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安倍内閣の「原発無策」を責められない民進党
磯山友幸の「政策ウラ読み」
日本としての明確な原発政策を考える時だ
2017年3月3日(金)
磯山 友幸
民進党の蓮舫代表は、連合の批判に対応して3月12日の党大会で「2030年原発ゼロ」を打ち出すことを断念した。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
「2030年原発ゼロ」表明を断念した民進党
民進党の蓮舫代表が3月12日の党大会で目指していた「2030年原発ゼロ」の方針の表明を断念した。党内からの反対や、支持母体である連合からの批判に抗し切れなくなったことが大きい。メディアからは「脱原発を求める世論よりも支持母体の連合を優先したことに対し、さっそく党内の脱原発派や共闘を組む野党から批判の声が上がった」(朝日新聞 3月1日付記事)と厳しい指摘がなされている。
民進党は前身の民主党政権末期に「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という方針を打ち出し、民進党もこの方針を引き継いでいる。もっとも、どうやって2030年代に原発ゼロを目指すのか、その具体的な方策は示していなかった。
蓮舫氏は昨年、代表選に立候補した際の公約で、「原子力エネルギー政策で工程表を明らかにする」ことを表明していた。
そんな蓮舫氏らの意向を受けた玄葉光一郎エネルギー環境調査会長が2月上旬、突然、原発ゼロの年限を「2030年代」ではなく、「2030年」に前倒しする方針を示した。反原発の姿勢を明確にして、脱原発の時期を前倒しすることで、次の総選挙の「争点」にしようとしたとみられている。
実現は困難との声が強く、「前倒し」を断念
「働き方改革」などでお株を奪われた民進党は、解散総選挙になった場合の自民党との「対抗軸」を打ち立てられていない。昨年の参議院議員選挙では、「憲法改正阻止」を対抗軸とし、「(改憲勢力に)3分の2は取らせない」という“土俵際”のラインを自ら設定したが、国民の多くには響かず、結局、3分の2の議席を許すことになった。では、次の総選挙では何を旗印に戦うのか。早急に民進党らしい政策の柱を掲げたいという焦りが執行部にはある。
ところが、蓮舫氏の姿勢に、党内の議員から反対の声が挙がった。電力総連出身の小林正夫参院議員ら電力系労働組合に近い議員を中心に、前倒しに反対する声が相次いだのだ。連合の神津里季生会長も「2030年代原発ゼロですら、相当にハードルが高い」として難色を示した。さらに神津氏は、2030年と数字だけ前倒ししても、その実現可能性が低いと国民に映れば、民進党にとっては大きなマイナスになると指摘した。野党感覚丸出しの言いっ放しでは、政権を託するに足る責任政党とは見られなくなってしまう、というわけだ。
蓮舫氏は、連合傘下の電力総連や電機連合などを直接訪ねて、「30年ゼロ」について説明したが、結局理解は得られなかった。党内の異論を収拾することができず、党大会での表明は断念せざるを得なくなったわけだ。
「反原発」で民進党内が一本化されているわけではない
民進党は「反原発」で党内が一本化されているわけではない。前述の通り、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という民主党時代の方針を引き継いでいるが、当時の民主党もこの方針決定に当たっては根強い反対があった。
当時の野田佳彦内閣が上記の方針を打ち出した背景には、野田内閣が進めた原発再稼働への反発が予想以上に大きく、毎週金曜日に首相官邸前で行われる抗議活動が盛り上がったことが背景にある。「原発稼働ゼロ」を打ち出さざるを得なかったとはいえ、当時から党内の反発は強く、政権の座にあったにもかかわらず、結局、閣議決定できずじまいに終わっている。民進党になって方針を引き継いではいるものの、本気でそれを実行に移そうという考えで党内が一致しているわけではないのだ。
蓮舫執行部が考えている選挙の争点としては、「脱原発」は安倍晋三内閣との政策的対抗軸になる可能性は十分にある。というのも、安倍内閣が原発に対する明確な方針を打ち出せずにいるからだ。
政権交代以降に見直した2014年4月閣議決定の「第4次エネルギー基本計画」では、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けたものの、一方で、「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、可能な限り(原発依存度を)低減させる」としている。
