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「祖父は反戦政治家」安倍首相が決して語らない、もう一つの系譜 「安倍三代」を辿って、見えてきたこと
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50968
2017.02.21 青木 理 現代ビジネス
母方の祖父・岸信介を慕う安倍晋三首相には、もうひとつの系譜がある——。反戦の政治家として軍部と闘った父方の祖父・寛。これまでほとんど語られることのなかった「もう一人の祖父」の実像を丹念に追い、安倍家の思想的なルーツを明らかにした話題の書……それが『安倍三代』だ。
2度目の首相就任から4年、安倍政権が歴史的な長期政権へと向かういま、この本を著した狙いを、著者の青木理氏が明かす。
■日本政界の悲しき現在図
各種の世論調査によれば、安倍政権の支持率は相変わらず堅調に推移しているらしい。とはいっても、その実態をクサすのはさほど難しい作業ではない。
たとえば今年1月6〜9日に実施された時事通信の世論調査。調査結果によると、内閣支持率は51.2%になってはいるが、支持の理由に踏み込んで尋ねた回答を見ると、「他に適当な人がいない」が最も多く、実に20%を超えている。過去の他メディアの調査では同種の回答が4割近くに達しているものもあり、ようは安倍政権を積極的に支持しているというより、やむなく消極的に支持している層がかなりいることになる。
この理由を解析するのもさほど難しくはない。まずは民主党政権(2009年〜2012年)の“失敗”にともなうバックラッシュ。戦後初の本格的政権交代への期待が裏切られた反動はあまりに大きく、いまなお態勢を立て直せていない野党への幻滅が与党支持に雪崩を打たせている。政権がころころ変わり、“決められない政治”などと評された一時期を経て、安定政権を求める心理も広がっていただろう。
また、政治改革の旗印の下、1990年代半ばに導入された小選挙区比例代表並立制の影響も大きい。政権交代可能な二大政党制を目指したものとされ、現実に民主党政権誕生の引き金にはなったが、自民党でかつて隆盛を誇った派閥はすっかり弱体化した。これ自体、是非の論議はさまざまあるにせよ、必然的に党執行部の力が飛躍的に高まり、党内は“風”が頼りのヒラメや小物議員が大量発生する現象を引き起こした。
結果、「次」を虎視眈々と狙うような“大物”は影を潜め、かつてのような自民党内での“疑似政権交代”すら起きなくなってしまっている。
つまり、安倍政権が高くそびえ立っているというよりむしろ、周辺が軒並み陥没してしまったため、政権が高くそびえ立っているように見えてしまっている——といったあたりが日本政界の悲しき現在図であろう。
とはいえ、そんな政権が現実に長期の執権を成し遂げ、「歴史的」と評されている事実も否定はできない。無惨な結末をたどった第一次政権期と合わせれば、安倍政権は昨年12月の時点で中曽根政権を抜き、歴代4位の在任期間を記録した。
賛否が激しく分かれるにせよ、「美しい国」「戦後レジームからの脱却」といったキャッチフレーズを掲げた政権は、集団的自衛権の一部行使容認に舵を切った安保関連法制や特定秘密保護法などを次々と強行成立させ、武器輸出三原則などはやすやすと打ち捨て、果ては共謀罪の導入や憲法改正まで目指すのだと公言している。
70年にわたって営々と積み重ねてきた戦後日本の矜持を大きく変質させているのは間違いなく、その意味でもたしかに「歴史的」な政権ではある。
だが、その政権の主・安倍晋三とはいったい何者なのか。何をエネルギーとし、あるいは何をルサンチマンとし、前へと突き進んでいるのか。政治を専門にする記者やジャーナリストの話を聞いても、その手による記事や書物をいくら読んでみても、私は一向に腑に落ちない。「歴史的」とか「記録的」といった形容で語られるほどの迫力や磁力が現首相にあるとは、私には微塵も感じられないのである。
なのに、政策への賛否を含めた「論」によって現政権を語る書物は数々あっても、政権を率いている男の根本的な人間像に迫った記事やルポはとんと見当たらない。
そればかりではない。政権がメディアに強圧的な姿勢を取りつづけているからか、あるいはメディアの側の劣化も激しいからか、読んでいてこちらが恥ずかしくなるような提灯本、御用本が書店に山積みされている。いちいち書名は挙げないが、幾冊かは大手メディアの政治部記者や元記者による著作だというから、これも偽らざる日本メディアの醜き現在図ということになるのだろう。
