているのだろうか。
米国は個人年金の割合が大きい
●日米の65歳以上世帯の収入構成
出所:日本は厚生労働省「平成27年国民生活基礎調査」。
米国はEmployee Benefit Research Institute 2012
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上の円グラフが示すように、65歳以上世帯の収入構成を比較した場合、米国は公的年金などへの依存度が38%と日本の67.5%に比べ低い。
その一方で、米国は個人年金や企業年金の割合が18.4%と日本の5.6%の3倍以上となっている。公的年金を十分に補い、老後の生活資金を支える役割を果たしている。
米国は10年前の年金改革でDCの普及が加速(写真=Chip Somodevilla)
2001年にDCを始めた日本と比べ、制度の歴史が長い点は普及の要因の一つだ。だが、それが全てではない。米タワーズワトソンの浦田春河ディレクターは「自動的に多くの人が制度参加するシステムを作り上げたことが有効だった」と指摘する。
米国ではベビーブーマー世代(1946〜64年)の退職ラッシュを控え、公的年金からじぶん年金へのシフトを目指した年金改革法を2006年のブッシュ前大統領政権時に成立させた。
この法律により、DC導入企業の従業員に対し、これまでの任意加入から、自ら拒否を表明しない限りは自動的に加入する方式の採用が進んだ。
性悪説が普及促す
さらに、毎月の掛け金が入社当初は給与の3%から始まり、徐々に10%程度まで自動的に引き上げるシステムの導入も新しいルールには盛り込まれた。
全ての人が合理的に考え、将来のための積み立てを自発的に始められるわけではない。一種の「性悪説」に基づいた仕組み作りがDC普及につながった。
投資商品に関しても、同様の発想だ。米国では、運用資産を指定しない際に自動的に選択される「デフォルト商品」として、ターゲット・デート・ファンド(TDF)と呼ぶ商品が人気を集める。
「ほったらかし投信」が米国では主流
●ターゲット・デート・ファンドの資産配分比率のイメージ
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定年退職時までの投資期間で、徐々に投信内の資産配分が変わるのが特徴。運用初期は株式など高リスク資産を多く組み入れ、次第に低リスクの債券などの配分が増える仕組みとなっている。
「米国でTDFは100兆円レベルの運用資産規模に拡大している」とブラックロック・ジャパンの内藤豊・商品開発部長は話す。
将来設計に全く関心がなくても、知らぬ間にDC制度に加入し、知らぬ間に資産運用ができる仕組みを米国では作り上げている。
日本でのDC制度の本格普及はこれから。公的年金だけに頼れない環境で、多くの人が将来の生活安定を確保するためには、制度を通じたじぶん年金作りは欠かせない。
日本での少子高齢化の進行は米国よりも先を行く。残された時間は少ない。他国の良い事例は、すぐ取り入れる。DC制度の素早い進歩が、日本の未来を明るくする。
(日経ビジネス2016年12月26日・2017年1月2日合併号より転載)
このコラムについて
Special Report
日経BP社の媒体の中から、読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。
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