方針が示されないまま「再稼働」へ
実際、原子力規制委員会の安全確認を得たものは、順次、再稼働を認めるとしており、政権の意思ではなく、事業者の責任で再稼働を行うという立場を取り続けている。原発を推進するのか、脱原発に向かうのか、明確な方針を示さないまま、再稼働だけを進めているわけだ。
安倍内閣の中でも、原発政策を巡る抜本的な議論はほとんど行われていない。下手に手を付けると国民を二分する議論に発展しかねない難題であることが分かっているからだ。政治的に争点化を避けているとも言える。そうした点を突いて民進党が安倍内閣を追い詰めようと考えたのには一理あるといってよい。
だが、そのためには、「2030年代ゼロ」という方針ではマズイ現実がある。2030年代に脱原発というと、積極的に原発の廃止を進めるような印象を受けるが、実態は違うからだ。
日本の原発は1970年代に20基、80年代に16基、90年代に15基が運転開始した。1997年までに51基である。ところがその後の20年間に運転開始したのはわずか5基だけ。2009年の北海道電力泊原発3号機が最後である。そして、日本では原発の稼働期間は原則40年間と決まっているため、老朽化した原発を規定通り40年で廃炉していくとすると、2037年には5基しか残らないことになるのだ。いまのまま放っておいても「脱原発」は進むのである。
なし崩し的な「脱原発」でよいのか
安倍内閣も、原発の新設や増設、リプレイス(建て替え)などには一切言及していない。つまり、このままでいれば、なし崩し的に「脱・原発依存」が進むことになるのである。だからこそ、「脱原発」の姿勢を明確に打ち出すためには「2030年」に前倒しする必要があったわけだ。
だが、与野党ともに「原発無策」のまま、なし崩し的に「脱原発」が進んでいくことで問題ないのか。日本は明確な方針を示さないまま、原発を放棄していっていいのだろうか。
一方で、東京電力福島第一原子力発電所の事故処理など、今後も原発にまつわる「事業」は果てしなく続く。廃炉するにしても、原発技術者は不可欠だ。将来にわたる明確な原発政策がないまま、事業者任せで原発技術が日本国内に残っていくのだろうか。
今、これまで原子力技術の一翼を担ってきた東芝が経営破たんの危機に直面している。米国の原子力子会社ウェスチングハウス(WH)に関連し、米国の原発工事を巡って巨額損失が発生。東芝が7125億円の損失を被ることになった。しかも、決算が確定できずにいる。
東芝は損失を穴埋めして債務超過を回避するため、虎の子とも言える半導体事業を分社化して売却する方針を決めた。だが、会社を存続させるための対処療法で、東芝の原子力事業を持続させる見通しが立つわけではない。
日本の「原子力技術」をどのように保持すべきか
このまま事業者任せにしておいて、日本の原子力技術を保持し続けることができるのかどうか、不透明感が増している。かといってWHでの損失がさらに膨れ上がる可能性がないとは言えない状況では、東芝という会社を公的資金で救済することは難しい。
さらに、米国から日本への核燃料の調達や技術導入、再処理などについて取り決めている「日米原子力協定」が1988年の改定から30年を迎える2018年7月で満期が来る。本来ならば自動延長なのだが、米国側がすんなり延長を認めるかどうか微妙な情勢だ。
協定は、日本が原子力の平和利用に徹することを前提に、原子力発電を将来にわたって継続していくことが前提になっている。原発から生まれるプルトニウムを核燃料サイクルやプルサーマル発電によって消費していくことが求められているのだ。プルトニウムが蓄積することになれば、核兵器に転用されるリスクが生じるからだ。ところが、今の日本では、そうした核燃料サイクル自体が機能しなくなっている。つまり、日本が今後、原発はどう運用していくのか、あるいは脱原発に舵を切るのか、明確な政治の意思が問われるタイミングが近づいているわけだ。
攻撃する側の民進党が原発政策について明確な姿勢を示せないことにより、安倍内閣での原発政策の議論も封印されたままになりそうだ。
このコラムについて
磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/030200043/
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