■オレは安倍寛の息子なんだ」
そんな苛立ちを募らせていた折、ニュース週刊誌「AERA」の編集部から、安倍晋三という政治家の素顔と本質を取材によって描いてみないか、という提案が私に寄せられた。正直、躊躇した。しかし面白い、とも思った。
政治記者ではなく、政界になんの伝手やコネクションのない私だが、生い立ちにまでさかのぼって周辺を徹底取材し、この男の根本的な人間像をあぶり出す試みは、十分に挑戦してみる価値がある仕事だと思った。
同時に私は、もっと大きな腹案を抱いた。安倍政権を支持するにせよ、しないにせよ、この男が現下日本政界における究極の世襲政治家であることに異論はあるまい。その系譜を取材によってたどれば、戦後日本の政治史を「論」ではなく、ミクロな事実の積み重ねによる俯瞰図として点描し、課題と問題点を浮かび上がらせることができるのではないか、と。
安倍晋三が母方の祖父・岸信介を敬愛していることは、あらためて記すまでもない。だが安倍には、もうひとつの系譜がある。父方の祖父・安倍寛もまた戦前・戦中に衆院議員を務め、実は相当に反骨な反戦政治家だった。なのに、このことはあまり知られていない。
安倍洋子著『わたしの安倍晋太郎』などをもとに作成
その息子であり、晋三の父でもある晋太郎は、父・寛に憧れて政治の道を志し、口癖のように周辺者にこう語っていたという。
「オレは岸信介の女婿じゃない。安倍寛の息子なんだ」
岸の娘・洋子との結婚が晋太郎の政界における跳躍台になったことは否めないが、「安倍家」という視座で眺めた場合、岸信介ではなく、国政への第一歩を記した安倍寛こそが政治のルーツにほかならない。なのに、安倍晋三が父方の祖父に言及することは皆無に近い。
安倍寛とはどんな男だったのか。そして、安倍晋太郎とは。取材は1年以上に及んだ。ずいぶん苦労はしたが、安倍寛は魅力的な男だった。安倍晋太郎も、ノンフィクションライターの心を躍らせる数々のエピソードの持ち主だった。ではいったい安倍晋三はどうか——。
■恐ろしくつまらない男
取材の成果は「AERA」誌で約10回、断続的に連載し、それに大幅な追加取材と加筆修正を施す形で先ごろ『安倍三代』(朝日新聞出版)として上梓したから、興味のある方は拙著をぜひお読みいただきたいと思う。ただ、核心部分の一端はここで紹介しておきたい。
失礼ながら、恐ろしくつまらない男だった。少なくとも、ノンフィクションライターの琴線をくすぐるようなエピソードはほとんど持ち合わせていない男だった。誤解してほしくないのだが、決して悪人でもなければ、稀代の策略家でもなければ、根っからの右派思想の持ち主でもない。むしろ極めて凡庸で、なんの変哲もなく、可もなく不可もなく、あえて評するなら、ごくごく育ちのいいおぼっちゃまにすぎなかった。
言葉を変えるなら、内側から溢れ出るような志を抱いて政治を目指した男ではまったくない。名門の政治一家にたまたま生を受け、その“運命”やら“宿命”やらといった外的要因によって政界に迷い込み、与えられた役割をなんとか無難に、できるならば見事に演じ切りたいと思っている世襲政治家。
その規範を母方の祖父に求めているにせよ、基礎的な教養の面でも、政治思想の面でも、政治的な幅の広さや眼力の面でも、実際は相当な劣化コピーと評するほかはない。
だからこそ、逆に不気味で薄ら寒い日本政治の現在図が浮かびあがってくる。このような男が政界の階段をあっという間に駆け上がり、父方の祖父も父も射止められなかった宰相の座をやすやすと射止め、しかも「歴史的」な長期政権を成し遂げつつあるのはなぜか。戦後70年、営々と積み重ねてきた矜持が、劣化コピーのごとき世襲政治家の後づけ的思想によって次々と覆されてしまっているのはいったいなぜか。
政権や政権の主ばかりを批判していてもどこか詮無い。課題や問題を抱えているのは、政治や政権の側ではなく、むしろそんな為政者を戴いてしまい、「歴史的」などと評される執権を許してしまう日本政治のシステムと日本社会の側にあるのではないか——それが1年以上にわたる取材を終えた私の感慨である。
(文中敬称略)
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